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第41話 小さな竜の大冒険1~リール視点~(後半夢心視点)

 いつもの元気が無くベッドに横たわるムウのことを、ぼくはドアの隙間からじっとのぞいていた。


「寝てれば大丈夫そうだから。ほら、教室いこう」

「しんぱい……」


 ハルに急かされてしぶしぶドアを閉じたぼくは、何度も後ろを振り返りながら教室へ向かった。

 今日の一時間目は『やくそうがく』。ちょうど担任のおばーちゃんが来るから、ムウが風邪でお休みですってハルが伝えてくれた。


 授業が始まったけれど、ぼくはムウのことが心配でしょうがなかった。

 いつもおふとんから出てくるのは遅いけれど、あんなに動かなくてしゃべるのも大変そうなのは初めてだった。


 ムウは授業に行っておいでって言ったけれど、今もつらくて大変なムウをほうっておいていいんだろうか。そう思うとぼくの体はむずむず、ゆらゆらしてヘンな感じがした。


 でも部屋に戻っても、ぼくじゃあハルみたいに治したりできない。『きょむ』の力でムウのつらいのだけを消そうとしたら、ムウまで消えちゃいそうになったから慌てて止めたんだ。


 いつもは黒板の文字とおばーちゃんの話をノートに書くんだけど、今日は声が聞こえても何て言っているのか分からないし、ペンがいつもより重たくて写すのが間に合わない。

 おばーちゃんは背が低いのに、ぼくがぼんやりしていたことに気が付いたみたい。てくてく歩いてきて、杖で頭をツンと叩かれた。


「虚無くん、教科書の朗読をお願いしたいのじゃが」

「……はーい」


 指さされた所を読み始めると、おばーちゃんはそれ以上何も言わずに黒板の方へ戻っていった。

 いつもみんなを注意するときはもっとたくさん怒るのに、どうしたんだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ムクがいないと、静かになりますね」

「むーちゃんがしょうもない事を言って、リサちゃんが突っ込むのが日常になってたんだね」


 ごはんの時間。今日はムウがいなくて、代わりにしゅろとぷーが来てくれた。

 しゅろが『おせわがかり』の日は、ぷーもここでごはんを食べるんだ。


「リール、元気ナイ?」

「ムクさんが風邪引いてお休みしてるから、心配なんだよ」

「うん、しんぱい……」


 せっかく二人ともおしゃべりができる日なのに、全然楽しくなれない。

 大好きなりーぼほーれも、なんだかいつもよりおいしくない。

 だって今も、ムウは苦しくて大変なんだから。


「ムウ……うええ」

「泣いちゃった!? そこまで不安だったんだ……よしよし」


 こころのもやもやが目からこぼれてきて、その場にうずくまるとハルが頭をなでてくれた。


「リールちゃんは優しいね。むーちゃんも、こんなに思ってくれてるって知ったら嬉しいはずだよ」

「でもね、ぼくなにもできない……」


 早くムウと遊びたい。でもそのためには休んでもらうしかない。

 頭の中でぼくがケンカして、またモヤモヤしてきた。


「いえ、リールに頼めることがあるかも知れません」

「え? ぼくにできること、ある?」


 リサの声を聞いて、ぼくはむくりと頭を上げた。

 リサは、ぼくの目の下に透明なビンを押し当ててきた。

 ビンはひんやりしてて、泣いて熱くなってる顔に当ててもらうのは気持ちよかった。


「ひんやりする」

「……え? ちょっとリサちゃん、何してるの?」

「ドラゴンの涙の採取なのです! これを薬に混ぜると薬効が格段に上がるのです」

「ぼくのなみだ、おくすりになるの?」


 気持ちいいなと思っているうちに、涙がだんだん引っ込んできてしまった。

 足りなかったら困ると思って、机に落ちた涙をすくってビンに入れたら、「もう充分なのですよ」ってフタを閉められちゃった。


「材料はもう一つ必要です。『キャリーユの葉』、これをリールに取ってきて欲しいのです」


 リサはいつも持ってる『ずかん』を広げて、ぼくに絵を見せた。

 緑色だけど、まわりがほんのり赤い色をしている。まんまるの葉っぱの真ん中を茎がつらぬいて、何枚も重なって生えているおもしろい形だ。


「解熱、抗菌、咳止め……風邪薬に欠かせない成分が入っている薬草です。シュプリアイゼンでは一般的には(・・・・・)採取しやすい所に自生しているため、流通していなくて手に入らなかったのです」

「採取しやすいのにリサちゃんが持ってないなんて珍しいね、どこに生えてるの?」

「……森林公園、なのです」

「ああ、成程。怖い思いをしたところには近寄りたくないよね」

「そういう訳では! いえ、恥ずかしながらそうなのですけれど……」


 しんりんこうえん。リサが怖い思いをした所。

 初めて夜におさんぽに出かけた場所だ。かんりにんさんに怒られて、あれから夜におさんぽするのはダメって言われちゃったんだ。


「トラウマ? 治ス?」

「いえいえ、日常生活に影響がある訳ではないですし、これは自分の手で乗り越えたい事なのです」

「デモ今ハ行カナイノ?」

「ぐっ、今はまだ……そ、それに! 私はノートを書き写す作業がありますし、薬を作るなら色々準備か必要です。ハルヒ様に看病をお願いして、リールに材料を集めて貰う。これで役割分担できるのです」


 リサがなんだか早口で説明するからこんがらがったけど、ぼくがその葉っぱを取りに行けばいいみたい。


「やるよ! ムウのためだもん!」


 それでムウが元気になるなら、どんなに大変だってやってみせる!


「頼みま……ああ、まだ授業が残っていますよ!」


 急いでしんりんこうえんに向かおうとしたら、しっぽをぎゅっと掴まれて止められた。


「リールちゃん、気持ちは分かるけど放課後になってからね」

「でもでも」

「ちゃんと授業を受けて、それから薬も持って行ってあげた方がむーちゃん喜ぶと思うよ」

「うーん、そうかあ……わかった」


 ハルはムウの一番のおともだちだから、ハルが言うならそうしてみよう。


「ハルヒ様、流石なのです」

「子供相手でも、怒るより諭す方が納得してくれるんだよ」

「ただ怒られるだけじゃ怖いだけだもんね、分かる気がする。ちょっと気になったんだけど、皆テスト前日なのに大丈夫なの? 特にリールは外出したら、勉強する時間無くなっちゃいそうだけど」


 シュロムがはてなを浮かべて聞いてきた。


「あたりまえ! テストよりムウのがだいじ!」

「それに、リールちゃん過去問満点だったから。むーちゃんの傍にいて風邪貰っちゃうほうが危ないかも」

「ええ!? リール、そんなに勉強できたんだ……」

「リール、スゴイ」


 なぜだか皆に褒められた。ムウのために頑張るのはまだこれからなのに。


 とにかく葉っぱを取りに行くのは授業が終わってからだ。時間の消し方は分からなかったから、我慢して『れきしがく』の授業を受けた。早く終わらないかなあ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「そんな経緯があって、今リールちゃんは森林公園に向かってるんだ」

「リールが良い子過ぎて辛い」


 ハルヒが今日の出来事を教えてくれて、あたしはリールの優しさにむせび泣いていた。鼻風邪じゃなかったのにティッシュの消費が捗る。


 テスト前なのはリールも同じなのに、わざわざ薬の材料を集めに行ってくれているなんて。こんなに思われて、あたしは幸せ者だよ。


「でも心配だなー。駆除したとはいえまだスライムがいるかも知れないし、街で知らない人に付いて行っちゃったら危ないし……」

「リールちゃんも成長したんだから、それくらい分かってるよ」

「なんでカメラマンが張り付いてないの!? あ、いるじゃん丁度良い能力持ってる人。レッツゴー学園長室!」

「ああ、もう……いいから寝てなさい」


 起き上がろうとしたあたしを、ハルヒは無理矢理ベッドに押し付けた。


「ハルヒったらそんな大胆な……」

「むーちゃん、そっちの気あったの?」

「いや無いです。悪ふざけが過ぎました」


 流石にハルヒの目が怖かったので、小刻みに頭を振って降参を伝えた。

 恋愛は良く分からないけど、ハルヒとは普通の友達でいたい。ん? 概念の化身コンゼツォンって性別あるんだろうか。


「朝より喋れるようになってて良かったよ、あの時はぐったりしてたから」

「うん、睡眠はやっぱり正義だね」


 実際に体はかなり楽になってきている。もう一日寝ていれば治る感じはするし、リールとリサが協力して作る薬があれば心も体も完全回復間違いなしだ。


「よし、じゃあ出来る範囲でいいからテスト対策の追い込みしようか」

「ごめん熱上がってきた気がする。おやすみ」

「こらーーー!」


 あたしは布団ガードで眠りを妨げる悪魔を退けると、再び眠りについた。


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