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第25話 説得

「チームハルヒじゃったか、ぎりぎり間に合ったな」

「そんな名前だったっけ? 戻りましたー」


 森から出てくるあたし達を迎えたフェアユング先生の後ろには、クラスメイトが待っていた。

 おそらく全員いるだろう。やっぱりあたし達が最後だったか。


「早く戻るつもりだったのに、悔しいのです」

「まあまあ、リサのスープ美味しかったし、皆にも好評だったじゃん。成功だよ」

「確かに、概念の化身コンゼツォンにも喜んで貰えたのは嬉しかったのです」


 その概念の化身コンゼツォンを頭と腕の中に抱えたあたしは、フェアユング先生に腕の中の方、ヒュプノを差し出した。


「その毛玉はどこから拾ってきたんじゃ?」

「先生、寮ってペット可ですか?」

「虚無くんと同室で何を今更。まあ監視の魔法で大体のことは把握しておるが」

「やだ、学園長のこと言えないじゃないですか」

「あれと一緒にするな、覗きではないぞ。しかし『催眠』の概念の化身コンゼツォンとは……それに周りに危害を加えてたとなると、封印隊に任せるのが妥当だと思うが」


 フェアユング先生は視線をハルヒの方へ切り替えた。


「私はむーちゃんの意見に賛同します。学園で、私たちに面倒を見させて貰えないでしょうか?」

「しかし、虚無くんの時とは違うのじゃぞ? リーダーが許すなら別じゃが」

「私がなんとか説得します。駄目だったらその時は……」

「ぼ、僕も賛成! ヒュプノの面倒、僕がみたいです!」


 シュロムが突然声を上げた。森の中では特に何も言わなかったシュロムが積極的に意見してきた事にあたし達は驚いた。


「あ、でも、僕だけじゃ大変だから、クラスのみんなで交代してお世話したりできないかな?」

「それは……了承が得られればそのつもりだったけど、シュロムがまとめてくれるの?」

「うん、ムクさんに挑戦しろって言われたから、危険じゃないことからやってみようかなって」


 ヒュプノは独りが寂しくて付いてきたとはいえ、いきなり街中に放り出しては何も分からず同じ結果になりかねない。なので練習として、クラスのみんなに可愛がってもらえればと考えていたのだ。

 リールとは違い、ヒュプノは人に慣れる事を目的とするため授業を受けるより遊んだりして交流を深めるのをメインにする予定だ。


 シュロムがあたしの言葉を覚えていてやる気を出してくれたのも嬉しいし、これでリールとの時間を取り戻せると考えたらあたしも大賛成だ。

 え、順番が逆だって? 口には出してないからセーフですよ。


「でも、説得するって誰を? 学園長?」

「ううん、概念の化身コンゼツォンのリーダーだよ。ヒュプノは人に迷惑かけちゃったから、すんなり許して貰えるか分からないけれど」

「え、概念の化身コンゼツォンの偉い人!? 四神様よりも!? 僕じゃ無理だ……」


 シュロムが全力で首を振りながら後ずさった。


「シュロムの意見も含めて、私がお願いしてくるから大丈夫だよ」

「良かった、頼みます」

「儂は良いとは言ってないんじゃが……」

「先生お願いします! もう悪いことはしないって言ってるし」

「ぼくからもおねがい! もうおばーちゃんていいません!」


 シュロムに習ってリールも頭を下げた。初めてできた同年代の友達と、すぐに離れることになるのが嫌なのだ。

 森に来るまでの道であんなに言っていた『おばーちゃん』を代わりに封印するくらいだ。健気すぎる。


 ……と感じていたのはあたしだけだったみたいだが。


「虚無くんのは交換条件にはなっておらんぞ……。本人から聞かないことには始まらないが」


 リールの懇願はあえなく却下されてしまった。が、めげずにぺこぺこ頭を振っているリール。可愛い。


 そんなリールに構うことなく、フェアユング先生はヒュプノを睨んだ。

 ヒュプノはたじろぎながらもしっかりと答えた。


「『催眠』、皆ガ怖ガル事ニハ使ワナイ」

「守れるか?」

「自分ノ概念ニ誓ッテ」

概念の化身コンゼツォンの盟約の言葉か、良いじゃろう」


 フェアユング先生は頷いて、クラスメイトの方へ振り返った。


「何人かが訴えていた『恐ろしいものに追いかけられた』という症状は、この概念の化身コンゼツォンの仕業じゃった。だが今は改心して、儂らと一緒に来たいといっておる。誰か反対するものはおるか?」


 生徒の一人が手を挙げた。森の中で出会ったランズの振り回し係、ヘンディーだ。


「生まれて間もないとはいえ、他の生物を傷つけるために力を使ったなら、概念の化身コンゼツォンのルールとして封印されるべきだと思うっす。それに、仲間が幻覚にかけられて困ったし……そう簡単に許してと言われても無理があるんすよ」

「確かに、被害にあった人は普通そう思うよね。でもシュロムも幻覚にかけられてたけどこう言ってるから……あとは、そうだ」


 ハルヒが言葉を途切れさせたタイミングで、あたし達の頭上に光る穴が出現し、弾丸のごとく一匹の妖精が降ってきた。


「ハイルン様! ご無事ですか! 仇なす不届き者はどいつですか!?」

「ジーグル、いいタイミングで来てくれたね」

「え、本当ですか? ハイルン様に喜んで頂けるなんて至極恐縮です」


 クラスメイトの周りを飛びながら剣を振り回していたジーグルは、ハルヒに褒められると満面の笑みを浮かべて敬礼した。


「え、ハイルンって。そういえば『治癒』って! まさか封印隊の守護神!?」

「うわ、忘れようとしてたあだ名……元だよ、恥ずかしいからそれ以上は言わないで」

「それなら納得っす……リーダーに相談なんて気軽に言ってたけど、そりゃ出来る訳だ」


 ヘンディーを含めた概念の化身コンゼツォンチームが納得の表情で頷いていた。

 ハルヒ、神様以外にもなんだか凄い仕事をしていたんだな。微妙にダサい二つ名だけど。


「封印の首飾り、この子のサイズで出せる?」

「はっ、お安い御用です! 『封印』の力よ、我が命に従い鎖となれ!」


 ジーグルが意気込んで呪文を唱えると、ヒュプノの首に銀色の首飾りが出現した。

 こういうのだよ! こういう呪文があたしも欲しい!


「ふふふ、これで貴様は概念の力を使えなくなったぞ。それでは……」

「ご苦労様。この子はこっちで預かるから、私からも伝えるけどリーダーによろしくね」

「は!? 連行しないのですか!?」


 顎が外れそうなくらい大きく口を開けて驚くジーグル。というか外れてしまったらしく、痛がってしゃべれなくなってしまった。それを見かねて、ジーグルの懐剣が代わりに話を続けた。


「我らが招集された際には、連行せよと命じられていたのですが」

「ごめんねシュエート、最初はそのつもりだったんだけど事情が変わったの。毎回振り回しちゃってごめんね」

「……了解した。おいジーグル、いつまで悶えているのだ。帰るぞ」


 半目でしぶしぶ、といった表情で答えたシュエートは、なかなか顎を戻せないジーグルに向かって体当たりし、衝撃で顎を元の位置に押し込んだ。


「痛! 今来たばかりだぞ! それに任務も中途半端だ」

「ハイルン様のお望みだ、仕方ない」

「ぐぬぬ、またこんな形で帰るなんて……でもハイルン様に会えたからいいか。お元気そうで何よりでした! それでは!」


 最後にもう一度ハルヒに向かって敬礼をしたジーグルは、来た時と同じように高速で光る穴の中へ消えた。

 シュエートが後を追いかけるが、穴に入る直前に一言付け加えた。


「ランズよ、精進しているようだな。卒業して共に働けることを楽しみにしているぞ」

「シュエート先輩! ありがとうございます!」


 ああ、そういえば知り合いみたいなこと言っていたな。

 シュエートが穴に入り切ると音もなく穴は閉じ、嵐が過ぎ去ったような静寂が訪れた。


「毎回うるさくてごめんね」

「なんか凄かったね。語彙力が持ってかれたよ」

「コレ、ナニ? 力ガ出ナイ」


 ヒュプノは首飾りを外そうともがいていたが、ぴったりフィットして外れそうになかった。


概念の化身コンゼツォンの力を封じる首輪なの。リーダーから許可を貰うまで我慢しててくれないかな? これならヘンディーさん達も信じやすいと思うんだ」

「いやあ俺たち、封印隊の守護神に逆らう気はないっす……」


 ヘンディーの呟きを聞かなかった振りをして、ハルヒは耳を赤く染めたままもう一度お願いした。


「先生、連れて帰るのを許してください」

概念の化身コンゼツォン達が良いと言ったし、年少組は触りたくてうずうずしておるしな……まあいいじゃろう」


 先生からの許しが出ると、子供たちがぞろぞろとヒュプノを触りに来た。


 あれ、取り巻きにジョートリスくんもいる! クールな雰囲気だしといて、まさかモフモフ派だったのか。

 狼飼ってるし、似てると言えばそうかもしれないけれど意外だ。


「もふもふ!」

「かわいい!」

「催眠って何? 怖いの?」

「オレ沢山の蜘蛛を見せられたんだぜ……あ、別に蜘蛛が怖いわけじゃないぞ!」


 幻覚にかけられた生徒はまだ近寄ろうとしないため数は少ないものの、リールの時と同じように生徒にもみくちゃにされたヒュプノは、驚いて固まってしまっていた。


「まだ人に慣れてないから、みんな優しくね?」

「まってるひとは、ぼくでがまんしなさい!」


 リールがヒュプノの周りに出来た人だかりを一部受け持って、代わる代わる愛でられながら、一行は帰路についた。

 この調子ならヒュプノもクラスに溶け込めるだろう。一安心だ。


「は、今年も川で大ジャンプする生徒が見られて満足していたら、こんなイベントを起こされるとは……やはりとんでもないクラスを持ってしまったねえ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 まだ日は高い時間だが、往復2時間歩いて森の探索までした生徒達は皆ぐったりしていた。

 感想文の提出を求められて教室にいるが、ちゃんと書いているのは半分くらいだろう。各々探索の感想を言い合ったり、疲れて机に突っ伏したりしていた。


「感想文、できとるじゃろうな? 提出したものから受け取るがよい」


 しばらく教室を離れていたフェアユング先生が戻ってきた。先生が持つには少し大きな籠の中には、香ばしく炒られたキゴンの実が入っていた。収穫してきたものを食べられるようにしてくれたのだ。


「アッタカイ……オイシイ香リ」

「やべ、取ってきたのあたしだから感想文書かないと」


 ヒュプノが目を輝かせ、ふさふさの尻尾を振ってキゴンの香りに酔いしれていた。

 待たせないように素早く感想を書き上げ、乱雑に積みあがった用紙の上にそれを重ね、代わりに実を3つ取ってきた。

 軽く放り投げて渡すと、ちび達は見事にキャッチ。早速かぶりついた。


「硬クテ噛メナイ」

「割って中身を食べるんだよ。そら!」


 皮ごと食べようとして苦戦していたヒュプノを見かねて、シュロムがサッと杖を振った。

 瞬間、皮が見事に真っ二つになり、しっとりして美味しそうな中身が現れた。

 ヒュプノが嬉々として食べる様子を見て、シュロムも笑顔になった。


「今の魔法どうやったの?」

「軽い衝撃波の魔法だよ。友達を後ろから脅かすときにも使えるんだ。はい、みんなのも!」


 説明しながら杖をもう一振り。チーム全員分のキゴンの皮を割ってくれた。

 これ人に使ったら骨折れない? そこはちゃんと調節出来てるのだろうけれど、シュロムからの不意打ちが少し怖くなった。


 それはさておき、実を一口。ほんのり甘い味が口の中に広がった。


「おお、これはあれだね、しっとり系のサツマイモに似てるね。うまっ」

「キゴンの実は炒ると薬効性が増すのですよ。効能は炎症を抑えるのと、ボケ防止なのです」

「ボケ?」

「儂も良く食べていたのじゃ。若返りを果たしてからは必要無くなったがな」


 いつの間にかフェアユング先生が窓辺に腰掛けて、リサ特製のスープをすすっていた。


「先生! スープの味はどうですか?」

「うむ、森の食材だけでこれだけの味が出せるとはなかなか。4年生でもここまで知識を持っているのは一握りじゃろう」


 フェアユング先生に褒められて、リサは飛び跳ねて喜んだ。

 最高学年にも勝てる知識量って、それもう卒業出来るのでは。


「してそのキゴンじゃ。お主には必要じゃろう?」

「あー、ムクは忘れん坊ですからね」


 リサが呆れたように同意を示したのがちょっと気に障ったが、それよりも先生の気遣いが嬉しかった。まさかあたしの為に課外授業の内容を決めてくれたのだろうか?


 確かめるように顔を覗いてみると、意味深な笑みが返ってきた。ご厚意はありがたく頂こうと思い、残っていたキゴンの実をしっかりと噛み締めた。




 こうして、あたしの異世界での初探索は幕を下ろした。


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