第126話 魔封じの杭
それからすぐに、学園長室の前へ、揃って瞬間移動した。
本来なら神様が学園に訪れるとなれば、先生が総出で出迎えるらしいが、今はそんなことをしている場合ではない。
トゥーリーンならともかく、他の大陸の神様が学園に出入りしているのを見られたら、それだけで騒ぎになりかねない。街が雪で閉ざされ混乱している状態なのだから尚更だ。
瞬間移動のためハルヒと手を繋いでいたフェアユング先生は「しばしお待ちを」と2柱へ声を掛けるや否や、すぐに学園長室へと駆け出した。
もう一方の手を繋いでいたリサは、緊張8割役得2割といった面持ちでその場を動かずにいた。神様ラッシュに緊張していないのはあたしだけか。
「急に来たんだし、準備も何もいらないのになあ」
「一施設の責任者なら、そうする訳にもいかない。でも、時間がかかるなら先に彼女達だけでも説明を……」
ディザンマとヘラビスが相談を始めた矢先、誰かが学園長室から出てきた。
いや、追い出された、と言った方が正しい勢いだ。よろめきながらもなんとか踏みとどまり、即座に閉められた扉をじっと見つめていた。
傍には灰色の狼が控え、主人を気遣うような視線を送っていた。
「え、ゾル君がどうして学園長室から出てきたの?」
「お前たちには関係っ……いや、あるからここにいるのか」
一瞬強い口調で突き放すような態度をとるも、パルトの尻尾に優しくたしなめられていた。
でも、拳が握られたままだし眼差しもいつもより鋭い。張り詰めた雰囲気があった。
「それに、神様が2柱もここへ来ている。やっぱりさっきまで、中にディヴォンが居たんだな?」
「そうらしいけど……。それ、生徒にバレてるならあたし達が隠れて移動した意味もあんまりない?」
「いや、他の奴らは雪で遊んでる。せいぜい概念の化身の生徒が、ここにもう一人概念の化身が来たことを感知した程度だろう」
さっきまで雪に悩まされていたからその感覚を忘れていたけれど、子供なら雪を見たら遊んじゃうか。
あたしもこんな状況じゃなければ、リールと一緒に雪だるまを作りたかった。
「パルトが教えてくれたんだ、アイツが来たって。でも見張りを押しのけて部屋に入った時には、開け放たれた窓と寒さに震える学園長が居るだけだった……」
それが、あたし達とディヴォンが出会う直前の出来事ってことか。
ゾル君は確か、冬の大陸の出身だ。そこを治める神様が近くに来たから、久しぶりに会いたいと思った……なんてテンションじゃないよね。もっと重ための事情がありそうだ。
「お待たせしました、どうぞお入りください。……なんじゃ、まだいたのか。アブグルンド君、お主は寮に戻りなさい」
扉から顔を出したフェアユング先生は、ゾル君を追い返そうとする。
今起きていることはあたし達の問題だけれど、ディヴォン関係で必死になっているゾル君をここで仲間外れにするのも気が引ける。
邪魔だとも感じないし、話し合いくらい参加してもいいんじゃないだろうか。
当の本人もすぐさま抗議した。
「待ってくれ、俺も話が……」
「彼も入れてあげてくれ」
そこでディザンマが、ゾル君の背中をぽんと押した。
「彼がシュプリアイゼン魔法学園に入学することになった経緯は、トゥーリーンから聞いている。今回の件と全くの無関係、とは言い切れない。自分の力でここへ辿り着いたんだ、今後の事を決める資格はある」
「ディザンマ、様……」
「おっと、アイツと同じ顔で仲間面されても困るよな。ソーリー」
複雑な表情を浮かべたゾル君から、ディザンマは一歩距離を置いた。
やっぱりゾル君とディヴォンの間には因縁がありそう。それと、ここに入学することになった経緯が今回の件と関係あるって、どういうことだろう? 冬の大陸からわざわざ来ているんだから、何も理由がないことは有り得ないのだけれど。
「入り口に固まってるのもあれだよ、みんな入っておいでよー」
更に、奥からのんびりした声が響く。アオーグ学園長だ。
「ああもう、全く……椅子は足りていないぞ?」
「そんなのんびりした会議じゃないだろう。失礼する」
フェアユング先生はしぶしぶ道を開けた。
「さっきは本当に失礼だったけれど、今ので許すよー」という学園長の返事は、先ほど聞き流していた事柄を肯定していた。
ゾル君、本当に無断で突入したんだ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「リールが見当たらないと思ったら、そんな事になっていたのか……」
あたし達の状況を軽く説明すると、ゾル君はリールの心配をしてくれた。パルトも「クウン」と寂しげな鳴き声を漏らす。
「あ、あの、リール君が刺されたっていうモノ、杖みたいだって言ってましたが。もしかして、紫とか黒とかそんな色味をしていなかった?」
「明るい色では無かったと思います、一瞬だったから良く見えなかったけど……。もしかしてビリス先生、心当たりがあるんですか?」
部屋にはビリス先生も居た。
街に雪が降り始めた時、まず学園長に呼び出されたのがビリス先生だった。街の壁に掛けられている魔物避けの魔法を管理しているビリス先生は、そこに異常が無かったか調べるよう命じられた。
しかし魔法が壊された様子は無かった。魔物が原因でないなら人の仕業か、でも誰が……? と悩んでいた二人の元へ、ディヴォンが現れたのだ。
「情報が少なくて確証は持てないけれど、多分それは『魔封じの杭』だよ。魔物本体やその縄張りに打ち込むことで魔力を吸い取り、弱らせることが出来るんです。強い魔物を撃退する時なんかに使われるアイテムですね」
「リールに抵抗されたら勝ち目がないことを知ってて、対策してきたってことですか。やる気満々じゃないですか、それならこっちも遠慮なく殴れますね」
「え、えっと、神様相手にそんなことは……」
「むしろリールから抜いた杭を刺し返してやりますよ。こうグサッと」
あえて過激な発言をすると、ビリス先生が慌てだした。推しの先生の可愛い姿を見て、少し気持ちが落ち着いた。
「いいねえ、夢心ちんこそやる気満々じゃん! ディヴォンに挑むんだ、それくらいの勢いが無いとな!」
「あれ、神様仲間からもゴーサイン出るとは思わなかったです。良いんですかやっちゃって?」
「むしろ、私達が出来なかった分もお願いしたい」
良いのかい。身内にここまでお願いされると逆にやり辛いぞ。やるけど。
「その、こうなるまで止められなかったっていう経緯。そろそろ聞いてもいいですか?」
「ああ、あれはな、定期的に開いてる四神のお茶会中だったんだが──」




