第20話 遠足気分
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それから一週間が経ち、課外授業当日。集合場所になっている街の門に、同じクラスの生徒達が集まっていた。あたしは少し早足になってその輪に加わりに行く。
今度は寝坊せずに集合時間に間に合った。目覚ましでは起きられずにまたリールの噛みつき攻撃を食らってなんとか、だが。
「前に噛まれた傷が治ったと思ったのに……もう少し優しくできない?」
「やさしくしたらおきないもん」
絆創膏を貼った耳たぶより上の部分を甘噛みしながらリールは答えた。
「よし、全員揃ったな。では出発するぞ」
フェアユング先生が号令をかけ、街の門をくぐってぞろぞろと外へ出た。
まずは一時間ほど、整備された道を歩き続ける。馬車で通ってきた道だ。途中から横道に逸れるが、子供が団体で通っていても余裕を感じるくらいの幅があった。
移動時間は特に採点されることが無いので、皆思い思いにはしゃぎながら歩いていた。まるで遠足だ。
あまり騒ぐと魔物が寄ってこないか心配だったのだが、付き添いのビリス先生が魔除けの魔法をかけていて魔物の姿を見かけることは無かった。
「ここまで魔物の影すら見ないなんて、普段のビリス先生からは想像もつきませんが立派な魔術師なのですね」
「ごめんね、人に物を教えるのって緊張するから……僕は裏でこういう仕事やっている方が向いてるんだけどそうもいかなくて……」
ちょっと失礼な気もするリサの言動に対して怒ることはせず、むしろ自分を卑下するビリス先生。やっぱり守ってあげたくなる。
「しゅろ! みずでっぽうあそびしよ!」
「よし、今度こそ当ててやるぞ」
「待って、みんながいるのに魔法を乱射しないで!」
リールはこの一週間でシュロムと意気投合したらしく、しょっちゅう遊んでもらっていた。
ハルヒに止められているのは、二人の中で流行っている射撃ゲームだ。リールが高速で飛び回り、そこへ決まった数だけシュロムが魔法で水を打ち出す。今のところリールの全勝で、シュロムはいつも悔しそうにしていた。
「凄く仲良くしてるけど、懐いてるって感じじゃないよね。ライバルみたいな? 早食いとか問題の早解きとか、なんでも勝負してるし」
「初めて同性の友達ができたからね。遊びたくなっちゃうんじゃないかな」
「そっか、性別はどうしようもないからなあ。寂しいけど譲るしかないか」
ハルヒに説明されて納得しようと試みたが、射撃ゲームを始めて楽しそうにしているリールを見ると、どうしてもその輪に混ざりたくなってしまう。
けれど未だに水の魔法は上手く出来ないし、邪魔してはいけないという気持ちもある。
結局うずうずしながらも見守ることを選んだ。意外と嫉妬深いな、自分。
「こら、周りに迷惑かけるような遊びはやめるのじゃ!」
「先生には当てないから大丈夫!」
「だいじょうぶだよー、おばーちゃん!」
「……そろそろ仕置きが必要かの」
注意してもやめない事に加えて、またしてもおばあちゃんと呼ばれたのが流石に頭にきたらしく、フェアユング先生は小さな雷の魔法を放って二人をしびれさせた。飛んでいたリールは制御を失って落ちていくのが見えたので、駆け寄って地面に衝突するすんでのところでキャッチした。
「うええ……からだがふるえるよお」
「先生、ごめんなさい」
「森につく頃には治っとるじゃろう。それまでチームの人にでもおぶって貰え」
「私が治すのは……駄目ですよね。シュロム、乗って」
ハルヒならすぐに治せるがそれでは罰にならないと無言の圧力を受け、言われた通りに背負って運ぶことになった。リールはこのままあたしが運ぶ。図らずも一緒にいられることになったが、しびれて少し苦しそうなのを見ていることしか出来ないのは嬉しくなかった。
「リール大丈夫? そろそろおばあちゃん呼びはやめようね」
「しゅろとあそぶのたのしいのに……」
「水が他の子にかかっちゃうし、リールも誰かにぶつかっちゃうかもしれないでしょ?」
「ムウはやさしいのに、おばーちゃんきびしい……」
「小声でもダメ! ヒヤッとするから!」
リールは最近やんちゃに拍車がかかり反抗期も合わさったのか、素直に言うことを聞いたり謝ったりしなくなってきた。子育てってこんな感じなのかなと頭を悩ませ、どうやってしつけるべきか考えながら列の後ろを歩き続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな騒動がありながらも、一行は時間通りにウルドの森へ到着した。
「今から4時間以内にキゴンの実を取ってくること。食事を取るのも忘れずにな。食べたものが分かるよう別にとっておくように。時間をあけながら1チームずつ入って貰うぞ」
先生から改めてルールが説明され、ランダムに生徒の名前が呼ばれ始めた。先のチームが入ってから数分後、また名前が呼ばれる。
あたし達が呼ばれたのは、生徒が大体半分ほどスタートした後だった。
「上崎遙日! お主たちの番じゃ」
「わ、私の名前!? ランダムとはいえびっくりした」
「よーし、チームハルヒ、行ってきまーす」
「変な名前つけないでよー」
ハルヒ、リサ、しびれが取れて立てるようになったシュロムとリール。チーム全員が揃っていることを確認して、あたし達は森の中へ繰り出した。
入ってすぐあたし達を出迎えたのは、日が出ているのに薄暗くなるくらい密集した木々と、その合間をぬって生える背の高い草むら。ほかの生徒がかき分けた跡を辿って、少しでも通りやすい道を進んでいるのだがなかなか鬱陶しい。
「けもの道が出来てるけど、それでも草が邪魔だね」
「ちくちくするよお。しかもこの草の高さ、背が低いと前見えないのでは」
「見えてないです……皆さんの背中を頼りに進んでいるのです」
後ろを振り向くと、頭半分ほどしか草から出ていないリサと、それより少し高い位置にある頭にリールを乗せて道案内して貰っているシュロムが見えた。
というかリールは本当にシュロムに付きっきりだ。そのポジションはあたしのものだと思っていたのに……またしても嫉妬してしまうが、ここはぐっとこらえる。
「もう少し行けば、だんだん草の背丈が低くなるから頑張って」
ハルヒの言う通り、草をかき分けながら進んだのは初めの5分ほどで、段々と視界が開けてきた。気が付くと、草の背丈は足首くらいにまで低くなっていた。
「爽快感! まだまだ木は茂っているけど、草むらが無くなっただけで違うね」
「ここから川までは少しぬかるんでいるのです、足元注意なのです」
確かに先程の草むらと比べて、足元は見やすいが土がゆるくなっていて歩くのが難しかった。
川の音は微かに奥から聞こえてくる。それを頼りに進むことにした。
「うわ、どんどん靴がベタベタになる。長靴履いてくるべきだったか」
「ムウもとべばいいんだよ!」
「うーん、魔力は温存しておくべきだし歩くのがベストなんだよなあ。早く大きくなって背中に乗せておくれよ」
「おっきくなりたい! がんばる!」
リールは飛びながら前足を器用に曲げて、力こぶを作る仕草をしてみせた。
相変わらず可愛いというのもあるが、ほんのり頼もしさも感じた。そういえば生まれた時より一回り体が大きくなっているように見える。帰ったらちゃんと測定してみよう。
「二人共、前を見るのです!」
突然リサが大声で注意してきた。何事かと視線を戻すと、大きなイモムシが顔のすぐ先に現れた。
『ぎゃあああああああ!?』
あたしはその場を高速で離れてハルヒにしがみついた。リールは驚いて飛ぶのを忘れたのか真っ逆さまに泥へ落ちてしまい、べしゃ、と気の抜けた音が響き渡った。
「びっくりした……あ、木から垂れ下がってたのか。浮いてるのかと思った」
あたしとリールの大声にイモムシも驚いたのか、糸を伝ってするすると木の上へ登って行ってしまった。
「あれは『シュメトリン』という魔物の幼虫なのです。攻撃性は無いので良かったですが、普通魔物の前であんなに大声をだしたら襲われてしまうのですよ」
「そうだよね。き、気を付けます……」
虫に襲われるとか考えただけでぞっとする。見ているだけなら平気なのだが、触るのは無理だ。気を付けよう。
シュメトリンは成長すると大きな蝶の姿になるらしい。リサが懐から取り出した図鑑によると、黒く縁どられた黄色い羽が特徴的で、立派なアゲハチョウのようだった。
美しい姿に見惚れて不用意に近づくと、鱗粉を吸って幻覚を見てしまうので注意せよ、と但し書きされていた。
「なんでも幸せな幻覚が見られるらしく、うまく採取出来れば高値で売れるらしいのです」
「それなんていう覚せい剤……でも、幸せになれるのになんで気を付けなきゃならないの? 副作用?」
「副作用というか、森の中でぼんやりしているうちに他の魔物に食べられてしまうからですよ」
「納得、そりゃそうだ。手帳サイズとはいえ荷物になるのに、よく図鑑なんて持ってきたね」
「一通り頭の中には入っていますが、皆で知識を共有するにはこれが一番なのです」
魔法を教わるときにもずいぶんお世話になったが、実戦となるとリサの知識は本当に膨大で頼りになる。
「しゅろー、おみずかけてー」
「どろどろになっちゃったね、お洗濯しよう」
泥の中から自力で脱出したリールは、シュロムに体を洗ってもらっていた。
リールがすっぽり収まるサイズの大きな水玉を浮かべ、その中に入って貰ってぐるぐる水をかき回す。簡易洗濯機で泳いでいるうちに、大きな汚れはすぐに取れた。鱗の隙間にこびりついた泥は、いつもの水鉄砲で弾き飛ばした。
「本当にシュロムは水魔法上手だね」
「えへへ」
「水鉄砲といえば、スライムの水鉄砲は痛かったなあ」
『え、スライムの水鉄砲を食らったの!?』「ですか!?」
リサを公園に探しに行った時の思い出をぽろっと口にしただけなのだが、物凄い勢いでシュロムとリサが食いついてきた。
「それにしてはあの時傷がありませんでしたが、ハルヒ様に治して貰ったのですか?」
「いや、おでこに一発食らって、ちょっとヒリヒリしただけだよ」
「あれを裸で受けたの? バリアとか張らないで!?」
「裸ってちょっと語弊があるけど、うん、何もしてないよ」
リサとシュロムは目を見開いて、リサは呆れた顔に、シュロムはそのまま目を輝かせて更に寄ってきた。
「あれは普通にくらえば骨も切れる、スライムの必殺技なのです。異世界人は魔法への耐性が元々高いのか、それとも魔法の種が自動でバリアを展開したのか。いずれにせよ規格外なのです」
「すごい、本当に特級は強いんだな! 憧れるなあ」
骨が切れるってまじか。つまり一般人が同じ攻撃を受けていたら頭飛んでたのか……自分で想像して気持ち悪くなってしまった。
あたし自身に魔法耐性が付いているとは思えない。杖にはめてある魔法の種を眺めながら、実感は湧かないけれどやっぱりこいつ凄いんだなと思い、あの時の労いを込めて指で撫でた。
「リサは物知りだし、シュロムの魔法も上手だよ。二人共絶対強くなるって」
「当たり前なのです! 今度の試験は負けないのですよ」
「え、テストなんてあったっけ」
「商学のテストだよ。僕計算も文字も苦手だから嫌だな」
「は、記憶にございませんけれど……ていうかろくに文字の勉強してないや、魔法でなんとかなるかな」
記憶力が良くなったとはいえ、興味のない授業は半端に聞き流しているので情報が耳に入っていなかった。
「筆記試験中の魔法の使用は禁止ですよ、ムクは翻訳限定で使用できるとは思いますが」
「むーちゃん、帰ったら一緒に勉強しようね」
「嫌だあああ暗記は辛いよおおお」
せっかく楽しい冒険中だったのに、なんでこんな話になってしまったんだ。
厳しい現実から逃げるように、あたしは先を急いだ。




