第119話 秋の大陸で得たもの
「と、こんな感じで秋の大陸もちゃちゃっと救ってきました」
「お主の事だからもう驚かぬが……トラブルメーカーじゃのう」
ハイクーレからフルト学園の寮へ戻った夜。あたしは専用スマホでフェアユング先生への定時報告をしていた。
褒められると思って期待していたら、とんでもない誤解をされてしまった。
「え!? あたしが事件を起こしたわけじゃないですよ!」
「分かっとる。じゃが、事件に巻き込まれ過ぎなのじゃ。よもや交換留学中に、山奥まで入り込んで魔物退治をするなんて誰が想像する」
「うーん、確かに」
ぐうの音も出なかった。
一応フェアユング先生にも今回の事はぼかして伝えた。その上でこの反応なので、「本当は神様と戦っていました」なんて言ったらなんて返されていたのか、ちょっと怖い。
事件に巻き込まれる……特級魔法の種にそういう性質でもあるんじゃないだろうか。マルティオだって受けたくない依頼をこなしていたみたいだし。
「あとはフルト学園内で過ごすつもりなので、これ以上は何もないと思いますよ」
「切実に、そうであることを願っているのじゃ」
いや、フラグじゃないですからね?
◇◇◇◇◇◇◇◇
怒涛の休日が過ぎ、留学生活も後半戦。
登校準備をしていたら、部屋の扉がノックされた。
「あの、皆さん、一緒に登校しませんか!?」
「パッチ! いいよ、ちょっと待ってて」
扉の向こうにいたのはパッチだった。あたし達は急いで準備を済ませ、部屋から出た。
「どうしたの改まって。嬉しいけど」
「実は、学園に入る前に皆さんに伝えなければいけないことが……」
また何かドジったのか。昨日フラグ立てなきゃよかった。
全員が覚悟を決めて耳を傾けると、それは流れ的に仕方のない話だった。
ヘラビスがパッチを召喚したあの時、フルトの神殿ではいきなりパッチが消えたことで騒ぎになっていた。
その後ヘラビスから「パッチは私が預かっている。明日には返すから心配しないで」という伝言があったため、捜索依頼が出るような事態にまでは至らなかった。
しかし、神官見習いが突然神様に召喚されるなどということ自体、今まで無かったこと。一夜明けて帰宅したパッチは、神官や学園の先生達に質問攻めにされたのであった。
「お兄ちゃんと皆様がヘラビス様と協力してハイクーレの街を救った、ということを話したので、たぶん学園に着いたらその時のことを問われると思います。ご面倒をおかけしてしまうと思います、ごめんなさい!」
パッチは何も悪くないのに、こうして律義に謝りに来たなんて。
ドジっ子だけれど、やっぱり神官見習いとしての素質はあるんだなあ。
「なんだ、そんなこと気にする必要ないよ。むしろ、秋の大陸では揉みくちゃにされてなくて物足りなかったところだよ」
「そ、そうだったんですか?」
「むーちゃん、いつもは特級、ってだけで注目の的だったからね。マルティオさんが活躍しているこの辺りだとみんな慣れているのか、確かに控えめな反応だったかも」
ハルヒの説明に、「ほえ~」と感心した様子のパッチ。「マルティオ」という言葉には何も反応しなかったし、自分からも「お兄ちゃん」と言っていたので先日の事は吹っ切れたのだろう。
「フルト学園のみんなはいい子過ぎるから、パッチのくれる刺激が丁度良いよ」
「あ、ありがとうございます……?」
心配事もなくなったことで、気を取り直して学園へ向かうことに。
……あ、そういえば、あれは聞いておかなきゃいけないな。
「パッチ、ヘラビス様とのお泊り会はどうだった?」
「とっても貴重な体験をさせてもらいました! ヘラビス様と食事をしたり、じぶんのドジな話を真剣に聞いてくださったり……。あの夜の事は一生忘れないでしょう」
パッチは祈りのポーズをとり、目をキラキラさせて語った。
割と本気でパッチの貞操を心配していたので、何もなさそうで一安心だ。
「も、もっと詳しく知りたいのです。お昼休み、時間をください」
「は、はい!?」
リサがいつになく真剣なまなざしでパッチに迫った。
その気になればヘラビス本人に聞けただろうに、それは神官見習いとして出来なかったのだろう。
昨日のお宅訪問でも、緊張していたのか全然ヘラビスに話しかけていなかったし。
……パッチが困ってるから、そろそろ離れた方が良いと思う。もう学園の目の前だよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
パッチの予想通り、クラスメイトには揉みくちゃにされました。
内容としてはあたし達への賞賛半分、ヘラビスやマルティオについて問われることが半分って感じだったかな。
秋の大陸の神様やヒーローと同じくらいの人気が出たことに、オーバスト先生がとても驚いていた。
「留学生が来た時、仲間として快く迎えいれることは勿論しています。けれど、こんなに皆が目を輝かせて話をするなんてことは無かったものですから。楽しそうで、先生も嬉しいですよ」
子供たちが礼儀正しすぎるのも、先生としては考えるところがあったのだろう。
ヘラビスが本当に好きな『元気な子』が増えたらいいね、と心の中でエールを送った。
ちなみに、あたし達とは別に、パッチも揉みくちゃにされていた。
そりゃそうだ、神様に召喚されたクラスメイトが放っておかれる訳がない。
一部では聖女扱いもされ始めている。パッチはそれに対して、「なにもしていないのに……」と言いつつ嬉しそうにしていた。
朝から教室中大盛りあがりだったが流石は『謙虚の精神』が説かれている場所、授業が始まる時間になるとスッと人だかりが消え、みんな自分の席についていた。
春の大陸では、止める人が居ないとなかなか開放されなかったからなあ。これについてはすぐに解放されるこっちの方が良いです。
◇◇◇◇◇◇◇◇
特別授業でキノコ狩りに行き、パッチが拾ってきたのが概ね毒キノコでリサに「むしろ見る目があるのです」感心されていたり。
パッチとリサが、『神官見習いあるある』の談義でいっそう仲良くなっていたり。
クラスメイトに頼まれて作ったマルティオの氷像に、フルト学園から正式な買取の要望があって一悶着あったり。
最後には学園の裏手の果樹園から落ち葉を集めてきて、キャンプファイヤーをしたり。
充実した留学生活は、あっという間に過ぎていった。
そして、留学最終日。
帰りの船を見送るために、休みの日にもかかわらずクラスメイトが集まって来てくれた。
「2週間、お疲れさまでした。あなた方が来てくれて、本当に良かったです」
「こちらこそ、たくさんお世話になりました。楽しかったです!」
オーバスト先生が、秋の大陸の花である紫色のアスターの花束を渡してくれた。
「じぶんからも贈り物を……はわっ!」
集団から一歩前に出たパッチは、両手にものを握ったまま躓いた。
転びそうになったところを、それを読んでいたリサに支えられる。
「えへへ、ありがとうリサちゃん」
「もう……私が居なくなったら助けてあげられないですから、気を付けて欲しいのです」
リサに支えられたまま、パッチが両手に持っていたものを差し出した。
「じぶんがしっかり祈りを込めた、お守りです!」
表面にヘラビスの肖像、裏面にアスターの花が彫られている銅色のコインが4つ、袋に収まっていた。
「ドジのおまじないがかかってないか、ちょっと心配だなあ」
「それはじぶんだけですから! これを作った時にはヘラビス様のお墨付きも頂けたので、バッチリ安心安全です!」
ヘラビスが大丈夫って言ったなら……いやでもあの神様過保護だからな……。
どうにも不安は拭えなかったが、ありがたく頂いた。
「あとこれは、お兄ちゃんからの伝言です。ギルドから届きました」
「マルティオから? うん、ありがとう」
丁寧に封をされた手紙を受け取る。と、船から出港のアナウンスが流れてきた。
「そろそろ行かなきゃ。みんな、本当にありがとう!」
沢山の思い出ができた、秋の大陸が離れていく。
それを忘れないための、呪いを解くための方法はもうすぐ見つかりそう。
次に来る時まで、覚えていられると良いな。
「またね」
「ん? 今誰か喋った?」
誰かの挨拶が聞こえた気がして船の上を見回すが、それらしい人はいない。
「上。見送りに来た」
再び聞こえてきた声を頼りに空を見上げると、雲の切れ目にヘラビスがいるのが見えた。
皆の中に入る訳には行かないから、出港してから声を掛けてくれたのだろう。
「リーダーの解決策、早く届くように祈ってる」
「ホントそれです。ありがとうございます!」
みんなで手を振ると、ちらっと手を振り返してヘラビスはすぐに消えてしまった。
なんか今のが一番神様っぽかったな。
さて、残るはマルティオからの手紙だ。何が書いてあるんだろう?
……なんか文字が多い。ここで読んだら酔いそう。座れるところを探さないと。
「リサちゃん、どうだった?」
「一番下に『他の皆にもよろしく』と書いてありました。恐らく私達に当てられた文章は、それだけなのです」
「うん、想像通りだね」
「ハル? リサ? また内緒話してるの?」
「あの手紙をぼんやりした顔で読んでいるのですから、勇者様はご愁傷様としか。ムクの相棒はリールで決まりだ、と話していたのです」
「それはそうだもん! へなちょこ勇者には負けない!」
最初はムクが好意を抱いていたはずが、いつの間にか立場が逆転!?二人の思いは交わることがあるのか!?たぶんない。(無慈悲)
そんなこんなで、秋の大陸編、終了です。
そして7月23日で4周年を迎えました。
ストーリー的には折り返しに入っています。10周年が見えてくる前には完結させたい。




