第121話 テスト勉強の息抜き
秋の大陸への留学も済んで、7月。
来月の頭から半分ほどの期間、四神月ぶりの長期休暇がやってくる。ということもあって、間もなくテスト期間になる。学生達は今まで受けてきた授業の復習に追われていた。
そんなある日の放課後。あたしの部屋でも、リールとリサとハルヒ、いつものメンバーで揃って勉強会が開かれていた。
「留学中の授業範囲、全然追いつけないんですが!」
「フルト学園の授業の進みが早すぎて、こちらのテスト範囲からはみ出ている部分もあるのです。留学にこんな副作用があったとは、想像もしていませんでした」
もともとのクラスの授業の進みは、そんなに遅い方ではないはずだ。
ランズが騒いだり、それに便乗して他の生徒もおしゃべりしだして混乱した授業はあったけれど……。半分以上が11歳、小学校高学年の授業風景だと考えればままある風景だろう。
その点では2組の方が大変そうだ。相変わらずユングルを筆頭に好き勝手にやっているらしい。こちらが静かに授業を受けていても、隣がうるさいことは何度もあった。
しかし、それに比べてフルト学園の生徒のお行儀の良さときたら。座学は理論値ペースでスムーズに進んでいて、歴史学とか何ページも飛んでいたからさっぱり繋がりが分からなかった。
更に帰ってきてみれば、「ここ、フルト学園で習った!」状態。二重に受ける授業というのも退屈で、なかなか学習モチベーションが上がらなかった。
「しかもあたし達だけ、留学の経験をまとめたレポートとかいう追加の課題がでるし……。先生には電話でいろいろ話したじゃん、あれで報告済みってことにしてくれてもいいのに」
「紙で残すことも大事なんだよ。二度手間っていう部分は否定できないけれど……」
珍しくハルヒも苦言を呈するほどのお役所仕事だ。お役所でも仕事でもないけれど。
「うーん、このおはなしはぼくには関係なかったかも」
あたし達が愚痴を言い合う横で、リールは本を読んでいた。
リールは自分の本当の概念が見つかってから、死後の世界に関する資料を読み漁っている。
『冥界』の概念の化身だということは判明したが、それですぐに使える技が増えた訳ではない。
自分の力でどんなことが出来るのか、ヒントを探し回っているところだ。
今読んでいたのは、死者の願いを一つだけ叶える死神を題材にした短編小説だ。
いかにも『冥界』に関係がありそうな話題だったが、ピンと来るものはなかったようだ。
「リール、テスト勉強は大丈夫なの?」
「合格はできる! いまはこっちのほうが大事!」
前回のテストの結果発表の時には、満点だったハルヒやリサに追いつきたいと言っていたリール。それを捨ててまで取り組んでいることから、本気度が伺えた。
でも合格ラインは確信してるんですね……ちょっとその脳味噌分けて欲しいな?
そんな風に雑談を挟みながら、小一時間勉強を続けた後。
ふと顔を上げたリサが、思いもよらぬ提案をしてきた。
「明日は休みですね。気晴らしに、ギルドの依頼を皆で受けませんか?」
「あら、テスト前にリサがそんなこと言うなんて珍しい。どしたの?」
勉学第一のリサが、その集大成である試験の直前に別のイベントに誘ってくるなんて。
まあ、テスト前と言ってもまだ一週間以上先の話。今ならギリギリ、学園内のギルドで依頼を受けることは可能なはずだ。
テスト直前の日程だと、流石にハフトリープさんに止められる。
「私だって、ずっと座学をしているわけではないのですよ。それに、これはムクのためを思った提案なのです」
「あたしに? まさか、勉強を抜け出す口実を与えてくれるなんて、リサ神様!」
「四神様を差し置いてなんて表現をするのですか! 本当に背筋が冷えるので止めるのです!」
感謝を大げさに表現したら宗教戦争に突入しかけた。危ない危ない。
あたしに関係があると言ったのは、その依頼で採取する薬草が魔力を補給できる薬の材料になるからだ。
フィルゼイトは魔力の豊富な世界だが、大掛かりな魔法を使えば一時的に魔力が枯渇することがある。そうなれば、あたしの魔法の種が呪いを中和する術が絶たれてしまう。
そんなもしものための非常薬として、魔力補給薬をリサが作ってくれるというのだ。
「あれ、蔦の巨人の材料ってそうじゃなかったっけ? イーフってやつ」
「イーフは栄養剤、体の不調を和らげるものです。魔力に敏感ではありますが、貯めておける量はさほど多くありません。魔力を貯めこむ植物の代表と言えば、ダーベルの実なのです」
似たような効能の薬草持ってなかったっけ? と疑問を持ったが、そこはリサの知識に論破されてしまった。
ダーベルというのはあまり背の高くない木で、それに成る紫の実が必要らしい。
「魔力が枯渇する状態なんてそうそう起きないですから、ダーベルの実は需要が無くて流通していないのです。だから群生している場所まで取りに行く必要があるのです」
「そうね、秋の大陸でバシバシやり合った時でも大丈夫だったもん」
あたしが『アイシクル・レイン』を打ちまくり、マルティオも光をまき散らし、ブートも色々召喚してた……って、概念の化身の力はカウント外か。でも、少し離れたところでもリサが戦っていた訳で。
あの時ですら、周りの魔力が足りなくなる気配は全く無かった。そうそう起こらないというのは事実だろう。
「留学直後に一度探した時には依頼が無かったので、ハフトリープさんにお願いしておいたのです。今から確認しに行きますが……」
「行くいく!」
テスト勉強を中断できる口実に乗らない訳が無いじゃない。
ハルヒもため息をつきながら、リールは次の本を手に取ろうとしていたのを止めて、揃って席を立った。
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「げ、本当に来た。リーンくんはそこのトラブルメーカーの抑止力だと思っていたのに、君まで戦いを求めるようになるなんて……」
ギルドの受付に行くと、開口一番ハフトリープさんからそんな言葉が投げかけられた。
あたしがトラブルメーカーって、学園関係者の共通認識なの? ちょっとショック。
「ダーベルの実が小群猿の好物なのは知っていますが、戦うつもりはないのです」
「いやあ、あいつらに気付かれずに採取するのは無理だよ。ダーベルの木々を中心にして縄張りを作る魔物だからね。だからこの依頼は一年生に斡旋できるものじゃないけど……あんたたちに行動範囲制限なんて今更よね」
なんだかんだ言いつつ依頼は探してくれたらしい。しぶしぶといった表情で、ハフトリープさんは用紙を渡してくれた。
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依頼内容・ダーベルの実500個の採取
場所・ペンクの大滝
応募資格・ランク不問、2級以上
報酬・5万アール+選別落ちしたダーベルの実
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「500個って! 木を見つけられたら、サクッといけるものなのかな?」
「そうなのです、私達には新調したアイテムポーチもあるので、この量の運搬も可能です」
リサが出来ると言うのなら間違いないだろう。皆でサインをして、依頼を受注した。
「飼育小屋の空き花壇を使わせてもらえれば、樹木でも増やすことが出来るようになるのです。今度交渉してみます」
「木は流石に部屋で育てられないもんね。そこまで考えてくれるリサ、やっぱりか……」
「ストップなのですったら!」
リールが読んでいた小説は、私のなろう処女作です。
気になる方は作者ページからどうぞ(ダイマ)。




