第125話 大雪の犯人
「あたしは犯人じゃありません!!」
「いや、もう聞いたのじゃ。聞いた上で、残念ながらと言ったのじゃ」
もしかして聞こえていなかったのかな?と思いもう一度無実を主張したが、判決が覆ることはなかった。
「確かに大雪を降らせたのはお主ではない。だが、街がこうなるに至った最大の原因が、お主たちにある。やはり神からの依頼など、学生には早すぎたかのう……」
「神様、ということはこの雪はディヴォン様が?」
神という単語にいち早く反応したリサが質問すると、フェアユング先生は頷いた。
「うむ。街へ帰ってきたらすぐに連れて来るよう仰せつかっている。学園長室へ向かうぞ」
そして一般の出入り口とは別の扉へ足早に向かった。
先生の焦り様から、街や学園の混乱具合がうかがえる。なんだか想像していたより大変な事態になっていそう。
気になることは他にもある。神様が関わった冒険は何度もあるけれど、それらにディヴォンは関係していないはずだ。
他の3柱から話を聞いてやってきたんだろうけれど、怒られるような事に心当たりがない。ハルヒもリサも納得いかない表情を浮かべているので、あたしが忘れているだけということも無さそう。
何を勘違いしているか知らないけれど、話を聞いてみないと始まらないな。その前に、街に降らせた雪を溶かしてもらわないと……。
「──来たか」
静まり返った雪景色に、低い声が響く。
深々と降っていた雪が突風に煽られ、体に叩きつけられた。積もっていた雪も舞い上がって、視界を塞ぐ。
「吹雪!? 急に何!?」
風は一瞬。真っ白に染まった景色の中に、黒い影が現れた。
マントやマフラーに隠れてほとんど顔が見えない。でも、友好的じゃなさそうなのは伝わってきた。
「あ、デ、ディヴォン様! 学園でお待ち頂いていたはずでは……」
「懐かしい反応を感じた。と言う事はその隣にいる概念の化身が『虚無』か」
先生がディヴォン様と呼んだ男はハルヒをちらりと見て、その後リールを睨みつけた。
「ディヴォン様、お久しぶりで……!?」
ハルヒが場を和ませようと挨拶するも、ディヴォンはそれを無視して飛び上がった。
リールの後ろに回り込み、マントの中から取り出した杖の様な物でリールを刺した!
「ふにゃ……」
攻撃されると思わなかったリールは『冥界』の力の展開が間に合わなかったらしい。ふらついたリールをディヴォンが抱きかかえ、更に一段上へと飛んだ。
「ちょっと! リールに何したの!」
リールに攻撃したのなら、神様だって容赦しない。
そんな気持ちをのせて叫び、あたしは杖を振りかざす。それに対してディヴォンは、ぐったりしたリールをこちらへ突き出してきた。
人質を盾にするって、それ神様のすること!?
「これがそんなに大事か」
「当たり前でしょ! 返して!」
リールに当たらないような軌道を狙って「アイシクル・レイン」を放つが、簡単に躱されてしまう。
ハルヒがリールへ放った『治癒』の力も、当てさせてくれない。
「10日の内に、冬の大陸の霊峰まで来い。間に合わなければ、『虚無』はそこで終わらせる」
それだけ言うと、再び地吹雪を巻き起こしてディヴォンは飛び去った。
「リール!!」
まだギリギリ視認できるディヴォンの後ろ姿を追おうと、あたしも空を飛ぶ。しかしすぐに体が重くなり、地面に足が付いてしまった。
フェアユング先生の重力魔法だ。
「待ちなさい、神に対抗しようなどというのは無茶なのじゃ」
「無茶じゃないです! ヘラビス様に憑りついてた概念の化身だって撃退出来たんですから!」
「何、そんな話は聞いておらんぞ」
「あっ、いや、今はそれどころじゃなくて! 放してください!」
内緒にしていた事がうっかり口をついて出てしまい、慌てて変な言動になってしまった。
でも、今は本当にそれどころではない。早くリールを助けないと!
「10日待つとディヴォン様は言っていましたが、私もリールちゃんを放っておけません。むーちゃんを行かせてあげてください」
「な、上崎、お主まで……しかし……」
いつもならあたしの事を心配したり止めたりするハルヒも、今回ばかりは味方してくれる。先生が迷いを見せ、重力魔法が緩んだ。
タイミングを見計らってこの魔法を振り切れば、まだ追いつけるはず──
「そこにいるの、ハイルン様だな? おーい!」
そこに、別の方角から呼び声がした。正確には呼ばれたのはハルヒだけど、それを「ハイルン様」と呼ぶ人はなかなかいない。
気になって振り返ると、こんなに寒いのに半袖シャツに短パンで雪の上を走ってくる金髪の青年がいた。
「ディザンマ様! どうしてこんなところに?」
「いやー、それなんだが……」
ディザンマが言葉を詰まらせている間に、少し後ろからヘラビスもやってきた。こちらは帽子がファー仕様になっている。
「間に合わなかった。すまない」
「それってまさか、リールが攫われるって知ってたんですか……?」
「…………」
気まずそうに視線を背ける二柱。事前に止めてくれなかったことに苛立ちはしたが、それ以上に味方になってくれるなら心強い。
「リールは何も悪いことしてません! 何か勘違いしてるはずです、ディヴォン様に言ってやってください!」
「そう言ったんだが、全然聞いてくれなくてよ……。その辺ちゃんと説明したいから、場所を変えないか?」
神様にまで「待て」を食らって、流石に一旦立ち止まり考えることにした。
リールのことは心配だ。今すぐ助けに行きたい。でも、どうしてディヴォンがリールを攫ったのか、その理由は凄く気になる。
ディヴォンのことを一発殴った後、話し合いをするにも情報があった方がスムーズかな。
「ディヴォンには、すぐに『冥界』を消滅させることは出来ない。時間は多くないけれど、話し合う余裕はある。お願い」
ヘラビスまでそんなことを言って頭を下げるものだから、先生が「お顔を上げて下さい!」と慌て始めた。
怒涛の神様ラッシュにひっくり返りそうなフェアユング先生のことを、学園まで送る必要もありそうだ。
「……分かりました。神殿に行くのが良いのかな?」
「いや、今は街の復旧に追われているじゃろう。元々ディヴォン様をもてなしていた学園長室が空いたはずじゃ、そこに改めて場所を用意させてもらおう」
先生は目を回しながらも、場所をセッティングしてくれた。頼りになる。
「オッケイ。そんな訳なんだけど、今起こったモロモロは内密に頼むね?」
一部始終を目撃してしまった門番たちには、ディザンマが釘をさした。
あたし達以上に状況を把握していない彼らは、ただ頷くしかなかった。




