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第48話 ルーフルト

 1学期全ての授業が終わり、いよいよ四神月が迫ってきていた。


 遠方から来ていた学生はもちろん、元々シュプリアイゼンに住んでいた学生も家に戻ってお祝いするのが習わしで、寮からはどんどん人気が無くなっていく。

 実家へ帰っていくリサやシュロムを見送った頃には、残っているのは補講のある学生くらいになっていた。


 いよいよあたし達も、夏の大陸へ出発する。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝早い馬車に乗り、まずは隣町のルーフルトへ向かう。

 隣、といってもかなり距離がある。いつも通りお弁当を作ってきたので、リールやハルヒの他にも相乗りしていた人たちへ振舞った。


 寮の食堂で余らせていたパンとジャムを貰ってサンドイッチを作ったため、フィルゼイトに馴染み深い味になったらしい。初めてサンドイッチを振舞ったあの時よりもウケが良かった。

 けれど、あたしは寮のさっぱりしたジャムよりガツンと甘いジャムの方が好きだから、いまひとつに感じていた。いつか甘いジャムを手に入れて作ろう。


 ルーフルトに着いたころには昼を過ぎていた。

 船が行き交う港町というだけあって、潮の香りが漂っていて市場の活気のある声があちこちから聞こえてくる。街の規模としてはシュプリアイゼンより小さいはずだが、人通りはこちらの方が多い気がする。

 そんな中でも耳をよく澄ませば波の音が聞こえてくる。シュプリアイゼンとは違った雰囲気だけれど、とても良い街だ。


「さてと、船の時間まで観光しようか」

「賛成!」

「お魚! リーボフォーレ!」


 馬車から降りて、ぶらぶらとルーフルトの街を歩くことにした。


 ちなみに、冒険者活動を始めたおかげで懐にはだいぶ余裕が出てきている。

 保険としてこの旅行……じゃなかった、遠征で散財しても大丈夫なように、報酬のうちいくらかはギルドに預けてある。銀行じゃないから利子はつかないけれど、魔力紋で管理されているから安心だ。


 しかも万が一使い切っても、今回交通費は向こう持ちなので帰れなくなるなんて心配もない。

 あたしもリールもハルヒも瞬間移動が使えるから、頑張れば自力で帰れそうではある。けれど、海をまたぐ距離になるとちょっと怖いからなあ。


「これ、違うけどおいしい。もぐもぐ」


 ちょっと目を離したすきに、リールは屋台の焼き魚を買ってきて頬張っていた。

 大好物のリーボフォーレでは無かったらしいが、満面の笑みでかぶりついている。可愛い。


「私、あそこの屋台が気になるかも……見に行っていい?」

「もちろん、一緒に行こ!」


 ハルヒと一緒に向かった屋台では、貝殻のアクセサリーが売られていた。


 海岸で拾われたり漁で網に引っ掛かったりした貝殻を使っているらしいが、綺麗に磨かれて宝石の様に輝いている。天然物で色や模様が違うのも面白い。

 大きな貝殻を一つだけつけたもの、複数の貝殻が連なるようにデザインされたもの、更には一緒に花弁をあしらったものなど種類が豊富だ。


 これでも女の子ですもの。装飾品は大好きです。


「いかがですか? 雨避けのお祈りもオプションでお付けしますよ」


 目を輝かせて商品を眺めていたあたしとハルヒを獲物にするべく、店員さんが話しかけてきた。

 傍に置いてある看板を指さされたので読んでみる。アクセサリーの値段の半分を追加で払うと、一日効果のある雨除けの魔法を込めてくれるようだ。


「海が荒れるとびしょ濡れになる上に、海水を被るとべたつきますから。こういうもので防ぐと楽ですよ」

「雨が降ってる時に甲板に出るかは分からないけど、一応つけてもらう?」

「船の中でも湿気を防ぎますし、万一雨漏りなんかした際にも濡れなくなりますから安心ですよ!」

「そうだね、それでこの値段ならありかも……お願いします」


 店員さんの押しが聞いたのか、はたまた旅行気分で浮足立っていたのか、ハルヒもさほど迷わずにこれを承諾。

 商品選びに戻ろうとしたが、ふと気になったことを質問してみた。


「これって料金足したら延長できたりしますか?」

「ごめんなさい、一日が私の限界なんです。ここから出る連絡船に一日以上かかるものはありませんから、途中で切れる事は無いと思いますよ」


 延長できるなら雨の降る砂漠を探索する時にも役に立つかと思ったけど、そう上手くはいかないかあ。


「分かりました、一日分でお願いします。あ、雨避け無しもひとつください」


 5つほどの貝殻が連なっているネックレスを三つ、雨除けを込めてもらって購入。

 魔法を込めないものは、リサへのお土産に買うことにした。


 そうしている間に、リールは二つ目の買い食いに突入していた。花壇の端に座って、一口サイズの魚のから揚げをポイポイと口に入れている。

 サイズは今まで通りをキープしているが中身が成長したためか、リールの食事量は格段に増えていた。


「リール、食べすぎたら船酔いしちゃうからほどほどにね」

「船酔い?」

「波の揺れで気持ち悪くなっちゃう……って、リールはそうなる前に飛んじゃえばいいのか」

「でも視界は揺れるから、注意した方が良いかも」

「じゃあ、これを食べきったら休憩する!」


 あたしとハルヒの指摘を受けたリールは頷き、残り一つになっていたから揚げをつまみ上げて、名残惜しそうにちびちびと食べ始めた。

 それでも長くは持たず、食べ切った後も空になった容器の中をじっと見つめてしばらく動かなかった。


「これ、リールにあげるね」


 ようやく容器を諦めて顔を上げたリールの首元に、先程購入した貝殻のネックレスをかけてやった。

 リール用のだけはひもを短くしてもらったので、少し緩いがすぐに外れるような事はなさそうだ。


「これ何?」

「そこの屋台で買ったネックレスだよ。雨をはじく魔法つき」

「濡れないの? やった!」


 お風呂は大丈夫なリールだが、冷たい水を被るのは苦手なようで、ネックレスそのものよりも魔法の方に喜んだ。


「花屋のミストも駄目だったし、同じように食堂の野菜コーナーも避けて通るもんねー」

「冷たい水は全部、花とか野菜にあげればいいんだよ」

「ああごめんよ、いじけないで顔をこっちに向けておくれー」


 うっかり発言でリールの機嫌をそこねてしまった!

 両手で撫でまわして一生懸命あやしてみたものの、リールはツンとそっぽを向いて動かなくなってしまった。辛い。


 どうやらバワールのもたらした変化は完璧では無かったようで、人間の幼稚園児ぐらいだった思考は中学生くらいになったらしい。間髪入れずに第二次反抗期到来である。


 あたしがその事実にむせび泣いているのをよそに、ハルヒは魔法で時間を確認していた。

 神様が管理しているだけあって、誰でもどこでも時間が分かるのだ。


 これから向かう夏の大陸とは半日の時差がある。船に乗る時間がちょうどそのくらいあるので、乗る時間と降りる時間が同じという現象を体験することになる。

 時差ぼけしないといいけど……。


 というか親友が泣いているんだぞ、構ってくれ。


「微妙な時間だね。お茶するにはちょっと足りないかな、そもそもお腹そんなに空いてないし」

「ぐすん。……あたしも、サンドイッチがまだお腹に残ってるや」

「お店を眺めながらぼちぼち船着き場に向かおうか。ほら、むーちゃんみっともなく泣かないで。リールちゃんも許してあげて?」


 ハルヒが雑に仲裁するが、リールは口をへの字に曲げたままだ。

 それでもあたしが触るのは嫌がらなかったので、膨れっ面のリールを抱きあげてゆっくり歩きだした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ハルヒ、船間違ってない?」

「ううん、間違いなくこれ……ルクリエス号、だよ」

「でっかーい!」


 船着き場の受付にハフトリープさんから貰った白い板を見せて、乗る船まで案内して貰ったはいいものの、目の前にたたずむ物体が信じられずあたしとハルヒは呆然としていた。


 いわゆる豪華客船がそこにはあった。

 学校の校舎より大きいんじゃないか、というくらい巨大な白塗りの船が堂々と海の上に鎮座している。乗船口が船の先(前か後ろかはもうよく分からない)についているのだが、反対側がかすんで見えるほどだ。

 こんなのどうやって浮いてるの? 魔法?


 リールはその雄大さに興奮しているようで、船の周りをせわしなく飛び回っていた。機嫌が直ってくれたのはいいことだ。


「そちらのチケットに記載されている番号がお客様のお部屋になります。部屋のカギにはチケットと対の魔法が掛けられており、かざすと開くようになっておりますので、無くさない様ご注意ください。それではお部屋までご案内しますね」


 案内の人に言わせてみても、あたし達が乗るのはこの船で間違いないようだ。

 既に乗っている人たち、どう見てもお金持ちって雰囲気の人ばかりなんですけど……。


 紳士淑女たちから向けられる視線にビクビクしながら、船へと乗り込んだ。


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