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第134話 吹雪の中(後半リール視点)

 騒がしい一夜を明かした次の日。

 あたし達の移動速度は昨日ほど順調では無かった。


 原因は行く手に生える木々が更に増えたこと。

 それに加えて、天気が吹雪になってしまったのだ。


 風よけの魔法を纏っているので雪が打ち付けて来ることは無い。それでもパルトは増えた雪に足をとられているし、飛行中のあたし達も視界が悪くてスピードが出せない。

 ハルヒの概念の化身コンゼツォン探知能力で、方角だけは見失わずに済んでいることは救いだった。


「前が見えない! これが冬の大陸の本番ってことですか」

白魔はくまの日よりは移動できるだけマシだ。あれが来る日に外へ出れば、生きて帰れないと言われている」

「これよりやばいブリザードがあるの? 自然っておそろし……」


 この状況よりひどいものがあると知れば、気温調節スカーフがあっても震えがくる。

 今後天気がさらに悪くなって、進むのが難しくなる可能性は十分ある。行けるうちに距離を稼がなくては。


 そう気合いを入れて目を凝らしたその時、吹雪に覆われていた視界が一際大きく揺らめいた。

 と思った次の瞬間には、白い狼に飛びつかれていた。


「むーちゃん!」

「だいじょぶ、だけど、コイツ力強いね!」


 倒れたあたしをハルヒが心配するが、魔法の種ケルンバリアのお陰で怪我はない。けれど、覆いかぶさる狼をなかなか引きはがせなかった。


「ワウ!」

「ガウ! ガウ!」


 頭の向こう側からパルトの声がする。あたしを踏みつけている狼を説得しているのだろうか。


 白い狼はパルトと睨み合い、少し悲しそうに鼻を鳴らすと、そっと足をどけて森の奥へ消えていった。

 ゾルくんがあたしのことを引っ張って起こしてくれる。


「あの氷雪狼シュネイヴォルフ、お前を食べようとしていたみたいだな」

「ひええ、やっぱり肉食なのね」

「パルトの仲間だと分かって引き下がってくれた。炎と氷なら相性は明確、あいつも吹雪の中で怪我は負いたくないだろうからな」

「パルト、説得ありがとう」


 パルトの頭を撫でてやると、尻尾をふわっと大きく振った。

 「当然のことをしたまでだよ。こんなところで足止めされるわけにはいかないよ」という雰囲気だろうか。狼らしい威厳が感じられた。


「でもそうか、吹雪でもここに生きてる魔物たちはごはんを探さないといけないんだね、やっぱり過酷な環境だなあ」

「これも奴の言う『試練』なんだろう。奴を倒したところで天候が大きく変わりはしないだろうが、これを静観している事実は消えることになる」


 吹雪を止ませたいとか、そういう風には考えないんだ。元々は、冬の大陸が好きだったんだろうな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 日が沈むギリギリ直前に、目的地にたどり着くことができた。

 昨日泊ったのとは別の小屋。その目の前には、頭をどれだけ上に向けても頂上が見えないほどの高い山がある。

 吹雪で真っ白になった立て札の雪を払うと、「シェーナホルン参道入り口」という文字が現れた。


「本当に2日で辿り着くとは」


 ゾルくんは想像以上の働きをしてくれたパルトを撫でまくった。

 パルトは気持ちよさそうにしながらも、「早く小屋に入ろうよ、寒さを感じなくても吹雪が鬱陶しいよ」と訴えるように小屋の方に頭を振った。


「迷ったりしなくて良かったー! ゾルくんとハルヒのお陰だよ」

「まずは第一関門突破、だね」


 小屋に入って雪を払い、うんと体を伸ばした。寒さを感じなくても、ずっと吹雪の中に居たら体が縮こまって硬くなっていた。


「期限まではあと7日か……リール、大丈夫かな」


 時間だけを見れば余裕がありそうだが、リールは魔封じの杭を受けて弱っているのだ。早く助けられるに越したことはない。

 心配から出た言葉に、ハルヒが妙な返事を返してきた。


「それなんだけど、私達にとって状況は良くなってるかも知れないの」

「どういうことだ?」


 あたしと一緒に、ゾルくんも首をかしげた。


「元々小さかった反応……リールちゃんだと思うんだけど、これがだんだん強くなってる。逆に元は大きかった反応、ディヴォンは弱弱しくなってるの」

「じゃあ、リールは元気を取り戻してるってこと!?」

「おそらくね。魔封じの杭は抜けてるか、もう効力を発揮していないんじゃないかな。そしてそれに気が付かない位、ディヴォンは消耗してる。『永久凍土パーマフロストの魔法』っていうのは相当大掛かりな魔法なんだね」


 希望が持てる情報に、一つ不安が無くなっていくのを感じた。


「このままいくと、明日には力関係が逆転しそう。リールちゃんが自力で脱出してくる可能性もあるよ」

「そうなれば話が早いけど、ここまで来たんだもん。助けに行くよ!」

「同感だ。ディヴォンを叩くチャンスでもある」


 そう、状況が好転したとはいえそれは動くのを止める理由にはならない。明日からの登山に備えて、しっかり準備を整えることにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 とがったお山のてっぺんに来て、何日か経ったと思う。

 外が見えないからちゃんとは分からないけど、たぶん3日くらい。


 ディヴォンは永久凍土の魔法パーマフロストを準備しはじめてから、更に口数が少なくなった。

 集中している……というより、どんどん疲れてきているみたいだ。ぼくの背中からとげが無くなったことにも気が付かないくらいに。


 とげは『冥界』の力を吸い込み続けた。ぼくは一旦弱ったけれど、この世から消えていくという現象があの世……『冥界』の存在を強くした。そんなことを繰り返すうちに、とげの方が耐えきれなくなって壊れてしまった。

 力が吸い込まれなくなれば、あとはひと眠りもするだけで回復してしまった。


 今ならディヴォンと戦って、ここから逃げることもできると思う。

 でも、ぼくは待つことにした。まだ遠くだけれど、ハルの存在を感じ取ったから。

 ハルが来たなら、間違いなくムウも来てる。他にも誰かついてきているみたいだけど、リサかな? ちょっと違う気もする。


 とにかく、みんながこっちに向かっている。ぼくがディヴォンと争ったら、ここが壊れてみんなを巻き込んじゃうかもしれない。

 それに、こんなに弱っていたらディヴォンのことをうっかり『冥界』に吸い込みかねない。


 みんなが来てくれたら、きっともっと良い方法が見つかるはず。

 それに、ムウが来てくれるのがうれしかった。はやく会いたいな。

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