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第27話 初依頼~夢心編~

「すみませーん、『プラウゼン』の者です。依頼を受けて来ました」

「ああ、学園の生徒さんね。ちょっと待ってて」


 週末、あたしとリールはティランネ倉庫群にやってきた。

 出入りを管理している小屋にいた人に要件を伝え、依頼人を呼んでもらった。


「にしてもここ、広すぎない……? 全部冷蔵って訳じゃなさそうだけど」


 地図を頼りにやってきた場所には、ぱっと見ただけでも50を超える石造りの立派な倉庫が並んでいた。当然作業員も数多くいて、せわしなく動き回っている。


「ティランネ商会って言ったっけ? めっちゃ大きい会社なんだなあ」

「いっぱい、すごい」


 圧巻の光景に見惚れていると、倉庫の間に敷かれた道路からこちらに歩いてくる人を発見した。

 作業服ではない、小綺麗なマントに身を包み、白くなりかけている髪や髭をしっかり整えている初老のおじさんだ。お屋敷の執事なんかが似合いそうな雰囲気である。


「貴方が今回の依頼を受けてくれた生徒さんかな?」

「はい、シュプリアイゼン魔法学園1年の仲河夢心です」

「ティランネ商会倉庫群の管理をしております、バルターと申します。お見知りおきを」


 バルターさんと握手を交わす。白い手袋付けてるし、ますます執事に見えてきた。なんで倉庫の見回りなんかしてるんだ。


「一人ですかね? 連れの概念の化身コンゼツォンも氷系ではなさそうですし……入学したてで依頼を受けられるという事は一級魔法の種ケルンをお持ちで?」

「いえ、特級です」

「ほう……貴方が噂の。これは頼もしいですね」


 もはや初対面の人と会う時にはお決まりになったセリフを頂いた。先走っている噂に早く追いつける実力が欲しい所だ。

 バルターさんに仕事場までの案内をしてもらい、倉庫群の奥へと進んだ。


「ここから先が冷蔵の倉庫になります。入口とは反対側の壁に、このようなタンクが取り付けてあります。ここに冷気を満タンになるまで入れていただくのが仕事内容になります」

「ここから先……何個あるんですか」

「全部で20台ですね」


 めっちゃ多い! 複数人でやらなきゃいけないわけだ。

 タンクは大きな病院の裏にある液体酸素のタンクくらい、といえば分かって貰えるだろうか。建物の二階分、幅も両手を広げるより大きなタンクに魔法で冷気を詰めていけ、なんて目には見えないだけでかなりハードな仕事だ。得意属性でなければ即辞退する。


「最近……魔法の練習出来てなかったから、どのくらいかかるかな? とりあえず入れてみますね」

「はい、ここに付いているメーターを目安にしてください」


 なんで練習出来ていなかったのかって? 再試の勉強をしていたからである。うっかりそこまで口にしそうになった、危ない危ない。

 噂の特級が最初のテストで落ちた、って改めて考えたら情けないな。もっとちゃんと勉強しよう。


 あたしはタンクの給魔口を開いて杖を向け、冷気を注ぎ始めた。

 初めのうちは漏れてしまう分もあってなかなか溜まらなかったが、調節を繰り返してコツを掴んでからはみるみるうちにメーターが上がっていき、五分ほどで満タンになった。


「こんな感じでいいですか?」

「も、もう終わったのですか。早すぎますが、確かに満タンですね」

「いつもはどれくらいかかってたんですか?」

「学園には定期的に依頼を出していまして、2級の生徒さんが3人でいらっしゃるのがよくある構成でしたね。一人一台に40~50分、休憩をはさみながら早くて6時間だったでしょうか」


 三人でも6時間!? 受付のおねえさん、そんな依頼をあたし一人に出したのか。

 実際早く済みそうだからよかったけれど。これはおねえさんの目利きが良いということだろうか。


 衝撃の事実に困惑しながらも作業を続け、10台目が終わったころには充填時間が3分を切るようになり、休みなしで入れ続けた結果昼には終わってしまった。


「これで最後……っと。終わりました!」

「お疲れさまでした。体力切れになっていませんか? まさか一人でこんなに早く終わらせるなんて」

「少なくなっている感覚はありますけど、まだ大丈夫ですよ」


 減ったと言っても全体の三割ぐらいの印象だが。言っても信じて貰えないだろうしそこまで詳しくは報告しなかった。

 自分でも驚いてるもん。氷魔法なら無限に使えそうと錯覚してしまう。


「私の今日の仕事も終わってしまいましたね。この作業を見張るだけでしたから」

「普段は一日かかるんですもんね……お互いラッキーでしたね」

「ええ、ですからおまけにこちらを差し上げましょう」


 そう言って手渡されたのは、20%引きと書かれた細長い券。裏にはティランネ商会提携先、と銘打って沢山の店の名前が書かれていた。


「ティランネ商会が食材を下ろしている店の割引券です。お肉を召し上がるならここ、魚ならこちらがお勧めですね」


 バルターさんはお勧めのお店に印をつけてくれた。昼ご飯の事を考えていなかったのでとても有難かった。


「一カ月ほどでまた補充しなければなりませんから、お暇でしたら力を貸してください」

「もちろんです、お疲れさまでした」


 報酬はギルドを通して貰うのでここでは貰えないが、思わぬ収穫がありウキウキしながら倉庫群を後にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、ハルヒとリサだ。ちょうどいい所に」

「お疲れ様。そっちはもう終わったの?」

「うん、かなり数はあったけどね。二人は昼休み入ったところ?」

「そうなのです、どこで食事をしようか迷っていたのです」


 同じように依頼をこなしていたハルヒとリサと、学校の近くで合流した。あたしは二人の話を聞いてニヤリとした。


「それなんですが奥さん方、いいものがあるんですよ」

「なんですかその怪しい前振りは……」


 リサに若干警戒されながらも取り出して見せたのは、先程手に入れた割引券である。


「20%オフでお食事が頂ける魔法のチケットです」

「そんな魔法があったのですか!?」

「え、リサちゃんそれ本気のリアクションじゃないよね? どこで貰ったの?」

「仕事早く終わらせたからおまけで貰ったんだー。お勧めも聞いちゃった。肉と魚、どっちがいいかな」


 割引券の裏を見せながら相談する。こういう時ってなかなかすぐには決められないんだよね。だからといって「どっちでもいい」は余計に困るやつ。

 しばらくの間沈黙が支配する。それを破ったのはリールだった。


「おさかな! りーぼほーれ!」

「また食べるの? でもお店で食べたことは無いか」


 リールが食べたいと主張してきたのは正式名称リーボフォーレ、ウルドの森の探索でリールが丸かじりした魚のことである。あれからすっかり気に入ってしまい、食堂にその名が出るたびに真っ先に注文するようになった。


「二人共、魚でいい?」

「了解なのです」

「決めてくれて助かったよ」


 満場一致となったので、待ちきれなくなったリールが飛び出さないように腕の中に抱えながらお勧めされたお店へ向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……これ、りーぼほーれ? いつもとちがう」

「マリネだからね。食べられるかな?」


 やって来たのは屋台街から一本横道に入った所にある『水車』というお店。看板にも水車が描かれている。


 注文して出てきたのは、リーボフォーレのマリネである。大皿に三人前(女3人に赤ん坊では人数分だと多すぎる)が盛られた光景はなかなか圧巻だ。

 いつも学校の食堂で食べるのは塩焼きなので、リールは物珍しそうに観察していた。


「このパンと一緒に食べると良いって言われたよね。よーし頂きます」


 働いて消耗したのもあって待ちきれず、平たいパンの上に乗せて早速一口。程よい酸味が体に染み渡った。煮汁を吸って柔らかくなったパンもうまい。


「おいしいよ、ほら食べてみて」


 なかなか決心がつかないリールを後押しすると、ようやく口を近づけてひとかけら口にくわえた。それを噛み締めた次の瞬間。


「!? すっぱい! あま……すっぱい!」


 リールは目をまんまるにしてテーブルの上を右往左往し始めた。可愛らしい反応に思わず皆笑ってしまった。


「あはは、リールちゃんにはまだ早かったかな」

「すっぱい……でもおいしい。りーぼほーれ、さいこう!」


 酸味に慣れたのか、今度はどんどん口の中にマリネを突っ込んでいく。

 ほっとしてあたしももう一口。ハルヒも美味しそうに食べている……その隣で、リサがあまり動きを見せないことに気が付いた。


「みなさん平気なのですか……?」

「え、もしかしてリサ、酸っぱいの駄目だった?」

「酸っぱい味は腐りかけの証拠なのです……」

「ちゃんと食べないと大きくなれないよ、リールに抜かされちゃうぞ」

「嫌なものは嫌なのです! ドラゴンにはいずれ抜かされて当然なのです!」


 どうやらリサはマリネが食べられなかったようだ。


「そうやっていじめてるむーちゃんは、なんでハーブを除けてるのかな?」

「う……これは風味付けだから食べなくて良いやつでしょ」

「そういうことにしておきましょうか。リサちゃんは別の料理にする?」

「いいのですか? ハルヒ様は優しいのです」

「えー、あたしはリサの為を思って言ったんだよー?」


 恩着せがましく言ってみたら、リサは舌を突き出してそっぽを向いてしまった。

 まあ、食べられないならしょうがないか。昼ご飯がパンだけなのは辛いし、リサとハルヒは午後からも仕事があるのだ。ちゃんとエネルギーを摂取しないと。


 追加で注文した魚のから揚げを奪い合いながら、騒がしいランチタイムを満喫した。


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