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第82話 洞窟での戦闘

 そういえば、氷の剣を作りだす魔法にまだ名前をつけてなかったな。どうせなら雷絶剣みたいなカッコいい名前がいい。

 切り裂くとか、断ち切るとかそんな要素を入れて……氷断剣? パクっちゃ駄目か。


 今までの命名の流れからいくと『アイシクル・ソード』なんだけど、雷絶剣を知ってしまうと見劣りしてしっくりこない。

 氷関係で強そうな単語といえば……コキュートスとか……


「ぼんやりするな、来るぞ!」


 ワキュリー先生に喝を入れられ、あたしの意識は現実に引き戻された。

 足音だけ聞こえていたはずが、いつの間にかはっきり視認できる位置まで岩鼠フェルサッテが近づいてきていた。


 数は3匹。まず1匹が先行してこちらに突進してきた。

 横に飛んで避けようとしたが、思ったより壁が近い。ぶつかりそうで一瞬躊躇い、そこに攻撃を喰らってしまった。


「むーちゃん!」

「痛っ! くないわ、アインホルンのツッコミの方が効くね」


 ぶつかったことに驚いて声が出てしまったが、岩の体で飛んできたにしては衝撃が弱かった。そんなに強くない魔物なら安心して戦えるな。


 3匹揃った岩鼠フェルサッテと改めて向かい合う。今度は一斉に、バラバラの方向から突進してきた。


「弾幕回避ゲーで鍛えた瞬発力よ……っそおい!」


 そのうち2匹の間をすり抜けるようにして回避し、すれ違いざまに氷の剣で1匹を切りつける。刃はするりと岩の体を通り抜けた。


 2匹に減った岩鼠フェルサッテはもう一度突進してくる。同じように避け、切りつけ、あっという間に残り1匹に。


「余裕じゃん、これで終わり……あれ?」


 1匹になっても相変わらず岩鼠フェルサッテの攻撃方法は突進のみ。だが、仲間がやられたのを見て危機を感じたらしい。攻撃するよりも回避に重きを置くようになった岩鼠フェルサッテの動きは更に機敏になっていた。


 普通に切りつけるのでは簡単に避けられてしまう。動きを予測して当てようとしても、あたしのやっつけ剣捌きでは思考に体が追いつかない。


「先生、もう凍らせちゃっていいですか!?」

「駄目だ、それでは簡単すぎるだろう。剣で決着をつけるのだ」


 2匹は斬ったし許してくれないかな? という願いもむなしく、魔法を使う許可は下りなかった。

 ……ん? いや、剣で止めを刺すなら良いってことかな?


 またしても突進の体勢に入った岩鼠フェルサッテに杖を向ける。狙いは足元、そこから数十センチ先の地面。


「『アイシクル・ミスト』!」


 あたしが魔法を放った直後、岩鼠フェルサッテも駆けだした。しかし、数歩踏み出し勢いが付き始めた瞬間、魔法で凍らせた地面に足を取られ転んだ。

 そのまま氷の上をつるつると滑り、まっすぐこちらへやってくる。速度は突進と同じくらいだが、転んだままなので進路は変えられない。


 導線上に待ち構えたあたしは、氷の剣の先を地面に付け、思い切り切り上げた。


「ナイスショット!」


 ゴルフのイメージで振りぬいた剣は、見事に岩鼠フェルサッテに命中。これで3匹とも剣で討伐完了だ。


「間接的にとはいえ魔法を使ったな? それにあのような乱暴な使い方、剣が泣いてしまうぞ」


 今のあたしがすばしっこい魔物に剣を当てるなら、振り下ろしではなく切り上げ、更に魔法の補助をつけるのが一番いいと考えた結果だ。

 しかし、というかやはり、ワキュリー先生の理想には程遠かった様だ。


「す、すみません」


 雷絶剣だって魔法の雷を纏ってるのに……と口に出したらまずいことは分かっているので、心の中に閉まっておいた。


「ただ素早いだけの魔物に剣を当てられないとは、剣技の指導以前の問題だったか。次の授業から基礎練習を増やさねばな」

「え……よ、よろしくお願いします」


 断ることなど出来るはずがなく、あたしは力なく頷いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後も戦闘をこなしながら先へ進んだ。

 勿論魔法を禁止されたが、岩鼠フェルサッテ以上に素早い魔物はおらず、剣だけでもなんとか勝利していた。


 そんな最中、ある地点から急に洞窟内の明るさが増した。

 辺りに散らばる蓄光石の大きさが、明らかに大きくなっていた。


「綺麗……」

「採掘目当てでは立ち入らない場所まで来たな。ここからが本番だ」


 ここまでの魔物は3級クラス、そこそこの数の冒険者が戦える難易度だったが、この先はより強い魔物の住処だ。目当ての幻影蛙イールフロスもいるのだろうか。


 気を引き締め直し、辺りを見回す。と、岩場の影に気になるものを発見した。


「これ……光茸リヒトピルツだよね」


 ひっそりと生えていたのは、真っ白なキノコ。魔物小屋で世話をしている、あの光茸リヒトピルツだった。

 ただ、学園で見ていたものと違って傘にハリが無い。手に取ってみると全体的にスカスカしていた。


「枯れかけてる?」


 蓄光石がこれだけあるのだ、光を浴びる機会が多かったんだろう。

 引っこ抜いてしまったのでこれも持ち帰ることにする。食べられるとは聞いているけど、どんな味なんだろう?


「複数の魔物の気配を感じるぞ、備えろ」


 ワキュリー先生の号令で戦闘態勢に入る。


 先生の横にあたしが並び、後ろにハルヒが待機。まず先生が前に出て一匹倒し、それを真似して残りをあたしが片付ける。攻撃をくらってもすぐにハルヒが回復してくれる。そんなフォーメーションをこの数回の戦闘で構築していた。

 多少強い魔物が来てもこの通り動けば大丈夫。


「……幻影蛙イールフロスだな」


 どうやら、予行演習は終わりらしい。

 通路の曲がり角に身を隠し、先を覗き込むと4匹の蛙がぴょこぴょこと跳ねまわっていた。


「え、1匹じゃない?」

「控えとして残っていたのだろうな、すべてに魔法陣が刻まれている。まずは雷魔法で奴らの動きを鈍らせるから、一匹ずつ確実に仕留めていけ」


 あれだけ魔法を禁止していた先生が率先して使うと言い出した。強敵の予感に、剣の柄に触れていた手を握り直した。


 ワキュリー先生は雷絶剣──正確には柄にはめ込まれた魔法のケルン──へ魔力を込めた。


「駆け抜けよ、雷波らいは!」


 魔力の溜まった雷絶剣の切っ先を通路の先へ向け、地面に当てた。

 そこから雷の膜が広がる。バチバチと爆ぜる音が響き渡った。


 数秒間地面に流れていた雷が消えた瞬間、あたし達は通路の角から飛び出した。

 今の魔法で痺れた幻影蛙イールフロスを切ろうと意気込んで……その姿がどこにも見当たらないことに思考が止まった。


 魔法の刺激で輝く蓄光石のおかげで、外のように明るい。飛び出した先はそこそこ大きな空間になっていて、幻影蛙イールフロスが隠れられるような場所は無かった。

 なら、さっきまでいた4匹の幻影蛙イールフロスは一体どこに?


 その答えは右腕への激痛として返ってきた。


「いっ!?」


 岩鼠フェルサッテとは比べ物にならない威力の体当たり。悲鳴が詰まるような衝撃を受け、しかしギリギリで剣を取り落とすことはなかった。

 無事な左手で杖に触れ、『治癒』の力を借りる。後ろからすぐに本職の『治癒』も飛んできて、痛みはすぐによくなった。


 あたしに体当たりを仕掛けてきた幻影蛙イールフロスはその勢いのまま地面を転がり、距離を取ってケロっと鳴いた。


「雷波を避けていた? いや、喰らったのに動ける? 有り得ん……」


 前に出ていたワキュリー先生は、幻影蛙イールフロスの体当たりを回避していた。

 そんな判断力に長けた先生でも、現状は理解できないものになっているらしい。


 幻影蛙イールフロスは雷魔法に弱く、光も嫌うはずだ。なのに今もそこら中を元気に跳ねまわっている。

 ワキュリー先生が振り下ろした雷絶剣から再び電撃が飛んで、そのうち2匹に当たる。しかし、少し動きを止めただけで大して効いていないようだった。


「効かぬなら、剣で真っ向勝負するのみ!」


 魔法が効かないことを確信したワキュリー先生は、雷絶剣に纏わせていた電撃を鎮め、屈んで剣を構えた。


 剣を向けられた幻影蛙イールフロスはぷくっと頬を膨らませ、先生に向かって粘液を吐きだした。

 ワキュリー先生は弾かれた様に走り出して粘液を避け、その勢いのまま幻影蛙イールフロスに切りつけた。


 岩鼠フェルサッテを真っ二つにした剣を受けて、幻影蛙イールフロスはうめき声を上げる。しかし傷は浅い。本にあった通り、相当硬いようだ。


「ワキュリー先生が苦戦するなんて……おっと、よそ見してる場合じゃなかった」


 いきなり飛んできた粘液をすんでのところで避け、あたしも別の幻影蛙イールフロスと向き合った。さっき腕に一発入れてきた奴だな、お返ししてやる!


 意気込んで剣を振り上げる。幻影蛙イールフロスも身構え、あたしに向かって飛び掛かってくる────


 ドオオォォォォォン!!!


「うわ!?」


 突然の爆発音に、片足を踏み出そうとしていたあたしはそのまま転んでしまった。

 持っていた剣は怯んでいた幻影蛙イールフロスの頭へ。そのまま体を通り抜け、地面に数センチめり込んだところで止まった。


「あ、やっちゃった……てか今の音は何!?」

「どうやら上崎のようだな」

「ハルヒ!?」


 音のした方には煙が上がっている。それが晴れると、咳込むハルヒの姿が見えた。


「げほげほ……ま、魔物は倒しました」

「ギリギリ加減は出来たようだが、このまま何発も打てば洞窟が崩れるぞ」


 ブレスを当てたらしい地面にはクレーターが出来ていた。中央に見える焼け焦げが幻影蛙イールフロスかな……。

 4匹目は爆発騒ぎに紛れて先生が斬ったらしい。一匹跡形も無くなってしまったが、残りを回収すれば大丈夫だろう。


 ハルヒが先生に怒られている間に回収しておこう、と自分で倒した幻影蛙イールフロスに手を近づける。

 その腕にまたしても衝撃が走った。


「いっっ!?!?」


 爆発音に誘われたのか、新たな幻影蛙イールフロスが現れた。


 しかもどんどん増えていく。空間から湧き出てきたその数は前後に10匹ずつ。あたし達が通ってきた通路と、この先へ向かう通路を塞ぐように陣取った。

 しまった、囲まれてしまった。

ハルヒ「確かにシュエートが見たら『同胞があんな粗末に……』って泣いちゃうかも」

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