第128話 『神様を倒す』
「……そして、ディヴォンは茶会から飛び出してしまった」
ヘラビスが端的に説明してくれたおかげで、大体の事情は掴めた。
四神の情報交換会でこの前のヘラビスの暴走を知ったディヴォンは、その原因をリールがいたからだと決めつけて、ここまでやってきたらしい。
確かにヘラビスを暴走させた犯人のブートは、リールの事を知っていた。ディヴォンが異世界からやってきたあたし達の事を認めていないというのもある。
それでも、まず責めるべきはブートだろう。いきなり街にやって来て大雪降らせて、リールを誘拐していい理由にはならない。
「元々頭の固いヤツではあったんだが、今回は特に頑固になってる。俺らの心配をしてくれるのは有難いんだけど、人様に迷惑かけてまでやることじゃないのになあ……」
ディザンマはディヴォンと兄弟のような存在だからか、ちょっとディヴォンの肩を持つような発言がある。
かみさまー、空気読んでー。『迷惑』のレベルが人間から見ると天災なんですよー。
「ディヴォンは茶会から飛び出す直前に、辺りを氷漬けにして私達の足を縫い留めた。そこから脱出して、どうするべきか3人で相談しているうちに後手に回ってしまった」
「3人、ということはトゥーリーン様もその場にいらっしゃったのですよね? それなら私にすぐ神託を送ってくだされば、こちらでも対策が出来たのに……」
ぽつりと言葉をもらしたリサは、「あ、トゥーリーン様を責めているわけじゃないです! 今のは失言でした!」と神官見習いの立場を思い出して慌てた。
「あー、そこも説明しておいた方がいいか。俺たち四神には、『不干渉の掟』があるんだ」
「不干渉?」
聞きなれないワードの説明を引き継いだのはヘラビスだ。
「お互いの問題に気安く手出しをしない。『助けが必要だ』と言われるまでは、大陸を超えて干渉してはならない」
「そそ。例えばトゥーリーンはすぐに人間の手助けをするだろ? 俺はまあその時々ってカンジ? それぞれのタイミングってのがあるから、それをジャマしないようにって約束したんだ」
トゥーリーンなんてリサの祈りにすぐ駆けつけてくれるし、何なら会いに行かないと凹むレベルで干渉してくるもんね。神様という言葉から想像する近寄りがたさは無いと言っていい。
それなら、山に籠っていて滅多に会えないとされているヘラビスの方が神様っぽい。ただしパッチに関する事を除く。
掟が出来てしまうくらい、それぞれの考えるラインがバラバラなんだろうなというのは容易に想像がついた。
「で、でも、神話では四神様が協力して事件を解決していく場面が沢山あるじゃないですか。フライミヨルのだまし蛙とか」
「カエル……? あー、あの時の! あれは春の大陸で起きたことだし、掟が出来るより前の出来事だったからな」
リサの疑問に、ディザンマが昔話を懐かしむように答えた。
そういえば、あたしが文化祭で出し物をするときに参考にした絵本の中では、神様が協力する場面が沢山あった。
あれが嘘ではないけれど、今は見られないというのはなんだか悲しいな。
「春の大陸へ向かったディヴォンの影響で雪が降り始め、その連絡を受け取ったトゥーリーンはシュプリアイゼン大神殿へ助けに向かった。『私には行く理由が出来ました。2人も手伝ってください』というトゥーリーンの言葉で、私達もここまでやってきた」
ディヴォンのことを簡単には止められないけれど、ディヴォンのせいで春の大陸に問題が起こったからトゥーリーンは対処に向かえるようになった。それを名目にして、ディザンマとヘラビスも動けるようになった。
そんな順序で動いたから遅れてしまった、という訳か。
ううん、なんだか面倒な決まりだな。お偉いさんらしい。
「というか、その『不干渉の掟』って言うのがあるなら、今ディヴォンがやってる事自体が相当な違反行為なのでは? 秋の大陸のことはヘラビスの問題だし、今も春の大陸に迷惑かけてるし」
「あ、あの、ナカガワさん、流石にそれは言い過ぎ……」
神様相手にずかずかと物言うあたしに、ビリス先生が弱弱しい待ったをかける。
うう、ビリス先生の言うことは聞きたいけれど、それとこれとは別問題だ!
「いやあ、そうなんだよな。リールの問題をフィルゼイト全体に関わることだと考えているにしたって、今までと比べて活動的すぎる」
「ディヴォンは静観主義。山が崩れ街が飲み込まれるほどの雪崩が起きても動かなかったほど。……あの時は助けられなくて、申し訳なかった」
ヘラビスが頭を下げた先に居たのは、ゾルくんだった。
神様が一生徒へ謝罪をしたことに先生たちは驚くが、当の本人は動じなかった。
「……今更だ。それに、あの時一番近くにいた神様から言われないと納得できない」
いやいやいや。というかゾルくんの過去が重すぎる。物忘れとか呪いがどうとかのレベルじゃない。
え、そのディヴォンが見てただけの雪崩にゾルくんが住んでた街が巻き込まれて、居場所が無くなったから春の大陸まで来た……ってこと!?
衝撃を受けているあたしをよそに、話は進んでいく。
「それなのに、今回はリールを攫って封印するなどと言い、それを実行しようとしている。今までの言動と違い過ぎる上、『不干渉の掟』のこともあり、私達は下手に動けない」
「だから、夢心ちんたちに代わりに行ってきて欲しいのさ。ディヴォンの元へ」
まだ話を飲み込めていないあたしと、神様からのお願いを聞いて考え込む他の面々。
一番最初に口を開いたのは、ゾルくんだった。
「俺も行く」
「な、アブグルンド君、お主は……」
「もちろん、君にもお願いしたい。この中で一番冬の大陸を知っていて道案内に適しているのは君だからね」
止めようとしたフェアユング先生を遮って、ディザンマがGOサインを出した。
「……良いのか? 自分で言うのも難だが、アイツを目の前にしたらどうなるか分からないぞ」
「ディヴォンを説得するにはきっと、そのくらいの熱意をぶつけて来る人物が必要」
「アイツを説得する気なんてない。俺はアイツを……倒す」
ゾル君の低い声に合わせて、パルトが小さく唸った。
神様を倒す。神様が実在して、信仰されている世界でそんな思想を持つことがどれだけ異端なことか。でも、ゾルくんの事情を知ってしまえば気安く止めることも出来ない。
今まで神様への不敬を戒めてきていた先生たちも、適切な言葉を見つけられずにいた。




