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第29話 リーダーの電撃訪問

「初めまして、の方が多いですから自己紹介しておきましょうか。私はヴェルテ。概念の化身コンゼツォンのリーダーです」


 来客なんて想定していなかったので、とりあえずあたしの椅子をヴェルテに使ってもらい、あたし達は床に正座することになった。かしこまらなくていいのよ、とは言われたが、正座から微動だにしないハルヒを見ているとこうせずには居られなかった。


概念の化身コンゼツォンをまとめる者達の会議でヒュプノ君をこちらに留める許しが出たから、ここまで連れてきたのよ」

「そうなったら私が迎えに行くと申し上げたはずですが」

「まあこれは口実ね。ハイルンの驚く顔や、お友達を見てみたかったの」


 それを達成して満足そうに微笑むヴェルテ。ハルヒもいつになく丁寧すぎて不自然だ。

 肩に力が入りっぱなしで正座しているドラゴン……うん、確かに面白い。


「被害が生命に関わるようなものではなく、この子自身で償うことが出来るというのが大きかったわ。もし誰かを大怪我させていたら、会議の説得は難しかったわね。そもそもハイルンが許さなかったでしょうけれど」

「ヒュプノ自信が償える?」

「『催眠』は、術者が思い描いたことを他人に見せることが出来る……それを応用すれば、ある場面を見えなくする、思い出さないようにすることができるの。簡単に言えばトラウマの治療ね」


 ヒュプノの力を使えば、あの時とは逆にトラウマのフラッシュバックを起こさなくするように出来るらしい。

 学園の保健室に従事して、生徒の心のケアを担当すれば改心したとみなされ封印を免れる、と決まったようだ。


「そういう使い方もあるのか、概念の化身コンゼツォンって奥が深いなあ。リールの力も別の使い方ないのかな」

「ああ、そういえばこの子も元は封印対象でしたね」


 ヴェルテはリールをひょいと持ち上げた。いきなり知らない人に触られたからか、リールも緊張して大人しくしている。


「うん、『虚無』がこんな風に育つ環境なら、安心して預けられるわ。私も、生まれた概念の化身コンゼツォンを無暗に封印したくはないもの」

「え、そうなんですか?」


 『世界にとって危険だと判断されたら封印される』という決まりを作ったリーダーから、そんな言葉が出るのは意外だった。


「生まれた命は等しく育つ権利がある。私は概念の化身コンゼツォンがどんな風に成長していくのか見ていたいのよ。ただ、概念の化身コンゼツォンは魔力の塊。暴走したら大きな被害が出てしまうから、こういうルールを作らざるを得なかったの」


 悲しそうに語るヴェルテと、その内容に納得した。本当にハルヒの上司なんだな、言ってることが同じだ。

 トゥーリーンに会った時もそんな風に感じたな……そういえば元気にしているだろうか。


「ちなみに物騒な事聞きますけど、なんで殺すんじゃないんですか? その方が手っ取り早そうなのに」

「消滅させても、その概念自体が世界から無くならない限りまた復活してしまうの。一つの概念につき生まれる概念の化身コンゼツォンは一人だけだから、封印して生かして置くことでそれを防いでいるの。ある意味こちらの方が残酷よ」


 解放されるときは世界の終わりだから────そう締めくくられたヴェルテの言葉にあたし達は凍り付いた。リールやヒュプノが封印されなくて、本当に良かった。


 当の本人はあまり話を理解していなかったのか、それとも空気を読んでくれたのか、新たな質問を投げかけた。


「うぇるてはなんのコンゼツォンなの?」

「あら、分からないの?」

「おっきすぎてよくわかんない」

「そうね、私は……」


 と言いかけて、ヴェルテは黙り込んだ。


「素直に教えるのも面白くないわね。人間のお二人に聞いてみようかしら」

「私達なのですか?」

「問題です。私は何の概念の化身コンゼツォンでしょうか?」


 ヴェルテは抱えたままのリールの前足を動かして、腹話術で問いかけてきた。口は全く隠していなかったけれど。


「ヒント欲しいです!」

「ええ、いきなり?」

「ヒュプノなら姿がヒントになるけど、貴方は綺麗な女性ってことしか分からないし」


 狐から化かす→幻を見せる→『催眠』は繋がりやすいが、そのようなヒント無しに八百万の神レベルで存在する概念の化身コンゼツォンの正体など当てようが無い。


「なら一つ。自己紹介でも言ったけれど、私は概念の化身コンゼツォンのリーダー。つまりありとあらゆる概念を束ねる『この世で一番大きなもの』なのよ」


「この世で一番大きなものか……」

「トゥーリーン様……四神様がフィルゼイトを支える一番重要な存在だと習ってきたのです。それ以上と言われても色々と難しいのです……」


 リサが複雑な顔で考え込んでいた。宗教観があると確かに難しい問題かも知れない。

でもあたしはごく普通の日本人。都合のいいときだけ神頼みする無宗教です。


 なのでひたすら大きなものを連想し始めた。今立っているこの地……星? いや、星が存在している宇宙か。それより大きなものってないよね?

 『愛』とか言われたらびっくりするけど……そもそも感情を持ってるのが生き物しかいない訳で、宇宙から見たらちっぽけなものだ。うん、間違いない。


「『宇宙』ですか?」

「あら、確かにとても広大だけれど、もっと大きなものはありますよ?」


 マジか。宇宙より大きいものってなんだ。


「あまり難しく考えないで、答えはもう出ているのだから」


 そう言われても……この世で一番大きなもの……この世で……。

 え、まさか。


「一番大きなものって、『この世』……世界ですか」

「ピンポン、大当たりです」


 ヴェルテはリールの前足を使って拍手を送ってきた。

 『世界』の化身とは、実体がこうやってあるのを目の当たりにしても考えられない。確かにこんな存在が軽々しく出張してきては、ハルヒも驚くわけだ。


「貴方がハイルンのお友達よね」

「あっはい、仲河夢心です」

「確かに面白い子ね、ハイルンが気にかけるのも分かるわ」


 え、この会話の中でなんか面白いこと言っただろうか? 知らない間に失言してた?


 そんな不安をよそに、ヴェルテは何度も首を傾げながらあたしを観察した。


「うんうん、なるほどね。ハイルン、この子のことはしっかり見張るんだよ」

「見張る!? ハルヒ、やっぱりあたし無礼なことしただろうか……全然身に覚えがないんだけど」

「いや、そんなことないよ!? むしろ逆? 私に嫌がらせしたいだけだと……、あ、リーダー今のはその、聞かなかったことに!」


 ハルヒが慌てて誤魔化すと、ヴェルテはリールを使って『聞かざる』のポーズを取った。


「うふふ、そうするわ。さて、一応学園長の所にも顔を出してこないとね。このままだと不法侵入で訴えられちゃうわ」

「不法侵入って、どうやってここに来たんですか?」

「この部屋の前と私の部屋の空間をちょっと繋いでこうぴょん、と」


 『世界』なだけはあるけれど、水たまりを飛び越える様な仕草で異世界へ渡ってこないで欲しい。


「そういうことで、ちょっと空間を繋げさせてもらうわね」


 ヴェルテはリールを下ろして立ち上がり、片手をくるりと回した。

 それをなぞるように空間に亀裂が入り、何度か見たことのある光の穴が出現した。


「それじゃあ、貴方達の世界に幸多からんことを」


 光の穴を跨いで、ヴェルテは姿を消した。

 穴が閉じる直前に、「リーダー!? どこから!? 来るなら言ってください!」という学園長の切羽詰まった声が聞こえてきた。どうやら女子寮を監視していないのは本当のようだった。


「なんていうか、概念の化身コンゼツォンの偉い人ってみんなお茶目なんだね」

「はあ……あれでも有事の時は凄く頼りになるんだけどね。普段相手するのは大変で……要人だって自覚を持って欲しいよ」


 人間の姿になったハルヒは、大きなため息をついた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「お邪魔しまーす」

「はーい……リーダー!? どこから!? 来るなら言ってください!」


 突然学園長室に現れたヴェルテに、アオーグは慌てて猫背だった姿勢を正し、散らばっていた書類を魔法で整理した。

 相変わらずのだらしなさに、ヴェルテは喜びとも呆れとも取れる表情を見せた。


「例の『催眠』ちゃんを連れてきたついでにね。迷惑かけるかも知れないけど、よろしく頼むわね」

「ああ、一年生の探索で見つかった狐ですか。生徒が自主的に世話すると言っていて、本人も改心している様子ですから問題ないでしょう」


 話をしながら、アオーグは魔法でお茶の用意をしようとする。それをヴェルテは手を伸ばして制した。


「いいわよ、すぐ戻らなきゃいけない用事が出来たから。あの特級ちゃん、大丈夫?」

「調べてたところで……そうか、何か分かったんですね」


 アオーグが期待のまなざしを向けると、ヴェルテは苦笑いで答えた。

 『世界』の概念の化身コンゼツォンに、この世の呪いで分からないものは無い。


「ええ、とっても馴染みのある呪いよ、おかげで仕事が増えちゃったわ」

「なら、解き方も……」

「今は無理だわ。あれ、解くも何も殺す前提の呪いだから。特級ちゃんだったのが良かったのか悪かったのか、半端に耐えているみたいね」

「命に係るものだとは思っていましたが、そうだったのですか」

「だからすぐに戻って、どうするか決めなきゃいけないの。呪いを解いてやるのか、このまま放置するのか」


 放置、という単語にアオーグの表情は険しくなった。


「放置……ということもあり得るんですか」

「あの呪いに罹る原因が問題なのよね。話をした感じでは本人は覚えていない様子だったし」


 話をしながら、ヴェルテは新たな光の穴を作り始めた。仕草はゆったりとしているが、気持ちが急いているのが伝わってくる。


「また連絡するから、それまで監視、よろしくね」

「……女子寮には入れないんですよ」

「あら、貴方の『目』はそんなやわなものじゃないでしょう? 頼むわよ」


 やんわりと断ろうとしたアオーグの言葉を制して、ヴェルテは光の中に消えた。


「リーダーがあれだけ強く言うんだからよっぽどなんだな……。はあ、また仕事が増えた」


 嵐のような来客が去ったことで、体の緊張が抜けて机にだらりともたれかかる。

 しかし危機感はむしろ増していて、アオーグはすぐに仕事を再開した。


「生徒を……ハル姉の友達を見殺しにはできないからね」


閲覧ありがとうございました。

年末年始で忙しくなってきたのと、話のキリがいいのもあるので今年の更新はこれで最後とします。

再開は一か月後くらいを予定しています。エタらないように頑張ります(汗)

それでは、良いお年を!

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