第43話 小さな竜の大冒険3~リール視点~
「……『きょむ』、だよ」
「それは、最初から自分で理解していたのか、周りに教えて貰ったからそう名乗るようになったのか。どちらかな?」
ぼくの答えが分かっていたのかのように、ピンク色のスライムは次の質問を投げかけてきた。
それを聞いて、ぼくは今度こそ答えることが出来なくなった。
概念の化身は皆、自分の能力を理解している。ぼくより後に生まれたぷーですら、『催眠』をいろんな形で使いこなしてる。
でもぼくは、ムウと出会ったばかりの頃は自分が何者なのか分からなかった。
『リール』って名前だけは覚えていたけど、どんな能力を持っているのか、そもそも概念の化身であることさえ知らなかった。
ムウのボールペンを消しちゃって、そういう力があることが分かった。あのうるさい妖精さんが来て、ぼくのことを『虚無』の概念の化身だと呼んだから、ぼくはそうやって名乗るようになった。
能力の使い方だって、『傘』にするのはムウが考えてくれたし、消す力がごみを処理するのに役立つと教えてくれたのもギルドのおねえさん。ぼくじゃない。
「やはり自分が何者かは分かっていなかったようだね。いや、今も分かっていないのかな」
スライムの言う事は難しいけれど、これだけは分かる。
ぼくはムウとおんなじ。ううん、ムウよりからっぽなんだ。
「予想はしていたけれど……なるほど、興味深い」
スライムは落ち込むぼくの事をお構いなしに顔をのぞき込んだり、周りをぐるぐる周ったりしてきた。
ちょっと鬱陶しくなってきたので、ぼくはスライムの端っこをつまんで引っ張りあげた。
「わわ、申し訳ない。ちょっと興奮してしまってね」
「スライムさん、おなまえは?」
「おや、名乗っていなかったか。申し訳ない」
つまんでいた部分を離すと、スライムはぽよぽよと弾みながら着地した。
それがおさまると、スライムは背筋をぴんと伸ばした(体が縦に伸びたから、多分そんな感じのことをした)。
「私はバワール、『変貌』の概念の化身だよ」
「スライムさんもこんぜつぉんだったの?」
「……そこからか。私が言うのも難だが君はかなり変わった概念の化身だね」
その意味がよく分からず首をかしげると、バワールはコホンと咳ばらいをして話始めようとした。もしかして風邪をひいてるんだろうか。
風邪、そうだ、早く葉っぱを届けなきゃ!
「ムウのところに帰らなきゃ!」
「ちょっと、まだ話は終わってないよ!? むしろここからが本番じゃないか!」
ぼくが飛び立とうとしたところを、バワールは全力で止めてきた。
スライムのぶよぶよを全身に被せられて、ぼくは動けなくなってしまった。
「ムウにおくすりをとどけるの! おはなしはそのあと!」
「君の住処にいくのは都合が悪いんだ。もうちょっとだけ聞いておくれよ」
「でも!」
「何者か全く分からないままじゃいたくないだろう?」
「……しってるの? ぼくのこと」
「知ってるわけじゃあないが、有益なヒントは与えられると思うよ」
そう言われてしまうと、ぼくはバワールの話を聞きたくなってしまった。
このもやもやが少しでも晴れるなら、聞いてみたい。
「ぼくはなんなの?」
「聞く気になったんだね、じゃあ続きを話そうか」
ぼくの様子が落ち着いたのを見て、バワールはぼくから離れてくれた。
「君は『虚無』の概念の化身だった。今も概念の化身だが、違う概念の元に君の存在は成り立っている。私はそう考えているよ」
「きょむだった……?」
「産まれた時点で君は確かに『虚無』だった。だが君が意志を持った、その瞬間に『虚無』の概念ではなくなり、それと似た概念に成り代わったのではないかな。凄い『変貌』だよね、君の事を初めて聞いたときは興奮が止まらなかったよ」
「ぼくはきょむじゃないの……?」
「ああ。『虚無』の概念の化身は、君が意志を持った瞬間に別に産まれたんだろうね。いなくなった訳では無い。だから封印隊が動いた」
私も捕まりかけたから似た者同士だね、とバワールは付け加えた。
「なにかわるいことしたの?」
「するもんか! 中々変化を見せない生き物に、ちょっと刺激を与えただけなのに……捕まったら力を封じられてしまうんだろう? たまったものじゃあないね」
ぷんぷんと怒ったバワールは、はっと我に返って咳をした。
「封印隊は一番初めに『虚無』として観測された君を追い、そして接触し、結果今はここの魔法学園の生徒になっている……これもまた、予想を裏切る変遷でびっくりだよ。君とそのご主人様がどうやって封印隊を言いくるめたのか気になるね」
「で、ぼくはけっきょくなんなの?」
「ここからは完全に私の予想だ、参考程度にしておいてくれ。君は『虚無』ではないけれど、それと同じ力……物を消し去る力を使える。これは間違いないね?」
「うん」
「となれば『消去』、またはそれに準ずる概念かと判断しそうになるが、それは違う。その概念の化身は大昔に封印されている。今もそのはずだ」
「うん?」
「君の力はただ物を消す訳じゃない。どこか遠くの別の場所へ移動させているんじゃないかと予想しているよ。でも移動するという概念はそこまで広く浸透していない。植物は根を張ってその場から動かないからね、だとすると概念の化身になったとしてもドラゴンほど力のある存在にはならない」
「うーん……」
「そもそも概念の化身は産まれた瞬間から成熟しているはずなのに、君は子供の言葉で話している。そこからおかしいんだよね。概念が切り替わる時に不具合があったのか、切り替わった概念そのものにおかしいところがあるのか」
「うん?」
説明が長すぎて半分聞き流していたんだけれど、その中に気になる言葉があった。
「ぷーもカタコトなおしゃべりをするよ?」
「ぷー? 最近生まれた概念の化身なのかな……? 片言でも受け答えのレベルは君より高いんじゃないかな」
「うーん……そうかもしれない」
学園の皆と比べたら知らないこともあるみたいだけど、確かにぷーの方が色んな言葉を知っている。ぷーがよく使う「トラウマ」の意味も、ぼくはあんまりよくわからない。
「私の予想としては切り替わったときに不具合が出た、と思っているよ。私を概念の化身だと判別できなかったのも不具合の一部だろうね。概念そのものに問題があるなら、そもそも概念の化身にならないはずだ」
「つまり、ぼくがなんなのかはわからないの?」
「『虚無』ではないことが分かっただけで、進歩したとは思わないかね」
期待していたようなはっきりした答えは、結局教えてもらえなかった。
『虚無』じゃないなら一体なんなんだ。ぼくは、どうしたらいいんだ。
「もやもやしたままだよ……」
「おや、これは想定外の反応……済まなかったね。お詫び、といっては何だが君に一つ贈り物をしよう」
「プレゼント?」
「もともとあげるつもりだったから、お礼はいらないよ」
差し出されたバワールの手(?)はほんのり光を放っていた。
ぼくがそれをのぞき込むと、光はあっという間にぼくを包み込んで────
「フィルゼイトに大きな変化の予兆を捉えたんだ。君がそれを解決してくれることを期待して、本来あるべき姿へ『変貌』させてあげるよ」
そう言って笑うバワールが、だんだん遠くなっていった。
いつもより一日早く、平成最後に更新できて良かったです。
明日も更新予定です。リールはどうなってしまったのか!? 令和最初の更新にご期待ください。




