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第133話 雪原を駆ける

「そういえばあの港町って、観光名所とかあるの?」

「観光?」

「そそ、リールと一緒に戻ったら、春の大陸に帰る前にちょっと遊んでいきたいなって」

「随分と余裕だな……この移動速度だからか」


 出発から一時間。あたし達はゾルくんが想像していた以上のスピードで雪原を駆け抜けていた。

 いや、駆けているのはゾルくんを乗せているパルトだけなんだけど。


 パルトの走る速度は火炎狼フランメヴォルフの平均を大きく凌駕していた。パルトにも、あの時間に合わなかった悔しさがあったのだろう。ゾルくんと依頼をこなす中で成長していたに違いない。深く積もる雪をものともしない足腰には今も驚かされている。


 対して、あたしとハルヒは雪の上を並走飛行していた。

 頑張ればまだスピードを出せる……どころか、瞬間移動で視界の端に飛び続ければ何倍もの速さで辿り着ける。

 でも、それはかなり体力を使う行為だ。途中で不測の事態が起こった場合に対応できなくなる危険を踏まえて、この移動方法に落ち着いた。

 ゾルくんとパルトを置いていくのも嫌だしね。


「宿屋の人に時間がかかるって言われたからヒヤヒヤしたけど、ゾルくんの言う通りこのスピードならちゃんと間に合うって分かったから」

「それにしたって切り替えが早いな」

「すぐに忘れて『ま、いっか』って言えるのがあたしの取柄だから」


 あたしの自虐ネタに対してのゾルくんの反応は薄い。ほーん、って顔してる。

 あれ? ゾルくんにはこの話ってしてないんだっけ……まあ、今言う事ではないか。


 ちなみにゾルくんとパルトを置いていかずにもっとスピードを出す方法としては、ハルヒがドラゴンになって皆を乗せる案があった。

 しかし、本人に却下された。


「あくまで上崎遥日として、だからね。ハイルンとして来てるって認識されたら、どうなるか分からないから」


 ハルヒが概念の化身コンゼツォンの中で有名なことが裏目に出てしまった形だ。

 ディヴォンがリールを攫った時、ハルヒの事も認識はしている様だった。その時と同じ人の姿のままなら、あまり刺激になることはないだろうという判断だ。


 しばらく進み、辺りの地形に傾斜が出てきた頃。進路の脇に大きな石碑が見えてきた。

 ただの岩ではなく、人の手が入っていて綺麗に整えられている。


「なんだろう、あれ」

「あそこは……ドルフド村跡地だ」

「あ、馬車で話してた……」


 ゾルくんの家族が巻き込まれた、大雪崩のあった場所。

 一年前まで村があったとは思えないほど、石碑以外には何もなかった。

 奥には、山がそびえ立っている。あそこから落ちてきた雪が、全て飲み込んでしまったのだ。


 ゾルくんは少しだけ石碑を見つめ、視線を前へ戻した。


「寄らなくていいの?」

「余裕があるとはいえ寄り道は出来ない。すべて終わってから、報告に行く」


 ゾルくんの顔に迷いは無かった。それなら、今は進もう。

 視線の向こうにうっすらと見える、霊峰シェーナホルン。早く辿り着くべき理由がまた一つ増えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 霊峰までの道のりを半分ほど来たところで、日が落ちたので一泊することにした。

 『火の部族』が使っていたというベースキャンプ、木造の小屋の中に入る。一年放置されていたはずなのに、傷んでいる様子は無かった。


「すきま風も全然ない。すごく頑丈だね」

「一年、までは行かなくても半年程度なら放置せざるを得ない場面はあるからな。吹雪や魔物のちょっかい程度では傷まないように色々手を打ってある。『火の部族』自慢の技術の1つだ」


 パルトが小さな火を吐いて、暖炉を灯してくれた。寒さは感じてなかったけど、やっぱり雪に囲まれた中で火があると落ち着くな。

 ゾルくんがあらかじめ分けていた一回分の食料をアイテムポーチから出してやると、パルトはそれをモリモリ食べだした。


「わ、本当に食べきっちゃいそう。体力使ったんだね」

「ここまでほとんど休憩なしで飛行魔法を使ってピンピンしてる、お前たちの方がおかしいんだぞ」


 ゾルくんとは等級ひとつしか差がないはずなのに、おかしい判定をもらってしまった。


「素人が冬の大陸を横断できるのか不安だったが、特級の前には些細なことだったな」


 素人と言われて一瞬ムッとしたが、当然の事実だ。魔法が使えなかったら、こんな場所まで来られなかった。

 やっぱり特級魔法の種ケルン様様である。


 ゾルくんは小屋の設備を手際よく使って、料理を作ってくれた。

 部族でよく食べていたという、具沢山のスープだ。

 肉や野菜は程よく火が通っていて美味しそう……なのだが、全体的な色がやけに赤かった。


「見るからに辛そうだね」

「見た目ほどではない。香辛料を使うのは、寒い場所で生きるための常套手段だ」


 ハルヒの戸惑いは軽く流され、ゾルくんはスープをすすった。

 確かに辛そうだけど、苦手ではないし何よりゾルくんの手作りだ。あたしも早速食べよっと。いただきまー


「うわあ!? ゲホゲホ、かっっっら!?!?」


 スープを口に含もうとした直前、その蒸気だけでむせてしまった。

 呼吸を整え、蒸気に気を付けて一口なめると、舌がビリビリ痛み出した。

 悶えるあたしに、ゾルくんが戸惑いの目を向けた。


「そ、そこまでじゃないだろう」

「そこまでだよ!! え、本当にこれをよく食べてたの?」

「ああ。今回は気温調節スカーフもあるし、味付けはむしろ控えめに作ったはずだが……」


 子供のうちからこんな辛いのを飲むなんて……。冬の大陸に住んでいる人、全員味覚おかしくなってる説あるぞ。


 口を付けた分は涙目になりながら頂いて、残りは全てゾルくんに譲ることになった。


 しかし、異文化交流はこれに留まらなかった。

 就寝準備を整えたあたしの元へ、ゾルくんが毛布をかぶってやってきた。


「どうしたの?」

「身を寄せ合って眠る。小屋の安全性は十分だが、急に寒気が入り込んできても耐えられるようにするぞ」


 言うやいなや、ゾルくんはあたしの足元にピタリとくっついて寝転んだ。

 ん!? あたしもここで寝ろというのか、ゾルくんとゼロ距離で!?


「いや、ちょっとお姉さんにはまだ早いというか、ゾルくんももっと自衛するべきというか、ハルヒ挟まって!!」

「え、これ挟まっていい隙間なの?」

「むしろまだ若い2人の間に挟まってくれ、ドラゴン様!」


 「なんか都合よく概念の化身コンゼツォン扱いされてる気がする……」と言いながらも、都合のいいドラゴン様はゾルくんの隣に寝てくれた。


 ゾルくんの隣で寝られるラッキーイベントだったけれど、流石にいきなり恋人距離は無理だからね!? あたしはパルトをモフれれば十分よちくしょう!

ワフ「僕のことも都合よくゆたんぽ代わりにしてるよね。ご主人様以外に抱きつかれるのは慣れないな。力加減もちょっと……リールは鱗が硬いから平気なんだろうな」

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