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第3話 概念の化身

閲覧、評価ありがとうございます!

のんびりですが頑張って続けていきます。

 背の低いテーブルに向かい合うようにあたしとハルヒが座り、テーブルの中央に、ジーグルがこちらを睨みつけるようにして座った。

 リールはあたしの膝の上に移り、何が始まるのかとソワソワしている。


「まずはこの子達の紹介からするべきかな、彼女はジーグル。そして腰に下げている剣がシュエート」

「ん? 我も口を出していいのか? ならばよろしく頼もう」


 何故剣の名前まで紹介されたのか、と尋ねる前にジーグルが持っていた剣が喋りだした。

 よく見ると、鍔の中央に目が付いている。口は無さそうだが、テレパシーか何かを使っているのだろう。なかなかダンディーな声だ。


「ジーグルの先の非礼を許してくれ。だが、ハイルン様に止められてたとはいえあれは我らの仕事なのだ」

「リールの封印が仕事? あと、ハイルン様ってもしかして」


 視線を向けると、ハルヒは苦笑いで頷いた。


「うん、私の事。様って言われるのは恥ずかしいんだけど、この子達の上司なの」

「ハイルン様はこの世界を管理されておられる御方だぞ! そんな風に馴れ馴れしくするなど……ぐむむ」

「だから、そういうのは止めて欲しいんだってば……」


 ハルヒは呆れた顔でジーグルの口を塞いだ。


「世界の管理? ハルヒ、神様なの!?」

「神様っていうとまた別にいるんだけど、ってこの話はもういいから!」


 照れ隠しなのか、顔を赤くして手を振るハルヒ。まさか高校で一番の友達になった子が神様なんて信じられない。

 が、嘘を言うような子ではないのを知っているから、本当の事なのだろう。

 どうやらここでは、今までの常識を捨てて挑まなければならないようだ。なんだかわくわくしてきた。


「で、リールちゃんのことなんだけどね、これは私たちが何者なのか、から順番に話していくね」

「ハルヒたちが何者なのか?」

「うん。むーちゃんは概念って言葉、知ってるよね」


 概念。大雑把に表現すれば、『これはこういうものだ』という、物事に対する共通認識、だろうか。


「世界にはこの概念を体現化した存在が生まれることがあるの。概念の化身、『コンゼツォン』と呼ばれている存在が。例えばジーグルは『封印』という概念、シュエートは見たまま『剣』の概念から生まれたの」


 そう言われてよく見てみると、ジーグルは十字架のペンダントをしていて、腰にはお札が入ったポシェットがぶら下がっている。どちらも封印の道具として思い浮かぶものだ。封印の剣、とかもゲームや漫画でよくある単語だ。


概念の化身コンゼツォンはそれぞれが持って生まれた概念に対応する力を持っているのだ。私は封印の力に長けている!」

「封印の力と相性が良いので我が護衛……というよりお目付け役として共に行動している」


 ここぞとばかりにアピールするジーグルと、呆れた表情(半目)のシュエート。恐らくさっきの様にジーグルが暴走して、シュエートがフォローすることがよくあるんだろう。

 分かりやすくて面白いコンビに見えてきた。


「じゃあリールも何かしら力があって、それが良くないものだから封印しようとしているってこと?」

「物分かりが良いな人間。そのドラゴンは『虚無』の概念の化身コンゼツォンだ。生まれることが存在として矛盾しているし、何よりその力は世界を滅ぼしかねない」


 『虚無』。何もないこと。

 シュエートにそう説明されて、思いつくことが二つあった。


「朝ボールペンが消えたのは、その『虚無』の力ってことか」

「大人しいと思っていたが、やはり力に目覚めているのだな! ハイルン様、やはり封印した方が!」


 ジーグルが声を荒げた。今にも襲い掛かってきそうなので、あたしはリールを守るように抱いて一歩後ろへ下がった。


「でも、リールが『虚無』だっていうけれど、この子は笑ったり怒ったりするし、何も無い存在とは思えないよ」


 それに、何でも消してしまうというのは恐ろしい力だが、リールはそれを進んでするような存在ではないとも思う。


「むーちゃんの言う通り。リールちゃんは自身の概念に反して体や心を持った。こんなことは今まで無かったから、私はリールちゃんがどうやって成長していくのか見てみたいと思ってるんだ」

「な!? 何を仰るんですかハイルン様!?」

「もちろん世界にとって危険だと判断したら封印せざるを得ないけど、むーちゃんと一緒ならそんなことにはならないと思うし」

「ハルヒ……」


 リールとすぐにお別れにはならない事と、ハルヒから信用されたことで、とても嬉しくなった。

 ジーグルはハルヒの決断が信じられないといった表情で固まっている。


「そもそもむーちゃんと出会ったから、リールちゃんも力を使わない優しい性格になったんだよ。それなら一緒にいるべきだと思うんだ。懐いてる今引き離そうとしたら、それこそ消されかねないっていうのもあるけれど」

「あ、そうそれ、あたしと出会ったときにリールがあたしの事、『自分と同じもの』って言ってたの。これってもしかして、あたしが忘れっぽくて中身が空っぽなのが『虚無』と似てるからってことなのかな」


 思いついた事の二つ目だ。今まで理由が分からなかった共鳴は、『何もない』という部分に反応したのではないか。


「多分そうだね。でもそんな二人が出会ったことで、本来なら何も感じず考えず、ただ周りのものを消してしまうだけの存在になるはずだったリールちゃんが、こんなに可愛い子になったんだから。虚無から奇跡が生まれたってことなんだよ、これは凄いことなんだよ!」


 ハルヒは目を輝かせながら熱弁した。難しい話に興奮するところは、こんな時でも理系のハルヒらしい。


「に、人間、貴様自分の事を空っぽだと言わなかったか?」


 と、ここでしばらく硬直していたジーグルが口を挟んできた。


「うん、あたし物忘れがひどくて、自分の名前を忘れてないのがそれこそ奇跡ってくらい、穴だらけの空っぽ少女なのだよ」


 皮肉めいて返してみたが、またジーグルは固まってしまった。その代わりにシュエートが反論してきた。


「それは順序が逆なのではないか? 貴様は我々より強い力を持っている。人間に有り余る力の代償に記憶を失っている、というのが正しいのでは? 記憶の喪失だけで間に合っているのは正直信じられないのだが」


 シュエートから告げられた言葉。これは、衝撃続きの会話の中でも最も驚愕の事実を突きつけられた気がした。


 それは、あたしも人間ではない、と言われているのと大差無かったのだから。

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