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第72話 新学期の始まり

 5月。四神月は終わりを迎え、街にはいつもの日常が戻ってきた。


 新学期最初の登校日。リールの目覚ましジャンプをお腹に喰らい、あたしは遅刻を回避することができた。代償として腹痛を抱えながら教室に入ったあたしは、休み中顔を合わせなかったクラスメイトに「久しぶり!」と挨拶をして、どんな体験をしてきたか雑談を交わしていた。


 程なくして担任のフェアユング先生がやってきた。癖の強い青髪も、小学校低学年の男子にしか見えない姿も変わっていない。

 相変わらず背の高いままの教壇を魔法で縮め、「座れ座れー」と生徒を促し自分の席へ着かせる。コホンと咳を1つしてざわめく雰囲気を鎮めると、先生の話が始まった。


「皆の者、久しぶりじゃな。大きな怪我などせず、全員無事に戻って来てくれたことに安心したぞ。休み気分は早めに無くして、また勉学に励むのじゃ」


 それからしばらく、連絡事項を淡々と伝えられた。今日は特に授業は行われず、これからの授業日程などを確認するだけだ。

 なに、今月末に文化祭? それは楽しみだね。出し物を決める時間を今度設けるから、やりたいことを考えておけと。うーん、何が良いかなあ。


 ちなみに、学園長の話を聞く集会は年はじめの始業日だけだ。非常にありがたい! あの時間って退屈極まりないもんね。


「以上じゃ。では、宿題を提出したものから帰って良いぞ」


 さあて終わりだ、と席を立ち上がりかけたあたしは、先生の最後の一言で凍り付いた。


「……しゅくだい?」

「おい。虚無くん、もしくは上崎。この鳥頭に宿題の事を黙っておったのか?」


 立ち上がりかけた姿勢のまま、視線を下へ向ける。

 あたしの机に座っていたリールは、羽を震わせて笑いを堪えていた。


「リール?」

「えへへ」

「笑ってごまかさないで」


 その羽を両手で掴み、リールを持ち上げた。笑い続けるリールを窓の外に投げ出してやろうか、なんて考えていると、そこへ思わぬ伏兵が現れた。


「あ、あのね、私も共犯なの。絶対忘れてるから教えた方が良いとは思ってたんだけど、リールちゃんが『言わなかったらどうなるのか気になる』って提案してきて。私も、面白そうだなって思っちゃって……。ごめんね?」

「ハルヒまで! 嘘だ! 二人共親友だと思ってたのに!」


 ハルヒとリールに見捨てられていたなんて。そんなことされたら宿題なんて忘れて当たり前じゃないか。


 更に追い打ちをかけるように、クラス中に笑いの嵐が巻き起こった。

 ……よく見ると焦ったような顔がちらほら見えるけど、その人たちはあたしの仲間じゃないの?


「はあ……未提出分は明日までは受け付けるぞ。間に合わなければその量に応じた補習と、学園で飼育している魔物の世話をしてもらうことになるからな」

「えー! そんな、間に合う訳ないじゃん!」


 宿題の内容は、商学の問題が冊子一冊分に、他の教科のプリントが合計で数十枚。それに植物の観察日記。リサやハルヒは部屋が違うから分かるけど、リールはどうやってあたしにバレないようにこなしたんだ。


 当然一日で終わるはずもなく、というか観察日記はでっち上げなのがバレバレで、あたしは補習と飼育係を請け負うことになったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから数日経ったある日の放課後、あたしはフェアユング先生に飼育小屋まで案内された。

 小屋といっても、大きな木造の建物だ。飼育されている魔物は多種多様で、普通の家程度の大きさでは収まらなかったのだ。更にそこから増築されたのか、だいぶ歪な形になっている。


 ちなみに引率されているのはあたし一人。びくついていたクラスメイト達は、一日で残っていた宿題を終わらせることに成功したようだ。ちくしょう……。


 中に入ると、いわゆる動物園の臭いがした。入口近くはエサ置き場になっていて果物や草束が積み上がっている。奥からは様々な鳴き声がけたたましく響いてきた。


「おーい、手伝いの者を連れてきたぞー」


 フェアユング先生が奥へ向かって声をかけると、小さな人影がこちらにやってきた。


「お待たせしましたフェアユング先生……と、ナカガワさん?」


 ダークブラウンの長い髪をたなびかせて現れたのは、2組の友達、ファイクちゃんだ。

 小首をかしげる姿が年相応でとても可愛らしい。同じ年のリサは随分たくましいからなあ。


「まさか、ファイクちゃんも宿題終わらなかったの?」

「いえ、わたしからお願いして、ここにいる生き物のお世話をさせてもらってます」

「……ちなみに2組で補習になった人は?」

「いませんでした。神様が見てますから、やるべきことはやらないと怒られちゃいます」


 真面目に勉強する人ばかりだと思っていたら、そんな理由があったとは。

 あたしも、多分人より四神様に見られているんだよな。そう考えるとだらしないのはまずいのかも。


 それに加えて、四神様を信仰していないユングルにも負けたという事実に、あたしは一段と落ち込んだ。まあ、あいつと飼育係をやるよりは全然マシだけど。


「他にもここで働いている者はおるが、年が近い方がお互いやりやすいじゃろ。という訳で一カ月、この戯けの面倒をよろしく頼むぞ。遠慮はいらん、どんどん働かせなさい」

「はい! 任せて下さい!」

「え!? 一カ月もやるなんて聞いてないですけど先生! せんせーい……」


 引継ぎが終わるやいなや、フェアユング先生は颯爽とこの場を去ってしまった。

 未提出が多かったのは事実だけど、40日のペナルティって長すぎでは?


「そんなに宿題を溜めてたんですか?」

「まあ……ざっと全部、だね」

「全部って、思い切りましたね……。忙しかったんですか?」

「色々あったけど、それは関係なくて。いつもの通り忘れてただけで」

「いつも?」


 ファイクちゃんに疑問を抱かれて、認識がずれていることに気が付いた。


 同じクラスの生徒には、一緒に過ごすうちにあたしの忘れっぽさが周知された。

 だがファイクちゃんは2組だ。事情は知らないはずなので、あたしの記憶力についてかいつまんで説明した。呪いだとか物騒な事はもちろん省いて。


「なるほど……それで、ユングル君から『異世界人』って呼ばれてたんですね」


 あたしの話を聞いて、ファイクちゃんは納得した表情で頷いた。


 リールと一緒に居る上一般生徒より年齢が高いので、あたしのことも概念の化身コンゼツォンだと思っていたようだ。そこからだったかー。


「嫌な事は忘れたくなっちゃいますもんね。わたし、ユングル君にいろいろお願い・・・されてた時のこと、たまに夢に見るんです。早く忘れられたらいいのになって思っちゃいます」


 トゥーリーンのお仕置きが効いたのか、あれからユングルやその取り巻きによるいじめは沈静化したらしい。それでもまだ心の傷が癒えないファイクちゃんを見ると、あたしまで心が痛んだ。

 やっぱりあいつ、一度冷凍してやろうか。


「じゃあ、ナカガワさんに手伝ってもらうお仕事を教えますね。付いてきてください」


 ファイクちゃんは傍に積み上がっていた草束を抱えて歩き出した。だいぶ重そうに、ゆっくりと運んでいる。


「あたしも持つよ!」

「いえ、これくらい平気で……」

「お手伝いだから。先生もこき使えって言ってたでしょ」


 あたしはファイクちゃんの返事を待たずに、草束のほとんどをひょいと持ち上げた。


「あ……ありがとうございます」

「いいんだって。さ、行こう」


 本当は最初に会った時にこれが出来れば良かったんだけど、あの時はどんどん話がこじれちゃったからなあ。飼育係の手伝いをすることになって、案外良かったかも。


 顔を赤らめてお礼を言うファイクちゃんに並んで、改めて小屋の奥へと進んだ。

お待たせしました。12月の始まりに5月が始まりました。

とりあえず年末までは毎週更新しますが、年始は予定が詰まっているので1、2週間空くかもしれません。のんびりですが続けていきますのでよろしくお願いします。


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