第31話 冒険者らしい決め方で
「自らの仕事を放棄するとは使命感が足りぬ! 戦場で命令を聞かない者は切り捨てられるぞ!」
ハルヒから状況を説明されたワキュリー先生は、そんな風にユングルを一喝した。
戦士らしい説教で、ちょっと論点がずれてるけれど。
こちらとしては、偉そうな態度や女の子を無理矢理従えていることも注意して欲しいのだが。
「プリント運びはユングルが責任をもって行うこと」
「ちっ、分かったよ」
意外にも大人しく言うことを聞くユングル。授業中のワキュリー先生はかなり厳しいから、逆らったら大変なことになるのは理解しているようだ。
ワキュリー先生は頷くと、木剣で地面を叩きながら辺りをぐるっと見回した。カンカンと音が鳴り、先生の目線が通り過ぎる。この音、凄く心臓に悪い。
「しかし、これだけでは場が治まる状況ではなさそうだな」
先生の言う通り、当事者の中に納得した顔は見当たらなかった。
リサはユングルを睨みつけたままだし、あたしも黙ってはいるけど気は収まっていない。先生がいなくなればすぐに口論が再開されてもおかしくなかった。
「皆、冒険者の登録は済ませてあるか?」
突然ワキュリー先生はそんなことを聞いてきた。今の状況に関係無さそうな質問に、疑問に思いながらも全員が頷く。
それを確認したワキュリー先生は、ある解決策を提示してきた。
「ならばここは冒険者らしく、魔物の討伐で決着をつけようではないか」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ワキュリー先生が一年生を引率してきた……今年もそんな時期ですか」
「ハフトリープ、要件は分かっているな」
「はーい、なんか良いのあったかなあ」
ユングルがプリントを教室まで運び終わってから、ワキュリー先生に連れてこられたのはギルドの受付だった。
ハフトリープさんは依頼書の束をめくり、うーんと唸り始めた。
「先生、討伐系の依頼は禁止されてるんじゃなかったんですか?」
「それを素直に聞く生徒ばかりではないからな。依頼も受けずに勝手に探索に出て、行方不明になる生徒は後を絶たない。それなら、居場所が分かるように目の前で依頼を受けて行った方が、何かあった時に対処しやすい」
「……? 理解しかけましたけど、禁止されてるのにわざわざ生徒をけしかけるってやっぱり駄目なんじゃ」
「ナカガワくん、先生は戦闘狂だから。見るのもやるのも好きなタイプ。察してあげて」
ハフトリープさんが依頼書をめくりながら耳打ちしてきた。
先程も要件を聞かずに作業を始めたし、ワキュリー先生が生徒同士の諍いを治める名目で討伐へ送り出すのはよくあることなのだろう。
それに行方不明になったところで、ここには監視のスペシャリスト、学園長がいる。居場所は言わなくても把握されているに違いない。
要するに生徒と魔物の戦いを観戦するという、先生の趣味に巻き込まれた形だ。
というか学園長、この騒ぎだって見てるだろうに止めに来ないのは、ワキュリー先生が怖いからだろうか……。
「これなんてどうでしょ」
ハフトリープさんは書類をめくる手を止めて、一枚の依頼書をこちらに寄こしてきた。
「ほう、合唱魚100匹の討伐か」
「100匹!?」
聞いたことがない魔物な上に、数が多い。
初めての探索ではなるべく戦闘を避けるように言われ、討伐依頼は未経験。極めつけに授業ではようやく飛行の魔法の練習を始めた段階で攻撃魔法なんて習っていないのに、なんという無茶ぶりだろうか。
普通ゴブリンとかスライムとかじゃ無いのか……あ、スライムなら倒したことあるや。流石に100匹はいなかったと思うけれど。
「なんだ、怖気付いたなら帰っていいんだぞ?」
依頼内容に驚くあたしを見るや、ここぞとばかりにユングルが煽ってきた。
「いや、ちょっとびっくりしただけだし。そっちこそ2組なんだから、戦力物足りないんじゃない?」
「お気遣いどうも。だが俺様は、目覚めの儀式で判定された等級を覆した男だ。このくらい軽くこなせるさ」
「え、そんなことあり得るの?」
純粋に質問したのがまずかった。この後長々とユングルの自慢話に付き合わされてしまったのだ。
簡単にまとめると、最初は4級と判定されたユングルだったが、それを認めず魔法を猛練習して3級相当まで魔法を使えるようになり、ここへ入学出来るようになったらしい。
ただ偉そうにしているだけかと思ったら、努力家なところがあったのか。
そこには感心できるけれど、やっぱり人間性があれなので認めることはできないな。
「俺様の才能を見誤った神様なんて、やっぱりしょうもないよなあ。住処どころか頭の中までお花畑なんじゃないか?」
「ユングル、戯言はそこまでにしておくのだな」
神への侮辱的な発言にリサが殴りかかろうとしたのを見て、ワキュリー先生がユングルを制した。
先生も露骨に嫌な顔をしている。というか神様が実在しているこの世界でよく悪口言えるなあ。肝が据わっているのか、ただの馬鹿なのか。
「この依頼を同時に受け、先に50匹を討伐した方を勝者とする。これでどうだ?」
「面白そうじゃねえか」
「トゥーリーン様の名に懸けて、必ず勝つのです」
ユングルとリサは我先にと依頼書に名前を書き込んだ。後からランズも、リサの下に名前を書き連ねた。
「言っとくけど、一人で行くのは本当に禁止だからね。最低でも3人以上のチームを組むこと。合唱魚は群れで行動するから、こっちも数を揃えてかないと押し切られちゃうよ」
ハフトリープさんからの注意を受けて、ランズはあたしの方へ振り返った。
「3人、ならばもう一人は夢心殿、貴殿に頼みたい」
「よしきた任せろ! あ、ハルヒは無理して付いてこなくていいからね、あたしが首突っ込みたいだけだから」
先程からギルドの入り口でもじもじしていたハルヒに声を掛けた。
基本的に争いごとは好まない子なのだ。そもそも、喧嘩をここまで発展させたくなかったに違いない。でも言い出したのが先生だから、反対だと言えなかったのだろう。
「うん、あ、でもみんなが怪我したら困るし……」
「こいつを成敗するのにハルヒ様の手を煩わせるわけにはいかないのです! ここは任せて下さい!」
「リサちゃんのやる気が怖い……無茶しないように、お願いね?」
「はいなのです!」
リサの気迫にけおされて、ハルヒは一歩後ろへ下がった。
「ハルヒには、リールの面倒を見て貰わなきゃ。だって……ハフトリープさん、討伐の証明ってどうやってするんですか?」
なんとなくやり方は分かるが、念のために聞いておく。
「魚系の魔物なら、尾びれを取ってくればいいね。今回は50枚とかなり多めだし生臭いから、専用のアイテムポーチを用意するといいよ」
やはり魔物の部位を残さなければならない。となるとリールの力は使えなくなる。
『傘』のように防御専門で使うならありだが、魔物が体当たりしてきて消えてしまう可能性もある。
今後リールと魔物討伐をする時の事を考えないとなあ。毎回お留守番じゃあたしが寂しいし、早く普通の魔法を覚えさせないと。
「そういう訳だからリール、今回はお留守番ね」
「うん、しゅろとおふろしてまってる!」
「ぐぬぬ……さっきOKだしちゃったもんな……」
シャンプー権を譲ったことに後ろ髪を引かれながら、あたしも依頼書に名前を記入した。
「棒切れのお供は女二人ときたか。それも怠け者の神官見習いと魔法初心者の異世界人! へえ、人望あるじゃないか」
よくそんなに言葉が出てくるな。
確かに魔法初心者だけど、絶対ユングルよりは強い確信があるぞ。ハルヒに止められたから出来ないけど、せめてそのうるさい口だけは凍らせてやりたい。
「3人チームね、俺様のお供は……」
「その依頼、俺を連れて行ってくれ」
ユングルのチームに名乗りを上げたのは、一緒にいた取り巻きではなかった。
「お、ジョートリス君じゃないか」
「え、なんで!?」
ギルドの入り口に立っていたジョートリスくんはこちらへ近づいてきて、ユングルの隣で立ち止まった。
「魔物の討伐なら力になれる。その代わりに」
「あー、ウチの商品が欲しいって言ってたか。分かったよ、相応の働きをしたら父様にかけあってやる」
「決まりだな」
ジョートリスくんはそのまま受付に向かい、ユングルの下に名前を書き連ねた。
「えー! こんな奴の下に付くの!? 間違ってるよ!」
「必要な事なんだ。間違っていても俺はやる」
うん! そのミステリアスな感じとても好みなんだけど、理由があるとはいえユングル側に行ってしまうなんて。嘘だと言って欲しかった。
「同じクラスとはいえ、敵になるのなら容赦はしませんよ」
「リズエラ・リーン……お前の属性は植物だったな。俺の炎とは相性が悪いぞ」
「なんで直接やりあおうとしてるのかな? 魔物の討伐だからね。現地でも喧嘩したりするんじゃないよ」
ハフトリープさんが注意するも、リサとジョートリスくんの視線のぶつかり合いは止まらない。
そうしている間にユングルは取り巻きの一人を指名して、三人目として登録した。
「出発は次の休み、二日目の朝だね。気を付けていってらっしゃーい」
「冒険の準備と俺様への謝罪文、しっかり用意しておくんだな」
「それはこっちのセリフなのです!」
ユングルは捨て台詞を置いて一足先にギルドを去った。
それにしても、いつの間にかユングルに噛みついてるのがランズじゃなくてリサになったな。よっぽど頭に来ていたのだろう。
「うむ。己の力で正義を勝ち取るがよい。私が上空から見張っているから不正は出来ないぞ」
ワキュリー先生が付いてくれるのは有難いが、戦闘を見たいだけなんだろうな。ちょっとそわそわしてるし。
初めての討伐依頼、楽しみだけど色々不安だなあ。




