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第38話 シュプリアイゼン大神殿

 モーア湿原での討伐依頼を終えて、翌日の昼過ぎ。

 あたしとリール、ハルヒ、リサは街に出て神殿へ向かっていった。


「この時間だと昼の礼拝も終わっていますから、慣れない人はむしろ居やすい雰囲気になっているはずなのです」

「それは安心。まあ、狙ってきた訳じゃないけど……」


 昨日は帰ってからもギルドで依頼の報告や剥ぎ取ってきた部位の清算と、夜までみっちり仕事をしたので疲れ果てて寝坊してしまったのだ。


「杖を必死に握っていたせいで、まだ手が痛いのです」

「あたしは足! あんな足場悪い所歩き回ったから筋肉痛……まだ寝ていたい」

「まっさーじしたのに、ダメだった?」

「ううん、あれは気持ちよかったよ~。ありがとうリール」


 あたしの傍を飛んでいたリールを撫でてやる。足以外にも全身筋肉痛なので、今日は頭に乗るのを遠慮してもらっていた。


 リールはシュロムにお風呂に入れてもらっただけでなく、ペットショップで得た知識を活かしたケアを存分に受けてきたらしい。マッサージはその一つで、リールはそれが気持ちよかったからと、疲れて帰ってきたあたしにも施してくれたのだ。


 いまいちツボを押さえ切れてなかったのは人間とドラゴンの体のつくりの違いか、それともリールが適当に揉んだからか。どちらにせよ気持ちよさ以上に癒されたのは間違いない。


「昨日ムクの部屋から奇声が聞こえたのは、マッサージを受けていたからだったのですね」

「え、そんなに声響いてた?」

「部屋の前を通れば嫌でも聞こえてきたのです、どすの効いた低音ボイスが」

「ちょっと恥ずかしい……」


 あの喘ぎ声を聞かれてしまったのか……。

 恥ずかしさから顔を手で覆って歩いていたら、前からやって来た人とぶつかってしまった。


「ごめんなさい! あれ、ジョー……ゾルくん?」

「ああ……昨日ぶりだな」


 手を離して視界を開くと、ぶつかってしまったのはゾルくんだったことが分かった。

 傍らには火炎狼フランメヴォルフのパルトの姿もある。


「もしかしてお散歩中?」

「まあそんなところだ。一日放っておいたから相手しろとうるさくてな」


 ゾルくんがパルトの頭を撫でると、パルトはふさふさの尻尾を振って「くぅん」と甘えた声を上げた。

 狼の威厳はどこだ。可愛いなあ。


「ドラゴンも散歩が必要なのか?」

「ん? どうなんだろ。ハルヒ?」

「え、そうだなあ。した方がいいけれど必要って訳じゃない、と思うよ」


 適度な運動の為には必要なんだろうけれど、リールはドラゴンである以前に概念の化身コンゼツォン、魔力の塊なので、事情がよく分からない。


 ハルヒもなんだか曖昧だ。自分の事でもあるのに。


「おさんぽ……パル、おさんぽってたのしい?」

「ワウ」


 リールは地面に降りて、ぐっと首を伸ばしてパルトに問いかけた。

 パルトは逆に頭を下げて、目線を合わせて一言吠えた。


「ムウ、ぼくもおさんぽする!」


 パルトの返事は肯定を意味していたらしい。目を輝かせたリールが手を振り回してこちらへアピールしてきた。


「今してるようなものだけどね、いいよ」

「わーいおさんぽ!」


 胸に飛び込んでくるリールをキャッチして、まさぐりながらゾルくんへ向き直った。


「俺達は依頼をこなしてくるから、じゃあな」

「え、昨日あんなに戦ったばかりなのに!? 凄い体力……」

「まだ足りない。それを鍛えるための特訓だ」


 ゾルくんは早足でその場を立ち去り、それを追う様にパルトも駆けていった。


「なんだか前より優しい印象になったね。この前はリサちゃんと睨み合ってたのに」

「共闘で生まれた信頼関係ってやつかなあ~ふふふ」

「私はまだ信用していないのです。何か企んでいると言っていましたし、油断は出来ないのです」

「それが良いんだよ! クールで強くてミステリアスで、ちょっと危なっかしい一面もあるとかね、腐女子っ気もある身としては堪らない訳ですよ」

「むーちゃん闇堕ちとか好きだもんね……」

「はっ! ゾルくんが闇堕ちするのは助けたい、けど一回堕ちたところ見てからでもいいかな?」

「そこは堕ちる前に助けて欲しいのです」


 闇堕ち闇堕ちと言いながら神殿に向かうのは如何なものかと思いながらも、ゾルくんと出会えたことで高揚しながら移動を再開した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ワウワウ」

「勿論だ、強い奴で信用出来るのはお前だけだ。でも、利用できる強い奴なら近づいてとことん使ってやる。それが近道なら」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 シュプリアイゼン大神殿。


 門から建物の入口まで長く伸びる噴水の列を、鮮やかな花壇が彩っている。

 神殿自体も軽く見上げるくらいでは天辺が見えない程巨大な上、白い壁には複雑な金色の装飾が施されている。


 名前に違わぬ荘厳な造りに、あたしは入るのを躊躇っていた。


「初めて入ったあの神殿とは大違いだ……」

「あそこは大陸の中でも小さめの神殿ですからね、ほら入りますよ」

「え、まだ心の準備が」


 リサに背中を押されて中に入ると、耳が痛くなるような静けさに迎えられた。


「わああ、こういう静かすぎるところ苦手なんだよ」

「静かに祈りを捧げるための場所ですからね。さあ行きましょう」


 神官見習いというだけあり、リサは慣れた様子であたし達を先導してくれた。


 聖堂というのだろうか、小さめのホールの様な空間に豪奢な椅子が配置され、何人かがそこに座って祈りを捧げていた。

 ピリッとした雰囲気に緊張しながら奥へと進む。


 リールもこの雰囲気を理解しているのか、地面に降りて大人しくしていた。

 初めて一緒に神殿に来た時はよちよち歩きだったのに、今はしっかりとした足取りで付いてきている。それが嬉しくて、少しだけ緊張が解けた。

 視線を上げると、一段上がったステージの様な場所に見覚えのある人影が佇んでいた。


「あ、トゥーリーン……の、像か」


 吹き抜けの天井やステンドグラスから降り注ぐ光に照らされていたのは、純白のトゥーリーン像だった。指の先、髪の毛の一本までとても精巧に作られている。


「初めてですか? 祝詞が分からなければ、代わりに唱えさせて頂きますね」


 近くにいた神官が声を掛けてきた。


「それには及びません、私も見習いとはいえ神官ですから。リズエラ・リーンと申します」

「リーン……もしかして、ロホス大神官の娘さん?」

「はい、父がお世話になっています」

「そんな、面倒を見て貰っているのはこちらの方です。それなら私が手伝ってはむしろ邪魔ですね、失礼しました」

「いえいえ、そんなこと無いのです。ありがとうございます」


 神官は頭を下げるとそそくさと離れていった。


「リサのお父さんって偉い人なのか」

「神官としては尊敬できる人ですね。父親としては……いえ、ここで話すのは流石に可哀想なので止めておきましょう」


 リサは話を打ち切るとトゥーリーンの像に向き直った。

 仕事は出来るけど家ではだらしないタイプなんだろうな……。


「では簡単な祝詞を捧げますから、復唱してください」


 リサが手を組んで胸に当て、真似をするように目で促してきた。

 同じポーズを取ると、リサは凛とした声で祝詞を唱え始めた。


「4つの大地 4人の神よ」

「良かった、来てくれたのね!」


 ところがあたし達が復唱を始める前に、部屋中に花吹雪が舞い踊ってトゥーリーンが姿を現した。


「トゥーリーン様!? で、出てきてしまって良いのですか?」

「話がしたいのに念話じゃあ味気ないでしょう。もう昼も過ぎてしまったから、また忘れられたのかと心配だったのよ」


 だからって祈り始めた途端に出てくるのはどうなんだ。リサも複雑な表情をしていた。


「トゥーリーン様!? 一体何が!?」

「ああ、気にしないで、今日はプライベートだから。この方達とゆっくり話がしたいのだけれど、お部屋は空いているかしら?」

「は、はい、直ぐに用意いたします!」


 先程声を掛けてくれた神官さんが慌てて人を集め、準備を始めた。

 神様がいきなり訪ねてきたのだ、混乱もするだろう。

 なんであたし達は慣れてしまっているんだ。


 未だ混乱したまま、といった表情の神官さんに案内されて、あたし達は聖堂を後にした。


来週の更新はお休みです。


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