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第81話 オヘーレ洞窟

遅れました!!!(大遅刻)

 馬車が動き出してすぐ。あたしは一番気になっていたことをハルヒに質問した。


「ハルヒ、さっきの学園長のことなんだけど……」

「そう、私も驚いたよ。確かに名前は同じだったけれど、まさかあのおめめ君だったなんて!」

「ゆるキャラにしたって安直すぎるネーミング!」

「最初に呼んだのはリーダーだよ」

「嘘……『この世』の真理だったの?」


 事情を詳しく聞くと、アオーグ学園長も昔は封印隊の一員だったらしい。その頃は人間に変身できるほどの力は無く、常にあのゆるキャラ状態だった。そこから付いたあだ名が『おめめ君』。

 『世界』の概念の化身コンゼツォンであるヴェルテならもっと色んな名前を思いつきそうなのに……。


 あたしだったら? もう一目見た時からお茶碗をお風呂にする姿しか思い浮かばなくなってるよ。


「あの頃は視覚に頼る生き物が少なくて力が無かったんだよね。それでも索敵能力は凄くて、色々助けて貰ったなあ。それが今や魔法学園の長だなんて……」


 思い出に浸り感慨深くなったのか、ハルヒは遠い目をしてため息をついた。

 視覚に頼る生き物って人間のことだよね。毎度毎度、ハルヒの昔話は『昔』のレベルが違いすぎる。


「任務の確認をするぞ。いくらお前たちでも、そこまで気を抜いていい相手ではない」


 ワキュリー先生の言葉に、あたし達は反射的に姿勢を正した。

 そうだ、これから魔物を倒しに行くのだ。気を張り詰めすぎるのも良くないけど、そろそろ切り替えていかないと。


 オヘーレ洞窟はシュプリアイゼンから馬車で一時間近くかかる場所にある。

 しかし、今回は早急に向かう必要があるのでスピードを上げてもらっている。20分もかからない予定だ。


 そのままでは揺れや馬車への負担が大きいので、それらを軽減する魔法をアオーグ学園長がかけてくれた。

 追加料金を払えばオプションで御者にかけてもらうことも出来るが、そこまでの余裕は学園には無かったらしい。過去視とのコンボで本当に力を使い果たした学園長は、担任として見送りに来たフェアユング先生に飛行魔法で運ばれていった。


幻影蛙イールフロスは元々そこまで好戦的ではないが、件の蛙は調教されている以上戦闘は避けられないと思え。そうでなくともオヘーレ洞窟は、4年生でも一握りの学生にしか入ることが許されない危険な場所だ」


 洞窟は、獲物も逃げ道も外より限られているため、目があったらすぐバトルになってしまう。

 オヘーレ洞窟に元々生息している魔物の強さは高くても2級クラスだが、暗くて狭い場所でそれと戦うのは学生には荷が重い。今はそこに操られた幻影蛙イールフロスもいるのだ、余程実力のある人物でなければ近づくことすら許されない。


 ……と、散々脅しをかけられたのだが、あたしの心にはあまり響かなかった。

 割と経験積んじゃったもんな。ご乱心の神様と戦ったくらいだし。


 でも、普通に蓄光石の採取依頼を出そうとしたら、このぶんだと却下されていた可能性が高い。

 そう考えるとむしろ、討伐に関われて良かったな。


「上崎はどんな戦い方をする」

「私、あまり戦いは得意じゃなくて……や、やろうと思えばブレスが放てます!」


 消極的な言葉に威圧感を増したワキュリー先生に押し負け、ハルヒは苦し紛れの自己アピールをした。

 打てるとは聞いたことあるけど、まだ見たことはない。ハルヒに無理はさせたくないけど、一回くらい見てみたいな。


「二人共武器を使わぬとは、何たること……」

「二人共? むーちゃんは氷で作った剣を使ったことあるよね?」

「え? あーあれか、砂漠に行った時か」


 トゲトカゲと戦った時に、硬い鱗を切り裂くために特別鋭く作った氷の剣を使ったっけ。砂漠では大活躍だったけど、それ以来使っていなかったからすっかり忘れていた。


 しかし、今それを思い出すのは悪手だった。


「仲河、何故隠していたのだ! 剣士を目指していたのならそう言え、この討伐を通して稽古をつけてやろう!」


 目をキラキラ、どころかギラギラさせたワキュリー先生に手をがっちり握られた。


「ハルヒ……余計な事を……」

「ご、ごめんね」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから程なくして、オヘーレ洞窟に到着。

 あたしとハルヒは街まで瞬間移動が出来るが、ワキュリー先生がいるので馬車には入口近くで待機してもらう。

 先生を先頭にして、早速あたし達は洞窟に入った。


「まずは手本を見せる」


 すると数歩も進まないうちにワキュリー先生が木刀を構えた。

 流石のワキュリー先生でも、木刀で魔物は倒せないのでは?


「姿を現せ、雷絶剣よ」


 先生が木刀に手を添え、刃の部分をなぞっていく。


 そこから少しずつ光が放たれ、次第に雷を纏うようになった。

 木目が消え、火花が散るたび刃が研ぎ澄まされ、金属の光沢に変わっていく。

 刃の先端まで辿り着いた手がその先へ伸ばされると、それに引っ張られるように刃が伸びた。


「えええ!?」


 片手で大きく一振りし、構え直されたそれは、立派な剣に生まれ変わっていた。


 長さも元は1mと少しだったのが、ハルヒの身長に届くような長さにまで成長している。

 刀身は帯電していて、青白い光が暗い洞窟を幻想的に照らしていた。


「か、かっこいい」


 なまくらの鞘を剥いだら立派な剣が出てくる。それだけで充分中二心をくすぐられるというのにこんな魅せる変形、めっちゃずるい。欲しくなってしまう。


 更に剣の光に反応して、洞窟のあちこちが輝き始めた。よく見ると、光っているのは一部の石で、そこに剣の光が吸い込まれていた。


「これ、もしかして蓄光石?」

「ああ。入口近くはもう取りつくされて、ごく小さなものしか残っていないようだな」


 蓄光石を一つ拾い上げてみると、指先に乗る程度の小さなものだった。

 でもこれはこれで、アクセサリーに使えそうだ。ファイクちゃんのお店に売れるかもしれないし、一応拾っておこう。


「何をしている、早く先へ行くぞ」


 いくつか蓄光石を拾っているうちに、ワキュリー先生との距離が開いてしまった。

 つかつかと迷いなく進むワキュリー先生の、その美しい剣を追ってあたしも歩き始めた。


 変形直後よりは放電が収まったものの、パチパチと火花を散らす雷絶剣。それに見惚れながら歩いていると、不意に立ち止まったワキュリー先生にぶつかってしまった。


「あ、すみませ」

「静かに、魔物だ」


 目の前に振り下ろされた雷絶剣に行く手を遮られる。

 危ない危ない、これ触ったらビリビリするよね? ビリビリで済む?


 剣の上を覗き込むと、視界の隅に何か動くものが見えた。


「石が動いてる?」

岩鼠フェルサッテか。好都合」


 その体は、全身がごつごつした岩で覆われていた。辛うじて耳や目は判別がつくが、パッと見ただけでは大きさも含めてその辺に落ちている石と変わらない。言われなければ近づくまで気付けなかっただろう。


 獲物を見定めたワキュリー先生は、堂々と岩鼠フェルサッテに近づいた。

 こちらに気が付いた岩鼠フェルサッテは、おろおろした様子でチュッチュと鳴き声を上げた。


 それに構わず剣を向けたワキュリー先生に、覚悟を決めたらしい岩鼠フェルサッテが突進を仕掛けた。

 岩の体に似合わず素早い動き。しかしそれは、ワキュリー先生に届くことは無かった。


「岩の継ぎ目は普通の肉よりも脆い。そこをなぞれば、この通り」


 突進を避け、向かってきた体に合わせるように剣を振りぬく。

 後に残ったのは、綺麗に真っ二つにされた岩鼠フェルサッテだった。


「今の鳴き声は仲間を呼ぶ合図だ。2,3匹で加勢に来るだろうから、今見せたように切ってみろ」

「切るって、えっ、本気で言ってます?」


 さらっと言い放たれた言葉に確認を取ると、ワキュリー先生は珍しく笑顔で頷いた。

 あ、これ合唱魚コーアフォーレの時と同じ観戦モードだ。


 岩の様な体を切ること自体はそこまで不安はない。あのトゲトカゲだって簡単に切れた氷の剣ならむしろ楽勝だ。

 ただ、今回は的が小さい。瞬間移動で中から切り込む技は使えないので正面突破するしかなかった。


 迷っている間に洞窟の奥から石の擦れ合う音が聞こえてきた。岩鼠フェルサッテの仲間が駆けつけてきたのだろう。

 あたしは氷の剣を作り出し、魔物が現れるのを待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] >散々脅しをかけられたのだが、あたしの心にはあまり響かなかった。 慢心、ダメ、絶対 幻影蛙は直接攻撃系じゃないから今までとは勝手が違うんだろうなぁ
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