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第13話 リズエラ大捜索

 闇雲に飛び出したので、どこに向かっていいか分からないあたしは、すぐに立ち止まらざるを得なかった。

 後ろから来たハルヒがそのまま突っ込んできて二人共転んでしまい、そこでようやく思考が落ち着いた。遅れてやってきたリールが、あたしの頭に着地した。

 背中をさすりながら立ち上がり、ハルヒの手を取って体を起こした。管理人さんは諦めたのか追ってくる気配は無かった。


「先生の言ってた公園ってどこだろう……薬草が取れるんだから大きいんだろうけど」

「この街に一つ森林公園があるはず。場所は私も知らないから誰かに聞くしか」


 どうやってリズエラを探そうか考えていると、近くで怒号と爆発音が聞こえた。


「何!?」

「とにかく行ってみよ、リズエラちゃんが巻き込まれてたら大変!」


 うっすらとだが建物の上に煙も見える。音のした方向へ再び走り出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「覚えてろよ!」

「……」


 騒動の元へ辿り着いた。脇道というほどではないが、それほど広くない道を逃げていく4、5人の集団と、それを無言で眺める灰色の髪の少年、それに灰色の狼がいた。

 街に来た日にぶつかってしまった少年だ。さっきの爆発はこの子がやったのだろう。余裕の表情で振り返り、駆け付けたあたし達と目が合った。


「お前は……」

「あ、この前はごめんなさい。ところで今のは」

「気にするな、お前たちには関係ない」


 見かけによらず可愛らしい声で返事が返ってきた。声変わり前なのだろう。

 気にするなと言われても爆発が起こるような騒動は気になってしまう。だが食い下がろうとすると狼が唸り声をあげてきたので、詳しく聞くことは出来なかった。


「なら、このあたりで金髪の女の子を見かけなかった? あなたと同じくらいの年齢の」

「いや、見てない」

「そっか、じゃあ森林公園の場所って分かる?」

「森林公園? あっちに進めば沢山木が見えてくるから、そこを目指せばいい」


 こんな時間に公園までの道を聞くのを疑問に思った様だが、少年はすぐに教えてくれた。


「ありがとう! 君はこんな時間にうろうろしてないで帰るんだよ!」

「……余計なお世話だ」


 少年はムスッとしながら歩き始め、すぐに角を曲がって消えてしまった。

 あたし達もじっとしている暇はない。教えて貰った方角へ急ぐことにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 すっかり辺りが暗くなった頃、それらしい場所に辿り着いた。

 明かりは無く、ほぼ森のような景色で、人の気配は感じられない。町の中心には明かりはあったが日本よりも少なかったので、街灯が恋しくなる。


「私たちまで迷いそうだけど、どうしよう」

「ここにいるっていう保証は無いけど、でも探さなきゃ始まらないよ」


 慎重になるハルヒのことも分かるが、今は突き進むべきところだ。

 魔法で明かりを灯せないか試してみると、こぶし大の光の玉を作って浮かべることに成功した。これで少しは安心できる。近くに漂わせながら、木々の間をゆっくり進んでいった。     

すると、1分も歩かないうちに異変を発見した。


「スライムだ。飼われてる……わけじゃなさそうだね」


 ぷよぷよと音を鳴らしながら、街で見かけたのと同じ水色のスライムが公園内を闊歩していたのだ。しかも契約魔法を使われていない、野良スライムだ。


「壁があるから外から入ってきた訳じゃないよね、捨てられたのかな」

「多分……あっ、気付かれた!」


 離れた所から観察していたのだが気が付かれ、スライムはこちらに向かいながら水を吐き出してきた。


「痛っ! スライムのくせにやるじゃないか」


 水鉄砲はかなりの勢いがあり、当たった頬がヒリヒリと痛んだ。


「やっつけちゃっていいよね? それ!」


 杖を取り出して魔法の種ケルンをはめ込む。お返しに今日考えたばかりの技、氷を敵に向かって猛スピードで当てる魔法を使った。思い描いた通りに氷はスライムに当たり、弾け飛んだ。


「しまった! 技名を考えるのを忘れてた」


 初戦闘が決まったと思ったのだが、大事なところが欠落していた。これでは締まりが悪い。

しかし今すぐ決めようにもいいものが思い付かなかった。


「むーちゃんそんなこと言ってる場合じゃないよ、リズエラちゃんもこんな風に襲われてるかも知れないよ!」

「そんなことじゃないもん……でも急いで見つけなきゃ」


 まだ奥の方にスライムが見える。少し不貞腐れながらも、次の魔法を構えて先へ進んだ。


 技名はまた今度考えようと気を取りなおす頃には、10匹近いスライムを倒していた。奥へ進むほど数が増えている。

 途中からはリールも手伝ってくれた。スライムに気が付かれないように後ろから飛びつき、『虚無』の力を発動。あの日のボールペンと同じように、空間に溶けるようにスライムは消えてしまった。


「できたよ!」

「よしよし。しかしどこから湧いてくるのさ、街中だっていうのに」

「スライムは分裂して増えるからね、あと水分を逃がさないように夜活動するから、こんなにたくさん出てきてるんだと思う」


 昼間に出て来ていれば駆除されていた魔物が、人のいない夜になるまで動かないため気付かれずにここまで増えたという。こんなところでペットの野生化問題に直面するとは思わなかった。

 どこかに報告するべきなんだろうか……と考えていたら、小さな悲鳴が聞こえてきた。


「……だれか、だれか……!」

「今の聞こえた!?」

「うん、あっちの方だ!」


 声のした方角へ駆けつけると、木々が少なく開けた場所に辿り着いた。

 そこには今まで倒した数よりもっと多くのスライムがひしめき合っていた。その中に見慣れた金髪少女を発見した。


「リズエラちゃんだ!」

「ハイルン様!? それに二人も、どうしてここに……」

「取りあえずスライムやっつけちゃうから伏せてて!」


 このままではリズエラが潰されてしまう。一匹ずつ倒していたら間に合わないので、大きな魔法を使うため沢山魔力を集め始めた。


「魔法を使い始めたばかりの初心者に、この数を倒すのは無理なのです! 逃げるのです!」

「オタクの妄想パワー舐めないで、必殺技だってもう考えてあるんだから!」


 リズエラの静止を全く気にせずに更に魔力を貯める。その間にリールに指示を出した。


「リール、先生の上で『傘』お願い!」

「りょうかい!」


 リールがスライムの群れを軽々と飛び越え、リズエラの上で『虚無』のバリアを展開する。花屋でリールが傘として使っていたのにアイデアを貰ったものだ。


「これで大丈夫。氷の雨雲よ、いっけええええーーー!」


 必要なだけ魔力が溜まりきったと同時に、杖をスライムたちの頭上に向かって振った。放った魔力に込めたのは、ひょうがスライムたちを一網打尽にするイメージ。それは空で次々と氷を作り出し、猛スピードで地上へ降り注いだ。

 一匹一匹に狙いを定める暇が無かったので、辺り一帯にばらまいてリズエラに当たりそうなものはリールに消してもらう。必殺技らしいごり押し作戦だ。


 午前中にイメトレしただけのぶっつけ本番だったが、辺りにひしめいていたスライムはほとんど潰れ、わずかに生き残った個体も驚いたのか逃げて行った。大成功!


「うーん、必要ないとはいえ呪文も欲しいな……あとこれも技名考えてなかった」


 しかし課題も残った。やっぱりかっこいい言葉を叫ばないとしっくりこない。それも含めると今のは70点くらいだな、と反省しながらリズエラの元へ駆け寄った。

 魔力切れになっていたようで、座り込んで体を起こしているのもやっとな表情だ。すぐにハルヒが回復魔法をかけた。


「あ、ありがとうございます」

「むーちゃんが全部片づけちゃったし、これくらいはやらないと。ケガする前に見つかってよかった」


 少し顔色が良くなったリズエラは、あたしの方を向いて呆れるように呟いた。


「なんて力任せな魔法なんですか……特級じゃなければ失敗してたのです」

「あたしのは特級じゃん。杖もあったし、うまくいくって確信してたよ」


 強がるリズエラにドヤ顔で言い返し手を差し出したのだが、リズエラは座ったまま俯いて動かなかった。


「……なんで助けに来たのですか、夜は危険なのです」

「だからでしょう、知り合った子供を放っておくほど野蛮じゃないよ」


 といいながら、前に言われた言葉を返してるあたり自分意地悪してるな。

 その意趣返しに気が付いたのか、リズエラは言い淀んでしまった。


「……羨ましかったのです」


 少しの沈黙の後、リズエラはゆっくり話し始めた。


「私よりもずっと強い魔法の種ケルンを持っていて、みるみる魔法を使いこなしていって、強力な概念の化身コンゼツォンと対等に話せて、そして年上で異世界人……羨ましくて、怖かったのです」


 よそ者で年上だから話しにくいのかと思っていたが、理由はそれ以外にも沢山あったようだ。


「でも、冷たく当たっていた私のことを助けてくれて、怖いとは思わなくなりました。だから、その……ありがとうなのです」


 ここで素直に謝れるなんて、本当に純粋で良い子だ。あたしの意地悪な気持ちもすっかり無くなった。


「うん、どういたしまして」

「私はどうすればいいのでしょう? 私が限界まで魔法を使っても追い払えなかったスライムの大軍をあっという間に殲滅した時点で、もう先生なんて言われる資格はないのです。むしろ私が貴方を先生と呼ぶべきなのでしょうか?」

「へ? いやいやそれは違うでしょ、でもどうしろと言われても……」


 まだまだ教えて貰うことは沢山あるはずなので、あたしが先生というのは大きな間違いだ。先輩後輩、にしても入学は一緒なんだからおかしい気がするし、先輩という柄でもない。上手い言葉が見つからず、あたしにはお手上げだとハルヒの方を見ると、ハルヒは笑ってこう言った。


「なら友達になればいいんだよ、仲良くなるのに年の差は関係ないよ」


 確かに。出会いと今までの流れがイレギュラーで、その発想が完全に抜け落ちていた。


「なるほど、さすがハイルン様なのです! ではよろしくなのです、ムク」

「いきなり呼び捨てとはやるねえ、じゃああたしも。よろしく、リズエラ」

「リサでいいのです。家族からはそう呼ばれています」

「お、じゃあリサで」


 先生改めリサと、握手を交わした。こちらの世界で初めて友達が出来た瞬間だった。


「私のこともハルヒって呼んでくれたら嬉しいな」

「ええ!? は、ハルヒ……様」

「様は外れないのね……」


 あたしと同じようには打ち解けきれなかったハルヒは、しょぼんとしてしまった。


「ぼくも! ぼくも!」

「あ、えっと、リール?」

「うん! よろしく、リサ!」


 リールから差し出された前足を握るリサ。以前は『虚無』の力を見て怖がっていたが、助けられたことでこちらも恐怖がなくなったのだろう。リールも握手を覚えたようで、二人の成長が見られて嬉しくなった。


「よーし、じゃあ皆で管理人さんに怒られに行きますか!」

「なんで嬉しそうなのです? ムクはⅯなのですか?」

「せっかくポジティブな気持ちで帰ろうとしていたのに!」


 すっかり元の調子を取り戻したリサを見て、あたし達は安堵の笑みを浮かべた。


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