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第67話 リベンジ!

 ハルヒの作戦を元に、その場で少しだけ練習。自信をつけて、そのあと『治癒』で体力を回復。

 意気込んで公園を後にしたその直後、ゾルくんとパルトと鉢合わせした。


「あー、ナイスタイミング! さっきはよくもやってくれたわね!」

「……勝負だったからな」


 声を掛けられたことで立ち止まるゾルくん。

 ぶっきらぼうだけど、こんなセリフにも相手をしてくれるなんて律義だよね。そういうところが可愛いんだぞ。


 ゾルくんの横に律義にお座りをしたパルトの首には、先程のバトルの景品になっていた魔力増幅の首輪がかけられていた。あのまま勝ちきったのだろう、流石の強さだ。


「リベンジマッチを申し込むよ! 出来れば今、なう!」


 あたしは勢いよく指を突き出し、ゾルくんに立ち向かった。

 今なら少しは疲れているだろうという打算もあるが、この燃え上がった気持ちを忘れる前に挑みたかった。


「俺達は別に構わないが───」

「よっしゃーやるよリール!」

「うん!」

「───待て。こんな所で戦うつもりか」


 やる気満々で身構えたあたし達のことを、ゾルくんは両手を前に出して止めた。


「公園が燃えるか無くなるかするぞ」

「確かに……あれ? でも、さっき使った場所は壊れてなかったよね?」


 テイマーバトルで使用したリングとその周りは、戦いの衝撃をかなり受けていたはずだ。でも、ひび割れてすらいなかった。


「突発的に開催されたとはいえ、防護の魔法はかけるに決まっている。今の時間でも使える場所があるとすれば……学園のグラウンドか」

「グラウンド、実戦授業で使うし自主練もできるもんね。魔法が当たっても壊れないようになってるんだ」

「学園全体の防御はビリス先生の役目だ。授業ではへなへなしているが、魔法の腕は間違いなく一流だぞ」


 街の防壁に魔法をかけている話は聞いていたけれど、学校の管理でも活躍していたとは知らなかった。

 先生の中でのあたしの一推し、歴史学のビリス先生。まだ休みが始まって一週間なのに、名前を聞いて懐かしさを感じた。


「四神休暇中でも、届を出せば使えるはずだ。行くぞ」

「詳しいね、やっぱりトレーニングしてるの?」

「勿論だ。俺達はまだまだ強くならなきゃいけないからな」


 それならあたし達も、今度から使わせてもらおうかな。強くなって、ゾルくんとも会えるなら一石二鳥だ。


 小走りで学園へ向かい始めたゾルくんとパルト。軽く走っているように見えて、それなりの速度だ。見失わないように急いで追いかけた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 無事に使用許可を貰えて、あたし達はグラウンドまでやってきた。

 まだ帰省中の生徒が多いのか、あたし達の他には誰もいなかった。時折吹く風が土ぼこりを巻き起こしている。なんだか決闘みたいな雰囲気だ。いや、まんま決闘か。


 校舎とは反対側、隅の方に丸く溝が彫られた一角があった。広さは先程のリングと同じくらい。テイマーバトルの公式規格ってやつだろう。


「ルールは同じでいいか?」

「魔法は三発まで、気絶か場外で決着ね。いいよ!」


 ルールの確認をして、リングの外側で向かい合う。


「こんなに早く再戦するということは、何か策があるんだよな?」

「勝ち目がなきゃ、ボコボコにされてすぐには立ち直れないよ」

「なんにせよ、負ける気は無いが」


 ニヤリと笑うあたしを、軽く睨みつけるゾルくん。

 その足元でも、睨み合いが行われていた。


「パルト、今度は負けないよ!」

「ワウ」


 パルトからは「うん。僕も負ける気はないよ、覚悟してね」とでも言いたげに、短くも力強い返事が返ってきた。


 二匹がリングの中へ入る。今回の審判はハルヒだ。


「準備はいい? 試合、開始!」


 ハルヒの合図がかかった瞬間、あたしは素早く杖を振り、氷の欠片を作り出した。


 いつもの「アイシクル・レイン」より粒の大きさは小さい。だが、その数は膨大だ。才能の暴力に任せて、隙間なく生み出した大量の氷がパルトに向かって打ち出された。


「……っ、パルト!」


 いきなりの魔法攻撃に一瞬戸惑ったゾルくんだったが、迎撃をパルトに任せた。

 リング内で避ける事は難しく、当然打ち消すために取る行動は火の玉を吐くこと。


 着弾の寸前にぎりぎり間に合う形で、パルトは3つほどの火の玉を吐き出した。

 それで直撃する軌道の氷は溶けてなくなる……はずだった。


「何!?」


 炎に触れた氷は勢いよく燃え上がり・・・・・、更に隣の氷へと引火。それは瞬く間に連鎖して、氷の雨は火の雨に姿を変えた。

 結果として、パルトを中心に大きな爆発が起こった。


 煙の向こうに見えるパルトの影はふらついている。炎への耐性が高い可能性もあったが、どうやらダメージは入ったようだ。


 まだ黒煙が立ち昇る中へ、リールは躊躇なく飛び込んだ。

動きの止まっていたパルトに噛みついた姿が見えたのは一瞬。煙が晴れるとそこには二匹の姿は無く───


「勝者、リールちゃん!」


 ハルヒがバトルの終了を告げた。リールはパルトを咥えたまま、自分がリングの内側、パルトが外側になるような位置に瞬間移動していたのだ。

 思わぬ形で場外に出されたのだろう、パルトはポカンと口を開けていた。


「やったよリール、リベンジ成功だよ!」

「うん、出来た!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶあたしたちのことを、ゾルくんは信じられないような目で見ていた。


「な、なんだ今のは……そんなの、本当の戦いでは通用しないないぞ」

「え、逆だよ。本気出していいならリールが相手を消し去っておしまい、瞬殺だもん」


 ルールが決められているバトルだったから戦いづらかったのだ。

 何でもありなら、こんな風にまどろっこしいことをしなくていい。


「でも、テイマーバトルみたいにそれが出来ない戦いもある。真剣に、色んな戦い方を考えなきゃいけないって分かったんだ。気付かせてくれてありがとうね、ゾルくん」


 果物狩りの一件で強さを求めるようにはなったが、具体的なことを考えていなかったと思い知らされた。早くに気が付けて本当に良かった。


 あたしは握手を求めて、ゾルくんの方へ手を差し出した。しかしそれには目もくれず、ゾルくんはハルヒの方を見た。


「この作戦を考えたのはお前だな」

「どうして?」


 ハルヒは所々毛が焼けているパルトの治療をしながら相槌を打った。


「単純なこいつらが、負けてすぐに作戦を組み立てられるとは考えにくい」

「んなっ」


 ひどい! その通りなんだけど!


「どうしてこの作戦が通用すると思ったか教えてくれるか」

「えーっと。瞬間移動の方は、リールちゃんが得意としてて詰めに使いやすかったから。爆発する氷は中に引火性のガスが仕込んであって、これもむーちゃんが得意な属性だからだね。あとパルトちゃんは、自分で爆発する時に毛皮の色を変えていた。だとしたら、変わる前は爆発に耐性が無いのかなと思ったの」


 爆発する氷は、メタンハイドレートのこと。「燃える氷」と呼ばれているが、厳密には氷ではないらしい。でもあの見た目は氷だと思いやすく、イメージしたら一発で作ることができた。


 パルトに毛の色を変える暇を与えず、かつ避けることが出来ない数のメタンハイドレートを浴びせて火を吐くように誘導させる。引火して爆発した直後にリールがパルトを捕まえて、そのまま瞬間移動で場外へ出せば勝ち。ハルヒが考えたのはそんな作戦だった。


 簡単で分かりやすいなあとは思ったよ。でも単純って言われると、たとえゾルくんでもイラっと来るね!


「あの一回でそれを見抜くのか……相当戦い慣れてるな」

「ううん、私は遠くで見てただけだから。戦うのも下手だし」

「視野が広いのは魔法を使うのに重要な能力だ。流石、ドラゴンと特級と共にある概念の化身コンゼツォンだな」


 実際に戦ったあたし達よりも、ハルヒの方をどんどん褒めるゾルくん。ずるい。あたしも褒められたい。


「あはは……本当はもっと慰めて励ますのが先なんだろうけど、先にアドバイスをしちゃうのは封印隊時代の悪い癖だよ」

「封印隊?」

「うん、私は『治癒』だから後方支援担当だったんだ。怪我人を治療しながら、後ろで見ていて気が付いたことをアドバイスしてっていうのが仕事で……あれ? ごめん、関係ない話までしちゃったね」


 ハルヒの封印隊時代の話を聞いたのは初めてだ。……多分。

 やけにアドバイスが的確だと思ったら、それが昔の仕事だったのか。守護神の名前は伊達じゃないね。


 ゾルくんは何の話か分からず戸惑っていた。こっちの話だから当たり前の反応だ、あたしも心の中で謝ろう。ごめんね。


「……とにかく、負けたのは事実。こいつはお前らの物だ」


 ゾルくんはパルトから魔力増幅の首輪を外すと、あたしに向かって放り投げてきた。

 あたしはキャッチした首輪をリールに向けるが、リールは首を横に振った。


「いらない。自分の力でもっと強くなる! いつか、一対一でもパルトに勝てるように!」

「だから、返すね。ゾルくんの方が必要そうだし」


 首輪をこちらに寄こす時、ゾルくんは随分と思いつめた顔をしていた。

 あたし達よりももっと真剣に、切実に強さを求めている。そんな彼から装備を横取りするような真似はしたくなかった。


 ゾルくんは首輪を受け取ると、治療の終わったパルトを抱きかかえた。


「行くぞ。特訓のやり直しだ」

「え、今怪我したばっかりだよ?」

「ムウ、止めちゃダメだよ。男は強くなりたいものなんだよ」


 あたしの静止を気にも留めず、日が傾いてきた街の中を去っていくゾルくん。

 その背中を見送るリールは、なんだか前にも増して頼もしく見えた。


「そうとなれば、あたし達も特訓しないと! ハルヒ先生よろしく!」

「またいい考えがあったら教えてね!」

「協力はするけれど、ちょっとは二人も考えるんだよ……?」


 軽口を叩き合うあたし達の顔は、今度こそ曇りない笑顔だった。

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