第78話 フライミヨルのだまし蛙
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昔々、人々が魔法の種に目覚めたばかりの頃。フライミヨルという街である事件が起きていました。
ひとの物を盗んだり、意味もなくけんかをして相手を傷つけたりと、悪さをして逃げ去っていくひとが絶えません。しかも後で捕まった犯人たちは、なぜそんなことをしたのかと聞いても「知らない、自分はやっていない」と口をそろえて言うのです。
困りはてた人々は、四神様に祈り助けを求めました。
慈悲深い四神様は、快くその願いを聞き届けてくださいました。
早速、四神様はこの事件を調べ始めます。
春の神様、トゥーリーン様は捕まっている人たちに話を聞きました。
「知らない、自分たちはやっていない。ほんとうだ」
トゥーリーン様の力で嘘をつけないようにしても、同じことばを繰り返します。どうやら、犯人は別にいるようです。
それを聞いた夏の神様、ディザンマ様は次に起こった事件に駆けつけ、真犯人を捕まえようとしました。
商人の荷物を盗んだ男に飛び掛かりましたが、ぽんと煙があがり、一瞬で男の姿は消えてしまいました。
戸惑うディザンマ様を助けたのは秋の神様、ヘラビス様です。
ヘラビス様は、従えている幽霊たちに犯人の魂のかおりを覚えさせ、再び探し出すことに成功しました。
しかし、そこにいたのは一匹の小さなカエルでした。
けろけろ、とか弱い声で鳴く姿に、ヘラビス様も捕まえるのをためらってしまいます。
その隙に、ぴょこぴょことカエルは逃げ出します。
その足を凍らせて止めたのは、冬の神様、ディヴォン様。厳しい吹雪のように、どんな相手にも容赦はしません。
逃げられなくなり震えるカエルに、トゥーリーン様が手を差し伸べました。
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「トゥーリーン様は優しく語り掛けるんだけど、追い詰められただまし蛙はドラゴンに変身して四神様を襲うんだよね! そこからは迫力の戦闘シーン! ディザンマ様のサーフィンアタック!」
「四神様に負けただまし蛙は、とうとう考えを改めずに姿を眩ましてしまうんですよね。この話を読んだときはまさか、続編であんなことになるとは思いもしませんでした」
シュロムを連れて女子寮に入る訳にはいかないので、食堂の机を借りて話し合いをすることになった。
まずは題材のおさらいをしよう、ということで借りてきた絵本『フライミヨルのだまし蛙』を朗読していたのだが、途中から二人は勝手にネタバレを始めてしまった。
これ、続編あるのかよ。絵本にしては大作じゃないか。
「神様も一柱では万能じゃないんです。全員揃って、四神様として初めて事件を解決することができる。だから人も、出来ないことがあったら力を合わせましょう。そういう教訓が込められているんです」
「そんな解釈があったとは……。あたしはだまし蛙がボコボコにされた爽快感で満足していたというのに」
「ムクさんも戦闘シーン気に入ったんだ! ディヴォン様の雪雪崩もかっこいいよね」
その後はしばらく感想交換会が続いた。戦闘描写が絵本とは思えない程細かかったのもあり、だいぶ熱くなってしまった。
一息ついたところで、話を切り替えて本題に入る。
「じゃあ、これを元にアニメ―ションを作っていくよ。シュロムは音響担当で、さっきの爆発音とかを良い感じに入れて欲しいんだ。基本のBGMはこれで流すから一通り聞いておいてね」
シュロムに手渡したのは小型の音楽プレーヤーだ。
持ってきた当初は充電が出来ずにしまい込んでいたのだが、最近雷の魔法が使えるようになり、それで充電をすることで再び使えるようになったのだ。
新しい曲を入れるには地球に帰らないといけないけれど、既にかなりの曲数が入っている上大半がゲーム音楽なので、BGM候補に挙がる数は十分にあった。
「なにこれ?」
「えっとね、電源はここのスイッチを上げて、くるくるっとスライドして曲を選んで……真ん中がスタートボタンね」
布教のためにも、お気に入りの曲を流してみる。スピーカーモードにした本体から、キラキラと星が流れるような効果音と共に、ボス戦らしい迫力のある音楽が流れ始めた。
「わ!? 学生証みたいな薄っぺらさなのに音が出る!」
「大神殿の音楽隊とは違うけれど複雑で綺麗な音……こ、これ、蓄光器よりも高い道具なんじゃ?」
初めて見る機械とそこから流れた音楽に、シュロムのテンションは更に高まった。ファイクちゃんはまじまじとプレーヤーを見つめている。
「いや、あんなに高くは無かったよ? 詳しい値段は忘れちゃったけど……魔法が無い分道具でどうにかしようとして、ここより発達したんだろうね」
「そうでした、ナカガワさんは違う世界からやって来て……こんなものが溢れている世界、気になります。これなら、蓄光器に代わる道具もあるんじゃないですか?」
「ああ、アニメ作るのは道具もそうだけど扱う技術もかなり必要だから、そこは蓄光器の方が簡単かな?」
ゲームは好きだがパソコンはそこまでいじっていなかったので、アニメーションを作れるような技術は無い。ハルヒならそういう知識もあるかもしれないが、今回は敵だから頼めなかった。
「それとねー、この機械で音楽を聞いているうちに思いついたことがあるんだ。見本ならここで試せるはず……それっ」
壁に向かって杖を振る。と、そこにピンク色の人影が現れた。
影は優雅にお辞儀をし、長い髪をたなびかせてゆっくりと歩く。それだけの動きだったが、二人にはその正体が分かったようだ。
「今の動き、トゥーリーン様?」
何色も色を使おうとすると魔力の消費が激しい。それを補って効率よく映像制作を行うために思いついた方法が影絵だ。
四神様なら影にしても分かりやすいだろうし、イメージカラーも四季に合わせれば簡単。これなら通しで映像を作っても余力が残せて、一日に何回も練習することが出来る。
昨日の夜とある曲についていた影絵のPVを見て、色が少なくてもカッコいい映像は作れるのだと改めて感動していた。
「そうそう、これなら省エネで、分かりやすくて凄い映像を作れると思ったんだ」
「確かにこれなら……ナカガワさん、早速本格的な映像を作ってみましょう!」
気合が入ったファイクちゃんと共に、机を叩いて立ち上がる。
「よっしゃ! シュロムには試作品ができあがったら見せるから、その時までにどの曲が絵本の内容に合いそうか、あと四神様の攻撃につける効果音とか考えておいて」
「分かった! でも、この道具そこまで大きな音は出ないんだね」
ぐるぐると音量調節をいじっていたシュロムが呟く。
そうだ、本番は大勢の人に聞こえるように大音量でないといけない。本格的なスピーカーは持っていなかった。そういう機械もカマゼル先生なら持ってるかもしれないけど、このプレーヤーとは繋がらないだろう。
「シュロム、この音をもっと大きく出来る魔法って使える?」
「うーん、多分? 面白そうだしやってみるよ」
「サンキュー、頼りになる! あ、普段はこれ使って聞いてね」
「なにこれ、これも借りていいの? ありがとう!」
スピーカーモードのままだと寮では騒音迷惑になってしまうので、イヤホンも貸し出した。
シュロムはコードをぶんぶんと振り回しながら帰っていった。色々気に入ってくれたのは嬉しいけど、壊れないかちょっと心配だな……。
話がまとまったので、蓄光器を使うために女子寮へ戻る。すると、愉快な笛の音が聞こえてきた。歩くごとに音が大きくなるので、どうやらあたしの部屋から音がしているらしい。
中に入ると、リールがリコーダーを演奏していた。あたしが入って来たことに気が付くと、慌ててリコーダーを背に隠した。
「あ、違うよ、出し物の練習じゃないもん、秘密!」
秘密の道具は手乗りサイズのリールでは隠しきれず、頭の上から吹き口が顔を出していた。
「そっかー秘密かー、本番までお預けかー」
「そういうムウは何するか決まったの?」
「うん、これから作っていくから……まあ見ててもいいけど、どうする?」
「外で練習する。どっちも本番のおたのしみ!」
リールはリコーダーを両手で抱え直すと、窓からパタパタと飛び出した。
秘密じゃなかったんかい。お茶目可愛いなあ。
リール達は楽器の演奏をするのか。ちょっと拙い演奏を聞いたからか、敵ながら応援したくなってしまった。
学習発表会を楽しみにする親の気分になったみたいだ。
「小さいドラゴンが楽器を吹くなんて、可愛らしくていいですね」
「そうでしょ、うちのリールは魅力満点なんだから。でも今回はそれに打ち勝たないと!」
気合を入れ直して、あたしは蓄光器の準備を始めた。
久しぶりにオタク豆要素を入れられた気がする。チャンピオン戦BGMはこれが一番好きです。




