第34話 蔦のゴーレム
「いよいよなのだな。頼んだぞ!」
意気込んだランズはゴーレムに近づいてジャンプし、同時に槍へと変身した。
ウルドの森で見せた三叉ではなく、鋭く大きな刃が一つ付いた槍だ。サイズはゴーレムに合わせて、普通のものよりかなり長く太くなっている。
変身したタイミングをうまく見計らって、ゴーレムは蔦の手でそれをキャッチした。
「私もムクも、槍は扱い慣れていません。しかし、武器を扱えるのは人間や概念の化身だけではありません。魔物だって使ってくることがありますし、こうして魔法を使えば植物にだって操ることは出来るのです!」
リサの熱弁に合わせてゴーレムが槍を構えて素振りをした。大きな槍が空を鋭く突くと、周りに風が巻き起こった。
巨大な武器をここまで扱えるなら、魔物が群れて襲ってきても対処できそうだ。
向こうからの攻撃も大きな盾として肩代わりしてくれるし、攻撃にも防御にも使える万能ゴーレムだ。
「おお、構えがなっているな。素晴らしい」
「でしょう? 勉強した成果はまだまだこんなものではないですよ、楽しみにしていて下さい」
槍になったランズが興奮した様子で話し掛けてきた。その姿でも会話できたんだ。
「ん、勉強? リサ、このゴーレムって自動で動くんじゃないの?」
「そんな高度な魔法は使えません、全て私が命令しています。ランズさんを使いこなせるように、槍の扱い方は覚えてきたのですよ」
自分で使うのではなく、操る植物に使わせるために武器の勉強をする……。
初めてのテストで赤点を出すあたしとは大違いの勤勉ぶりだ。攻撃なんて、氷魔法を数打ちゃ当たる脳筋プレイしか考えていなかった。
「これだけ大きかったら素手でも魔物を倒せそうなもんだけど」
「そこも魔法の種の限界です。元々植物は香りや毒で惑わしたり棘を身にまとったり、という行動阻害や防御が得意な生き物で、攻撃性は低いですから」
でもいつかそのレベルまで強化してみたいですね、とリサが言うと「私の出番が無くなってしまう!」とランズが暴れだし、それを押さえつけるためにゴーレムの腕部分の蔓が増量された。
行動阻害が得意とはそういうことか。
「さて、あまり時間を無駄には出来ません。もう少し近づいて、作戦を開始しましょう」
蔦のゴーレムはその形を維持するだけでも魔力を使う。回復手段があるとはいえ、消耗するだけなのはもったいない。
合唱魚を刺激しないようにゆっくりと川へ近づき、一匹一匹をしっかり確認できる位置までやってきた。
ちらちらとこちらを気にしている個体もいるが、基本的にはのんきに鳴き声を上げている。
「それじゃ行くよ。氷の雨よ、降り注げ! 『アイシクル・レイン』!」
ちゃんとこの技にも呪文を考えてきたのだ。
ただ、この魔法で命を奪ってしまうことを考えたら、先程のように意気揚々と放つことは出来なかった。
うーん、やっぱり気になっちゃうなあ。異世界転移もので初めからそつなく魔物討伐をこなす登場人物たちって割とサイコパスだったのでは。
そんな思考をよそに、川の上空に作られた大量の氷は真下へ一直線に降り注ぎ、合唱魚達に襲い掛かった。
水から頭を出していた個体は一撃で倒すことが出来たが、水の中では氷の勢いが殺されてしまいあまりダメージを与えられない。驚いた魚は一斉に川から飛び上がり、あたし達を見つけると金切り声を上げて走ってきた。
大きな魚の群れが立派なヒレを使ってこちらへ走ってくる光景は、ちょっとしたホラー映画を見ている様だった。事前にそういう魔物だと知っていなかったらパニックになりそう。
鳴き声が酷くうるさいのもあり、あたし達は一瞬動きを止めてしまった。
「よ、よーし、行きますよ!」
リサもこの状況に気圧されていたが、ぎゅっと杖を握りなおして体制を整えた。
それに呼応するようにゴーレムも姿勢を正し、槍を合唱魚達へ向ける。
ぐんぐんと群れが近づいてきて、もう少しで槍の攻撃圏内に入るかと思われたその時。
「ふ、もう当たるところまで来ているのですよ!」
リサが杖をくるりと振ると、ゴーレムの腕部分の蔦がうごめき、急激に成長を始めた。
腕はあっという間に倍以上の長さになり、正面から向かってきていた合唱魚をまとめて槍で串刺しにした。
突然仲間がやられたことで硬直し隙が生まれた群れに、畳み掛けるように薙ぎ払いが炸裂。あっという間に半数近くの合唱魚が倒れた。
残りは10匹ほど。アイシクル・レインと薙ぎ払いのダメージを受けてなお動ける、群れの中でも強い個体なのだろう。
合唱魚達は半分に分かれ、ゴーレムに向かって左右からの同時攻撃を試みた。統率の取れた素早い群れの動きに、両方の攻撃は避けられないと思ったあたしは援護しようと前へ出た。
「まだまだ、こんなものではやられないのです!」
しかしリサの判断はそれより早かった。
魔法の指示を受けたゴーレムは、右側の群れを持っていた槍で薙ぎ払うと同時に、左側の群れには腕から伸ばした蔓を放って牽制。更に態勢の崩れた個体を狙って体を縛り上げ、動きを封じた。
「うまい、でも一匹取り逃してる!」
牽制から素早く退避した一匹は、そのままゴーレムの後ろに回り込んで体当たりを仕掛けた。
流石に回避も間に合わず、まともに食らってしまった……だろう。普通の魔物や石のゴーレムだったら。
蔦のゴーレムは体当たりを受ける直前に、背中から体内にかけての蔦を引かせて体に大きな穴を作った。その穴に見事ダイブした合唱魚は、そのまま大量の蔦に絡めとられてしまった。
後は順番に止めを刺して、群れの殲滅は完了だ。
「はあ……すげー!!! 人間じゃ出来ない動きだよ、よくこんなに動かせたね、いや凄いわ」
「魔法はイメージが大事ですから。これくらい出来ないとせっかくの魔法の種が勿体ないのです」
戦闘の華麗さに言葉を失うあたしを軽くあしらったリサは、ゴーレムに近づいて体を撫でた。
「お疲れ様なのです」
労いの言葉をかけると、ゴーレムの形はあっという間に崩れていき、蔦の山になったかと思えば端から茶色く枯れてしまった。
「あれ、こんなになっちゃうんだ」
「無理矢理成長させた挙句激しく動かしましたから、枯れてしまうのは仕方ないのです」
リサが枯れた蔦の断片に触れると、パリンと割れて塵になって飛び散った。
「寂しいですがお別れなのです。もう一体分のイーフは残っていますから安心してください」
「おーい、手伝ってくれぬか! 巨大化に体力を使って疲れているのだ……」
二人で感傷に浸っていると、山の向こうからランズの声が聞こえてきた。合唱魚の解体のことだろう、あれだけの数をこなすには時間がかかりそうだ。
「ごめーん、やるやる!」
リサが蔦の中に閉じ込められた合唱魚を掘り出しにかかるのを見て、あたしはランズの方を手伝いに行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーん、もう少し狩らないといけませんね」
川の中に沈んでいた個体は飛行の魔法を使って引き揚げ、すべての解体が終わった。
尾びれの数を数えると42枚、討伐するべき残りは8匹である。
「群れを相手にしたら狩りすぎる、かといってはぐれに早々出会えるとも限らない……難しいな」
「ちょうどいい数、どこかから湧いてこないかなあ。リポップまでどんくらいだろ?」
だからゲームじゃないんだって! というツッコミを脳内ハルヒで済ませたあたしは、そこである異変に気が付いた。
「合唱魚の鳴き声だ。でも、周りに見えないよね?」
「確かに、でもだんだん大きくなっているな」
「川の中にもいないのです……いや? 影が見えるような……」
一番怪しいのは川の中だ。川底に隠れていた個体が出てきたのかもしれない。
リサが見かけたという影を探すため川を覗くと、それはすぐに見つかった。
見つかったというかぶつかったというか。
水面に映しだされた影の持ち主は、あたし達のすぐ上、空中にいたのだ。
「「「えええええええええ!?!?!?」」」
バシャーン! と大きな水しぶきを上げて、何匹もの合唱魚が川に落ちていった。
水しぶきにあおられて、あたしとリサはその場でしりもちをつき、ランズはバランスを崩して川の中に落下した。




