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第74話 やっぱりこれだよね

「おはようございます、ナカガワさん。起きて下さい」


 次の日、日の出と共に部屋にやってきたファイクちゃん。

 あたしのことを優しく揺さぶって起こしてくれる。どこかの耳を噛んでくるやんちゃさんとは大違いだ。


「おはよ……早いね……」

「これでもギリギリですよ、早く卵を取りにいかないと食堂の人に怒られてしまいます」

「うにゃ……今起きるから……」


 優しくも絶えず体を揺らし続けられて、だんだん意識が覚醒してきた。

 結局、飼育係の朝の仕事も手伝う事になったのだ。あたしは適当に身だしなみを整えながら、リールに声をかけた。


「リールおはよ、先に行くね」

「うーん? いってらっしゃい」


 目が覚めてあたしがいなかったらリールはビックリするかも知れないが、これで大丈夫だろう。


「ナカガワさん、早く早く」

「はいはい、じゃあ掴まっててね」


 急かすファイクちゃんの手を握り、あたしは大きく欠伸をする。

 目を開くと、あたし達は飼育小屋の前まで瞬間移動していた。


「……へ? あれ、着いた?」

「瞬間移動だよー、前にも見せたじゃん」

「でもあの時は緊急事態で! 朝からいきなり凄い魔法を使って、大丈夫なんですか?」

「全然平気だよ。遅刻しそうな時はやっぱりこれだよね」

「1組の人はすごいですね……」


 自分の使える魔法との差に茫然としながらも、仕事を急がねばならないのを思い出したファイクちゃん。慌てた彼女に案内されたのは、ひよこ小屋だ。


 そりゃあもうふわふわでもこもこ。大人の鶏と同じくらいの体に、飾りのように生えた小さな羽を一生懸命動かす姿は癒しポイント満点。でもこの見た目で成熟しているので、卵を産むのだ。

 部屋の隅に敷かれたわらの上に、ウズラの卵よりは少し大きなそれが産んであるのが見える。取りに行こうと足を踏み入れると、わらわらとひよこ達が群がってきた。


「いやいやこれ踏むって。あたしひとっ飛びして持ってくるよ」

「あ、駄目です! この子たちの上を飛んだら……」


 飛行魔法をうまく使えるようになって調子に乗っていたあたしは、ファイクちゃんの注意をろくに聞かずにひよこ達の頭上を通過した。


 すると、その姿を目にとめた数匹のひよこが嘴をカチカチと鳴らし始めた。

 その音に感化されたのか、周りのひよこたちも参加して大合唱に。それに合わせて段々と、体と同じ黄色だった嘴が緑色に変化した。


 ふわりと風を感じて注視していると、色の変わった嘴から小さな竜巻が起こった。小さいけれど何十個も集まれば相当な威力だ。

 次々と発生してあたしを取り囲んだ竜巻は、そのまま天井に激突した。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あーこっちこっち、平気だよ。びっくりした!」


 天井にぶつかる寸前で、あたしは瞬間移動してファイクちゃんの隣に戻ってきた。

 結構ギリギリだったので、まだ心臓がばくばくしている。


竜巻雛トロキューはああやって力を合わせて、敵を遠くへ吹き飛ばしてしまうんです。好奇心旺盛で、刺激するとすぐに竜巻を飛ばしてくるんですよ」

「可愛い見た目と名前してるのにとんでもない魔物だね……。分かった、ゆっくり地上から攻めよう」


 横着することの危険を学んだあたしは、今度は歩いて卵の元へ。

 もみくちゃにされながらも竜巻を起こされることはなく、無事に卵を持ち帰った。


 それから軽く床を掃いて、餌箱に小さな木の実を沢山そそぐ。

 あっという間にひよこが群がり、餌に興奮したのか所々から竜巻が発生した。


「卵を一度食堂へ運んで、戻ってきたらアインホルン達に餌をやりにいきましょう」

「まだあるの! 朝から大変だなあ。ファイクちゃんは今まで一人でやってたの?」

「はい、主な仕事は昨日見せたものとこれで全部ですが、たまに休んだ人の担当している魔物の所へも行ったりしてます」

「働き者だね、おねえさんには真似できないや」

「これくらいしか、出来ることが無いので……せめてそれでみんなの役に立ちたいんです」


 そう言いながらも、卵を抱えるファイクちゃんの表情は明るかった。この仕事が好きなのだろう。

 食堂までも瞬間移動を使おうかと思っていたが、野暮なことはしない方がいいかな。

 あたしはファイクちゃんと一緒に歩いて卵を運び、また飼育小屋へと戻っていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の昼休み。あたしは親子丼を頬張りながら、飼育係で体験したことをいつものメンバーに語っていた。

 親子丼を選んだのは、今日運んだ卵が使われていると聞いたから。自分で取ったものってそれだけで美味しさが違うよね。

 ……でも、これで「親子」と銘打ってるということは、肉は竜巻雛トロキューのものなんだよね。合掌。


「中々掃除が大変だったよ、毛ってあんなに抜けるんだね」

「とても楽しそうなのです。私も宿題を一つくらい未提出にすれば良かったでしょうか……」


 一番話に食いついてきたリサは、何故か悔しそうに話を聞いていた。


「これ、罰則だからね? ファイクちゃんに出来るんだから、リサなら頼めば植物の一つくらい任せてもらえそうだけど」

「それは朗報なのです、嘆願書を作りましょう」


 この調子でいくと、数日後には一緒に働くメンツが増えそうだな。


「補講はただただ面倒なんだよねえ。今まで習ったことの復習と、小テストの繰り返し。しかも満点取るまで帰してもらえないし」

「学校始まってから、放課後の訓練にムウが来なくなっちゃってつまんないや」


 夏休みから続けていた訓練は、補講と飼育係のせいであたしは中断。リールとハルヒだけで続けていた。


「でもね、そんなムウにびっくりニュース! 『藍玉あいだま』がちゃんと使えるようになったよ!」

「マジで? やるじゃん!」


 リールとハルヒがしばらく研究を続けていた、ブラックホールに似た藍色の球体。『藍玉あいだま』と名付けられたその力は、初めのうちはなかなか再現することが出来ず、現れてもすぐに消えてしまうような状態だった。


 それが、あたしの見ないうちに安定して出せるようになったらしい。対象を選んで吸い込む能力も間違いなく発動。選んだもの以外は吸い込まないことに確証が持てるくらい実験済み。

 ようやく、ハルヒから「好きに使っていい」というお墨付きをもらえたのだ。


「見てて見てて、リーボフォーレの太い骨。身を開いてね、それだけいなくなれーって念じると……」


 リールは指先に、小さな『藍玉あいだま』を作り出した。食べかけだったリーボフォーレの塩焼きから、骨だけが吸い寄せられてその中に消えていった。


「食べやすくなって、骨がのどに刺さることもなくなるんだ!」

「能力の使い方がすこぶる平和!」


 使い方ひとつでとんでもないことになる力なのに、悪用なんて微塵も考えていないリールの姿を見て気が抜けてしまった。


「それ、飼育小屋の掃除で使えたら楽だな。ねえリール、手伝ってくれない?」

「やだよ、ぼくは宿題だしたもん」


 あたしがいなくてつまらないと言っても、それはそれ。騙されなかったか。

 分別がついたことにリールの成長を感じたけど、甘えん坊じゃなくなったのはなんだか寂しいな。


「そういえば、文化祭の話し合いって今日だよね。どうしよう、何も思いついてないの」

「クラスで出し物するんだっけ。リサ、こっちだとどんな出し物が定番なの?」


 焦るハルヒと同じく何も考えていなかったあたしはリサに助言を乞う。

 日本なら喫茶店やお化け屋敷が文化祭の定番だが、こちらだと何があるんだろうか。


「私がやってみたいのは魔法道具屋さんですね。自分たちで考えて作り上げた道具をお客さんに売るのです! 利益は学園に持っていかれるのが残念ですが……」


 自分たちで作った作品を展示するだけでなく、販売もする模擬店のようだ。学生の手作りなので、形や効果はばらつきがあるのはご愛敬だ。

 リサが本気で薬を作ったら、そこらの店より良いものが出来そうだけど。


「あとは秋の大陸屋敷ですかね、私はあまりやりたくないのですが……」


 秋の大陸では、幽霊やゾンビなどの魔物がよく出るらしく、フィルゼイトではお化け屋敷の事をそう呼ぶのだ。テイマーが居れば怖い唸り声をあげられる魔物をテイムして、本格的な雰囲気を作り出すことが出来る。


「あたしも、驚かせたりするのは苦手だな。お店の方が楽しそう」

「特級魔法の種ケルンには十分驚かされているのです」


 飲食店は、刃物や火を使うのに子供を監督する手が足りないため、基本は4年生のみに許されている。だが、今年は概念の化身コンゼツォンの新入生が多かったため、うちのクラスには例外的に許可が出るかもしれないとのこと。


「劇とかダンスとかはやらないの?」

「パフォーマンスは、有志で集まって行うステージがありますね。やる気のある人で集まるだけあって、文化祭の中でも一番盛り上がります。あの中で目立つにはどうしたらいいのか……」

「リサ、ステージにも参加するの?」

「文化祭には他の学園の先生も視察に来るのです。噂でしかないのですが、有志のステージで活躍すると評価されて、留学選考に有利になるのですよ」


 そんなこと言われたら、あたしも参加しなきゃいけなくなるじゃん!

 現に横の二人はやる気がありそうな目を見せている。


 クラスの事も決まってないのに、考えることが増えてしまった……。

 これ、うまくまとまるのだろうか。

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