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第45話 なぜだか楽しいテスト期間

 風邪であたしが寝込んだ日、リールが急成長を遂げたあの日が明けて。


 特製の風邪薬のおかげですっかり元気を取り戻したあたしは、急ピッチで勉強の追い込みをかけ、何とか準備を整えてテストを受けた。

 空欄にしたところはないものの、完璧な手ごたえとは言えない。わりと不安である。


 ほとんどの設問が選択式で、そうでない部分も単語を答えるのみのテスト形式だった。それに魔法で採点を行ったのもあって、次の日には結果が張り出されていた。

 廊下の掲示板にずらっと生徒名が書き連なっている。あたしは両手で顔を覆いつつ、指の隙間から自分の名前を探していた。


 歴史学は真ん中ほどの順位に名前を発見して一安心したが、問題は薬草学だ。

 高得点なはずはない。むしろ追試枠にいなければいい。そんな調子で恐る恐る視線をずらしていった。


「……あった。89位、63点……赤点じゃない! 追試回避!!」

「おー、良かったねむーちゃん」

「ひやひやしたー、だって合格者の欄、下にあと2人しか名前無いじゃん。ギリギリセーフ」


 あたしは両手でガッツポーズをして、直後に体の力が抜けてへなへなと座り込んだ。


「暗記科目で赤点が回避できるようになるなんて。まさしく奇跡だよ」


 覚えたそばから忘れていき、暗記が致命的に出来なかった昔を思い出し、思わず涙が流れてきた。

 その頃を知っているハルヒが優しく頭を撫でてきた。やめてくれ、涙が止まらなくなる。


 充血してきた目を誤魔化すように逸らし、別の話題を探して視線を巡らせた。


「リサとハルヒは2つとも満点か。眩しい、1位の欄に輝く2人の名前が眩しい」

「ぼくも自信あったのに、何か間違えちゃったみたい……くやしい」


 そんなリールの呟きを聞いて確認すると、どちらも90点後半を獲得していた。あたしに比べたらはるか上位に名前が書いてある。


 それでも羽をたたんで落ち込むリールに、あたしはちょっと嫉妬しながらも言葉をかけた。


「ケアレスミスは誰にでもあるよ、リールも頑張った!」

「そうなのです。次頑張ればいいのですよ」

「満点の人に言われると悔しい! 次はリサに勝ってやる」


 リールはフンッと鼻を鳴らし、決意を強めたようだった。

 まだまだテストは前半戦だ。あたしも頑張らないと。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の放課後。運動場であたし達は魔法の練習をしていた。

 他にも大勢の生徒が杖を振っている。明日は実戦授業のテスト、実際に魔法を使う試験だからだ。


 あたしは薄桃色の杖を掲げ、魔力を集めた。体が浮き始め、5メートルくらいまで浮上すると、今度は前へ移動。人のいない場所を見計らって、ゆっくり着地した。


「よし! ちゃんと飛べたぞ!」


 そう、長らく苦戦していた飛行の魔法に遂に成功したのだ!

 瞬間移動してしまう不具合をどうやって解消したかというと……


「ひたすら無心に、上へ上へ、前へ前へ。これでやっと『飛行』が出来るように!」

「目標へ辿り着きたいと考えてしまうと、それに魔法の種ケルンが反応してしまう。そのイメージを無くしてしまうことでようやく、なのですよ。なんでも実現できる力も困りものですね」

「そうなんだよ。テストはこれで良いだろうけど、いざ本当に必要になった時にスムーズに飛べるように方法は考え直したいなあ。いや、それでも瞬間移動の方が便利だろうけど」


 大きなくくりで言えば、まだイメージ不足なのだ。

 トゥーリーンに言われたように、空を飛んで目標へ辿り着くまでの過程をしっかりイメージすれば成功するはず。今のままでは、横スクロールアクションのようなカクついた移動しかできない。


 空を飛ぶといえば、一番身近なのはリールだ。しかしこれを参考にしたところ、『リールみたいに』空を飛びたい=変身願望と捉えられてしまい、小さなドラゴンに変身してしまったのだ。しかもその状態でも瞬間移動の方が先に発動してしまう、目も当てられない始末だった。


「変身だって、相当な量の魔力が扱えないと発動しない魔法なのですよ」

「あれはあれで楽しかったから、またやりたいけどね」

「そしたらムウと一緒にお散歩できる! やろう!」


 それは楽しそうだ。リールの目線で街を歩く……というか飛ぶのも是非やってみたい。


「その割に、大きい魔法を使おうとすると限界が見えてしまうのも問題なのです」

「それね! 討伐依頼の時の反省。これも早く改善しないと」


 合唱魚コーアフォーレ討伐でピッチ―、群れのボスと対決したあの時。

 『アイシクル・ミスト』でボスを凍らせていく際に、時間がかかった上に本気を出されると脱出されてしまった。


 これもトゥーリーンと話をして判明したのだが、特級なら巨大な魔物だろうが瞬時に凍らせることが可能らしい。それが出来なかったのは、「物は冷気に晒されるとじわじわと凍っていく」という固定観念があたしの中にあったからだ。


 更に巨大な相手を前にして不安を感じて弱気になり、「これを凍らせることが出来るのか」というマイナスなイメージが加わって、中途半端な冷気しか発生しなかったのだ。


 魔法を使うなら常識にとらわれず、何でもできる気持ちで挑戦するのが成功の近道ということだ。


「要するに、最強俺つえーチート的なイメージでやればいいんだよね」

「むーちゃんの魔法の種ケルンは既に最強チート級だよ」

「使い勝手がいいんだか悪いんだか、微妙なところだからなあ」

「まったく、贅沢な話なのです」


 ともかく今は、試験に向けて魔法の成功率を高めなくては。

 再び杖に魔力を集めて、あたしは地面を離れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「全員揃ったな! ではこれから飛行魔法の試験を行う!」


 翌日。ワキュリー先生の良く通る声が、運動場に響き渡った。


 今回の試験内容は、運動場の端に引かれた線から魔法で飛び立ち、自分の背丈以上の高度を保って、地面につくことなく数十メートル先で待ち構えるワキュリー先生の所まで飛んでいくというもの。一度に何人も挑戦できる形式なので、今回は2クラス合同で行うことになった。


 2組の方を眺めていたら、少し離れたところにユングルの姿を発見してしまった。

 こっそり魔法を妨害してやろうかな。試験無効どころか先生にどんな仕打ちをされるか分からないから止めておくけど。


「クラス混合、無作為に4人ずつ名を呼ぶ! 呼ばれた生徒は速やかに線の上へ並び、合図を待て!」


 初めに呼ばれた4人の中にはゾルくんがいた。

 生徒が並んだことを確認して、ワキュリー先生が木剣を地面へ叩きつけた。

 それが合図となり、4人の生徒は杖を掲げて宙に浮かび上がった。


「やっぱりゾルくんが一番カッコいいなあ」


 おしゃべりをするとワキュリー先生からの鋭い一撃が飛んでくるため、小声で呟く。


 ゾルくんはこの前の討伐依頼で見せたものと同じく、顔の前で杖を構えて魔法を使っていた。あっという間に先生の元へ辿り着き、他の3人が慌てて後を追う形になった。


 他の3人は2組の生徒だろう、全員見慣れない男子だった。ゾルくんよりはゆっくりだったが、何事も無く全員がゴールまで辿り着いた。


「良し、では次!」


 試験を終えた生徒が掃けると、すぐに次の4人が呼ばれ、流れ作業で試験が続く。

 ここでは飛び続けることが出来ず脱落してしまった生徒がいたが、2組の生徒だった。

 3級とそれ以上だと、こんなところでも差が出るらしい。


「ん? これ、無作為って言ってるけど五十音順だよね……」


 ハルヒが呼び出されたあたりで、呼び出しの法則性に気が付いた。


 初めに呼ばれたゾルくんの苗字はアブグルンド。そのあと二組ア行が続き、次に来たのが上崎遙日かみざきはるひ

 そうと分かれば呼び出されるタイミングの察しがつくため、緊張が少し薄れた。


 ちなみに普段の席順は「四神日を過ぎて入学の申請を行った順」、つまり誕生日順らしい。

 誕生日のタイミング的にギリギリだったリサまでが本来の席順で、あたし達がその後に申請したためあのような席順になったのだ。


 そうと分かるまではトゥーリーンが操作して作ったものだと思っていた。普通の友情は見飽きたと言っていた神様のことだ、やりかねない。


「仲河夢心! 前へ出なさい!」

「やばっ! 行きます!」


 失礼な妄想をしていたら、いつの間にか順番が回ってきていた。

 制裁が下される前に、スタートラインへ急いだ。


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