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第130話 大陸間飛行馬車

 善は急げと言うが、急がば回れもまた真実。

 アドレナリンが出っぱなしですっかり忘れていたが、あたし達は依頼で山登りをしてきた帰りだった。話し合いのうちに日も暮れてしまったので、準備を整え体を休めてから明日出発することになった。


 忘れていた疲れがどっと襲ってきて、部屋に帰ったとたんに眠りについてしまった。しっかり日が昇った後に、ハルヒに起こされることになってしまった。


 いつも起こしてくれる隣人がいないというのを、こんなところでも実感してしまうなんてなあ。

 部屋の隅にあるからっぽの籠をちらりと見て、気持ちを切り替えた。


 ハルヒに急かされながら旅支度をして、部屋を出る。と、そこにはリサが待っていた。


「あの、これ。役に立つかは分かりませんが、私の作った薬をまとめて持ってきたのです」


 じゃらじゃらと音を鳴らす袋の中には、沢山のビンが入っていた。液体だったり錠剤だったり、色々な薬が入っている。ラベリングもされていて、用途が一目で分かるようになっていた。


「ダーベルの魔力補給薬もある! まさか昨日、あの後に作ってくれたの!?」

「私が出来ることは、今やるしかなかったですから。他の薬は今まで保管していたものですが、薬効は保証するのです」

「リサの薬には何度もお世話になってるもん、今更疑わないよ。ありがと!」

「リールのこと、よろしくお願いするのです」

「任せて。すぐ帰ってくるからね」


 まだ表情の晴れないリサを撫でると、「子供扱いしないで欲しいのです!」と怒られた。

 その返しを待っていたよ。元気がないままだと心配だからね。


 寮から出て、学園の裏手へ進んでいく。休みの日とはいえ、他の学生達に見られる可能性があり、そうなった時の説明が面倒なので目立たない場所に集合することになっていた。


 そこには、今まで見てきたものより大きい馬車が止まっていた。

 アインホルンも5匹、立派な毛並みで体も大きな個体が繋がっている。


「これが海を渡れる飛行用馬車……。いつも乗っているのとは迫力が違うね」


 トゥーリーンがリサに力を貸せなかった分、他の部分で惜しみなく協力してくれた結果だ。冬の大陸までの移動手段を、大神殿経由で用意してくれたのだ。

 荷台には沢山の荷物が既に積んである。これもトゥーリーン達からの援助物資だ。本人も傍に立っている。


「あれ、ゾル君は?」

「もう中に入って待っていますよ。馬車が来る前からここにいたようです」

「え、めちゃくちゃ待たせた? 申し訳ない……」


 大きな荷物を荷台に乗せて、慌ただしく車内に乗り込む。

 馬車の中は広々としていて、高級感漂う装飾がなされていた。リサならきっと尻込みしてしまったかもな。


 腕組をして座っていたゾル君が、こちらに気が付いた。


「遅かったな。……眠れなかったのか?」

「いえ逆です、準備せずにグッスリして遅れました……」


 さりげない気遣いが申し訳なくて、思わず敬語になってしまった。

 ゾル君は一瞬キョトンとした後、「緊張して力が出せないよりは良い」とフォローしてくれた。優しすぎる。


「ご主人様は優しいねえ」


 恥ずかしすぎて、本人ではなく隣でお座りをしていたパルトに話を振った。

 あたしの言ったことが伝わったのか、パルトは嬉しそうに「ワウ!」と吠えた。


「準備は出来ましたか? そろそろお願いしましょうか」


 トゥーリーンがアインホルンに近づいて、先頭の一匹を撫でた。

 御者はいない。アインホルン達が自力で目的地まで飛行するようだ。長時間空を飛ぶのに御者台に居続けるのは大変だもんね。


「ディヴォンの秘技『永久凍土の魔法パーマフロスト』の構築が終わるのは早くて10日。彼の告げた期限とも一致していますから、どうか慎重に行動してくださいね」

「焦らず確実に仕留めます!」


 ディヴォンがリールの事を無力化するために使う魔法には、膨大な準備が必要らしい。その期間が10日間。だが、そこまで待ってやる筋合いはない。

 無理はせず、それでも一番早いルートで助けに行こう。


 アインホルン達が鳴き、馬車が揺れだした。出発の合図だ。いきなり飛び上がると目立ってしまうので、街を出るまではこのまま地上を移動する。


「貴方達に、春風の恵みがあらんことを」


 トゥーリーンの祈りを背に受けて、馬車は学園を後にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 さて、冬の大陸までは半日ほどかかります。

 その間、この狭い空間でゾル君のことを見放題なわけになりますね。


 ……いつもの調子ならそうやって鼻の下を伸ばしてハルヒに咎められるところだったが、昨日の今日でそんな気分には流石になれなかった。

 特にゾル君の話は、話の流れで聞いてしまったとはいえ、本当は知られたくなかったんじゃないだろうか?


 そう考えながらゾル君の方を見ると、ちょうど座る姿勢を正していたゾル君とバッチリ目が合ってしまった。


「あ、ぞ、ゾル君!」

「何だ?」

「あたしのことはお姉さんだと思いなさい!」

「………………」


 ……自分でもわかってる。何か話さなきゃというプレッシャーがあらぬ方向へ飛んで行ってしまったことを。


「素っ頓狂な発言にもほどがあるよ、むーちゃん……」

「いやあのね? 昨日ゾル君の話を聞いちゃったわけじゃん? で、独りぼっちというのは寂しいかなと思って……」

「元々兄弟は居なかったし、パルトがいる」

「そうでしたか……」


 空振り三振試合終了である。


「むーちゃん、焦っても良いこと無いよ」

「嫌というほど身に染みたところです……」

「ディヴォンもきっと焦ってる。リールちゃんが悪者と思い込んで、早く何とかしなきゃって。でも、そういう時こそちゃんと考えて、周りと協力して動くべきだよ」


 確かに、こっちは3人で向こうは1人。せっかく数の利があるのだから、しっかり話し合ってチームワークを深めていくべきだ。「お姉さんになります宣言」なんてしている場合じゃなかったが、幸い時間はまだある。


 ゾル君もハルヒの主張に賛同したのか、ゆっくり頷いた。


「妙な空気を引きずらないように、今のうちに話しておくか」

「話すって……いや、無理はしなくていいよ?」


 話の内容がゾル君の過去についてだということは、あたしでも想像がつく。

 やんわり断るが、ゾル君の表情は変わらない。どうやら話す気らしい。


「正直、普通の人には話せない内容だな。なにせ神様を悪者扱いするんだ。だが、昨日のお前の態度を見て確信した。異世界人にはその辺りの偏見が無いと」

「あー、まあ、あたしがいた世界には神様って実在してなかったからねえ」


 自分がイメージしていた神様という像に四神様が当てはまらない、というのもあるだろう。あたしの中で四神様は『お茶目で距離間の近い偉い人達』というイメージだ。

 いや、正確には3柱までで、ディヴォンには今のところ悪い印象しかないが。


 「管理者の概念の化身コンゼツォンはいたけどね、むーちゃんも会ったはずだけど……」というハルヒの小声は馬車の揺れに吸い込まれた。


 そしてゾル君は目を閉じて、ゆっくり話し始めた。


「俺は元々、冬の大陸で『火の部族』の一員として暮らしていた──」

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