第75話 文化祭の出し物決め
「では、今月末に行われるシュプリアイゼン魔法学園文化祭について、我がクラスがどんなことをやっていくか色々決めていこうかの。まずはリーダーからじゃ」
今日のラストは薬草学……だったのだが、その時間は文化祭の出し物を話し合う場に置き換わった。
フェアユング先生からの課題に、あたし達は早速頭を悩ませた。
「リーダー? 先生が仕切るんじゃないんですか?」
「勿論儂も協力するが、文化祭の主役は生徒じゃ。自主性を育むためにも、先生はなるべく口出ししないように、と学園長から言われておる」
大半が10代前半の生徒に自主性を求めるって、ちょっと荷が重くないだろうか?
それを裏付けるように、立候補してきたのは年上の概念の化身だった。
「組織の長! それは私、ランズが負うべき責務であると心得た!」
「言うと思ったよ。まあ声はでかいし、司令塔としてはいいんじゃないかな」
「賛同してくれるか夢心殿! 指揮能力を鍛える良い機会とみたのだ。是非とも私にやらせていただこう!」
混ぜた皮肉に気が付かなかったのか、ランズはやる気満々で挙手を続けた。
他の生徒はざわつくだけで、手を上げようとはしない。
「他に立候補はおらんかね? 推薦しても良いのじゃぞ」
「推薦? じゃあハルヒやってみない?」
「ええ、なんで私に振るの!? リーダーなんてできないよ」
突然推薦されたハルヒはぶんぶんと首を振った。顔も真っ赤になっている。面白い反応いただきました。
ハルヒなら出来るとは思っているのだが、本人が嫌ならしょうがない。あたしは推薦を取り下げた。
「では、ランズが文化祭のリーダーで決まりじゃな。前へ出てきてもらおうか」
「よろしく頼むぞ!」
ランズが意気揚々とフェアユング先生の隣までやってくる。次は肝心な出し物の内容だ。
「はーい、あたし達のクラスなら食品を扱ってもいいって聞きました。お菓子とか飲み物を出す、カフェがやりたい!」
「飲食店か、であれば私は肉や魚で攻めたいものだが」
「生臭いのはちょっと……煙も出るし、屋内で沢山作るのはきつくない?」
出し物は基本的に教室内で完結させなければならない。文化祭が終わった後、煙たい教室で授業を受けるのは嫌だ。
あたしの指摘に賛成する声がちらほら上がる。
「うむ……それはそうだが。私の案も候補には上げさせてもらおう。他にやりたい事は無いか?」
ランズが呼びかけると、魔法道具屋さんや秋の大陸屋敷といったこちらの定番物の名前が挙がった。しかし、皆初めての文化祭なのでそれ以上の事は思いつかなかった。
多数決を取ると、意外にも大差でカフェに軍配が上がった。
「やった! でもみんな、お化け屋敷とか有名どころをやりたいものだと思ってたからびっくり」
「言ってみたけど、やっぱり怖いなって思って……」
「お菓子作ってみたいから!」
そこの男子、言ってみただけかーい。意見が出るのは活発な会議になるからいいことだけれど。
同時に女の子が目を輝かせながら言ってくれた通り、お菓子はウケが良かったようだ。話は既に、どんなメニューにするかという話題に進んでいた。
「やっぱりケーキがいい!」
「難しそう。混ぜて焼くだけみたいな簡単なやつがいい」
「そういう人は教室の飾りつけとか店員さんをやろうよー。アベル焼きとかどうかな?」
「それだって切って焼くだけじゃん!」
わいわい騒ぎながら、次々に意見が飛び交う。意外にも、ランズはそれを上手にまとめていた。
「ふむふむ、誰でも出来るように作業が簡単なものにするのは良い案だ。焼くにせよ菓子の甘い香りなら、その後の授業にも差支えない上に客寄せにもなると。後はこのクラス独自の要素があれば完璧だな」
しかも更に話を発展させていく。見事な話運びは今までのランズのイメージからはかけ離れていて、面食らってしまった。
我が道を行く性格だと思ってたのに、こんなことが出来たんだね。
「はいはい、それならヒュプノの形にした焼き菓子とかいいんじゃないかな?」
シュロムの意見には賛成の嵐。皆でお世話をしてきたヒュプノはすっかりこのクラスのマスコットだ。
「それならぼくも!」とリールが対抗して名乗り出る。リールだってクラスの一員、それにドラゴンの形はかっこいい。難しそうだけど作ってみたい。
「……パルトも作ってもらいたい」
更に対抗してきたのは、まさかのゾルくん。今まで無言で、このまま意見しないだろうとクラス全員が思っていたので驚きのまなざしが注がれた。
「……可愛さなら、パルトも負けてない」
推薦理由が可愛すぎる。ゾルくん動物大好きだよね。
クラスの心は一つになり、笑いに包まれながらその意見も採用された。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結局、クラスの出し物はヒュプノ、リール、パルトをかたどったクッキーとフルーツジュースの店に決定。配膳班、調理班、内装班の組み分けまで決まったところで今日は解散となった。
それにしても凄い勢いで決まっていった。あたしも発言する気でいたのに、全然話についていけなかった。久しぶりのカルチャーショックである。
「あの調子ならクラスの出し物は安心だね。問題はステージ発表の方か……」
あたし達には、まだこの課題が残されていた。寮に戻ってきて、考え始めた所だ。リサもまだ決めてないのか、うんうん悩んでいる。
「分かりやすく力を示すなら、イーフの巨人を使うべきでしょうか……大胆かつ繊細に……ぶつぶつ」
「あたしも、得意なものをどーんと見せつけるなら氷像かなと思ったんだけど、それを作るだけじゃ物足りないよねえ」
それなら校舎の一角にどんと建てて、「私が作りました」看板を立てておけば済む。十分インパクトはあると思うけれど、せっかくステージを使うんだからもっと遊びが欲しい。
「氷像に色を付けるとか? むしろ光らせる? ライトアップ程度じゃまだ物足りないな……」
「光を当てるなら、プロジェクションマッピングとかどうかな?」
「ん? なんだっけそれ」
ハルヒの口から出た長い横文字にあたしは首を捻った。
曰く、迫力ある映像を建物に投影するパフォーマンスだそうだ。確かに、氷像を作った上に映像まで映し出したら驚かれるだろう。
「こっちで映像とか見たことないし、いいアイデアかも!」
「ハルヒ様!? 敵に塩を送らないでください!」
「ご、ごめんごめん。リサちゃんにも協力するよ」
そういうとハルヒはリサの方へ寄って、相談を始めた。
出し物の方向性はこれで決まりだ。映像は、まあ魔法で作れるだろう。とはいえ、光の魔法はほとんど使ったことが無いのでイメージしづらい。誰か教えてくれる人を探さないと。
先生の中で得意そうなのはワキュリー先生かな? 雷も光も似たようなものだよね。
でも、あの熱血漢に授業外で指導をお願いした日には、日が沈んでも帰してもらえなくなりそうだ。ひとまずは自力で練習してみよう。
リサ達の会話に聞き耳を立ててみると、どうやらリサとハルヒと、それにリールも加わって三人で出し物をすることに決まったようだった。だとすれば、協力してもらうのはこの三人以外に頼まないといけないのか。
「あ! ムク、盗み聞きはだめですよ!」
「同じ部屋で会話しててそんなこと言われても……。ハルヒとリール、宿題の件、まだ許してないからね。いい機会だから優勝はあたしが貰ってくよ」
ニッコリ笑顔で二人に目をやると、ハルヒが小さな悲鳴を上げてリールの後ろに周りこんだ。
「むーちゃん、根に持ってたんだ……。リールちゃんが全ての元凶だから!」
「というかぼくたちは教えなかっただけだよ! 悪いのは忘れてたムウだもん! だから勝つのもぼくたちだよ!」
バチバチ、と大魔蜂の火花に負けないくらいの熱線があたし達の間に交わされた。
いたずらっ子リールとその従者ハルヒ、ついでにリサにも正義の鉄槌を喰らわせてやるとしよう。
メリークリスマス!
今年の更新はこれで最後です。来年は、登場人物紹介でお茶を濁さず再開できるように頑張ります(汗)
良いお年を!




