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第76話 光の魔法と商人先生

 対抗心を剥き出しに啖呵をきって、週末の休みに突入。しかし、思いの外作業は難航していた。


 氷像は何をモチーフに作るのか、そこへどんな映像を流すのか、決めることは山積みだ。

 それ以前に、練習として覚えていたアニメの一コマを再現しようとしても、数秒しか魔法を維持できないという問題が見つかった。

 体力切れではなく、どんどん移り変わるアニメーションに頭の中の想像が追い付いていない感覚で、すぐに魔法が途切れてしまうのだ。

 最低でも一分ぐらいは映していたいのに、これではCMも満足に流せない。


 そんな状況を解決するためにも沢山練習したいのに、補講と魔物のお世話がある。

 思う様にいかない状況にあたしはため息をつきながら、アインホルンにシャワーをかけた。


「ナカガワさん、疲れましたか?」

「ああいや、そうじゃないんだ。文化祭のステージ練習がうまくいかなくて……」

「ステージ発表するんですか、凄いですね! わたしなんて、クラスの出し物の話し合いもまとまらなかったのに……」


 ファイクちゃんの所属する2組では、魔法道具屋さんをやることになったらしい。

 店の名前は『ティランネ商会・シュプリアイゼン魔法学園分店』。各グループに売り上げ目標が課され、商品開発にプレッシャーをかけられているそうだ。

 ちょっと話を聞いただけでも、ユングルの暴走がありありと目に浮かんだ。


「利益は生徒のものにはならないのを分かっていなくて、自分のものにする気なんです。文化祭が終わった後、そこで揉めないかが一番怖いです」

「あいつ注意とか聞かないもんね。そもそも担任がビリス先生じゃあ注意できてるのかどうか」

「はい……ユングル君とその友達、先生の事無視してますから……」


 それって学級崩壊してない? 大丈夫? やっぱり凍らせる?


 そんなことを考えていたら、シャワーをかけていたアインホルンに軽くどつかれた。まさかの方向からツッコミが……あ、シャワーが冷たくなってたのか。

 突き飛ばされるような攻撃じゃなかったのは、前より温度の低下が控えめだったからだろう。


「ファイクちゃんは何を作るの?」

「まだ決まってないんです。得意な光魔法を生かしたものが作れたら良いな、とは考えてますが」

「ふうん、得意な光魔法ね……え、光?」


 ファイクちゃんの発言に気を取られたあたしは、シャワーを出したまま振り向いた。

 振り向きの反動でずれた方向にはアインホルンの顔が。もろに水を浴びたアインホルンは飛び上がり、あたしのみぞおちに蹴りを入れた。

 今度は結構痛かった。


「し、しっかりしてください」

「げほっ。ご、ごめん。それより、光魔法が得意だって言った?」

「はい、魔法の種ケルンは光の3級です」


 くるりと杖を回して見せてくれた魔法の種ケルンは、乳白色をしていた。透き通っていない、等級の低い魔法の種ケルンを初めて見たけれどこれはこれで綺麗だな。


 光茸リヒトピルツの部屋で明かりを灯せていたのも、得意な魔法だったからか。こんなに近くに教えを請える人がいたなんて。


「お願い、あたしもファイクちゃんの魔法道具考えるから、あたしのステージ発表に力を貸して!」

「え、わたしに出来ることなんて……」

「あるの! とりあえずさっさと世話終わらせよう!」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 全力で魔物の世話を終わらせたあたしは、ステージについて考えていたことをファイクちゃんに伝えた。すると、いきなりダメだしをされた。


「何種類もの光を動かし続けるなんて、いくら特級でも無茶です。体力的に可能だとしても、そのイメージを魔法の種ケルンに鮮明に伝え続ける集中力はすぐには身に付きませんよ」

「確かに。動かす人物に集中したら、背景がおろそかになりそう……」


 あたしの記憶力が論外だとしても、数分間のアニメーションを事細かに思い浮かべるということはとても難しい。単調な背景でも、全部に気を配りながら魔法を使い続けるのは厳しそうだ。


「でも、あらかじめ光の順番を外部に記憶させておいて、当日流すだけにすれば負担はかなり減ると思います」

「外部に記憶? そういう魔法道具があるの?」


 ビデオカメラみたいなものだろうか。でもそういった物があるなら、授業で使われていそうだけれど。


「はい、当てもあります。今から行ってみますか?」

「マジで!? ありがとう、勿論行くよ!」


 思わぬ規模の助け舟に感動したあたしは、ファイクちゃんの手を取り思いっきり振った。


 その手を引かれて連れていかれたのは、学園のとある一室。場所的には先生方の部屋だと思うけど、実際に来たのは初めてなので誰の部屋かは分からなかった。


 ファイクちゃんがドアをノックすると、すぐに中から返事が聞こえた。


「入りなさい」


 その声には聞き覚えがあった。悪い意味で。

 中にいたのはくるりと巻いた口ひげが印象的なふくよかな男性。商学のカマゼル先生だった。


「何用かね?」

「失礼します。実は、カマゼル先生からお借りしたいものが……、あれ? ナカガワさんも入ってきてください」


 入口で立ち止まって気配を殺していたのがばれてしまった。仕方なく部屋に入ると、あたしの名前を聞いたカマゼル先生は渋い表情になった。


「ナカガワくん。もしや補講の日程すら忘れたのかね? 商学の宿題未提出者の補講は明日だよ」

「うう……それは覚えてますよ……いつもすみません」


 商学の最初のテストで赤点を取り、休暇中の宿題もだし損ねたあたしの印象はもちろん良くない。入るなりお叱りを受けたあたしは肩をすぼませ、ファイクちゃんの後ろに身を隠した。


「あの! 私、1年2組のファイク・トレーガーと言います。今度の文化祭で使用したいものがありまして、お借り出来ないか相談に来ました」

「ほう、何かね。言ってみなさい」

「蓄光器です、時間は短くていいので、沢山の種類が込められるものが欲しいです」

「蓄光器? あるにはあるが……待っていなさい」


 カマゼル先生は少しだけ考える素振りを見せた後、部屋の隅にある棚を探り始めた。

 蓄光器、なんとも原始的な響きの道具だな。


「あった。蓄光器『アキューム8号』、256色記憶可能、稼働時間10分。型落ちしているが、申し分ない代物だよ」


 カマゼル先生が両手で抱えて持ってきたのは、側面と上部に一つずつ窓の開いた箱だ。茶色い革張りで高級感が漂っている。

 上の窓に光魔法を当て、中に入っている特殊な石に映像を記憶させる。その後起動用に改めて魔力を流すと、側面の窓がレンズの役割をして溜めた映像を映し出せる道具だ。


 いや256色って。ドットか。ファミリーなアレの方が性能良いじゃん。

 一月でイメージを固めるならそのくらい粗い方が丁度いいのかなあ。


「凄いです、アキュームシリーズなんて初めて見ました! うちでも蓄光器を運ぶことはありますが、高価だから触らせてもらえなくて……」

「うん? そうか、トレーガー運送の娘さんか。いつも世話になっているよ」

「とんでもないです! カマゼル商会さんこそ、うちを使っていただいてありがたく思っています!」


 ファイクちゃんとカマゼル先生が、お互いの事をよく知らなさそうなのにお世辞の応酬を始めてしまった。

 あたしは蚊帳の外に置かれてしまったが、入れられてもついていけないのでそのまま時が過ぎるのを待った。

 そうか、この性能で高級品扱いなら、映像に関わるものが普及していないのも納得だな。


「あ、ナカガワさんごめんなさい! つい話がはずんでしまいました」

「カマゼル先生ってどこかの商会の関係者なんですか?」

「ええ!? カマゼル商会と言えば、ティランネ商会に並ぶ大商会ですよ!?」


 生徒と教師、という関係だけではなさそうなので尋ねてみるとそんな答えが返ってきた。

 あの倉庫群を持ってるティランネ商会と張り合えるなら、凄いんだろうな。


「トレーガーさん、それは話を盛りすぎだよ、あくまでもナンバーツーです。まあそれでも、こういった商品を扱える程度の力はあるがね」


 先生は蓄光器を撫でながらそう言った。控えめな言い方なのに自信満々な顔なのがちょっと気に障る。


「ではナカガワくん。君ならこの商品を貸し出すのにいくらの値をつけるかね?」

「え? えーっと……一月だから、10万アールくらいですかね……?」


 相場なんて全然知らないけれど、二人の興奮具合からするとお高いものなのだろう。もしかしたら保証金としてもっと取られるかもしれない。


「普段ならもう少し高めだが、今回は生徒に貸し出すもの。身内値段でも差し支えないでしょう、9万アールとします」

「そ、それでも高いですね……」

「分かりました、ならそれでお願いします」


 値段を聞いてファイクちゃんは及び腰になっているが、あたしはそうでもなかった。

 手持ちはまだまだあるし、これで映像問題が解決できるなら早くて助かる。何より早く帰りたかった。


「流石特級……このくらいなら稼げるということか。でも商学の講師としては、不合格の対応だと教えなければならないね」


 その対応が裏目に出てしまった。値段に満足していても値切るべきだとか、愛想よく返事をすればその後の関係を良好にできるだとか、商人としての心得をしばらく聞かされ続ける羽目になってしまった。


「なるほど、勉強になりました! わたしも商人に関わる職を目指していますから、しっかり覚えておきます!」

「うむ、いい心がけです。ナカガワくんがちゃんと聞いているのか怪しかったが……まあいいでしょう」


 ファイクちゃんが興味深そうに聞いていたので、先生はそれで満足したらしい。あたしはすっかり疲れていたが、これ以上追及されるのは嫌なので精一杯の笑顔で頷いておいた。


「で、蓄光器はどうするかね?」

「さっきの値段のまま支払います。ここは1つ、貸しという事で……」

「……お金で単位は降りませんよ?」


 先生の厳しい視線を避けるように、蓄光器を受け取ったあたしは足早にその場を立ち去った。

明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。

……一カ月空かないように無理矢理間に合わせたので、来週の更新が厳しいです(汗)

なるべく早くお見せできるように、続きも頑張って書きます。

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