第50話 上陸!夏の大陸
祝☆50話突破!
お腹が満たされ、遊び疲れたのもあって、部屋に戻るとすぐに寝てしまった。
大浴場にも行こうと思っていたのに、起きた時には到着30分前のアナウンスが。
名残惜しさを感じながらも手早く部屋のシャワーを浴び、最後に眺めを楽しんでおこうとバルコニーへ出た。
お日様に付いて行くように進んできたので、出発から半日ほどたった今も青空が広がっている。春の大陸側では明け方のはずだが、こちら側では昼時を過ぎたくらいだろう。
海に日差しが反射して、キラキラ輝いていた。
「結局、雨避けは役に立たなかったね」
「それどころか、プールで事故になりかけたよ。勉強代だと思っておこう……」
ネックレス一個半分のお金が無駄、どころか逆効果に終わってしまったのだ。そう思っても気分は沈む。
ため息をついて視線を下に落とすと、海の中に沢山の影が見えた。
「船の傍で泳いでるの、あれがボニートかな?」
影の正体は一生懸命に泳いでいる大型の魚の群れだった。イルカよりも大きな巨体は、船と縄で繋がれていた。
あたし達が楽しんでいる間ずっと、こんなに大きな船を引っ張っていてくれたんだ。ありがとう。
「ムウ、あれおいしそうだね」
「わああ、食べちゃダメ!!」
涎をたらしながらボニートを見ていたリールが身を乗り出そうとしたため、二人がかりで抑え込んだ。
力が強くなったので本気を出されたら簡単に抜け出されてしまうところだが、ここは意図が伝わったようでリールは羽を収めてくれた。視線が未だにくぎ付けだから少し心配だけれど……。
そこへ再度アナウンスがかかった。夏の大陸が見えてきたようだ。
視界を進行方向へ向けると、陸地がはっきり確認できた。海岸沿いにはヤシの木のようなものも見える。うん、夏っぽくて分かりやすい。
現地時間で39日午後2時。あたし達は、夏の大陸に到着した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あっつ!!!」
船を降りて第一声、あまりの気温差に悲鳴を上げてしまった。
船の中は温度管理が完璧だったし、バルコニーも涼しくて気にならなかったのだが、いざ陸地に上がると猛烈な日差しとうだるような熱気に襲われたのだ。
日焼けとかは大して気にしないタイプなのだが、流石に帽子が欲しくなる。
そんな時のリールである。
「リール、『傘』お願い~」
「え? 何も降ってきてないのに?」
「降ってきてるでしょ、日差しが! 何でも吸い込めるなら光だっていけるんじゃない?」
「やってみる」
あたしの説明に首を捻りながら、リールはあたしの頭の上に乗って『虚無』の力を発動した。
「ほら! 日陰になった!」
案の定『傘』は光を吸収し、暑さを和らげることに成功した。はたから見たら、真っ黒な日傘が宙に浮いている様に見えている。
まだまだ暑いが、これならしばらくは我慢できそうだ。
「こんな使い方もあったんだ……」
「いや、これは思いつかなくてもしょうがないと思うよ。贅沢な使い方だもん」
リールが少し悔しそうに言うのを、ハルヒがフォローした。
贅沢って言ったって、使わなきゃ損じゃん。
ちなみにハルヒはしっかり帽子を持ってきていた。物語のお嬢様が被っているような白くてつばの広いものだ。
「さてと、神様探しますかー。ビーチにいるって言ってたよね」
まずは船着き場から直結しているビーチを散策してみようと、海沿いを歩き始めた。
ここでは、多くの人が海水浴を楽しんでいた。豪華客船の上でも十分凄かったが、人の多さも賑やかな雰囲気も、やはり本場のビーチには敵わない。
その中で、人だかりの出来ている場所を発見した。人々の目線は海側、サーフィンをしている人たちへ向けられている。
「やけに騒がしいけど、何だろう?」
人だかりの近くでサーフィンをしていたのは3人。しばらく眺めていると高波がやってきて、3人は一斉に波へと突進していった。
しばらくはバランスを取っていたが、そのうち2人が波に飲まれてボードから落ちてしまった。
一番背の高いサーファーはバランスを取り切り、更に波の頂点でくるりと一回転を決めた。その人物が陸へ上がると、沢山の拍手に迎えられた。
「キャー! ディザンマ様カッコいいー!」
「今年の大会も優勝間違いなしですね!」
「サイン下さい!」
「ずるい、私が先よ!」
離れた所からでも、群がる女子の歓声が聞こえてきた。
ハーレム状態のサーファーは、にこやかに手を上げてそれに応えていた。
……ディザンマ様、と呼ばれているのは聞こえていたが認めたくなかった。
本の挿絵で見た時も思ったが、あんな日に焼けた金髪のチャラい青年が神様だなんて。偶然同じ名前なだけだ。
「よしハルヒ、別の場所を探そう。あれは人違いだ」
「え? でも多分……」
「あれが神様でいいの? ちょっとお茶目だけどトゥーリーンの方が全然ましだよ」
「元々神様として生まれた訳じゃないし……」
なんとか現実逃避を続けようとしていたのだが、向こうがこちらに気が付いてしまった。
青年は一枚上着を羽織ると、女子たちを群がらせたまま近づいてきた。
「どもども! 『封印隊の守護神』ハイルン様! 久しぶり!」
「ち、違う! いや、そうなんだけど今は上崎遙日って呼んでください!」
「ええ? 敬語なんて使わないで、俺達の仲でしょ?」
「じゃあ、普通に話すから、ハルヒで!」
「分かったよ、そんなに怒らないで。ステイステーイ」
久しぶりにあの二つ名で呼ばれたハルヒは、全力で口止めをした。
それはどうでもいいんだけど、この予想以上に軽い口調はなんなんだ。
「そっちの二人は初めましてだね! 俺が、夏の大陸を治めるディザンマって奴でっす! よろしく!」
嫌だ! こんなイケイケ口調で海パン野郎な神様なんて嫌だ!
「ちょっと貴方、ディザンマ様とどういう関係なの?」
「初めまして、なのにディザンマ様がこんなに親しく話しかけるなんて……」
「しかもそれを無視!? どんなご身分なのかしら」
あたしが返答に詰まっていると、先程からディザンマをとりまいていた女子達が厳しい視線を向けてきた。
日に焼けたビーチギャル達の威圧が凄い。怖い。
「ええっと、その……」
「おっと、そんなに怒らないで。俺から呼び出したんだ、むしろ客人として丁寧に扱って欲しいな」
ディザンマは大げさな身振りで、慣れた様子で取り巻き達を鎮めていく。
「依頼の話をここでするのも難だから移動しようか。キミ達とは残念ながらお別れだ。また明日練習するから、応援しに来てくれよ!」
取り巻き達にウインクを飛ばし、黄色い歓声を受けたディザンマは、あたし達の背中を押して一緒にその場を離れた。
「よ、良かったんですか? サーフィンの練習中だったんじゃ」
「一段落したところだったし平気さ、それより夢心ちんまでそんな謙遜した態度、やめてくれよー」
「『むくちん』って! そっちこそ、そんな馴れ馴れしく呼ばないでよ!」
今までにない斬新なあだ名で呼ばれたせいであたしは言葉を失ってしまった。
そんなあたしを庇ってくれたのはリールだった。
「おっと、謙遜するなとは言ったけれど神様相手に噛みつくものじゃないぜ?」
「トゥーリーンの方が神様っぽいもん」
「あれと比べられちゃうとなあ。あんなお淑やかなのは向いてないんだ」
「じゃあ駄目!」
「なんだい、『虚無』は夢心ちんの彼氏なのかい?」
「かれし? 僕はリールだよ!」
なぜだかリールとディザンマが言い争いを始めてしまった。
これはあれなのか、「あたしのために争わないで!」ってやるところ?
「ふーん? 話に聞いていたより成長した雰囲気だけれど、やっぱりおこちゃまだね」
「大きくなったんだよ! お前になんて負けないぞ!」
「ほう、ならやってみるか?」
「ストップ! ディザンマもリールちゃんも落ち着いて!」
いよいよセリフを言いかけたタイミングで、ハルヒが仲裁してくれた。
うーん、良いんだか悪いんだか。混沌としそうだけど言ってみたかった。
「しょうがない、今はやめておこう。大事な体だしな」
「大事? もしかして」
「もちろん、サーフィン大会だ! あれに出場するために、一年間己を鍛えているんだからな!」
ハフトリープさんの情報通り、ディザンマはサーフィン大会に熱い思いをかけているようだ。
夏にしかできない競技ではあるけれど、神様ってもっと他にもやることあるんじゃないんだろうか。この人、サーフィンの概念の化身の間違いじゃない?
「ところで、あたし達何処へ向かってるんですか?」
「ああ、近くに行きつけの美味しい料理屋があるんだ。そこで食事をしながら話を────」
「そうはいきませんよ、ディザンマ様」
余程お気に入りなのか、嬉々として料理屋の方向を指さしたディザンマ。
しかしその先に現れた、サングラスに白いワンピースの女性に行く手を塞がれ、その顔は一気に青ざめた。
「げっ、ハイス……ぐえっ」
「いい加減読みやすい逃走方法は変えたらどうなのですか。いえ、変えられたら困るのですけれど」
逃げ出そうとしたのかその場で飛び上がったディザンマ。しかし何かにぶつかったような声を出し、地面に叩きつけられてしまった。
「失礼しました。私、レーヴェ大神殿で神官を務めています、ハイス・ザンと申します。貴方達をお待ちしておりました、どうぞ神殿へお越しください」
「神官様……?」
「ハイス、なんで知ってるんだ。俺が個人的に呼び寄せたんだぞ」
あまりにもこの格好が似合う綺麗な女性だったので、神官のイメージと結びつかない。
ディザンマは地面に縫い留められたまま、ハイスを追い返すように手を振っている。
「神様がギルドに赴いて別の大陸に依頼を出したら、驚いて神殿へ連絡が来るに決まっているでしょう。あと、経費で『インビーズ』に行くのは止めて下さい」
「あそこの肉料理美味しいんだよ、行かせてくれよー」
「駄目です。こんな形で申し訳ないですが、貴方達も付いてきてください」
駄々をこねるディザンマを引きずりながら、ハイスはつかつかとヒールの音を鳴らして歩き始めた。
「付いて行こうか……」
喧嘩相手の無様な姿を見て勝ち誇った様子のリールと、呆れ果ててしまったあたしとハルヒ。
誰からともなく発された言葉に、あたし達は頷いた。




