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第55話 棘の正体

 砂の大地とそこに降り続く雨だけが全てだった灰色の景色の中に、ようやく新たな物体が出現した。

 砂漠に根付くことができる、乾燥に強い木々。それらが洪水で押し倒されてしまったらしく、太い幹がいくつも横たわっていた。


「この辺りが現場かな?」

「方角は間違ってなかったと思うし、木がある場所なんてそうそうないからね」


 魔物が目撃された場所だと判断し、辺りを調べてみる。

 しかし、砂漠では珍しい光景だが特別怪しいところは見当たらない。

 手がかり無しか、と落ち込みかけたところにリールが声を上げた。


「この木、変にとげとげしてるよ?」

「どれどれ」


 リールが見ていたのは倒れていた木の一つ。よく見ると、細長い棘がいくつも生えていた。


「いや……生えてるんじゃなくて突き刺さってる?」


 生えているにしては質感が違いすぎる。木の肌より金属に近い印象を受ける。

 何者かによって棘が撃ち込まれた、と見た方が良さそうだ。


「でも、これトゲトカゲの棘とは随分違うよね。あっちはもっと太い」

「もしかして、冒険者を襲った魔物は別にいるのかな?」


 ハルヒの呟きにあたしは戦慄した。

 確かにトゲトカゲが件の魔物だという保証はどこにもない。むしろ現場に残された物的証拠と関係が無く、雨も止んでいないことを考えるとそうではない可能性の方が高かった。


「トゲトカゲさん、冤罪の可能性が微レ存……?」

「えんざい?」

「犯人だと間違えちゃったかもってこと。ご、ごめんよ……」


 ポーチの中にある素材に向かって合掌。先に攻撃してきたのはあちらだったし、戦闘したこと自体は悪いとは思わないが、あらぬ疑いをかけてしまったのは申し訳なかった。

 トゲトカゲの無念を晴らすためにも、この依頼はかならずやり遂げよう。


「真犯人の手がかりだし、棘は回収していこう」


 ハルヒに毒が無いかを確認してもらい、木に刺さっていた棘をいくつか引き抜いていく。

 少し短いが、バーベキューで使う串に似ている。力を込めてもなかなか折れないしなやかさがあり、先はとても鋭い。迂闊に触って手を切ってしまった。


「痛っ! ……あっ」

「むーちゃん! 気を付けなきゃだめだよ」


 声を上げるとハルヒが素早く反応し、一瞬で傷を治してくれた。


「そういえば神殿で話を聞いたとき、サボテンぽいなって思ったんだった」

「聞いてる? ……確かに、この棘はサボテンのものに似てるけれど」


 痛みで記憶が呼び起こされた。砂漠にいて針を纏っていると聞いたときに連想されたものはサボテンだった。

 今までサボテンの魔物は見かけていないが、十分可能性は高い。なんで今まで忘れていたんだ……と思うのが久しぶりで、嬉しかったり悲しかったりだ。


「残った手がかりは『雨の嘆き』の現場だけかー」

「そうだね。今はあそこに『雨』のお墓が立てられてるはずだよ」

「あっちに見える、青い建物?」


 リールが顔を向けている方向には、あたしの目では何も確認出来なかった。

 この灰色の風景で色まで認識出来るなんて、視力まで成長したのか。


「青だったかな? 方角は合ってるよ、行ってみようか」


 ハルヒも一瞬首を傾げ、すぐに戻すとその方向へ歩き始めた。

 あたしとリールはその後に付いていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「こーりゃあ怪しいね」

「本当にね」

「いっぱいいるね」


 お墓、というよりは小さな遺跡と言った方がしっくりくる、そんな場所に辿り着いた。


 先程見た木々と同じように、洪水で倒れてしまった石の柱。それがきちんと立っていたらちょうど中央に位置するであろう場所に、石造りの小屋があった。

 入口には扉などは無く開け放たれているが、中は真っ暗。床はスロープになっていて、地下へと続いている様だった。


 サラサラの砂の地面にどうやって地下を作ったのかは分からないけれど、まあ魔法でなんやかんやしたんだろう。

 怪しいのはそこではない。


 まずここだけ極端に雨が強い。土砂降りの雨は今降り始めた訳ではないことを物語るように、砂はあちこちえぐれて小さな川ができている。


 そして、お墓の周りをぐるっと囲むように、無数のサボテンが生えているのだ。

 高さは人の背丈と同じくらい。大きいものは2メートルを超えている。それがどんなに少なく見積もっても50個以上。

 数も、大きさも、「洪水があったのに地面から生えている」という事実も、どこをとっても怪しさ満点だった。


「普通の植物な訳が無いよね。近づいたら襲ってくるんだろうね。なんならもう既に動いてるし」


 侵入者かを測りかねているのか、いくつかのサボテンは腕を微妙に震わせていた。トゲトカゲが棘を飛ばしてきた行動に似ていることを思い出し、自然と身構えた。


「そうだ、棘。さっき拾ったのと同じっぽいね」


 遠目からの確認に過ぎないが、冒険者を襲った真犯人はこいつらで間違いないようだ。


「でも、ハイスさんの口ぶりでは魔物の群れって感じでは無かったよね」

「え、じゃあ一匹で2級クラスってこと? それがこの数?」


 前に戦った合唱魚コーアフォーレは、群れで3級程度だ。無論、そうでなければ学園支部に依頼が来る訳が無い。

 学生の安全第一なあのギルドに、学生より強い魔物の討伐依頼は掲示されることはない。

 あの時はギルドに把握されていなかったピッチ―がいたが、群れのボスというのは一匹で群れ相当、または一つ上の強さを持っているものだ。


 まとめて考えると、今の状況は50匹のピッチ―から睨まれているのと同じだという事だ。


「なにそれムリゲーじゃん」

「かといって、ここまで怪しい場所を調べずに帰るわけにもいかないよね」


 契約としては、成果がなくても元の報酬はもらえることになっているが、ここまできて手ぶらでは帰れない。

 お金だって欲しいしね。50万だよ。ちょっとくらい無理したくもなるじゃん。


「ハルヒ、ドラゴンになったら一気に殲滅とかできないの?」

「一応ブレスは吐けるけど、この雨の中は止めた方が良いかも」

「あー、炎はすぐに消えちゃうよね」

「いや、あえて属性を当てるなら光だから普通の雨では消えないんだけど、この雨やけに魔力が籠ってる。むーちゃんもうまく制御できないんじゃないかな」

「え? ……うわ、なんだこれ」


 魔法の種ケルンに魔力を集めようとすると、辺りに漂っていた魔力の異常性に気が付いた。

 どれだけ集まれと念じても、雨の魔力が邪魔をして霧散してしまう。ならば雨の方を制御しようとしても、すぐに地面に落ちて消えてしまうので掴みようがなかった。


「無理矢理魔法を放ったら、この濃い魔力が誘爆してこっちまで吹き飛んじゃうよ」

「ガス爆発みたいになるのか……やばいね」


 こちらに被害が及ばないように遠くから攻撃するという方法も考えたが、お墓が壊れてしまう危険性があって却下された。


「ここは最終兵器のリールの力を借りるしかないか……リール?」


 ここは『虚無』の使いどころだと判断し、リールに声をかけた。だが、リールは先程からお墓の方を見つめたまま動かなかった。


「青く光ってる……」

「青くはないんだよね、全然。リール、大丈夫?」


 ここを目指して歩いていた最中にもこんなことを呟いていたが、お墓は茶色い石で出来ている。周りにも青っぽいっ物は一つもない。しいて言うならリール自身の藍色だけだ。


「見えないの? ハルヒにも?」

「うん。リールちゃんにしか見えないってことは……」


 とうとうしびれを切らしたのか、近くにいたサボテンが体をのけぞらせ、棘を放ち始めた。


「いたたた!? 二人共、考えてる暇ないよ! 『虚無』バリアー全開で、入り口まで全力疾走!」

「「分かった! いたたた」」


 棘だけなら痛いが血は殆ど出ないし喋る暇もある。ただここから本格的に攻撃されたらどうしようもないので、強行突破を選択した。


 リールのバリアーで攻撃を遮断したところで、サボテンたちの間を一気に駆け抜ける。

 サボテンたちは攻撃が効いていないことに気が付き、砂から飛び出してこちらへ向かってきた。

 あ、顔とかないのね! 埋まってる部分に目とかあるのを想像してたけど、只の巨大なサボテンが大軍で襲い掛かってくるよ! 怖っ!


 3体のサボテンが、同時に腕を振り下ろしてきた。身構えかけたが、バリアーを信じてむしろ足を速める。かすった部分は『虚無』により消滅し、サボテンたちはその勢いのまま転倒した。


 それでも数は減らない。今度は前から2体突進してきた。


「ひ、怯むなー!」


 自分でも情けないと思わざるをえない声をあげて押し通る。バリアーに突っ込んだ2体は、気が付いたら消えていた。


 ようやく何かがおかしいと気が付いたようで、サボテンの大軍の動きが鈍った。

 隙があるうちに、急いでお墓の入口へ滑り込む。


「うわ、止まらないーーー!?」


 全力疾走でスロープに突入したあたし達は、暗闇の中へと転がり落ちていった。

23日でコンゼツォン一周年を迎えます!

記念SS執筆中です。ふわもこストーリーのつもりが書いているうちに怪しげな展開になってきました。そもそも間に合うのか!乞うご期待!←

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