第122話 楽しい山登り
119話のあとがきに大嘘書いてました。今年の7月で「4」周年です。(修正済み)
数え間違いがこれ以上起きないうちに進めなきゃ! という思いで最近投稿速度を上げています。
翌日、朝早くから馬車に揺られ、辿り着いたのは登山口。
ペンクの大滝は、この道をしばらく歩いた先にある。観光スポットにもなっているようで、他にも人の姿があった。
秋の大陸では道なき山道を歩いたから、均されて目的地まで続いている道があるなんて有難さが半端ない。
「これは楽勝なのでは!?」
「まさか、観光客が立ち寄れる場所にはダーベルはないのですよ。滝のそばから道を逸れて探します」
「そりゃそうかー。まあ、途中まで道があるだけ良いか」
余裕ムードを醸し出したら、リサにたしなめられてしまった。
登山道には街の外壁ほどは強力ではないものの、魔物避けの魔法がかけられている。そのため滝まで安全に向かうことができるようになっていた。
「探しに行く段階になるまでは、道を外れないように。一歩でも踏み外せば小群猿に見つかる、という訳ではないですが、特にリールは飛んでいて道から離れてしまっても気が付かない可能性があります」
「分かった! みんなに付いてく!」
と言いつつ、リールはあたしの頭の上を陣取る。
あたしと同化していれば、確かに道から逸れる心配はないけれど、これは果たして「付いてく」なのだろうか。
横を通り過ぎた観光客の老夫婦に笑われ、リールは首をかしげた。
登山道というだけあって、所々急な坂道になっている場所があった。
あたし達はもう悪路も慣れっこなのでするする登れたが、観光客たちはなかなかに苦戦しているようだ。
あまり意識してなかったけど、体力付いてきたんだな。
リサは特に困っていそうな人へ栄養剤を渡していた。お菓子をお礼に貰っていたが、何故か後からあたしに手渡してきた。
疑問に思いながらも口に含むと、頬のあたりがキュッとなる感覚に襲われた。
「あー、梅的なおやつね。リサには酸っぱいかー」
「かといって頂き物を捨てるわけにはいかないのです」
実質無償で栄養剤を提供、どころか嫌いなものを渡されたのだから不満の1つでも持ちそうなところだが、リサは特に気にしていない様子だ。
そもそも他人を気に掛ける時点で立派だ。聖職者を目指しているだけのことはある。
ハルヒもそういう節があるし、リールがこれ以上良い子に育ったら……よし、そういうのは皆に任せよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
登り始めて1時間くらい経っただろうか。リサが立ち止まり、紐を付けた学生証を首にかけた。ここから道を外れる合図だ。
道に迷った、またはいたずら目的という訳ではなく、ギルド活動の一環であるというアピールのために学生証を見えるところに掲げておくのだ。
その様子を見ていた観光客に不安げなまなざしを送られたので、軽くお辞儀を返した。
魔法の種の等級が分からない状態だと、あたし達ただの学生だもんね。心配になる気持ちは分かる。
それがバレた時の反応とのギャップに苦笑しながら、森の奥へ入った。
「滝の音、ここからでも聞こえて来るね。結構大きいのかな」
「先に見に行きたかったなあー」
登山道を逸れたため滝は全く見えないが、ドドドという大量の水が流れ落ちる音は遠くから聞こえてきた。
ハルヒは音を聞きながら目を閉じて、滝の様子を想像しているようだ。あたしはそんなことする暇があったら直接見に行きたい。花も団子も実物があってなんぼだ。
「採取が終わったら見に行きましょう。体も汚れるでしょうから、休憩を兼ねて」
「そうね、ご褒美に滝が待ってるって考えたら、500個木の実を取る作業も頑張れる気がする」
「ムク、ちょろすぎないですか?」
「前向きな反応だと言ってくれ! リサから振ってきたのに」
そんないつもの茶番を繰り広げながら、歩みは緩めず進んでいく。
滝の音が遠ざかるに連れて、その口数も減っていった。ダーベルの木に近づいている、つまり、もう魔物の縄張りに入っているからだ。
「む! みんな、上!」
リールが警告する。皆が顔を上げるのと、3匹の猿が襲い掛かってくるのは同時だった。
「はい、なのです」
慌てず騒がず、リサがいつもの鞭攻撃で猿たちを弾き返した。
猿たちはすぐに起き上がるも、何が起きたか分からないといった雰囲気で戸惑っている。
「あれが小群猿? 随分小さいね」
「私の腰ほどの大きさしかないのです。これで逃げてくれたら、とは思いましたが気は小さくないようですね」
小群猿達は無傷で、だからこそまだ戦えると思ったのだろう。叫び声を上げて3匹とも突進してきた。
「これならどうだろ?」
あたしは軽く杖を振って、小群猿の目の前に大きな氷柱を落とした。
突然現れた氷の塊に驚いて動きが止まる。
怯えが見え始めたが、まだこちらを凝視して隙を伺っているようだ。
「もう一押しかな。リール、この前言ってたアレやってみて」
「いいの?」
「まあ、怪我させるわけじゃないし、魔物だし……」
「分かった! 『藍霧』!」
もう少しだけ脅しを掛ければ逃げていきそうと察したあたしは、リールに合図する。
リールはあたしの頭上から離れると羽をパタパタ動かして、藍色の霧を発生させた。
ヘラビスとの戦いで使っていたこの霧は、『藍霧』と命名された。
名付けには一悶着あり、ヘラビスと食事をしていた時に『冥府浄化』との二択で熱い議論が繰り広げられた。
結局、いままでの技名と似ていて覚えやすく、「短いほうが言いやすい!」という本人の希望で『藍霧』になった。
指定したものだけを消し去ることのできる点は『藍玉』と同じだが、これは効果範囲が広い。小型の魔物3匹程度、あっという間に包み込める。
この霧に包まれた小群猿達は、一体どうなってしまうのか……。
「いやー、あの時シュロムを止めて正解だったね……」
霧が晴れると、そこには一応無傷の小群猿がいた。
ただし、その肌が綺麗になっている。茶色い毛が全身を覆っていたのに、毛玉1つ、どころか産毛1つ残らず消え去っていた。
本人たちは一拍遅れてその事実に気が付き、泣きながら逃げていった。
「毛が根こそぎ無くなってたね。あれ、絶対人にやっちゃダメだよ」
「はーい」
ハルヒの注意に、リールは理解していないような声で返事した。
リールの体は鱗で覆われているから、毛が抜けてしまうことの恐怖は分からないのだろう。
そんなリールにこの技を教えたのはシュロムだ。
休みが明けて、リールが『藍霧』の事をシュロムに話した時、それを使った脱毛いたずらをシュロムが思いついてしまったのだ。
「それはダメ!」と寄ってたかって止めておいて正解だった。中年を迎えた先生にこんな仕打ちをしたら、最悪退学になる。例えばカマゼル先生。あ、絶対やばいやつ。
帰ったら、シュロムにももう一回きつく言っておこう。




