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第42話 小さな竜の大冒険2~リール視点~

 授業が終わると、ぼくはすぐに学校を出発した。


 公園の中でも道の近くじゃなくて、少し奥に入ったところを目指す。たぶん夜のおさんぽの時に通ったあたりだ。

 人がよく入るところにはキャリーユの葉っぱは生えてないんだって。確かにあんなに面白い形をしていたら、気になって取っちゃうもん。


 羽を大きく動かして、歩いている人達の頭の上をどんどん通り過ぎていく。

 本当はもっと高いところ、おうちの屋根の上を飛んで行った方が早いけれど、ちょっと高すぎて怖いから道なりに進むんだ。


 たまにおいしい匂いが漂ってきて体がそっちに行こうとしちゃうけれど、それはがまんだ。ムウといっしょに食べる方がおいしいから。


「『虚無』の坊主じゃないか。どうした、そんなに急いで」


 おいしい匂いをなんとか振り切ったところで、ムキムキのおじさんに声をかけられた。

 色んな道具を作ってくれるお店の人だ。しゅろのお父さんだっけ?


「こんにちは! はっぱをとりにいくの!」

「葉っぱ? 薬草採取の依頼か。頑張れよ」


 おじさんはぼくの返事にニコっとすると、ゴツゴツした手でぼくの頭をぽんぽん叩いてきた。ムウより力が強くてちょっと痛い。


「ところでうちのシュロムは元気か? もう一カ月も顔を見てないから心配で心配で……」

「げんきだよ! ぷーの『おせわがかり』やってるよ」

「世話係!? 怖がりで新しいことをやりたがらなかったあのシュロムが、生き物の世話を!? おお、成長したんだな……お父さんは嬉しいぞー!!!」


 しゅろのことを話したら、おじさんは急に叫んで泣き出しちゃった。

 どこか痛くしたのかなって心配したけど、よく見たら涙を流しながら笑ってた。

 大丈夫そうだし、ちっとも泣き止まないからバイバイして先に進むことにした。


「いそげ、いそげ、ムウをげんきにしなきゃ」


 一生懸命飛んでいくと、木がたくさん生えている場所が見えてきた。あそこがしんりんこうえんだ。

 ほとんどは森みたいだけれど、一部だけ木が無くて道も今まで通りにきれいにならされている。


 その道を目指すように、横から見覚えのある人とオオカミがやってきた。


「お前は……」

「こんにちは! えっと……」


 名前、なんだっけ。長いと難しくて覚えられないんだよね。

 ムウはこの人を見るといつもきゃあきゃあ騒ぐんだ。


「たしか……じょー?」

「……まあアイツの仲間だし良いか。ゾルだ」

「あれ? そんなおなまえだったっけ?」

「長くて覚えてなかったんだろ。いっそ忘れて覚え直せ」


 ううん、この人がそう言うならいいか。

 ゾルの隣に座った灰色のオオカミの名前は覚えてる。


「こんにちは、パル!」

『うん、こんにちは。パルトだよ』


 ツンツンしてる飼い主さんと違って、パルは優しく返事をして頭を下げてくれた。

 ぼくもおじぎを返す。ぺこぺこ。


「パルはおさんぽしてたの?」

『うん、この公園はお気に入りの散歩道なんだ。同じ狼には会えないけれど、犬は沢山散歩に来るからおしゃべりも捗るし、ご主人様もリラックス出来るから』


 パルはゆっくりと、でもすごくたくさんの言葉でお返事してくれた。

 こんなにおしゃべり好きなら、ゾルと一緒だと退屈じゃないだろうか。


「なんでゾルと仲良しなの?」

『うん、ご主人様ってあんまり喋らないし怖いイメージを持つ人が多いだろうけれどね、僕はご主人様の良い所をいっぱい知っているから。本当は仲間思いで優しい人なんだ。僕はご主人様が大好きだから一緒にいるんだよ』

「そっか。ぼくもムウがだいすきだから、おんなじなんだね!」

『うん、多分同じような気持ちだと思うよ。欠点が見える事もあるけれど、そんな時は僕が助けてるんだ。逆に僕が失敗しても、ご主人様が助けてくれる。そういう関係が、僕はとても心地いいんだ』


 パルのいう事は本当によく分かる。ぼくもまだまだ分からないことが多くて、ムウに教えてもらってるから。


 例えばごはんに入ってるものは生き物からもらったものだから大事に食べなさい、とか。

 スープにたまに入ってるネギが辛くて嫌いで、『きょむ』で消してたら怒られちゃったんだ。「食べられないなら食べれる人に渡しなさい」「消しちゃうのは勿体ない」って。


 生き物は消しちゃダメって最初に言われたから守ってたけど、野菜もそうだとは知らなかった。


 そしてぼくが元気に返事をすれば、ムウは「よしよし、可愛いなあ~」って笑顔になってぼくを撫でてくれる。ムウが笑うとぼくもうれしい。たぶんそういう事だろう。


「おい、もしかしてパルトと話せるのか?」


 ムウのことを思い出していたら、ゾルがそんなことを聞いてきた。


「ゾルはおしゃべりできないの?」

「人間は基本的に魔物と意思疎通は出来ないぞ。パルトの考えてることもなんとなくしか分からない。……それで気になったんだが、『ぼく“も”だいすき』と言っていたな」


 なんてことだ、ゾルとパルはおしゃべりしてなかったんだ! なのに一緒に居るんだ、不思議だなあ。

 それならパルの言っていたことは、ぼくが教えてあげないと。


「パルは、ごしゅじんさまがだいすきっていってたよ」

「……パルト」


 ゾルが今までに聞いたことも無いような優しい声でパルに呼びかけた。

 対するパルは、


『ええ、なんで言っちゃうの!? 伝わらないと思って君に言っていたのに。恥ずかしいよう、穴があったら入りたいよう』


 と言うや灰色の顔をピンク色にして、キャンキャンって吠えながら一目散に街中へ逃げていってしまった。


「おい、パルト!? どこ行くんだ、待て、待てったら!」


 それを追って、ゾルの姿も見えなくなってしまった。

 あれれ? ぼくなにか悪い事しちゃったんだろうか。

 周りに教えてくれる人がいなかったので、ぼくは気を取り直して公園へ入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「まるい、まるい、まーるいはっぱー」


 みんなが歩いている道から外れて、木や草が沢山生えている奥の方へやってきた。

 木にぶつからないように飛ぶのが難しくなってきたので、ここからは歩きながら探すことにした。


 草むらを歩くと葉っぱの先がちくちく刺さる。それだけならまだいいのに、鱗の間に挟まってちぎれて、ずっとついてくる葉っぱもあるから困っちゃう。

 気になるけれど、取ってもまた挟まるので、諦めてそのまま進んでいくことにした。背中はもともととげとげしていたけど、これじゃあ全身とげとげになっちゃうなあ。


「あ、あった!」


 ちくちく葉っぱをかき分けて、丸い葉っぱを遠くに見つけたぼくは、大急ぎでそこまでダッシュした。

 近くまで来て細かいところを確認する。まわりが赤くて、丸い葉っぱの中心を茎が通ってる。間違いない、リサに頼まれたものだ。


 一番大事なのは茎の中身だから、なるべく太いのを根元から引っこ抜いて、って言われたのを思い出す。「リールは小さいから大変かも知れませんが出来ますか?」って聞かれたけれど、簡単なことだ。


 ぼくは『きょむ』の力を根元の周りにそって使った。土と根っこが綺麗に消えて、支えが無くなった茎がぱたんと倒れる。これでまずは1本だ。

 ぼくの腕くらいの太さのものが3本あれば足りるらしい。同じ手順であっという間に数を集めきり、おまけにもう2本。合わせて5本の茎を、両手両足で掴みきれるように寄せ集めた。


 重いものを持って飛ぶのは大変だけれど、あとはこれを持って帰るだけだ。

 ムウが元気になる姿を想像しながら羽を広げ、飛び立つ準備を始めたその時、広げた羽根に冷たい何かが触ってきた。


「ひゃ!? なんだ?」


 慌てて羽をたたみ、きょろきょろ辺りを見回した。そうすると今度は尻尾に冷たい刺激が。

 びっくりしながら後ろを振り向くと、そこにはピンク色のスライムがいた。


 そういえば始めて公園に来た時も、スライムに出会った。

 あの時と同じように消してしまおうと力を貯めていくと、今度はスライムが驚いて体をぷるんと震わせた。


「驚かせたのは悪かったよ。でも消さないでおくれ、君と話がしたいんだ」


 あれれ、スライムって喋れたっけ?


 よく見ると、ぷよぷよした体の中に黒い点が二つ、その下に黒いひもが一つ浮いている。もしかして顔だろうか。

 なんだか普通のスライムとは違う気がして、ぼくは貯めていた力を消した。


「いそがなきゃいけないんだ、ちょっぴりだけだよ?」

「そんなに時間は取らないさ。ああ良かった、消さないでくれてありがとう。君と一対一で話すチャンスがこんな所で訪れるとは思わなかったよ」


 ほっとした様子のスライムは、ちょっととろけるとすぐに形を戻して、こんなことを聞いてきた。


「突然で済まないが、君は何の概念の化身コンゼツォンなのかな?」


 その質問に、ぼくはすぐには答えられなかった。


次回の更新はいつもより一日早く、30日を予定しています。

平成最後に間に合え!

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