第49話 優雅な船の旅
やっぱり何かの間違いだ。そうに違いない。
「あの……本当に、ここで合ってるんですか?」
「はい。ディザンマ様からも神託を賜りました。今日この船の四つ花ランク、最上級のお部屋を使われる3名のお客様はディザンマ様の大切な客人である故、丁重に扱って頂きたいと。レーヴェに到着するまでの僅かな時間ではございますが、精一杯のおもてなしをさせて頂きます」
「神託気軽すぎない? あたし達、ただの学生ですから……」
「ご謙遜を。特級魔法の種の持ち主に、ドラゴンの体を持つ概念の化身。それに小柄な方のお客様は、ディザンマ様のお知り合いだともお聞きしました。これ以上の要人はあり得ません。万一の際も、必ずお客様の身を最優先にさせて頂きます」
「やだ個人情報ダダもれ、そこまでしなくていいですから! 部屋はまあ、ここまできたらありがたく使わせてもらいます……」
ここまで部屋に入るのを躊躇っているのには理由がある。
案内された部屋が、これまたとんでもなく豪華な……プレミアム・スイートなルームだったからだ。
部屋に入ってまず目に飛び込んできたのは、外が一望できる大きな窓。どこまでも青い海と空という雄大な景色が出迎えてくれた。
バルコニーにも出られるらしい。座り心地の良さそうな椅子が並んで太陽の光を受けている。
真っ白なベッドは3人分、完璧なベッドメイクをされていた。布団は吸い込まれるような柔らかさで、触った瞬間に鳥肌が立った。
最高級のなんたらっていう魔物の羽を使ってるって説明されたけど、動揺で全く聞き取れなかった。
備え付けのお茶菓子も、神殿で食べたような高級感溢れるものだ。乗せられているお皿には、むしろ威圧感すら感じる装飾がなされている。
果物もかごにいっぱい盛られているんだけど、これって食べていいんだろうか。怖くて手が出せない。
バスタブも無駄に広い。3人で入ってもまだ余裕がありそうだ。もちろん大浴場が別に用意されていて、好きな方を選べるようになっている。
「お食事はいつでも2か所にあるレストランでとることができます。午後7時から劇団のパフォーマンス、8時からは演奏を行います。どちらも自慢の出し物なので、よろしければこの時間にお越しください。最前列の席をご用意してお待ちしております」
ピカピカのガラスのテーブルに置いてあったパンフレットを使いながら、船の中の施設紹介が始まった。
「プールはこの階段を上がって屋外に一か所、こちらとこちらは屋内になります。水着など必要なものはご用意させて頂いております。それから……」
なんかもういっぱいありすぎて全然把握しきれない。
なんで船の上にプールが3つもあるんだ。
「……では私はこれで。御用がありましたらいつでもお呼びください。間もなく出港となりますので、揺れにはお気を付けください」
膨大な量の説明を終えて、ようやく案内の人が帰っていった。正直あんまり耳に入っていない。なんだこれ。頭が追い付かん。
「と、とにかく、全部使って良いってことだよね?」
「た、たぶん」
「じゃあ、いっそ全部回ってしまおう!」
とうとう吹っ切れた。こうなったら豪華客船を遊びつくしてやる!
◇◇◇◇◇◇◇◇
まずは、あたしが辛うじて説明を聞き取れていた野外プールへ。
貴重品は魔力紋を登録して預かってもらうシステムだった。便利だね。
「ピンクの水着とは大胆な!」
「むーちゃんだって黄色とオレンジで派手だよ! ドラゴン体でいようかな……」
「似合ってるし可愛いからこのままで行こ!」
水着はちょっとヒラヒラが激しくて恥ずかしかったけれど、無料なので我慢した。
着替えて外へと続くドアを開けると、リゾートビーチにやって来たかのような風景が迎えてくれた。
「甲板の余った部分に作りましたよ、眺めを楽しんでくださいね、くらいだと思ってたあたしがバカだった。広すぎ!」
海に負けじと青く澄んだプール、その傍に大量にならんでいるデッキチェア。既に何人ものセレブたちが優雅に泳いだり、日光浴を楽しんだりしている。
それとは別に、ウォータースライダーまで設置されている。セレブの子供たちと思われる少年少女が、奇声を上げながら滑り降りてくるのが見えた。
「冷たい水……でもあのすべり台は楽しそう」
プールを見て難色を示していたリールだが、ウォータースライダーには興味がわいたようだ。
「じゃあ一緒に滑ってみよ! 小さい子はああやって、抱っこしてもらって滑るんだよ」
ちょうど3歳くらいの子供を抱いて滑り降りてきたセレブを目で追いながら、誘いの言葉をかけてみる。
「慣れてきたら少し大きくなって、一人で滑ってもいいんだよ?」
「まずはムウと一緒に滑る!」
やる気になったリールを連れて、スライダーの階段を上る。
ぐるぐるぐるっと軽快に、でも足をすべらせないように気を付けながらスタート地点へ。
リールはスライダーを流れていく水を見て、少し怖がる様子を見せた。
「速い……」
「それが楽しいんだよ、姿勢を変えたらブレーキも効くから。おいで」
先にスライダーの中に入って座り、リールを膝の上へ乗せた。
水温まで管理されているのか、お尻が全然冷たくならない。
まだ緊張で固まっているリールをしっかり固定し、斜面まで体をずらしていく。流れに乗れたら、後は身を任せるだけ!
「きゃーーーー!」
「わーーーー!?」
跳ね上がる水を全身にかぶりながら、どんどんスピードを上げて滑り降りていき、ゴールの小さなプールへダイブ。
……するはずが、体はそのまま水面を滑り続けている。あれ? 尻滑りの技は会得してなかったはずだけど。
「むーちゃん、雨避け! ネックレス外して!」
プールサイドでこの様子を見ていたハルヒが、首から下げていたネックレスを乱暴に脱いで振ってみせた。
「なるほどね!」
雨避けの効果は完璧だった。体に触れる全ての水を弾いているせいで、プールに沈むことなく滑り続けてしまっているらしい。
このままいけばプールサイドにぶつかってしまう。リールにも言い聞かせ、慌ててネックレスを放り投げると、その場で水の中へ体が潜り込んだ。
特大の水しぶきが巻き上がり、プールサイドで様子を見ていたハルヒにまでしぶきがかかった。
ネックレスを外していたのでずぶ濡れになりながら、あたし達の方へ駆け寄ってきた。
「間に合ってよかった」
「ハルヒありがとう! まさかこんなことになるとは……リールは大丈夫?」
本気の悲鳴を上げていたようにも感じたので、少し不安だった。
プールサイドへ上がって犬のように水を振り払うまで、リールは無言を貫いた。
「怖かったよね、ごめんよ……?」
慰めの声をかけようとすると、リールは何かを決意したかのように頭を振り上げた。
「次は一人で滑る!」
「お、おお……頑張るんだよ!」
リールは目を閉じて体を藍色の光で包み込み、人間の子供と同じくらいの大きさに姿を変えた。
それに伴って成長した翼を大きくはためかせ、あっという間にスライダーのスタート地点まで飛んでいった。風圧が凄くて倒れそうになる。力も付いたんだなあ。
「わーーーー!!」
今度は楽しそうな声を上げながら、リールは一直線に滑り降りてきた。
大型犬サイズのドラゴンがウォータースライダーを楽しむ姿、これは癒し動画として流行るな。あたしのものだけど。
「楽しかった?」
「楽しい! もう高いところも怖くない!」
そう言ってリールはしばらくウォータースライダーを占領した。
高い所怖かったのか。飛べるから気にしてないものだと思ってた。
ちょっとアクシデントもあったが、気に入ってくれたようで安心した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
体を動かしていたらお腹が空いてきたので、次はレストランへ。受付に名前を言うと、本当にステージの前の席がとられていた。
よっぽど高級なお酒以外は、食べ飲み放題のバイキング形式だ。それでもお金を払ってバーカウンターでおしゃべりを楽しんでいるセレブ達がいる。
あたし達には関係ないので、早速トレーと大皿を手に駆けだした。
様々な料理が、真っ白なテーブルクロスをかけられた長いテーブルに所狭しと並べられている。学園の食堂で見慣れたものもあるが、いかにも高級感漂う謎の料理も見受けられる。
傍に料理の名前が書かれたプレートがあるが、読んでも正体が分からない。『スワイブレーン』って何だ。翻訳魔法よ、日本語で頼む。
見た目は肉を香ばしく焼いたものなので、とりあえず一切れとってみた。
他にも煮物や炒め物、パンなど取れるだけ皿に盛りつけて席につく。
リールは魚中心、ハルヒは野菜中心に取ってきたようだ。バイキングって好みが出るよね。
「いただきまーす」
手を合わせて、早速スワイブレーンを一口。
やばい、めちゃくちゃ旨い。外側はパリッと香ばしいのに、噛むと肉汁をしっかり感じる。最高の焼き加減だ。おそらく元の肉も相当高級なものだろう。
香辛料も、普段の料理で使うものではない複雑な深みが感じられた。
「おさかな……おいしい……」
リールが食べた料理も想像を超えた美味しさだったようで、目をまん丸にしていた。口調が成長する前に戻ってる。
「凄いね、これ普通に頼んだらいくらくらいするんだろう」
「夢じゃないよね? もしくはヒュプノの催眠とか、シュメトリンの鱗粉どこかで吸っちゃったとかないよね?」
まさに夢心地。あまりの衝撃に揃って困惑しながら一皿目を食べ終えた。
お代わりの時には慣れてきたものの、やっぱり食事に気を取られていて、見ていたはずのショーの内容が頭に残らなかった。いい席取ってくれたのに、ごめん。
明後日6月7日は小説投稿一周年!
活動報告を書いてみようと思っています。それとなくつらつら書くだけです。
コンゼツォン一周年の時には記念SSとか書いてみたいなあ(願望)。




