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第30話 ランズとガキ大将

「へー、シュロムはペットショップの手伝いしてるんだ」

「魔物貸しのお店だよ。狐型の魔物はいなかったけど、ブラッシングとかのお世話の仕方を習って、ヒュプノにしてあげたら喜んでもらえたんだ!」


 冒険者として登録してから2週間。休み時間のクラスの会話は、自分がどんな仕事をしたのかという話でもちきりになっていた。

 シュロムの話に納得したようにリサが頷いた。


「ヒュプノがやけにピカピカになっていたと思ったら、そういうことだったのですね」

「毎日一緒にお風呂入ってるもん! そうだ、リールにもやってあげようか?」


 聞き捨てならない言葉に、あたしは待ったをかけた。


「な、ドラゴンにブラッシングは必要ないし。それに、リールのシャンプー権はあたしのものだぞ」

「しゅろとおふろ! はいる!」

「まじか……行っといで……」


 秒で振られた。落ち込むあたしをよそに、わーい、と元気よくシュロムの方へ飛んでいくリール。

 ただリールも落ち着いてきたのか、遊ぶのもシュロムにかかりきりではなく、あたしにも構ってくれるようになってきた。それによってあたしの寂しさもだいぶ改善されたので、「行っておいで」と素直に言えるようになった。


「ヒュプノの調子はどう?」

「保健室の先生にも懐いてきたよ。仕事がまだないのは、良いのか悪いのか微妙な気持ちみたいだけど」


 学園の生徒はタフなのか、あれからヒュプノの治療を必要とする生徒は現れていないらしい。というか、体調不良で訪れた生徒が日向ぼっこをするヒュプノを見ていただけで癒され、元気になって帰っていくこともあるようだ。

 存在するだけで癒しとは、リールに意外なライバルが現れてしまった。


 ヒュプノは基本的に保健室に待機して、『お世話係』になった十数名の生徒が代わる代わる面倒を見る形に決まった。その中でもシュロムは係長として、夜の間は自分の部屋へ連れ帰って世話をしているのだ。

 言い出した時の勇気もさることながら、やると言ったことを継続して出来るとはとても素晴らしいことだ。めっちゃ尊敬する。見習えるとは言ってないけど。


「ムクさんだってリールのお世話ずっとしてるじゃん、それに比べたら僕なんて夜だけだから」

「お、言われてみればそうかも。あたし偉い」

「自分で言うのはどうなのですか……」


 すっかりツッコミの位置が定着したリサからの一言。いやいや、自分を肯定するのは大事なことだよ。前向き姿勢ってことだよ。


 と反論しようとした刹那、にわかに教室の外が騒がしくなった。


「その悪行、このランズが正してみせる!」

「あーまたか、ランズの押し付け正義活動」


 一際大きな声が響くと、生徒の大半は呆れた顔で騒ぎへの興味を無くした。


 ランズは冒険者として登録してからより一層正義感が強まったらしく、定期的に校内の見回りを行っては生徒の行いを正して回るという活動を行っていた。

 内容は「身だしなみがだらしない」とか「廊下は走らない」とか、その程度のものな上にとにかく声がうるさいので、正直ランズの方が風紀を乱している気もするのだが。

 振り回し係のヘンディーも数日で付き添いを辞退したレベルなので、相当暴走しているのだろう。


 という訳で一度はあたし達も興味を無くしたのだが、しばらくしても騒ぎが収まらないことに気が付いた。なんだか今日は様子が違うみたいだ。


「なんか言い争ってない? 大丈夫かな」

「確かに、騒がしいのがもう一人いるね」


 心配そうに廊下の方を見やるハルヒと共にもう一度耳を傾けてみると、ランズともう一人の生徒の言い合いはすぐに聞こえてきた。


「俺様がどうしようと勝手だろう?」

「ならぬ! これは許されぬことだ!」

「うるさいなあ、人間でもないくせに指図するんじゃねえよ」

「貴様、概念の化身コンゼツォンを侮辱したな!」


 このまま聞いているだけでは状況が分からない上、段々口論はヒートアップしてきている。

 止めなきゃマズい雰囲気になってきたので、廊下へ出てランズの目の前に割り込んだ。


「ちょっとランズさん、喧嘩は良くないですよ」

「夢心殿、何故私を止めるのだ!」


 止める方を間違えている気はしたが、知らない生徒に声を掛けるよりランズを止めるのが個人的に楽だったのだ。

 ランズと言い合っていた少年は訝しげにこちらを見つめてきた。


「なんだお前? 邪魔者をどかしてくれるってなら褒めてやるぞ」

「え、何その偉そうな口は……ランズじゃなくても気に障るわ」


 騒ぎの元になっていた少年は、腕を組んで如何にも偉そうな雰囲気を醸し出していた。よく見ると後ろには取り巻きらしい生徒も3人、似たような表情でこちらを見ている。

 まさにガキ大将、いじめっ子のイメージにピッタリだ。


 それを踏まえて更に辺りを観察すると、ガキ大将の陰に隠れプリントの束を抱えて震える少女を発見した。女の子が持つにはいささか多すぎる量なのに、周りは誰も手伝おうとしていない。

 うん、大体分かった。


「待って、なんでむーちゃんまで杖を抜いてるの!? ストップ!」


 とりあえずガキ大将を氷漬けにしてあげよう、と振り上げた手をハルヒに掴まれた。


「え、いやいや痛くしないから。冷たくするだけだから」

「攻撃魔法を人に向けないで! まずは事情を説明して貰おう?」

「えー、言われなくてもなんとなく分かるけど」

「なんとなくじゃ駄目だから!」


 ハルヒにしつこく止められて、あたしはしぶしぶ杖を収めた。

 あたしが落ち着いたのを見てほっとしたハルヒは、ランズに向き直った。


「ランズさん、いつもより必死になっていたけれど、どうしたんですか?」

「うむ。此奴……2組のユングルという生徒なのだが、普段から生活態度が悪く注意しても直さない要注意人物だったのだ。そして今、自らに課せられた仕事を他の生徒に押し付けた。他人に直接迷惑をかけるとなれば、何としても止めなければならないのだ!」


 予想していた通りの現状に、あたしもハルヒも苦い顔をしてユングルの方を振り向いた。


「押し付けたとは言いがかりだな。平民のこいつが貴族の俺様の言うことを聞くのは当然だろう?」


 対するユングルは悪びれもせず、少女の足を軽く蹴飛ばした。

 少女はうめき声を上げたが、蹴られた部位を庇おうともせずじっと固まっていた。


 一組が平和だったためすっかり忘れていたけれど、どこの学校にもいじめはあるんだなあ。


「ランズって言ったか? たった一つの概念しか持てない、しかも『槍』だなんて使えるのかよく分からねえ力しかない奴が」

「ぐ……それは反論出来ない」

「俺様が2組ってのも気に入らないが、一番はお前ら概念の化身コンゼツォンが1組、俺様より上だと判断されていることだ。しまいには学園長も神様も概念の化身コンゼツォン……ただの魔力の塊、魔物と変わらねえのによくもまあ人の上に立てるもんだ」


 ランズが弱気になったのをいいことに、ユングルはつらつらと暴言を吐き捨てた。


 自分と違うものを認めたくない。人なら誰しも持ちうる感情だがここまで露骨にされるととても気分が悪い。あたしの知り合いの多く、そして大切なリールとハルヒは概念の化身コンゼツォンなのだから。


 そしてもう一人、この発言に怒りを露わにした人物が躍り出た。


「貴方! あろうことかトゥーリーン様を侮辱しましたね!?」


 リサがあたしとユングルの狭い間に割って入り、ゼロ距離で説教を始めた。


「貴方の魔法の種ケルンを目覚めさせ、今日まで守って来られた神様をなんだと思っているのですか! 神官見習いとして、発言を撤回してもらうまで引き下がれないのです!」

「リサちゃんまで、落ち着いて、ああもうごっちゃになってきた」


 場を収めようとしていたハルヒが目を回している。リサとユングルが言い争いを始めたことで、あたしとランズも置いてけぼりを食らい、プリント少女や野次馬も困惑しきっていた。


「女の子をこき使って偉そうにするなんて、貴族のすることではないのです!」

「大商会の息子だぞ、偉いんだから当たり前だろ。神官なんて祈ってるだけで何もしない奴らの見習いが口を出せる立場じゃないんだぞ」

「こ、この、神官まで侮辱するなんて……!」


 リサは怒りに任せて杖を振りかざした。ユングルも杖に手をかけている。一触即発の状態。

 そんな混沌を治めに来たのは、意外な人物だった。


 カン、と軽いもので床を叩く音がして、その場にいた生徒全員が背筋を正した。

 実戦授業で怠けている生徒に喝が入れられる時に響くのと同じ音。この学園の生徒全員のトラウマになっている音だ。


「通行の邪魔だぞ、争いは止めないか」


 木剣を携えてやってきたのは、むしろ争う気満々といった表情のワキュリー先生だった。


閲覧ありがとうございます。

改めまして、今年もよろしくお願いします。

また週一ペースで投稿出来たらいいなと思っています。いいな(願望)

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