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第80話 おめめ君

「蛙、ですか?」

「そうそう、ケロケロ」


 学園長は手を組んで蛙の形を作ると、鳴き声を真似てその口を動かした。

 器用だなあ、しかも口が薬指と小指だ! どうやって組んでるんだろう?


「それもかなり小さいタイプ。ぼんやり監視してちゃ見逃しちゃうわけだ」

「蛙にアインホルンを攻撃できるんですか?」

「魔物は魔力の扱いが上手い方が強いからね、大きさの問題じゃないんだよ。えーと確かあの本に……」


 学園長の視線が宙を泳ぐ。「あ、これだ」と呟いたその瞬間には、学園長の手に一冊の本が握られていた。相変わらず魔法を使う素振りがなくて凄い。


「物の瞬間移動! そんなことも出来るんですね」

「いやあ、外出する時の忘れ物が怖くて身に着けた技だけどね。こういった重いものを持ち運ばずに済むようになって便利だよ」


 よいしょ、と重たそうに本を開いた学園長。ページをパラパラとめくり、あるページを開くと机に置いてこちらに見せた。


「だまし蛙……って、フライミヨルの?」

「お、絵本読んだことあるんだね。流石にドラゴンに変身したりはしないけど、あの話が名前の由来になるくらいには強い魔物だよ」


 書かれていたのは、ピンク色の小さな蛙。更に赤いぶち模様も入っていて、毒々しい印象を受けた。


 幻影蛙イールフロス、別名だまし蛙。瞬間移動が可能で、獲物を見つけると粘液を吐いて捕らえる。体表はつるりとした見た目からは想像できないほど硬く、体当たりで岩を砕くことができる。


 これ、死角に瞬間移動して体当たりされたら終わりなのでは? と想像して、同じことをアインホルンはやられたのだと思い至った。

 あの子は腫れただけで済んでいたけど、人間がくらったら命の保証無さそうなんですが。


「かなり強そうなこと書いてありますけど、あたしに倒せるんでしょうか?」

「そこは助っ人を呼ぶから、彼女から戦い方を学んで欲しい。それでも脅威度を考えると……上崎、くんにもお願いした方が良いかな」

「ハルヒに付いてきてもらえるなら心強いです!」


 強い魔物と戦うなら回復役は必須だ。

 なんだか随分溜めてハルヒの名前を出したけど、もしかして『封印隊の守護神』なハルヒを知っているのだろうか。


「僕が『視た』限り、だまし蛙は真っ直ぐ住処へ戻っていったようだ。でも、また街へ入り込んできたら大変だ。すぐに二人を呼び出すから、このまま待っていてくれ」


 言うや否や、学園長はすぐに部屋を飛び出していった。


 こんなに強い魔物が学園内に出たのだから、一刻も早く討伐しないといけない。でも、気になることが沢山あるな。

 住処は街の外みたいだけど、飼育小屋を荒らしておきながら他には何もせず戻っていくことなんてあるだろうか? そもそも街には魔除けの壁があるのにどうして入って来られたんだろう?


「面倒事の香りがする。陰謀に巻き込まれるのは嫌だなあ……アニメ完成してないんだから早めに終わらせたいよ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 程なくして、学園長の言っていた助っ人がやってきた。その姿を見て、あたしは学園長の時以上に姿勢をピンと正した。

 いつもなら床に叩きつけられて音を響かせる木刀は、応接室の絨毯に優しく受け止められた。


「共闘するのは初めてだな。四神休暇中も活躍したようだが、どれほどの実力になったのか楽しみにしているぞ」

「は、はい、ワキュリー先生」


 そう、助っ人の正体はワキュリー先生だった。

 実戦授業をしているのだから先生の中でも戦い慣れているはず、選ばれるのも当然か。


 でも学園長、一緒に戻ってきて欲しかったな!? ワキュリー先生と二人きりとかプレッシャーに耐えられない。さっきの魔法欠乏の方がましに思えてきてしまう。


「だまし蛙ときたか。久しぶりに剣を振れると思ったが、害虫駆除だとやりがいが無いな」


 どうやらワキュリー先生にとっては期待外れの相手だったようだ。

 魔物が瞬間移動してきても、気配の察知とか簡単にやってのけそうだもんな。先生の隙をつける気がしない。


「戦い方を教えてやれと学園長には頼まれたが……貴様、武器は何を使っている」

「武器? え、杖ですけど」


 魔法を教えている学校なのだから生徒の武器は杖に決まっている。剣を使わされるのも実戦授業の素振りくらいだ。


「あれだけ授業で魔法に頼るなと言ってきたのに、剣術の基本の型も教えたのに、何故だ!?」

「討伐依頼が受けられない仕様だから、本当は武器なんて必要ないんですよ!?」


 すっかり破綻しちゃってますけどねその仕様!


合唱魚コーアフォーレの時に使っていたのは氷弾だったな。あれを小さな的、しかも瞬間移動してくる物に当てられるのか?」


 ワキュリー先生はあたしに詰め寄り質問を重ねてくる。

 確かに当てるのは難しそう。『アイシクル・プリズン』で閉じ込めても無意味だ。

 何か対策を練らなきゃいけないけど……ワキュリー先生の圧が凄くて頭が回らない。怖いです。


 混乱しているところにドアがノックされる音が聞こえた。

 ハルヒだ、ナイスタイミング!


「ハルヒ、来てくれてありがと! ごめんね巻き込んじゃって……って、学園長は一緒じゃないの?」


 これで人は揃ったはずだ。一緒に学園長が戻ってきて、これからの動きを説明してくれるものだと思っていたのに。

 そう考え聞いてみると、ハルヒはいつもよりご機嫌な笑顔になった。


「あ、おめめ君、じゃなかったアオーグ学園長ならここだよ」


 ハルヒの目線が下を向く。合わせて視線を下げると、足元に小さな目玉があった。

 いや、くりくりのつぶらな目玉から直接、手足のような短い突起が生えている。

 ゆるくないゆるキャラのような生物は、焦ってハルヒの影に隠れる。しかし笑顔のハルヒに捕らえられ、あたし達に見えるように胸元に抱かれた。


「ハルヒ、なにその目〇親父は」

「どこで拾ってきたのだ? 申請していない魔物ならこの場で斬るぞ」

「待っっって待ってワキュリーくん! 君は分かってて言ってるよね!? 本気じゃないよね?」


 口の無いゆるキャラはどこからか声を出してワキュリー先生の抜刀を止めた。


「この声……本当に学園長なんですか?」

「うん、これが僕の最初の姿。……ハル姉、今は話を進めないといけないから戻っていいよね?」

「私が抱っこしてた方が安全だよ! おめめ君は風で吹き飛んじゃうくらい軽いんだし、移動だってこのまましないと……」

「全部昔の話だよ! いいから離して!」


 ハルヒの腕から無理矢理抜け出したゆるキャラは鋭く発光し、一瞬で学園長の姿になった。


「そうだけど、でももうちょっとくらい良かったじゃない。可愛いのに……」

「ぼ、僕だって嫌な訳じゃ……って、今はこんな事してる場合じゃない!」


 ハルヒが世話焼きおねえさんキャラになってる!?

 今までも頼れる性格ではあったけれど、こんなにあざとい雰囲気は初めて見た。


 学園長は今のやりとりが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていたが、一つ咳をすると真剣な顔になった。


「仲河くんとハル……上崎くんには申し訳ないけれど、今から幻影蛙イールフロスの討伐に向かって欲しい。今日の授業は全部出席扱いにするから安心してくれ。場所はオヘーレ洞窟だ」

「オヘーレ洞窟? あそこには幻影蛙イールフロスが嫌う蓄光石があるはずでは」


 幻影蛙イールフロスは洞窟で暮らしているため光に弱い。簡単な灯りを見せるだけで驚いて逃げ出してしまうし、雷魔法にも弱いようだ。


 そんな魔物が、光を溜めて解き放つ性質を持つ蓄光石がある場所にいる。

 また一つきな臭い事実が増えてしまった。


 でもあたしにとってはいいニュースでもあった。まさに必要だった蓄光石がある所に行けるなんて。まだ依頼として受けてはいないけど、必要な量は把握している。ついでに採取していこう。


「今日侵入してきた幻影蛙イールフロスが逃げていったのは間違いないよ。目印もある。背中に魔法陣が書かれた個体を倒してきてくれ」

「魔法陣、ってことはテイムされた魔物が犯人?」

「うん。それを刻んだ真犯人を探す証拠になるから、解体しないでそのまま持ち帰ってきてね」


 そっかー、契約魔法をかけた魔物なら街の壁を気にせず入れるもんねー。

 つまり陰謀論決定! 偉い人の世界はやっぱりドロドロだったよファイクちゃん!


 そこからすぐに用意された馬車(もちろん怪我した子たちではなく外注)に乗り込んで、陰謀渦巻くオヘーレ洞窟に向かった。

手でカエルの形を組む遊び、個人的には親指と人差し指で口を作るのが簡単なんですけど一般的にはどうなんでしょうか?

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