第22話 木槌と槍
「木槌がひとりでに動いてる……あれが魔物?」
「よく見るのです。ちゃんと支えてる生き物がいますよ」
目を凝らしてみると、木槌にはちゃんと持ち主がいた。緑色の服を着た小人である。
木槌自体は5~60センチくらいあるだろうか。その半分も身長がない小人は、軽々と獲物を担いで歩き回っていた。
「あれは力持ちの小人ですね。あの木槌で硬い木の実を砕いて食べる習性があります。キゴンの実も食べるはずですから、近くにあるのかもしれません」
「それは是非とも探し回りたいところだけど、見つかってあれに殴られるのは嫌だね」
素材が木だとはいえ、あの大きさのハンマーに殴られたらかなり痛いだろう。もしかするとスライムの水鉄砲のように魔法が相乗されて、見た目より破壊力があるかもしれない。
刺激しないように大きく迂回するか、何か魔法で驚かせて逃げたりしてくれないだろうか。
「こっちから攻撃しちゃいけないし、回り道して避けるべきかな」
ハルヒも迂回を考えていたようだ。
全員それに賛成し、見つからないように静かに移動を始める。と、反対側の茂みからこちらへ向かってくる人影が見えた。力持ちの小人に気が付いていないのか、草をかき分ける音はどんどん大きくなっていく。
「なかなかキゴンに辿り着かぬな、皆疲れていないか?」
「疲れたっす、だいぶ前からヘロヘロっす……ってランズさん前! 前見てください!」
「む!? 魔物か!」
現れたのは概念の化身チームだった。先頭にいたランズが、力持ちの小人に遭遇してしまう。力持ちの小人は警戒して木槌を構えた。
「やるしかないか。ヘンディー、頼むぞ!」
「だから俺、力仕事は……あああ、分かったっす」
意気揚々と叫んだランズは、「ふんっ」という掛け声と共に体に力を込め、三叉の槍へと姿を変えた。
後ろから付いてきたヘンディーと呼ばれた青年は、支えを失って倒れる寸前だった槍を受け止めて、嫌々ながら構えた。
力持ちの小人が木槌を振りかぶり、ヘンディーへ向かって突進した。小さな体で一生懸命走る姿は微笑ましいが、木槌が怪しく輝き始めたのでそうも言っていられなさそうだ。魔力が面に集まっていて、当たれば何が起こるか分からない。
対するヘンディーも槍で突進していく……のかと思ったら、穂先を前に向けたままほとんど動かない。ギリギリのところまで引き付けてから、すっと槍を突き出した。
狙いは魔物本体ではなく木槌だ。叉に柄の部分を引っ掛けて吊り上げる。力持ちの小人は困惑しながらも木槌を離そうとはしない。必死にしがみついた小さな体ごと持ち上がった。
「そーれっ」
気の抜けた掛け声と共に、ヘンディーは槍を思い切り振りぬいた。その瞬間叉先が広がり、引っ掛かっていた木槌と共に力持ちの小人は遠くへ放り投げられた。
元々小さな体が豆粒に見えるくらい遠くへ飛んでいき、落ちたところで小さな爆発音が聞こえた。
「ふー。これでいいっすよねランズさん」
「その通り。敵といえども、無駄な殺生は避けるべきだからな」
人間の姿に戻ったランズは、腕を組んで満足そうに頷いた。
「ランズさん!」
「今度は何奴か? おお、夢心殿ではないか」
魔物が居なくなったので、あたし達は迂回を止めてランズ達の前に姿を現した。
「さっきの魔物をどうしようか悩んでいたんです。対処してくれてありがとうございます」
「それは良かった。あの木槌は叩きつける衝撃を魔法によって増幅してくるのでな、まともにやりあったらそちらにも衝撃が行っていたかも知れぬ」
「そ、それは本当に助かった……。あと、そちらの方は?」
ランズを操っていた青年は、一瞬自分が指名されていることが分からずに瞬きを繰り返した。
「あ、俺? ヘンディーって言います。現地の方には分からないと思うんすけど、『携帯電話』の概念の化身っす」
「携帯電話? そんなものまで概念の化身になっちゃうのか」
「あ、夢心さんの世界にはあったんすね。一部の世界では爆発的に流行したので人間の姿をとれるくらいの力は得られたんすけど、ここだと電波がなくて思うように力が使えなくて……。代わりに、ランズさんを振り回す係をやってるっす」
「振り回す係とはなんだ! 相棒と呼べ!」
「無理矢理やらされてるのに、そんな感じではないっすよ……」
なかなかカオスな会話をしているが、お互い喧嘩腰ではなく冗談を言い合っている雰囲気なので仲は良いのだろう。
「武器の概念の化身は誰かに操って貰わねば真価を発揮できないのが悩みなのだ。ヘンディーは扱いは上手いのだが、もう少しやる気を出してもらいたい」
「言われた通りに振り回してるんだからいいじゃないっすかー。そろそろ行きましょうよ、皆待ってますよ」
ヘンディーの示す先では、チームメンバーらしい2人が茂みに身を潜めたままこちらを見ていた。
「何故そんなところに隠れている。お前たちも出てきたらどうだ」
「魔物だって言ったのにズカズカ出ていくランズの方がおかしいんだけど」
「それに異世界人の頭の上にいるの、『虚無』だろ? 俺ももう先に進みたいんだが」
ランズに問われ、茂みにいる2人は反論した。こちらに出てくる雰囲気ではなさそうだ。
概念の化身はリールの力を理解しているだけあって、まだ近寄ってくる人の方が少なかった。触ってきたのはランズしかいない。
「うむ……済まないな夢心殿、リール殿。危険は無いと再三言い聞かせておるのだが」
「怖いものはしょうがないですよ、そのうち分かってもらえれば嬉しいですけどね」
「かたじけない。では互いに任務を果たせるよう祈っておるぞ!」
ランズ達は茂みに戻り、先に進んでいった。
「大人たちはリールの事怖がるよね。変なの」
「シュロムが遊んでいるところをもっと見て貰えば、きっと分かってくれると思うから頼むね」
「うん、任せて!」
元から一緒にいた(といってもそこまで差は無いのだが)あたしが仲良くしているところよりも、シュロムと射撃ゲームをして遊ぶ姿を見せた方が、安全だと分かって貰えるのはきっと早いだろう。
あたしももちろん尽力するつもりだが、こういうのはみんなでやった方が効率的だ。そう考えたら嫉妬心はちょっぴり無くなった。ちょっぴりだけ。
「私たちも早く先へ行きましょう」
「だね、急がないと」
◇◇◇◇◇◇◇◇
それからどれほど歩いただろうか。迷っているんじゃないかと不安に駆られながらも探索を続け、ようやく大きな倒木の元へ到着した。
「他の植物ばかり茂っていますね、キゴンは無さそうなのです」
「まじかー」
「でもカトフィーがありますね。そろそろご飯にしましょう」
この辺りの木には、カトフィーと呼ばれるこぶし大の薄黄緑色の実がなっていた。食堂でスープに入っていたそれを初めて食べた時の感想は『水っぽいジャガイモ』である。こうして加工前のものを見てみても、なかなかジャガイモみがある実である。
リサが飛行の魔法でハサミを浮かせてカトフィーを刈り取る。倒木の周りに生えていたキノコや、いつの間にかリサが採取していた香草も合わせて、スープを作ることになった。
「ん、調理道具が無いけどどうするの?」
「私が担当したとはいえ、持ち物は把握しておいて欲しいのです」
リサは肩掛けのポーチから、鍋や包丁などの道具一式を取り出した。開け口の幅を超える物は光に包まれながら出てきて、数秒で元の道具に戻る。
「四次元……そういえば沢山入るんだったね」
「結構高いので一つしか買えなかったのが残念です、容量が魔法で拡張されているとはいえ限度がありますから」
この魔法のポーチはスタープさんの店で買った物の一つだ。貴重品を入れるだけでもいっぱいになりそうな小さいサイズだが、中は20倍近い容量に魔法で拡張されていて、重さも軽減されている。ゲームにはつきもののアイテムポーチだ。あれは初期から無限に詰め込めることの方が多いけれど。
容量を更に大きくしたり、生ものの腐敗を防ぐ機能をつけたりすると値段が跳ね上がるため、あたし達の持ち合わせではこれが限界だった。
また、鍋も特殊なものだ。下に透明なカバーで覆われたコンロが付いていて、魔力を流すと火がついてどこでも調理ができるという優れものだ。森の中で直接火をおこして燃え移ったら大変なことになるため、探索には必須のものになっている。
「カトフィーの皮むきや細かく切る作業は年上の二人にお任せします。シュロムはスープ用の水を出してください」
リサがてきぱきと指示を出して、みんなで協力して調理していく。なんだか炊事遠足の気分だ。
食べやすく切った材料を水をはった鍋に入れ、リサが香草を味見しながら加えてあとはしばらく煮込むだけ。簡単な割に美味しそうな香りが漂ってきた。これは先生への差し入れも喜ばれるんじゃないだろうか。
煮込む間にこれからの動きを相談しようと、みんなで鍋を囲んで座った。
するとまたしても茂みの揺れる音が聞こえた。
「もしかしてさっきの力持ちの小人かな?」
音の聞こえた場所の一番近くに座っていたシュロムが、様子を見るため立ち上がった。




