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第46話 飛行試験

 既に3人の生徒が並ぶスタートラインへ駆けつけたあたしに待っていたものは、ワキュリー先生の鉄槌……ではなく別方向からの嫌味たらしい発言だった。


「ちっ、異世界人と一緒かよ」

「うわ、ユングルと一緒かよ」


 あたしは思わず返事をしてしまった。反対端に並んでいたユングルが、眉をひそめてこちらを見ている。


 苗字は確かティランネ……五十音順なら同じグループにされる程度には近かった。


「いい機会だ。ここでお前より先にゴールして、格の違いって奴を見せてやる」

「ええ……それこの前負けた奴が言うセリフなの?」

「あんなでかい魔物が出てきた依頼なんて無効試合だ! それに神様が俺様の邪魔をしてきたんだぞ!?」

「……」


 うっかり会話に発展しかけたが、そんなことをしていたら体力の無駄である。

 早々に無視を決め込み、先生の合図を待った。


「静かにしたまえ。試験を受ける気が無いのか?」

「……んなことねえよ」


 しばらく放置しても暴言が収まらないのを見て、ワキュリー先生が一喝。渋々といった調子でユングルは口を閉じた。

 ようやく静かになったところで、ワキュリー先生は木剣で地面を叩いた。

 試験開始だ。


「よし、まずは上に上に……」


 あえてゴールを見ないようにして、魔力を集めることだけに集中する。

 すぐに体が浮かび上がり、生徒の頭を見下ろせる高さまで来た。高度を安定させて、今度は前に進むことだけを考え、イメージを魔法の種ケルンへ届ける。


 練習の時と比べると少し発動が遅いが、確実に歩みを進めていた。

 欲張らず、このスピードを維持して確実に距離を稼げば……


「きゃあああああ!?」


 突然の悲鳴に目を向けると、隣で試験を受けていた女の子が遥か上空から落ちてくるのが見えた。


 あそこまで上がる必要は無いのにどうして!? と思った頃には、女の子はあたしのすぐ目の前まで落ちてきていた。地面に落ちるまであと一瞬しかない。


「間に合えっ!」


 あたしは飛行に使っていた魔力と集中を切って、新たなイメージと共に全力で杖を振った。


 ────瞬間移動で女の子の下に入り込んで体をキャッチ、そしてゆっくり優しく着地! 


 特級魔法の種ケルンの名前は伊達では無かった。次の瞬間には、あたしは落下していた女の子をお姫様抱っこして優雅な着地を決めていた。


 それを見ていた生徒たち、そしてあたしと同じく女の子を助けようと近くまで駆け寄っていたワキュリー先生がホッと胸を撫でおろした。

 パラパラとだが拍手までされて、あたしはちょっぴり照れてしまった。


「あ、ありがとうございます……」

「えへへ。瞬間移動できて良かったー! なんであんな高さから落ちてきたの? 隣にいたけど集中してて、落ちてくるまで気が付かなかったよ」

「あわわ……ごめんなさい……」


 女の子はまだ混乱しているようで、震えて謝るのを繰り返すばかりだった。

 よしよし、と背中をさすってやると、女の子は段々落ち着いてきて自分の足で立てるようになった。そこからポツポツと、事の経緯を説明してくれた。


「わたし、試験だから頑張らなくちゃって思ったら、どんどん体が浮いていって。学校の屋根が下に見えるくらいになって、止まらなきゃ! って思ったら魔法が途切れて……。あなたが助けてくれなかったら大怪我してました。ありがとうございます」

「なるほどなあ、魔法の種ケルンはイメージに忠実だから、こんなことにもなっちゃうのかあ」


 今まで魔法を使ってきて、うまくいかなくてもここまで悪い結果にはいかなかった。失敗の方向によっては怪我することもあるようだ。

 「空を飛ぶ」ことに気合を込めすぎるとあり得ない高さまで飛び上がって、「上昇を止める」ことだけを魔法の種ケルンに伝えた結果、空から落ちてしまう……これも魔法の暴発ってやつなのだろう。そのあたりの調整はうまくいっている部分に、また一つ特級の有難さを感じた。


「よくやった。私では間に合わなかった」


 ワキュリー先生がこちらへ近づいてきて、シュッと風切り音が聞こえるくらい素早い動作で頭を下げた。


「この子に怪我が無くて良かったです。でも、ゴールに付く前に地面に降りちゃったから……先生、やり直しさせてくれませんか?」

「あの状況なら人命第一だ。それに直前まではきちんと飛行していた。仲河夢心、貴様は合格だ」

「え、いいんですか?」

「瞬間移動が可能な特級に対して、このような試験を再度行うのも野暮だろう。ファイク・トレーガー、貴様はもちろん再試だぞ」

「は、はい……」


 ファイクと呼ばれた女の子は、ワキュリー先生の眼力に耐えきれなかったのか涙目で頷いた。


「大丈夫、今度は上手く行くよ。もし心配ならあたしが見ててあげる」

「そんな、前にも助けてもらったのに、これ以上迷惑をかけるなんて……」

「前? なんかあったっけ」


 ファイクは怯えるように、ゴールの向こうに視線をやった。

 そこには、あたしより先に着いたことで喜んでいるユングルの姿があった。あいつ、この状況でよく勝ったとか言えるな……。


「あ! もしかしてあの時、プリント抱えてた女の子?」

「はい、あれからユングル君からの頼み事・・・が減りました。ナカガワさんには助けてもらってばかりです」


 討伐依頼まで発展したユングルとの騒動の発端、廊下でいじめられていた女の子がこのファイクだったのだ。


「あいつによって繋がった縁と思うと微妙な心境になっちゃうけど……いや、気にしたら負けだ。これからもよろしくね、ファイクちゃん」

「は、はい。よろしくお願いします、ナカガワさん」

「ムクでいいよー」

「でも、瞬間移動なんて凄いことができるし、年上だし……」


 おお、なんかこの反応は新鮮だ。リサやハルヒはいっつも呆れ半分で褒めてくるし、リールは意外と対抗心を燃やしてくるし。

 シュロムが最初こんな感じだったかな? 皆より年上な事を忘れかけていた。


 そんなアクシデントのおかげで、あたしは隣のクラスに友人を作ることが出来た。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それからは順調に試験が進み、未受験の生徒がほんの一握りになった頃。


 ランズ、リール、リサ(リズエラ・リーン)の3人が一緒に試験を受けることになった。


 合図と共に、リールがいつものようにパタパタと飛び出してゴールを目指す。リールにしてみれば「歩け」と言われているようなものだ。なんだかズルい。

 それにピッタリついていくように、リサも魔法を使って飛んでいく。2人に関しては、全く問題は無かった。


 そしてランズはというと……。


「刮目せよ! 新たな力を得た私の雄姿を!」


 いつものように声を張り上げアピールすると、槍に変身して宙に浮かび上がった。


「あれ? ランズ、槍の状態だと自力で動けないんじゃなかったっけ?」


 討伐依頼の時はリサの蔦ゴーレムが操っていたし、その前はヘンディーが振り回し係をやっていたはずだ。


「そうだ。そうだった。しかし私はこの授業を通して一つの可能性を見出し、それを実現することが出来たのだ。見せてやろう!」


 そう意気込むランズの元へ、魔力が集って光を放ち始めた。

 一体何が起こるのか、期待と不安のまなざしを受けてランズが放った魔法は。


「とーーーーーーーう!!!!!」


 カタパルトから戦闘機が飛び立つかのようなスピードで、ランズが運動場を飛び越えていった。リールにぶつかるギリギリの軌道を取っていたので、「ひゃあ!?」と可愛い声が久しぶりに聞けて良かった。違う、ぶつかりそうで危なかった。


 ゴールを大幅に通り過ぎて運動場の外の草むらに落ちたランズは、人の姿に戻ると堂々とした歩みでこちらへ戻ってきた。


「どうだ、飛行の魔法を応用した突進攻撃! 初見で見切るのは難しいであろう。これなら一人でも魔物の討伐が可能────」

「この試験は飛行の魔法の精度を試す試験だ。あんな危険なスピードで、ゴールを無視して飛んでいくのは不適切だ。ランズ、不合格」

「なにっ!?」


 ワキュリー先生から淡々と指摘を受けて、ランズは驚き落ち込んだ。

 飛ぶには飛んだけれど、あれで合格にはならないよなあ。


「危なかったよ! 気を付けて!」

「む、確かに味方を巻き込むのは良くないな……済まなかった、次はもっと的確に敵を貫けるように特訓しよう!」


 リールの言葉すら微妙に解釈を間違えている気がする。再試験でも合格するのか、ちょっぴり心配だった。


 ドタバタした実技試験もこれで終了。

 テスト期間が終わるまでもうすぐだ。


終わるまでもうすぐ……で締めておきながら難ですが、ここで春の大陸編、一度終了となります。

テストが終わって四神月、この長期休みに夢心達は新たな大陸へ出発します。

ですが、作者の頭の中でなかなか話がまとまらなくて。書き始めてはいるのですが、もしかしたら投稿期間が空くかもしれません……。なるべく空けないように頑張る次第です。

次回もよろしくお願いします。

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