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第36話 初めてのボス戦

「ええええ!?!? いやボス戦は覚悟してたけど、大きすぎない!?」


 爆発した地面から現れた合唱魚コーアフォーレは、今まで相手をしていた個体の何倍、と考えるのも面倒なくらい巨大で、群れのボスに相応しい風格を備えていた。


 人を丸呑み出来るほど大きな口がゆっくりと開かれる。息を吸い込む音が聞こえて、あたし達は咄嗟に耳を塞いだ。


『ホアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!』


 空気がビリビリ震える。鼓膜が破れそうな程大きな鳴き声が湿原中に響き渡った。

 味方であるはずの合唱魚コーアフォーレ達すら硬直させた爆音で、全身が痺れて一瞬動けなくなった。


「うわ、これがバインドボイスってやつですか……硬直しちゃうのもしょうがないねコレは」


 今までゲームでこれを食らっていた時は「早く動け!」とレバガチャしていたものだが、むしろ回避行動で無効化できることに疑問を抱くまでになった。耳栓スキル欲しいなあ。


 ちなみに、耳を塞ぐのが遅れたらしいユングルの部下は失神してしまっていた。


「なんだあの巨大合唱魚コーアフォーレは!? お前らの差し金か!?」

「は? いやいやそんな訳ないでしょう。差し金と言えば、貴方が飛ばしてきた合唱魚コーアフォーレには驚いたんですからね!」

「まさかお前らの所に飛んで行ってたとは……手柄の横取りは許さねえぞ、きっちり返してもらうからな!」

「そこは先生に了承を取りました。止めを刺したもの、剥ぎ取ったもの勝ちなのです!」


 目が合ったらバトルするのが定着してしまったのか、リサとユングルが口論を始めた。


「喧嘩してる場合じゃないよ、穴から普通の合唱魚コーアフォーレも湧いてきたし!」


 巨大合唱魚コーアフォーレが出てきた穴から、今まで隠れていたらしい合唱魚コーアフォーレ達がわんさか飛び出している。

 先程相手にした群れより数が格段に多い上、ボスがいるおかげか張り切って鳴き声を上げている。バインドボイス程ではないがかなりうるさい。


「んなもん吹き飛ばせばいいだろ? ほらよ!」


 ユングルが穴目掛けて風の魔法を放った。小さな竜巻が起こり、周りにいた合唱魚コーアフォーレ達が吹き飛ばされた。


「討伐数がオーバーしそうだが緊急事態だ。戦っていいよな?」

「ああ、存分に戦え。その雄姿を見せるがよい」


 ジョートリス君が頭上へ声を掛けた。先程と違い、だいぶ近くまでワキュリー先生が降りてきていた。

 先生は剣に手をかけてウズウズしているが、あくまで監視なので戦闘には参加しないようだ。


 向こうのチームが何匹討伐したのか分からないが、ここにいる数だけで100匹近くになるので確実にオーバーする。かといって中途半端に戦闘を止めて逃げ出せるような状況にはならないだろう。戦うしかない。


 先生に確認を取ったジョートリス君が、前へ出て杖を顔の前に掲げた。

 つららの様な、薄い水色で透き通った杖には真っ赤な魔法の種ケルン────炎の1級がはめ込まれていた。


「炎よ、舞い踊れ」


 呪文を唱えたジョートリス君が目を見開くと、杖先に炎が灯った。

 それを前方へ振ると、炎はいくつかの球体となって飛んでいき、近くにいた合唱魚コーアフォーレ達を飲み込んで燃え上がった。


 もう一度杖を振ると、火球は成長して大きな火柱となり辺りを包み込んだ。

 火が収まった場所には、沢山の焼き魚が完成していた。


「美味しい香りが漂う……それ以上に詠唱が格好良すぎて惚れる! 待って、録画準備するからもう一回」

「見惚れている場合ですか! ムクも攻撃してください!」


 そう叫んだリサは、既に蔦のゴーレムを作り終え、大きな槍に変身したランズを使って合唱魚コーアフォーレをいなしていた。

 しかし合唱魚コーアフォーレ達の警戒心が上がっていて、なかなか近寄ってこない上にすぐボスの陰に隠れてしまうので、数を減らせていなかった。


「みんなが取り巻きを相手するなら、あたしはボスをどうにかしないとね……どうしよう」


 ボスは目をきょろきょろ動かすだけで、大した動きを見せない。複数方向から攻撃を受けている群れを見て、どこに加勢するべきか迷っているのだろうか。


 これだけ大きいと、氷の礫程度ではダメージにならなそうだ。

 『アイシクル・アロー』の特大版を作って刺してみる? でも一撃で倒せないと暴れる上に砕けた氷でこちらもダメージを負いかねない。


 しばしの躊躇い。この隙を見逃さなかったのはボス、ではなくユングルだった。


「異世界人の初心者に任せられるか! 俺様の風魔法で吹き飛ばしてやる!」


 自分の周りにいた合唱魚コーアフォーレを蹴散らしたユングルは、そのままボスへ突っ込み、竜巻をお見舞いした。

 しかし相手が巨大すぎた。吹き飛ぶどころか、攻撃とすら感じなかったのだろう。ボスは目を半分閉じて、鬱陶しげに身をよじるだけだった。


「効かない……いや、吹き飛ばないなら切り刻むだけだ! おらおら!」


 ユングルは風魔法を、今度は凝縮して鋭く飛ばし、ダメージを与えようとした。


 これは有効だったらしく、当たった場所の鱗が飛んだ。しかしそれ以上深い傷にはならず、それでもユングルを敵と見定めたボスは、そちらを向いてまたバインドボイスを放った。

 魔法を放ったまま無防備だったユングルは、衝撃でひっくり返ってしまった。


「うわ!? 服が泥だらけになっちまった、許さねえ! ってあれ、立ち上がれない……?」


 ユングルはひっくり返ったまま動けずにいた。バインドボイスの硬直にしては長すぎる。


「魔法の使いすぎだ。体力切れだな」


 ジョートリス君がため息混じりに呟いた。こっちまで合唱魚コーアフォーレを飛ばしたこともあるし、ずいぶん魔法を乱射したのだろう。


「ああ、それ辛いよねー。ありがとー、ボスの注意を引き付けてくれて」

「ちくしょう言い方ムカつくな! お前の為じゃねーよ!」


 失礼な。これでも精一杯感謝を込めたのに。


 ボスがユングルに気を取られている隙に、あたしはボスに触れるほど近くにまで接近した。

 氷を飛ばすのが駄目なら、近づけばいいじゃない。


「そして凍らせればいいじゃない! 『アイシクル・ミスト』!」


 考えたばかりの技名を叫びながら杖を振る。杖先からボスへ向かって、大量の冷気があふれ出した。

 狙いは足元。瞬く間に胸ヒレが凍り、胴体の鱗に霜が降りる。

 いきなり冷気が襲ってきたことに驚いたのか、ボスは「ヒヨ!?」と間抜けな声を上げた。


「拡散しないように気を付けるけど、離れててね! 動けない奴は知らん!」

「ちょっと待て、俺様も凍っちまうだろ!? うわ、寒っ」


 なるべくボスだけに冷気が纏わりつくように制御しているものの、漏れてしまうものはしょうがない。一番近くにいたユングルは動けないまま寒さに震えていた。

 廊下で対峙した時に出来なかった分、ちょっぴり仕返しだ。


 このままボスを足止めして、みんなに取り巻きをやっつけてもらおう。

 既に数は半分程に減っていて、このまま押し切れそうだ。


 そう思っていたのだが、ここで遂にボスが本気を出した。


「ヒョウ……ホワアアアゥ……!」

「嘘、動けるの!?」


 体が半分ほど凍り付いたはずのボスは、鳴き声の振動で顔周りの氷を割り、身を震わせてヒレの氷にヒビを入れ、なんとかして動き出そうともがき始めたのだ。


「これ以上強くしたら本当にユングル氷漬けにしちゃうし、それはハルヒに怒られるよなあ……ええ、どうしよ!?」


 とりあえず現状維持を目指して冷気を送り続けてみたが、群れがやられて怒っているのかどんどん抵抗が激しくなり、じわじわ押され始めた。

 そこに更なる悲報が。


「これ以上は持たないのです……」


 リサの体力も限界が近いのか、蔦のゴーレムの動きが緩慢になり、一部はほどけ始めていた。

 ジョートリス君はまだ余裕がありそうだがそれは体力だけの話。まだ20匹以上残っている合唱魚コーアフォーレ全部を相手にするには手が足りない。


 かといってあたしが加勢しようにも、ボスが動いてしまえば全滅しかねないのでここから動けない。

 同時に二つ魔法を打つとか器用な真似が出来れば良かったのだが、その余裕は無かった。


「もう無理かも……! 先生ヘルプ!」


 自分たちだけでは対処しきれないと悟り、ワキュリー先生へ助けを求めた。

 しかし先生は降りてこようとしない。まだ助ける場面では無いとでも言うのか……もしかして、殉じる覚悟でやれとか言い出さないよね!?


 そうこうしているうちに蔦のゴーレムが崩れ去り、リサはその場に座り込んでお祈りを始めてしまった。

 無防備なリサをランズとジョートリス君が守っているが、防戦一方で苦しそうにしている。


 劣勢になっていく状況を見てあたしは混乱し、魔法の集中を乱してしまった。その隙を突いて、ボスが大きく動いてヒレの氷を振り払った。

 慌てて冷気を送りなおすが動きを止められない────


今月から水曜投稿にしてみようと思います。

そして月末は引っ越しのため投稿をお休みします。

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