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第28話 初依頼~リール編~

 翌日。今度はリールの初仕事だ。

 移動中、リールは歩いて付いてきて、と思ったら空を飛び、あたしの頭の上へ。そこもすぐに降りてしまい……と、かなり緊張している様子だった。


「落ち着いて、いつも通りでいいんだからね」

「うん、がんばる」


 頭を撫でながら声をかけると、安心したらしいリールはキリっとした顔つきになった。


「お、いいね。その調子」


 その後も励ましながら移動し、木材工場に到着。昨日と同じように責任者を呼んでもらった。


 待っている間……というよりも工場に入った直後から、木くずが辺りに沢山飛んでいるせいであたしもリールもくしゃみが止まらなかった。肌に付くと痒くなるし、マスクやゴーグルをしているとはいえ、働いている人の忍耐力には驚かされた。


「くちゅ、ちゅん、はぷんっ」


 リールのくしゃみが可愛かったのは言うまでもない。


 木材の加工には大きな機械が使われているが、動力はすべて魔力だ。従業員が交代で魔力を流し込んだり、刃の調節をしたりしている。

 自動で魔力を集めて動くものもあるのだがとても高価らしく、一般には出回っていない。昨日の立派な倉庫群すら手動で冷気を注がなければならなかったのだから、余程のものなのだろう。


 工場を眺めてしばらく待っていると、大柄なお兄さんが現れた。若くてキビキビ動いているが、スタープさんと比べると筋肉に物足りなさを感じる。あの人趣味でどれだけ鍛えてるんだ。


 鼻をムズムズさせているあたし達を見て、お兄さんはマスクを貸してくれた。

 リールには大きすぎるが、フリーサイズしかないので角に引っ掛けたり何なりして無理矢理装着させた。


「君が依頼を受けてくれたのか、よろしく頼むよ」

「あ、あたしは付き添いです。やるのはこの子です」

「よろしくおねがいします!」


 あたしの腕の中から礼儀正しく挨拶するリールを、お兄さんは訝しげに見つめた。


「え、こっち……? ドラゴンとはいえ赤ちゃんが、ちゃんと火を吐けるのか?」

「廃材の処理でしたよね、燃やさなくても処分できれば大丈夫だと聞きましたが」

「ああ、そうだが……」

「なら任せてみて下さい、案内して貰えますか?」

「そうなのか? こっちだ、付いてきな」


 半信半疑といった様子のままのお兄さんに案内された部屋には、山のように廃材が積みあがっていた。


「三日分の廃材だ、このくらいの山が外の敷地にも5つほどあるんだが」

「じゃあリール、まずは小手調べだね」

「おまかせあれ、とう!」


 飛び上がったリールはそのまま山の周りを旋回し、近くに人がいないか確認。全身に『虚無』の力を纏わせて、一気に山に突っ込んだ。


「そんなことしたら木くずが舞い上がって……あれ?」


 リールが触れた傍からどんどん消えてなくなる廃材。掛った時間は10秒にも満たなかった。

 本当は『目の前にあるものをまとめて消す』みたいなことが出来ればもっと楽なのだが、そこまでの力はまだリールには無かった。要練習である。


「おわりです!」

「なんだ今のは!? 転移魔法とかか?」


 床に散らばった木くずまで綺麗に消えたのを見て、お兄さんは驚愕した。


「ちがうよ? けしたの!」

「リールは、触れたものをなんでも消すことが出来る能力を持っているんです。人には使わないように言ってあるので、触っても平気ですよ」

「たまげた……これなら残りもすぐに終わるな! 頼むよドラゴン君」

「りょうかいです!」


 実際に作業を見せたことで信用を得られたのか、お兄さんの態度が柔らかくなった。

 外にあった山々もあっという間に消し去って、依頼は完了。作業時間は5分ほどだろうか。昨日のあたしと比べても、あまりにもあっけなかった。


「ありがとうな! こんな凄い魔法、一気に使って大丈夫か?」

「へいき、げんき!」


 リールはそう言って、気を遣った訳ではないことを示すようにくるんと宙返りした。


 概念の化身コンゼツォンの力の源は、その概念が認知されることだ。なので力を使ってその現象を他の生物に見てもらうことで、力を高めることが出来るのだ。

 もちろん使いすぎて魔力が枯渇すれば疲れてしまうが、このくらいならむしろ元気になるというのだから不思議だ。


「火魔法が得意な人がこの作業を担当している一人だけでな、結構カツカツなんだ。手が必要になったらまた頼んでもいいか?」

「はい! またやります!」


 こうしてあたし達は、最初の依頼でお得意先を手に入れることが出来た。

 報告するのが待ちきれず、急いで学園へ戻った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「お疲れ様、見込み通りの働きをしてくれたね!」


 学園のギルド支部へ戻り依頼の達成を報告すると、おねえさんは白い歯をニッと見せてそう言った。


 街の依頼は、達成された後依頼主からギルドに連絡が入ることで完了となる。

 木材工場からも既に連絡は来ていたようで、報酬を受け取ることが出来た。二人合わせて1万6千アールだ。

 おお……金額が多いのもあるけれど、やっぱり働いてお金が受け取れるって凄く嬉しい。あたしの高校はバイト禁止だったけれど、特に貧窮してるわけでもないのに隠れてやる人の気持ちが分かった気がする。


 何に使おうか考えたが、学費や生活費をトゥーリーンから貰っていることを思い出した。


「貰いっぱなしは良くないよな。無駄遣いはしないでおこう」


 奨学金を返すためにもちゃんと働こうと気持ちを新たにして、貰ったお金をバッグにしまった。

 その様子を見ていたおねえさんは、感心したようなため息をついた。


「へー、大体の生徒は初給料で散財するのに、偉いねえ。やっぱり年いってるからお金のありがたみが分かってるのかな?」

「年いってるって、確かに周りの生徒よりは年上ですけど……」

「ははは、ごめんて。生徒がきちんと依頼をこなしてくれると、学園やギルドの評判が上がってあたしの給料も上がるってもんだ。うんうんよくやってくれた」


 あたし達の技量を見抜いて適切な仕事を与えてくれた……それは有難いのだが、なんだか全部おねえさんの手柄になっているような言い方で少し悔しかった。


「もっと素直に褒めてくれてもいいんじゃないですか」

「お、アタシに意見してくるとは流石特級様だね、でもアタシから見たら皆ひよっこさ。文句があるなら、せめて『二つ花』になってから言いなさいな」

「そんな風に言うってことは……あれ、おねえさんの名前ってなんでしたっけ」

「ハフトリープさ、ここに書いてあるだろう?」


 おねえさん……ハフトリープさんは胸のタグを引っ張って見せてきた。名前とギルドの受付であること、更に横には3つの花と花弁が2枚彫られていた。


「これってもしかして、ハフトリープさんのランクですか?」

「そうさ、もうちょっとで『満開』。ここから先がなっがいんだけどねー」


 めちゃくちゃベテランだった。生徒の実力くらい見抜けて当然である。

 でも、だからって見下され続けるのは嫌だ。見習いでも冒険者として負けていられない。


「ハフトリープさんが凄腕なのは分かりました。ならすぐにでも追いついて、褒めるどころか尊敬させてやりますよ」

「期待してるよ~。もっともその時は、『初心者の頃アタシが面倒見てやった』凄腕ってことになるけどね」

「やってるの受付だけじゃないですか」

「いい仕事斡旋してやっただろ? 必要ならアドバイスするし、外の仕事の前は模擬戦だってする。意外とやる事多いんだよね」


 ハフトリープさんは余裕の笑みを浮かべた。うーん、今は勝てそうに無いのは分かった。素直に負けは認めないけれど。


「じゃあそんな後輩を育てられるように頑張ってくださいね、先輩!」

「なんでちょっと偉そうなんだ……まあ面白いしいいか。じゃあ早速、次の週末はこの依頼に行ってもらおうか」


 話をしながら依頼を探していたらしいハフトリープさん。うう、鮮やかな手並みだった。

 早くこの人を驚かせられるようになりたい。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ただいまなのです」

「お帰り、長かったねー」


 寮に帰ったあたしとリールは、その後すぐ帰ってきたハルヒと部屋でのんびり過ごしていた。

 そして外が夕焼けに染まり始めた頃、リサが帰ってきた。


「これでも早く上がらせて貰ったのですよ。お店自体はもう少し営業しますし、後片付けだってありますからね」


 リサはあたしのベッドに飛び込み、大きく伸びをしたりごろごろ動き回って体をほぐし始めた。リールが面白がって同じ動きを始めるのは、最早お決まりの光景である。


「接客は大変でしたが、植物の勉強になってとても楽しかったのです! お土産も貰えたのですよ」


 ベッドから起き上がったリサは小さな袋を取り出し、中身を手のひらにあけた。


「種?」

「イーフという、魔力に敏感に反応するツタの種なのです。魔法の種ケルンよりもずっと少ない魔力でも動くので、怪我をした人の手足の代わりに使ったりしますね」


 義手や義足みたいなものか、便利な魔法の植物だな。

 ツタが体に絡みつくってなんかアウトな表現だが。心が汚いオタクでごめんなさい。


「何に使おうか迷っているのです。栄養剤の材料としても優秀なのですが、すぐに使ってしまうのも勿体なくて……まずは育てて増やすのがベストでしょうか」

「リサの部屋、ツタの絡まる素敵なおうちになっちゃうの……」

「いや、普通に育てるだけでそこまで伸びはしないのです」


 と、突然部屋をノックする音が響いた。


「誰だろ? リサが迷子になった時もこんな時間だったよね、今は皆揃ってるけど」

「あ! ぼくがあける!」


 客を招き入れるために一番早く行動したのはリールだった。

 はじかれたようにドアノブに飛びつき、体重をかけて器用にドアを開けた。


「ぷーだ! おかえり!」


 ドアの向こうにいたのは、派手ではないものの美しいベージュ色のドレスに身を包んだ女性、そしてヒュプノだった。

 リールは女性の腕に抱かれたヒュプノに近づき、顔を擦り付けて歓迎した。


「タダイマ、リール」


 ヒュプノもそれに応じて、可愛らしい挨拶を返した。


 あれから概念の化身コンゼツォンのリーダーとハルヒが話し合い、処分を決めるためにしばらくヒュプノは封印隊に預けられていたのだ。


 こうして戻ってきて首飾りも外れている、ということはヒュプノは許されたのだ。


「ヒュプノを連れてきたってことは……えっと、どちら様ですか?」

「ふふ、ハイルンならよく知ってるんじゃないかしら」


 ハイルン────ハルヒの概念の化身コンゼツォンとしての名前を呼んだ女性は、優しく微笑んだ。


「ハルヒ知ってるの……うわ!?」


 振り返った先では、ハルヒがドラゴンの姿になってガチガチに緊張していた。部屋のスペースに配慮してか、体の大きさはあたしより一回り大きい程度に留めている。

 半開きになった口からは周りに比べて小さい歯が見えた。あたしの杖の材料として抜いてくれた部分だ。治るまで変身しないと言っていたのに、一体どうしたんだろう?


「り、リーダー、ようこそおいで下さいました」

「ええ、お邪魔しますわね」


 とても楽しそうな笑顔で、概念の化身コンゼツォンのリーダーはあたしの部屋に入ってきた。


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