第127話 冬と冥界(リール視点)
ぼくはディヴォンに抱えられて、ずっとお空を飛んでいた。腕の中から抜け出したくても、なぜか体に力が入らない。
みんなと一緒に帰る途中、街の入り口まできたところに、雪がたくさん降ってきたと思ったら、何かを背中にプスリと刺された。それからずっとこんな調子だ。
ディヴォンはむっと口を閉じて、なにも話してくれない。ぼくもなんだか話すのがおっくうだから、そのまま静かにしていた。
お日様が海の向こうに沈んで、お星さまがキラキラしてきたころ。一面真っ白な大きな島が見えてきた。
その中でもひときわ白くてとがったお山に向かって、ディヴォンはまっすぐ飛んだ。
とんがりのてっぺんに空いた穴から中に入ると、ディヴォンはそこを塞いでしまった。真っ暗で何も見えない。……あ、ディヴォンが魔法で灯りをつけてくれた。
学園にある、ぼくとムウのお部屋より少し広いくらいの空間だ。椅子とか机は全部氷でできている。ムウみたいに魔法で作ったのかな。
ディヴォンは疲れたように息を吐くと、ぼくのことを床に放り投げた。
氷の床は痛くて冷たい。でもやっぱり体がだるくて、うねうねと尻尾を動かして不満をアピールすることしかできなかった。
「完全に動きは止められないか。あの商会が粗悪品を売りつけた、とは思えんな。やはり『虚無』の力は侮れないということか。……まあいい、その力を使われないだけで十分だ」
ディヴォンは低い声でぶつぶつ呟くと、片手をぼくの方へかざした。
氷が床から生えてきて、ぼくのことを囲んでしまった。ムウの「アイシクル・プリズン」の小さいバージョンだ。
いつもならこんな薄い氷なんてすぐに消せるのに、背中に刺さったとげが『冥界』の力を吸い込んじゃう。とげを抜こうとしても体はうまく動かないし、そもそも背中には手が届かない。
ディヴォンは近くの椅子に座って、どこか遠いところをぼんやり眺めた。
フードのすきまから見える目は、なんだか悲しそうだ。
「お前が来たから、フィルゼイトに災いが起こった。『虚無』をこの手で封じることが、フィルゼイトを治める四神の役目。……なのに彼奴等は」
「わざわい……?」
「しらばっくれる気か! ヘラビスが『憤怒』の概念の化身に憑りつかれ、暴走してしまったのはお前のせいだ!」
ディヴォンの怒鳴り声で、唯一動く尻尾がぴんと張った。ワキュリー先生より大きくて、とっても怖い声だ。
それから、秋の大陸でヘラビスと戦ったことを思い出した。
あの時も、「お前のせいだ」とか「ここから立ち去れ」とか言われた気がする。でも、もうヘラビスとは仲良しだ。
ヘラビスを操っていたブートって概念の化身は、確かにぼくのことを知っていたらしい。でもあれからぼくたちの前に現れてはいなかった。
「ぼくのせいかもしれないけど……もうヘラビスは大丈夫。みんなで治したよ?」
「それで罪滅ぼしをしたつもりなのか? いずれまた災いを招くに違いない。俺はそもそも、お前をフィルゼイトに招く事にはずっと反対だったのだ」
氷の壁をはさんでいるせいか、ぼくの言葉はディヴォンにぜんぜん届かない。
それこそ、ぼくを攻撃してきた時のヘラビスみたいに。
「ヘラビスも最初は反対していたはずだ。なぜ容認するようになったのか理解できない。現時点で一番の被害者のはずなのに。トゥーリーンもディザンマも、この星を守る自覚が足りていない。俺がやらなければ……」
でも、ディヴォンはあの時のヘラビスほど攻撃的じゃないし、操られてるって感じでもなさそう。本当にぼくのことが嫌いなんだ……。
怖がられることはよくあったけれど、おはなししていくうちにみんな仲良くなれた。こういう人に会った時はどうすればいいのか、ぜんぜん分からなかった。
ディヴォンは立ち上がったけれど、すぐにふらついて椅子に戻った。ずいぶん疲れているみたいだ。
「そんな目を向けるな! 心配される筋合いはない」
別にそんなつもりは無かったんだけど、そう言われると気になった。
こんなにボロボロになってまで僕をここに連れてきた、1人でやるしかなかった理由はなんだろう。
この星の神様だっていうなら、もっといろんな方法が取れそうなのに。神官たちにも協力してもらうとか、ヘラビスみたいに使い魔と一緒にやるとか……。
でもそれを聞いても答えてくれないだろうし、質問をまとめる集中力も足りなかった。
「明日の朝から、お前に永久凍土の魔法をかけ始める。『虚無』の力でも決して溶かせぬ密度の氷で、お前を永遠に封じるのだ。完成までに飼い主がここに辿り着かなければ、『虚無』は終わりだ」
ぼくの力でも消せない氷、そんなものが作れるのかな?
ぼくの疑問は声にならず、ディヴォンは椅子に座ったまま眠ってしまった。
ぼくも眠くなってきた。ゆっくり休んで、それからどうするか考えよう。
ムウならきっと、ぼくを助けに来てくれるから。




