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第131話 大雪崩(ゾル視点)

R15指定が初めて役に立つ描写をしたかもしれない。

 冬の大陸は年中雪に閉ざされた極寒の地。厳しい気候を乗り切るために、人は魔物と協力して生活していた。

 『火の部族』は、火炎狼フランメヴォルフを使役して氷の世界を切り開く遊牧民。俺はその最年少で、同時期に生まれたパルトと常に一緒に居た。


 子供は他に居なかった。『火の部族』が活動する場所は危険な場所が多い。子供が生まれたら母親は一時的に部族を離脱するし、子供は目覚めの儀式で魔法の種ケルンが4級以下と判明したらその時点で戻ってくることは出来なくなる。寒さが幾分か和らぐ港町で暮らすか、他の大陸へ移り住むかの2択を迫られる。


 ……厳しい世界? それは冬の大陸に言ってくれ。

 4級程度の魔法しか使えなければ、吹雪の中まともに立っていることも出来ないからな。


 俺の魔法の種ケルンは炎の1級ということが判明し、母親と共に『火の部族』に戻って来ることが出来た。

 そういえばこの時一度、ディヴォンに会っているはずなんだよな。特に印象に残らなかったが。


 知識をつけるために学園へ通う事は決めていたが、それも1年近く先の話。

 しばらくは部族と共に旅をして、修行の日々を送った。


 ん? 『火の部族』だから炎の魔法の種ケルンを授かったのかって? それは違う。魔法の種類も等級も遺伝しない、というのは常識じゃないか。

 名前の由来はパルトたち、火炎狼フランメヴォルフから来ている。他に氷雪狼シュネイヴォルフを従える『氷の部族』なんかもいるぞ。


 そう、部族内でも炎を自在に操れる人は少なかった。そのせいか、子供ながら重宝されていた感覚はあった。

 進路上の大きな氷塊を溶かしたり、調理や暖を取るための火を灯して周ったり。使い始めはそれだけで体力が尽きる日もあった。使いこなせるようになるにはそこそこ時間がかかったな。


 体力が付いてからはパルトと一緒に狩りをしたり、各地に点在するベースキャンプの拡張工事も手伝ったりした。

 あの頃の訓練は大変だったが、やればやるだけ出来ることが増えて、部族に貢献している実感が湧いた。毎日が充実していた。


 ……あの大雪崩が来るまでは。


 あの日は使いを頼まれて、俺とパルトは港町に居た。

 買い集めた補給物資をパルトに括り付けて、ついでにもう少し町を見て回ろう……なんて呑気なことを考えていた。


 その時、遠くで地響きの様な音が聞こえた。

 冬の大陸ではよく聞く音だ。クレバスが出来たり、雪崩が起きたりした時に響く音。だからそれだけでは大して気にもならなかった。

 でも、しばらくして町が騒がしくなった。


「大きい雪崩だ!」「ドルフド村が飲み込まれた!」


 衛兵たちの伝達が聞こえて、気温調節の魔法をかけているはずの背筋が凍った。


 『火の部族』はこの時、ドルフド村のすぐそばにキャンプを築いていた。

 その村が被害に遭ったということは……。


 放り投げるように荷物を捨て、パルトに出来る限りの強化魔法をかけて町を飛び出した。

 歩けば3時間かかる道。それを全速力で駆け抜けて、先に出ていた救援部隊であろう早馬すら追い越して、ドルフド村に辿り着いた。


 ……正直、最初は辿り着けたのかどうか、道を間違ったんじゃないかと自分を疑った。

 着いた地点は一面雪まみれで、人の生活の跡どころか生き物の気配が全くなかった。


 無理をさせたパルトはその場に休ませ、1人でキャンプ地を探索した。

 大丈夫、『火の部族』は冬の大陸のあちこちを旅してきた。こういった自然の驚異にさらされたことなんて何度もあるはず。きっとみんな、自慢の魔法で身を守ったに違いない──


 雪崩の影響で進みにくくなった道をかき分けながら、まだ不慣れだった探知の魔法を全力で使った。それに反応があったのは、追い抜いた早馬部隊が到着した頃だった。


「こっちに! ここに居ます、手伝ってください!」


 探知に引っ掛かったとはいえ、それは雪の下、かなり深くに埋もれていた。自分の力だけでの救出は不可能だと悟り、助けを求めて大人と一緒に作業に当たった。

 この判断は正しかった。作業時間の短縮という点でもそうだし、気を保つという点でも。


 掘り進めるごとに、雪の色が赤く変わっていった。

 人の一部が見えた時、1人だったら発狂していたかもしれない。──見知った顔が氷の塊に埋もれ、砕けていたんだ。

 辛うじて息があったから探知に掛かっただけで、この場にいる人間に治せる傷では無かった。


 絶望感に締め付けられる体を無理矢理動かして、日が暮れるまで救助活動を続けた。けれど、成果は無かった。


 救援は後から後からやって来て、最終的には全てを掘り起こすことが出来た。

 だが、助かったのはドルフド村で屋内にいた村人が十数人のみ。


 母親も、父親も、部族の皆も、テイムしていた沢山の火炎狼フランメヴォルフ達も、みんな……。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺は、港町にいた遠い親戚の元に引き取られた。

 良くしてくれたとは思う。でも、やり取りをした記憶が殆ど無い。覚えているだけの余裕が無かったんだろうな。

 あの後について覚えていることは2つ。春の大陸へ行くことになったのと、そのきっかけ……大神殿での合同葬儀のこと。


 大きな広間の隅々に響く声で犠牲者の名前が読み上げられ、多くの人が手を合わせてくれた。神官様が、鎮魂と自然を鎮める祈りを捧げた。


 その中に登場する、四神様の名前。これを聞いた時に、俺は疑問を抱いた。


(神様……ディヴォン様がいるなら、どうして助けてくれなかった?)


 疑問はすぐに、疑念に変わる。


(神様が雪崩を止めてくれれば……、起こった後でもすぐに駆けつけてくれれば、1人でも多く助けられたんじゃないか? そもそも、葬儀にすら姿を現さないのはなぜだ。遠くから見守っているから? それとも……)


「なんで、助けてくれなかったんだ」


 漏れ出てしまった微かな呟きは、隣に立っていた人にも聞こえていたか怪しい。

 けれど、答えが頭の中に返ってきた。


 ──強き者が生き残る。それが自然の摂理。あれは試練であった。


 周囲にいた誰の声でもない。間違いなく、ディヴォンの声だった。


 強き者が生き残る? じゃあ亡くなった人達は弱かったから、死んで当然とでも言うのか? あんな理不尽な災害が、神様からの試練だなんて考えたくもない。

 『火の部族』は冬の大陸でもトップクラスに強い者の集まりだった。それを弱いと言われてしまえば、神様以外全て弱いということになる。

 神様は俺たちの事を見下しているのか? 弱いから、守る価値も無いと?

 俺たちの事をどうでもいいと思っている存在なんかに、祈りを捧げるなんて有り得ない……!!!


 頭の中を言葉が駆け巡って、衝動的に杖を振り上げていた。

 炎を灯し、ディヴォンの像に向かって放とうとした。寸前で周りの人々に取り押さえられたが、そんなことで俺の気持ちは収まらなかった。


(お前がそういう考えなら……俺は強くなる。神様より強くなって、お前を殺してやる!!!)


 最後に残っていた理性が、その言葉を叫ぶことだけは止めてくれた。

 だがそれでも、神殿にいることには耐えられなくなって、その場を飛び出した。


 それからは、冬の大陸にいること……ディヴォンに見られているという事が不快になってしまった。俺は入学が迫っていた学園に無理を言って、春の大陸へ転入することになった。

 そうして、シュプリアイゼンにやってきたんだ。


 あれからまだ一年も経っていない。ギルド活動は出来る限りこなして経験を積んだが、今の状態でディヴォンに勝つのは客観的に見れば無理だろう。


 だが、行かなくてはいけない理由がある。クラスメイトが攫われ、危険にさらされているのなら、無謀だろうが立ち向かわなくてはならない。

 もう二度と、ディヴォンによって失われる命が無いように。


 予定より随分早まってしまったが、冬の大陸に戻る覚悟は出来ている。


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