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第65話 テイマーバトル

 次の日、あたし達は街を散策していた。

 シュプリアイゼンの街も四神月仕様で華やかになっている。春の大陸の花、シュニグロフが建物の至る所に装飾され、白い小さな花弁が活気づいた街を見守っていた。


 そんな盛り上がった雰囲気の中を、あたし達は無言で歩いていた。

 リールの機嫌は、「寝たら落ち着いたけど良くなった訳では無い」状態だ。

 気分転換になればと街に繰り出してみたものの、成果は全く上がっていなかった。


「夏の大陸は暑かったから、ここの快適さもひとしおだなー」

「そうだね。ね、リールちゃん?」

「……うん」


 時々話しかけてみても、こんな返事しか返ってこない。屋台にも多少目は向けているが、いつものような食いつきはみられなかった。

 この状況に違和感を覚えるなんて、いつの間にか大食いキャラになっていたんだな……。


 しばらくそんな調子で歩いていると、突然、近くで爆発音と歓声が聞こえた。うっすらと煙が上がっているのも見える。


「なんだ? もしかしてまたゾルくん?」

「懐かしい、そんなこともあったね。でも切羽詰まった雰囲気じゃなさそう……むしろ賑やか?」


 野次馬の声に不安さは感じられない。行く当ても無かったので、煙の上がる場所に向かうことにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「10人抜きだー! 強い、強すぎるー!」


 人の輪を抜け、騒動の元に辿り着いた。


 司会を務めているらしいおじさんが拡声の魔法を使って声を響かせている。その傍には灰色の髪の少年と灰色の狼が涼しい顔で立っていた。

 反対側では、力持ちの小人マトルグがボロボロになって倒れていて、それを細身の男性が慌てて手当てしている。


「本当に、またゾルくん!?」


 思わぬ再会に声が上ずる。だって夏休み中に会えると思っていなかったんだもん。運命かな?


「まだまだ挑戦者募集中! ……とはいえ、圧倒的なバトルばかり見せつけられたらもう声は上げられないか?」

「これ、何やってるんですか?」

「契約している魔物と人が協力して戦う、テイマーバトルさ!」


 そう言われてみれば、普段街中で見るより魔物の数が多かった。みんな、契約魔法でここにいる人達にテイムされているようだ。


 テイマーバトルのメインは魔物同士の対決だ。人は後ろから魔法でフォローし、どちらかの魔物が倒れるまでバトルを繰り広げる。ポケットにファンタジー的なバトルですね、分かります。


 小さな村ではバトルの喧騒に引き寄せられて野生の魔物がやってくる恐れがあるが、シュプリアイゼンなら街の面積が大きい上に防壁もあって音は漏れにくい。本来なら専用の施設で行うのだが、四神月のお祝いも兼ねてゲリラ的に開催されたようだ。


 人気はかなり高いようで、沢山の人が集まっている。中には賭け事に興じている観客もいた。


「勝ち抜き方式で、最後まで残ったチームには賞金5万アール! 更に魔物用の魔力増幅の首輪が副賞だ! お嬢さんもそのドラゴンと挑戦してみるかい?」

「ゾルくんとバトルか……」


 ゾルくんの強さは合唱魚コーアフォーレ討伐の時に目撃している。一度に何匹もの魔物を倒し、ユングルやリサが体力切れになってもまだ戦えていた。

 しかも、あの翌日にはもう次の依頼を受けていたのだ。魔法の種ケルンの等級の差だって一つしか無い。今までの戦いの様な余裕は無いだろう。


「ちなみにこの少年、未だに魔法を使っていないんだ。そこの火炎狼フランメヴォルフの力だけで勝ち抜いてるぞ」

「ええ!? それ言われて簡単に挑戦できるか!」

「まあまあ。だって小さくてもドラゴンだろう? いい勝負、期待してるぜ! 新たなエントリーだ!」


 結局、司会の力で無理矢理参加させられてしまった。パルトが戦うところは見た事無いけれど、一匹だけで勝ち抜いてるなんて相当の強さだろう。正直かなり不安だった。


「リールごめんね、勝手に参加することになっちゃって───」

「やる」


 今まで反応に乏しかったリールだったが、突然顔を上げた。


「パルトに勝って、その首輪を手に入れる!」

「おお、やる気だね! これは楽しみだ!」


 司会のおじさんは笑いながらあたし達の背中を叩き、人の輪の隅に出来ていた小さな列に並ばされた。どうやら数人先客がいるらしい。この中の誰かがゾルくんとパルトに勝てば、その人と戦う事になるのか。


 リールがやる気を出してくれたのは嬉しいけれど、変に力んでいるのが心配だな。



◇◇◇◇◇◇◇



 先に並んでいた人のバトルで、ルールは大体掴めた。

 人が魔法を使って補助していいのは三回まで。バトルが長引いてしまうので、回復魔法をかけるのは禁止。不発でも杖を振った時点で回数はカウントされていた。


 勝利条件は相手の魔物を気絶させるか、地面に引かれた円形の線から弾きだすこと。空を飛ぶ場合も線から出ないようにしなければならない。


 それでも使える空間が広い分飛べる魔物が有利……かと思ったら、パルトはそんなハンデをものともしていなかった。

 鳥の魔物に頭上から攻撃されてもひらりと身をかわし、真下に潜り込んでお返しに火の玉を打ち込んだ。溜めモーションはほとんど無かったのに、相手よりも大きな火の玉を出し丸焦げにしていた。


「これで13人抜きだあ! 果たしてこの火炎狼フランメヴォルフに勝てるチームは現れるのか!? 次の挑戦者、前へ!」


 あっという間にあたし達の番が回ってきた。


「休憩しなくていいの?」

「この程度で疲れる程やわじゃないぞ」


 その言葉通り、ゾルくんの隣におすわりしているパルトに息が切れている様子はなかった。尻尾だけが機嫌が良さそうに小刻みに揺れている。


 対するリールは羽の先まで力が入っている。むしろ殺気立っていた。普段見ないような鋭い眼差しで、パルトを睨んでいた。


 あたしがリングの外縁に立ち、リールが中に入る。それに続いてパルトもリングに入った。

 観客の声援が、一瞬静止する。


「では、試合開始!」


 司会の合図と同時に、リールは前に出た。パルトはその場から動かず、火の玉を一つ吐き出した。

 リールはそのまま火の玉に突っ込む。観客があっと声を上げるが、次の瞬間火の玉はかき消え、無傷のリールがパルトに迫っていた。

 リールが大きく口を開けて噛みつく。ギリギリのタイミングで、パルトは横に飛んでそれを回避した。


 リールの後ろを取ったパルトが、今度は小さな火の玉を3つ吐き出した。

 前面にしか張れなかったり、回数制限のあるバリアーならそれで破れたが、リールのそれは無尽蔵だ。尻尾の一振りで全てを防いで、その遠心力を乗せた引っ掻き攻撃を繰り出す。パルトはくるりと宙返りして避け、少し距離を取って着地した。


「リールのバリアーのこと、もう『虚無』って言えないんだよな。なんて表現したらいいんだろう」

「むーちゃん、ぼんやりしてたら駄目だよ! 魔法使ってあげなよ!」

「おっといけね、そうだった」


 ぼんやり考え事をしていたあたしはハルヒに叱咤された。

 ゾルくんが使うそぶりを見せないので忘れていたが、魔法で加勢できるんだった。


 お互いの攻撃が届かない膠着状態が続いている。だがこちらは、パルトの動きが鈍れば勝機が見える。


「パルト、ごめんね! 『アイシクル・プリズン』!」


 氷の壁で敵を囲う魔法。まず大きな一枚の氷で、パルトを上から地面に押さえつけた。隙間に小さな氷壁を生やし、しっかり縫い留める。氷の甲羅を背負った亀の様なポーズで、パルトは身動きが取れなくなった。


「よーしリール、一発入れたれ!」

「おりゃああああーーーー!」


 これなら確実に攻撃を当てられる。リールが勢いを付けて滑空し、パルトへ迫った。


「パルト!」


 他の試合でもずっと無言だったゾルくんが、初めて声を上げた。魔法でパルトの拘束を解くつもりか。

 しかし、ゾルくんの杖を握る手は動かなかった。


「ガウ!」


 ゾルくんの掛け声にパルトが応える。灰色だった毛並みが、炎のように真っ赤に変わった。それに合わせて周囲の空気も揺らぐ。

 直後、大爆発。あと少しの所までパルトに迫っていたリールは、爆風に吹き飛ばされた。


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