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第4話 異世界留学

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・病状等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

あるといいなあ……。

「ん? 人間に有り余る力? あたしが忘れっぽいのに理由があったの?」


 原因不明といわれてきた物忘れが、まさかこんなところで出てくるとは思いもしなかった。

 しかもなんだか禍々しい言い方をされた気がする。


「……それも説明しなきゃね。実はむーちゃんには魔法の才能があって、しかも物凄く強い力なの。忘れっぽいのは、その力をうまく使えてないからだと思う」


 物忘れの原因は、魔法の暴走。なるほど、それは病院では分からないわけだ。


「魔法を使える素質がないと概念の化身コンゼツォンは見えないから、間違いないと思う。原因不明の頭痛とか腰痛ってやつも、大体は同じ原因なんだよね」

「なら、使い方を覚えたらこの物忘れも治るの? な、なんで教えてくれなかったの?」


 ハルヒを責めるような物言いになってしまったが、引き下がるわけにはいかなかった。これはあたしにとって重大な問題だ。

 散々悩まされてきた問題の解決策を知っているのに、どうして教えてくれなかったのか――


「……それは、この世界では治せないからだよ」


 ハルヒは俯いて答えた。


「魔法の才能、って表現したのは、いわゆる魔力っていうのが備わってる訳じゃなくて、あくまで魔法を扱う力、変換器みたいなものがあるだけなの。魔法を使うためには大気中にある魔力をその変換器で使いたい魔法に変えるんだけど、地球には魔力がほとんどないから……」

「魔力が無いから変換器だけ空回りしている。それが長く続くと体の不調が生じる、ということだ」


 シュエートの補足もあり、なんとなく理解は出来た。治そうにもこの世界じゃ条件が満たせないから、ぬか喜びになってしまうから言わなかったのか。

 ……ん? 『この世界』?


「ただ、魔力のある場所に行けばこの問題は解決できる。変換器をきちんと使ってあげれば、段々記憶を失わなくなるはず。そして、リールちゃんにも力の使い方を学んで虚無の力が暴発したりしないようにしたい。そこで提案があるんだけど」


 ハルヒは一呼吸おいて、その提案を伝えた。


「むーちゃんとリールちゃん、二人で異世界に行って勉強してみない?」



 ハルヒの考えを纏めるとこうだ。


 あたしの記憶障害になっている魔法の変換器を正しく使うため、そしてリールの力の使い方も学ぶために、魔法技術の発達した異世界に留学する。

 留学としたのは、そういう体にすればいきなりこの世界からいなくなったり、学び終わって戻ってきたりするのに都合が良いからだ。

学校や両親には概念の化身コンゼツォン達が話をつけてくれるらしい。というより、そういう風に記憶を操ることができる概念の化身コンゼツォンがいるらしい。便利なものだ。

 ただ、地球に戻ってくるためには魔法を使わなくても体の不調が起きないようにする方法を探さなければならない。それがあるかどうかは分からないので、いつ戻れるかは未定。

 案内役としてハルヒも付いてきてくれることになった。こちらの世界の管理は、もう一人担当がいるので大丈夫らしい。


 考える時間も必要だろうから返事は急がないと言われたのだが、あたしは二つ返事で答えた。


「魔法の異世界……めっちゃ気になるし、物忘れが治るなら是非とも行きたい! 行かせてください!」

「え……いいの? いつ地球に戻って来られるか分からないのに」

「うーん、そもそも思い出が少ないからあんまり執着してないんだよね、親の顔だって最近忘れそうになるし。今一番の心残りになるといえばハルヒだけど、付いてきてくれるっていうなら何も問題ない!」


 薄情と言われるかも知れないが、忘れてしまったものはしょうがない。

 それに、もしかしたら異世界に行ったら夢が見つかるかもしれない。物忘れが改善したとしても、地球で夢が見つかる気はあまりしていなかったので、その点においても好都合だった。

 留学、という形をとってくれるのに悪いが、実は戻ってくる気もあまりない。ファンタジーな世界観のゲームや漫画が大好きな自分にとって、そんな世界に行けることは、正に夢のようなのだ。


「魔法が使えるって聞いて、行かないって言うと思ったの? 空を飛べたり、火の玉とか雷とか出せるようになるんでしょ? いや行くでしょ普通」

「さ、さすがむーちゃん……分かったよ。でもこっちの準備もあるから、一週間くらい待っててもらえる?」


 留学先に当てはあるが、まだ異世界側に相談していないらしい。今朝リールの事を話したばかりなのだから、むしろ半日でここまで考えてくれたハルヒに感謝するべきだろう。

 でも一週間は長い……待ちきれるだろうか。


「魔法かあ、異世界かあ! 楽しみだね、リール!」

「たのしいたのしい!」


 異世界の事を考えてそわそわし始めたあたしに、その一週間を記憶する余裕などあるはずがなく、気が付いたら出発の日になっていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 出発の朝。荷物はあらかた先に送ってもらったので、持っていくのは普段使っている通学カバンで足りる。貴重品類も世界が違っては意味をなさないので、大事なものとしては携帯ゲーム機と、今使っている日記帳くらいだ。


「これにお世話にならずに済む日が来るのか……」


 実感が湧かないが、これから異世界に行って、今までの悩みだったことが全て解決する。それによって人生が大きく変わるだろう事から、期待の方が大きいが不安もあった。


「ムウ、いこいこ!」


 準備の必要がないリールは、起きてからずっとあたしのことを急かしてきた。両親は、今日が出発の日と分かっていたはずなのだが、忙しいのかいつものように先に家を出ていた。

 特に見送って欲しいというわけでも無かったので問題ないが。これだけ執着心が無かったら、あっという間に忘れてしまいそうだな……。


「分かったよ、行こうか」


 その言葉を聞いて、リールはあたしの頭の上に乗った。異世界に行くことを理解しているのか分からないが、髪の毛を掴んでゆらゆらと動いている。

 一応リールもこちらの世界が故郷なのだが、それこそ生まれて一週間なので、心残りなんてあるわけが無い。

 あたし達は、世界一故郷に未練の無い二人に違いない。まさに空っぽコンビだ、なんて考えていたら不安はいつの間にか無くなっていた。


 玄関で忘れ物が無いか念入りに確認し、ドアを開けてから家の中を振り返って一言呟いた。


「いままでありがとう。行ってきます」

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