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第5話 出発!

 ハルヒの家に入ると、空間にぽっかりと光る穴が開いていた。あれが異世界に繋がる道への入口らしい。


「ハルヒおはよ! おお、聞いてはいたけど立派になって……」


 ハルヒはその姿を桃色のドラゴンに変えていた。というよりも、これが本当の姿、ハイルン様なのだ。

 目的の異世界へ行くには穴をくぐってからしばらく移動しなくてはならず、人間の足では一日かかってしまう距離がある。なのでもっと早く移動できるハルヒの背中に乗せてもらうことにしたのだ。


「これでも元の大きさより縮んでるんだよ、本当は学校くらいの高さはあるよ」

「いいなあ、ぼくもおおきくなりたいな!」

「私と同じくらいの力を持ってるから、きっとなれるよ」


 今は部屋の天井ギリギリの大きさだが、凄い迫力がある。本来の大きさにまでなられたら、友人だと分かっていてもその尊大さに近づけないかも知れない。

 リールが羨ましそうにハルヒを眺めている。リールも成長したらこうなるのか……。頭に乗せることができるのはいつまでなんだろうか。


 視線を移すと、早くも見慣れてしまった妖精と剣のコンビが立っていた。


「あれ、ジーグルとシュエートだ。見送ってくれるの?」

「ち、違う! ハイルン様に危険が無いかギリギリまで見守るのだ! 仕事があるから向こうまで護衛出来ないのがさみし……いや何でもない!」


 どうやらジーグルはハルヒと離れてしまうのが寂しいようだ。見た目に違わずかわいい奴である。


「ハイルン様、考え直してはくれませんか? やはり危険なのでは……」

「大丈夫だよ、リーダーからも許可は得てるから。心配させてごめんね」

「リーダーとハイルン様の意志……。なら仕方ない……」


 寂しげな顔になったと思ったら、ジーグルはぐるりとあたし達の方を向いて叫んだ。


「人間に『虚無』よ、ハイルン様にお怪我をさせるなよ! ましてや危害を加えたら、すぐに封印してやるのだからな!」

「……要するに、気を付けるのだぞ」


 シュエートが申し訳なさそうに付け加えた。


「分かってるよ、ありがとうね」

「二人とも、見送りありがとう、お仕事がんばってね」


 ハルヒがねぎらいの言葉をかけると、ジーグルはとても嬉しそうに「ありがとうございます!」と敬礼した。


「そして隣にいるおじいさん……あなたは初めましてですよね? え、この一週間で会ったかな?」


 そう、この場にはもう一人、見慣れないおじいさんが居た。男性にしては長めの白髪、長い白髭、優し気な瞳。ゆったりとしたオレンジ色の服を身に付け、背中を見ればたたまれた純白の羽が付いている。

 このちぐはぐな感じ、ジーグルとそっくりだ。ということはつまり……


「ハルヒが言ってた、世界を管理してる神様?」

「正確には『神』の概念の化身コンゼツォンじゃ、初めまして。儂も見送りに来たぞ」


 通りでいろんな神様の特徴を持っているわけだ。絵にしてしまうとどこかしらの宗教から反感を買ってしまいそうで、変に緊張する。


「すみません、しばらくあなただけにこの世界の管理を任せてしまいます」

「気にすることは無い、ハイルンよ。元々は儂一人でやっていたんじゃ、まだまだ衰えてはいないぞい」


 ハルヒが神様に深々とお辞儀をし、その頭を神様は優しく撫でた。


「大切な友達なのだろう、しっかり導いてやるのじゃぞ」

「はい、もちろんです!」

「お主の本当の道も見つかると良いな」

「……はい」


 人の会話で『大切な友達』と言われると凄く嬉しい。もちろん、あたしにとってもハルヒは大切な友達だ。

 少しハルヒの表情が陰った気がしたが、別れを惜しんでいるんだろう。


「じゃあむーちゃん、リールちゃん、背中に乗って」


 ハルヒにそう言われて、あたしは桃色の鱗に手をかけた。ざらざらしているけれどとても温かい。リールの物と触り心地は同じだけれど、一枚が大きいからか包容力も感じさせる。

 緊張しながらまたがり、リールはあたしの頭にしっかりしがみついた。リールも飛べはするのだがまだ速度は出ないので、今回は乗せてもらうことにした。

 振り落とされないように念のためロープをお互いの体に巻き付けて、準備完了だ。


「よし、準備できたよ!」

「しっかり掴まっていてね? 皆さん、行ってきます!」


 ハルヒはそう言うと翼を部屋いっぱいに広げて、光る穴へと飛び込んだ。

「ハイルン様ー! お元気でー!」というジーグルの声が、穴が閉じる直前に響き渡った。




 肌に風は感じるが、景色は金色一色でほぼ変わらない、不思議な空間を突き進んでいく。

 ハルヒの飛ぶスピードは、おそらく時速60キロくらい出ているだろう。風は冷たくないが、流石に息苦しかったので減速を要求した。

 リールも体を持っていかれそうになっている。


「あ、ごめん! 私は苦しくないからつい……」

「いいのいいの、むしろあたしに合わせて遅くなっちゃうから、ごめんね」


 飛ぶスピードが落ち、風を切る感覚が少なくなったので少しだけ肩の力が抜けた。リールも力が抜けたらしく、可愛いため息をおでこのあたりに感じた。


「ところで、これから行くところってどんな場所なの?」

「あれ、昨日説明したはずだけど、もしかして」

「うん、日記真っ白。待ちきれなかったからか、この一週間まともに日記つけられなかったよ」

「そんなに楽しみだったんだね、じゃあ改めて説明しようか」



 向かう先は魔法技術が発達した世界にある星、『フィルゼイト』である。

 別名『四季の星』。その名の通り四季が存在するが、なんと大陸ごとに季節が固定されている。何故なら、それぞれの季節の概念から生まれた概念の化身コンゼツォンが大陸を治めているからだ。

 その中でも『春』が快く迎え入れてくれるということで、春の大陸にある学園へ入学することになった。

 『夏』も歓迎はしているが血気盛んな性格らしく、曰く「『春』のもとで強くなってから会いに来い」とのこと。

 逆に『秋』と『冬』はあまり歓迎していないらしい。


「だから秋の大陸や冬の大陸には行かない方がいいと思う。まさか出合い頭に攻撃されたりとかは無いと思うけど、やっぱりリールちゃんの『虚無』っていう概念は恐ろしい物って認識があるから……」

「なるほどね、行くにしてもちゃんと勉強して、制御できますよって示してからの方がよさそうだね」


 授業が始まるまでは何日か期間があるので、その間に異世界について学ぶ。

 言葉の問題は、翻訳魔法があるのでしばらくはハルヒに魔法をかけてもらい、順に覚えることになっている。


「いきなり覚えることだらけ……ハードル高いなあ」

「魔法を使っていけばだんだん忘れにくくなると思うから、頑張ろむーちゃん」

「うん、そうなんだよね、それがまだ信じられなくて」

「友達がドラゴンだったことをあっさり受け入れたとは思えないセリフだよ……」



 不思議な空間も、5分も眺めれば飽きてくる。

 あたしは、カバンの中から携帯ゲーム機を取り出しプレイし始めた。モンスターを狩るアクションゲームで、最近のお気に入りだ。魔法要素は殆どなく、キャラクターのレベルも存在しない。武器を強くして己のプレイスキルを磨かないと進めない、なかなか難易度の高いゲームである。


「そういえば、魔法の変換器ってレベル上げできるの? 使っていくとパワーアップするみたいな」

「どの程度の魔法を扱えるかっていうランクは生まれ持ったもので決まっちゃうけど、それをうまく使えるかは努力が必要なんだよね。」

「物のレベル上限は決まってて、そこまで鍛えるのが目標って感じか。このゲームの武器に近いところはあるかもね」


 雑談を挟みながら、モンスターの大技をギリギリで回避して溜め技を当てた。


「むーちゃんはたくさんゲームやってて魔法のイメージは掴んでると思うから、上達は早いと思うよ」

「最近魔法ものはやってないからなー、その辺もおさらいしとくか!」

「いや、せっかく本物が使えるんだから実践しようよ?」

「今イメトレしておくのは大事でしょ?カートリッジ、どこだっけ」



 数戦狩りをして、RPGものにソフトを切り替えて更に一時間。

 ……ちょっと酔ってきた。乗り物酔いはそんなにしない方なのだが、揺れがダイレクトに伝わってくるので気分を紛らわすのにも限界があった。


「ハルヒー、あとどのくらい?」

「あと一時間もしないうちに着くよ」


 一時間は辛い。寝よう。リールは平気そうな顔をしていたが、無理しないでねと伝えておいた。頭の上で大惨事になっても困るし。


「ちょっと眠るから、あとはよろしくー」

「私も気を付けるけど、落ちないでね?」

「すやー」

「信頼してくれるのは有難いんだけど……」


 ハルヒは更にスピードを落として、光の中を慎重に飛んで行った。


閲覧ありがとうございます!読んでいただけて嬉しいです。

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