第39話 神様との雑談
新年度が始まりましたね。私の家はまだ段ボールが散乱していますが、執筆活動は出来るようになったので更新再開です。
案内された客室は、絨毯の質や調度品が見るからに高級な、あたしだけでは決して入れないような待遇の場所だった。聖堂とはまた違った意味で落ち着かない。
「ごゆっくりどうぞ」
と用意されたお茶とお菓子もまた高級感が漂っている。
リールがそれをじっと見つめていた。食べたいんだろうな。でも我慢しているんだろうな。偉い!
案内してくれた神官さんが部屋から出ていき、トゥーリーンがソファーに腰掛けた。それを合図に、あたし達も向かいのソファーに座った。
うわ、めっちゃフカフカだ。思わず触ってしまう。
「さて、改めまして。お久しぶりです、皆さん」
「昨日ぶりですけど、はい、お久しぶりです」
トゥーリーンの挨拶に合わせて、あたし達はぺこぺこと頭を下げた。
「夢心さんの魔法の種の調子はどうですか?」
「バッチリです、たまに加減を間違えちゃうときはありますけど。どうやったら、飛行の試験で瞬間移動しないようになりますかね?」
「あらあら、それはまた珍しい悩みですね……目標に辿り着くことだけでなく、自分の体が地を離れてそこまで移動する過程もしっかりとイメージすれば出来るはずですよ」
「やっぱりそうなのか……イメージねえ。思ったより難しいなあ」
「普通はそもそも発動しないことで躓くのに、そうじゃないのが嫌らしいのです」
こういう悩みを漏らす度、リサはそう言って頬を膨らませるのだ。
トゥーリーンが膨らんだ部分を突くと、リサは驚いて「ぷはっ」と空気を漏らした。
「あら、リズエラは勉強家だから、1年生の授業で躓くことは無いと思っていたけれど」
「もちろん躓いてなどいません! でも、それ以上にムクが簡単に魔法を使いこなしてしまうのは、やっぱり羨ましくて悔しいのです」
「悔しい、と言っている割には楽しそうね」
「ええ!? ま、まあ、張り合いがある方が勉強にも身が入りますから」
「楽しそうにお友達の話をするようになって安心したわ。やはり一緒に行ってもらって正解でしたね」
リサが強がっているのをスルーして、トゥーリーンはあたしの方を見た。
丁度いいから、当時の愚痴をちょっとだけ言わせてもらおう。
「仲良くなれたから良かったですけど、最初はピリピリしたんですよ……。そもそも年が離れているのに、よく組ませようと思いましたね」
「多少の雨風に当てられた方が芽は力強く伸びていきます。成長に困難はつきものですから。後は……普通の友情は見飽きた、と言いますか」
トゥーリーンは少し恥ずかしそうにフフフと笑ったが、今のって爆弾発言じゃないだろうか。
目覚めの儀式で沢山子供を見てきたからなんだろうけれど、見飽きたってそれは神様としてどうなんだ。
「同年代の子供たちがつるむより、年が離れた者がくっつく過程が見たかった……。成程、トゥーリーン様はマイナーカップリング派なんですね」
「むーちゃん失礼だよ!? ごめんなさいトゥーリーン様」
「何故ハイルンが謝るのですか、自覚はありますから」
「自覚あるんかーい!」
本当にもう、フィルゼイトの大人は個性的じゃないといけない決まりでもあるんだろうか。
会話に入るタイミングを失ったのか、そもそも興味が無かったのか。リールは机の上に乗って、出された茶菓子に舌鼓を打っていた。
騒いでいるあたし達を尻目にのんびりクッキーを食べていたリールは、口の周りに付いたくずを綺麗にしてからあたしの袖を引っ張ってきた。
「ぼくもおはなしするー」
「はっ! 構ってやれなくてごめんよ! というかトゥーリーン様が連れてきてって言ったんだから質問してください!」
すねた顔になっているリールを撫でながら、あたしは矢継ぎ早に言葉を並べた。
その勢いに押されながら、トゥーリーンはリールに話しかけた。
「え、ええ……。『虚無』よ、最近経験した楽しいことを教えて貰えますか?」
「たのしいこと? ぷーのかげぶんしん!」
リールの説明はたどたどしいので翻訳すると、ヒュプノが『催眠』の力を使って分身を何体も創り出し、どれが本物かを当てる遊びをしているのだ。
最初は分身の反応が鈍くて簡単に当てられたのだが、繰り返すうちに上達して分身の数も増え、今ではなかなか判別出来ないらしい。
その上沢山のヒュプノに囲まれて、モフモフの海に飲まれてしまうようになっていた。
ヒュプノの癒しレベルがこんな形で上がることになるとは、と感心したものだ。
「ぷーね、わざとほんものなのにうごかなくなるの! それでだまされちゃうの……」
「あら、概念の化身をだませるくらい強い幻覚なのね。それは凄いわ」
「『きょむ』でにせものをけしたら、『ソレハ反則!』っておこるし……」
「分からないのに幻覚を選んで消せる力も凄いわね」
「すごい? ほんと!」
褒められてリールはパタパタと翼をはためかせた。
「初めて会った時は笑っていただけだったのに、こんなに感情豊かになるなんて。『虚無』が成長する様を見ることが出来て、『春』としてこれほど幸せなことはありません」
そう言われて思い返すと、言うことを素直に聞いていた時期から反抗期を経て、ずいぶん色んな表情を見せてくれるようになった気がする。
「これで、ヘラビスとディヴォンに話せる話題が増えたわ」
「……誰だっけ。会ったことあるっけ。学園の先生にいたような」
「それは気のせいなのです。どうして『秋』と『冬』の神様の名前がここで?」
知らない名前に困惑していたあたしを鎮めて、リサが質問した。
神様の名前だったか。どうりで聞いたことがあった訳だ。
「二人が『虚無』を歓迎していないという話は覚えているかしら? フィルゼイトへ来て暫く経って、問題は起きていないというのに未だに警戒を解いてくれなくて。学園の行事で二人の大陸へ行くこともあるだろうから、それまでに理解して貰えるように取り計らっていたのよ」
そういえば、自分たちもそれを解決するべく頑張ろうとか考えていたはずか、最近はすっかり学園生活をエンジョイしていた。
神様にしてもらってばかりでは良くないな。
「ありがとうございます、あたし達も……何を頑張ればいいんだろう」
「『虚無』の力はきちんと制御出来ているようだし、それで冒険者としての成果も上げているのなら、そのまま生活してくれればいいわ。春の大陸全体に『虚無』に良い印象を与えることが出来れば、ほぼ確実に認められるでしょう」
「今まで通りでいいなら簡単だね、頑張ろリール!」
「む? がんばる!」
話が自分から逸れたと思って油断していたのか、お茶を飲んでいたリールは口に含んだ分を飲み切ってから元気よく答えた。
「後は単純に強くなる、というのもいいかも知れませんね。私は気にしていないのだけれど、他の3柱は強さを求める節がありますから」
「他が全部脳筋って、よく世界成り立ってるなあ」
「……ヘラビス様もですか? 『夏』と『冬』に関してはよく耳にしますが」
リサがあたしを咎めても無駄だと悟ったのか、一瞬間をおいて質問していた。
『夏』は強くなってから会いに来いって言うくらいだもんなあ。そして『冬』とは双子、とくれはそこまでは理解できる。
「ええ、元から多少はそういう考えを持っていたわ。でも最近その勢いが増してきていて。ディザンマが何か吹き込んだんじゃないかしら……もっと平和にやっていきたいのに困ってしまうわ」
「ヘラビス様がディザンマ様のように暑苦しくなったら、『秋』じゃなくなってしまうのです」
残暑厳しい秋は確かに嫌だ。なんとか鎮まってくれるよう祈ろう。
強くなる件については、今回合唱魚のボス、ピッチ―を止めきれなかったことを反省して、あのような場面でも楽に対処できるくらいの実力を付けようということになった。
新たな目標が出来たところで、トゥーリーンが帰っていき、ようやく今回の依頼が一段落、となった。




