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第14話 入学式

 森林公園でスライムが増えていたことは翌日街のギルドに伝えられ、すぐに残りも討伐された。


 原因はまだはっきりしていない。飼育していたものが分裂した際、必要ない分はすぐに処分しなければならないのを情が移ったか面倒くさくなったかで捨ててしまった、というのがよくある理由なので、スライムを飼っている店や家を回って聞き込みしているようだ。あの花屋さんじゃないといいな。


 その後は今まで通りに魔法の練習をしたのだが、基礎は十分だとリサに言ってもらえたので他の属性を試してみた。

 ちなみにリサの得意な魔法は草木関係。スライムに囲まれたときは辺りに生えていた木の根を伸ばして鞭のように薙ぎ払っていたらしい。しかし倒しきることが出来ず、その音につられて更にスライムが集まってしまったそうだ。


「氷のつぶて一つで魔物を倒せるって、凄いことなのですよ。魔物は人間よりも体が丈夫ですから」

「あ、あれね。単体でぶつける奴は簡単だから名前つけないで、大量に降らせた魔法に『アイシクル・レイン』と名付けたよ」


 本当はあられを意味する言葉を付けたかったのだが、覚えていなかったので氷の雨、という意味で代用することにした。雨はリールと出会った思い出の天気だし、初めての名づけに丁度いいだろう。


 リサに言われた通りに火の玉を出したり小さな雷を出したりして、他の属性もどんどん使いこなせるようになった。氷を作る時より魔力の消費は大きいが、右肩上がりで体力が増えていて杖もあるのでばてることは無かった。

 しかし、苦手な属性があることも判明した。水を出そうとするとどうしても『氷に近いもの』というイメージが離れず、それに引っ張られて氷が出てきてしまうのだ。氷属性が得意すぎるのも考え物である。


「特級にも苦手なものがあるのですね。でもその体力は羨ましいのです、ちょっとくらい寄こすのです!」

「イメージって難しいなあ。でもこの調子だと、学年一番はあたしなんじゃない?」

「負けないのです……絶対ムクよりいい成績を取るのです」


 午後の勉強タイムに熱が入ったリサは、あたしの部屋で初心者講座を開くハルヒに補足しながらもどんどん本を読み漁っていた。相変わらず話しかけられる雰囲気ではないが、一日一緒にいてくれるようになったのは仲良くなれた実感があって嬉しい。

 リサの読む本は薬草関係のものが多かった。自分の魔法と相性が良く、特に力を入れているらしい。森林公園へ行ったのもその知識を試すためだったようだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



そして事件から3日後。入学式の日がやってきた。


 あたしは、寝坊した。耳が痛くて目を覚ましたら、リールが私を起こすためにずっと耳たぶを噛んでいたようで、軽く流血しながら準備する羽目になった。


「目覚ましの魔法の時間なんでずらすの忘れたかな!? あれだけ明日は1時間早く起きなきゃって確認したのに!」

「ぼくもかみついたし、ハルもおこしにきたけどぐーぐーしてたよ。はやくはやく」


 大急ぎで支度を済ませて、玄関で待っていた二人と合流した。


「初日から怒られたくはないのです、急ぎますよ」

「こ、ここはポジティブに、誰が一番につくか競争しよう。よーいドン!」

「むーちゃんひどい!? せっかく待ってたのに!」


 間髪入れずにダッシュで外へ飛び出した。寮から校舎は見えるが少し距離があるので、早く走れる魔法を付与した。体がもっていかれないように少しだけ、そんな調節も出来るようになった。


「ムクが魔法で走るなら私は飛ぶのですよ!」


 対抗心を燃やしたリサは低空飛行で追いかけてきた。リールも負けじと飛んでくる。


 そのまま走り続け、正門が見えてきたところで異変を感じた。ハルヒの姿が見えないのだ。競争に参加しなかったのだろうか? ゴールしたら待っててあげよう、と思って近づいてきた正門を再び見据えると、その奥に誰かが立っているのが見えた。


「本当なら皆一緒に連れて行ってあげようと思ってたのに、飛び出した三人が悪いんだからね?」


 ハルヒが仁王立ちしてこちらを睨みつけていた。


「なんで!? 上を飛んで行ったの……違う、瞬間移動!?」

「ハルヒ様には敵わないのです」

「すごーい!」


 ハルヒは瞬間移動で先回りしていたのだ。その手があったか。


「4人まとめて移動するのは結構魔力使うから、やらずに済んで助かったと言えばそうなんだけど……明日からはちゃんと起きてね?」

「ごめんなさーい」


 誠意の籠らないあたしの反省の言葉に、ハルヒがため息をこぼす。呆れられるのは慣れているが、ギリギリにはならないようにしないとな。

 急いだおかげで集合時間には間に合ったらしい。先生に案内されて、校舎の中に入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「シュプリアイゼン魔法学園へようこそ。私が学園長のアオーグです。四神日を無事に迎え、トゥーリーン様から認められた魔法の才能を伸ばすため、皆には大陸各地からはるばる集まってもらいました。春風の恵みを受けて芽を出した貴方達を立派に育てるのが学園の役目です……」


 校長先生の話が長いというのは世界をまたいでも共通の概念らしい。数秒で聞く気を無くしたあたしは、周りを観察し始めた。


 大きなホールに集められた生徒の数は100人ほど。備え付けの椅子はその倍以上いる生徒の家族が座ってもまだ余裕がある。全校生徒が集まるときもここを使うのだろう。

 春の大陸各地から集まってきてこの人数であることから、高い等級の魔法の種ケルンがいかに希少なのかが分かる。


 受付で渡された紙にはクラス分けが書かれていた。魔法の種ケルンの等級によって2クラスに分けられている。2組が3級、1組がそれ以上という構成だ。概念の化身コンゼツォンは強さに関係なく1組になるということで、あたし達は全員1組だ。


 壇上で話している人が街の神官に変わった。リズエラは身を乗り出すようにして真剣に耳を傾けていた。ハルヒも首を傾げながらも真面目に聞いている。意外なことに、リールもきちんと前を向いていた。


 もちろんあたしは右から左へ聞き流していたのだが、最後に聞こえた日付が「1月14日」というのには反応した。今更日付を認識していなかったことに気が付いた。1月なのにこんなに暖かくて花も咲いているというのは、流石常春の大地だ。


 最後に神官が祈りを捧げて、入学式は終了した。

手伝いをしている上級生の後について、教室まで案内された。名札のある席に座って、先生が来るのを待つ。

 何の順番か分からないが、席順は黒板から見て一番右奥がハルヒ、その前にあたし、リサと続いていた。リールはあたしと同席である。皆席が近いのは助かった。


「リサの家族は来てないの?」

「ええ、今日も仕事が入ってしまったと聞きました。下の兄弟も手伝いをしてますし、そもそも目覚めの儀式をしていないので他の街に来ることが出来ないですから」


 リサは少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの自信に溢れた顔になった。


「知らない間に実力をあげて、いつか来た時にびっくりさせてやるのです!」

「だね、上から応援してるよ」

「上? はっ、違うのです、私が上になるのですよ!」


 そんな雑談でお互いの緊張をほぐしつつ暇を潰す。ハルヒは珍しくあたしの頭から離れたリールとじゃれていた。羨ましいけど今日は譲ってやろう。


 クラスメイトはほとんど年下に見えたのだが、数人明らかにあたしと同じかそれ以上の人がいた。四神日から時間が経っても入学できるのだろうか。


 ほかの生徒もそうしているように辺りをキョロキョロ見回すと、見覚えのある灰色の少年を発見した。席が離れているため声は掛けられなかったが、間違いなく先日の少年だろう。やはりここの学生だったのだ。灰色の狼はお留守番なのか、隣にはいなかった。


 そわそわしながら待つことしばらく。ようやく教室のドアが開かれた。

 しかしそこに先生の姿は無く……。


「まーたこの教壇はサイズが変わっておらん……管理人に一度みっちり説教しないとダメかのう」


 黒板の前に設置された教壇から声がしたと思ったら、教壇の背丈がみるみる低くなり、後ろから小さな男の子が現れた。

 小学校低学年くらいの見た目で、くせの強い青い髪の毛が特徴的だ。ローブに身を包んで魔法使いの様な雰囲気を醸し出しているが、どう見ても10歳を超えてはいない。

 他の生徒もそう考えたようで、誰なんだと教室がざわつき始めた。


 渦中の男の子は教室を見渡して、にやりと笑いこう続けた。


「困惑の顔ばかり、まあ無理も無いな。一応言っておくが、迷子ではないぞ、諸君の担任だ。入学おめでとう」



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