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第12話 出来上がり!

「今日の授業はお休み?」

「うん、大きな公園に薬草を取りに行くからって。ついていこうとしたら、また断られちゃった」


 翌日、いつものように魔法を教えて貰いにリズエラを尋ねたら、そんな言葉を残して逃げられてしまった。


「もっと慣らして使える回数を増やすために、昨日までと同じことしてろだってー。さすがに飽きてきたなあ」


 仕方なく部屋の片付け残しを整理しきって、せっせと氷を作っていた。

 部屋でたくさん氷を作って溶けてしまうと面倒なので、溶けない性質を付与した氷にアレンジした。使う魔力は倍になるが、感覚ではもう200個分の体力があるのが分かったので惜しみなく使っている。

 杖の受け取りは午後にならないと出来ないので、しばらくはここで待機する。ハルヒとリールの素材で出来た杖がどんな風になっているか楽しみだ。と、別のことを考えながら氷を作ることも可能になっていた。


「ひたすら使うことで効率良く鍛えられるのは事実なんだよね。単調なのが嫌なら、もっと複雑な形を作ってみたら?」

「確かにどんどん使えるようにはなってるんだよねえ。美術はあんまり得意じゃないけど、想像通りにできるなら楽しそうかも」


 ハルヒのアドバイスを得て、そこからしばらくは氷の彫刻を作るのに夢中になった。最初からいきなり形を作ろうとしてもイメージがまとまらなかったので、実際に作るのと同じようにまずは大きな氷を作り出し、少しずつ削って形にしていった。モデルは、窓でひなたぼっこをしているリールである。


「お、なかなかうまくできたんじゃない? どうですかモデルさん」

「ぼくがいる! あれ、ぼくここにいるよ?」


 リールが驚いた顔で彫刻の周りを飛んだ。我ながらいい出来だ。考えた通りに氷が削れてくれるので、普通に工作するよりずっと楽しい。

 この彫刻に使った氷も溶けないようにしたので、このまましばらく飾ろうと考え、棚の上に置いた。


「まだ受け取りに行くまで時間あるな、うむ……よし。リール、必殺技を考えよう」

「なんでそうなるの!?」

「え、いつ戦闘するか分からないし、技の一つは考えておくべきじゃない? ゲームなら初期レベルでも一つは覚えてるものだよ」


 ハルヒはまたゲームか、と呆れ顔になった。ハルヒが得意なのは回復だし、それならあたしが攻撃を担当するのは当然のことだと思うのだが。


「ひっさつわざ?」

「うん、出来れば二人で協力して放つ技がいいね。どんなことが出来るかな……」


 残りの時間は、リールと一緒にいろんな技を妄想し、隣でハルヒが難しそうな魔法の本を読むという穏やかな時間を過ごした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



午後になり、あたしたちは再び『スタープ魔法用具店』を尋ねた。


「おう嬢ちゃん、杖ならバッチリできてるぜ!」


 あたしを見るや否や、スタープさんは屈強な胸を張ってそう言ってきた。

 杖を一振りし、店の奥から真新しい箱を飛ばしてきた。


「ほらよ、なかなか調整が難しかったぞ。『治癒』と『虚無』なんて反するものもいいところだが、素材の元がお友達同士っていう助けもあってうまくいった」


 スタープさんに目線で箱を開けるよう促され、あたしは蓋をそっと持ち上げた。

 すると、開いた隙間から杖がぴょんと飛び出して、あたしの目の前に止まった。リールが球体で落ちてきた時もこんな感じだったな……。素材に使われているから同じ動きをしたんだろうか。そんなに前のことではないが、懐かしくて笑みがこぼれた。

 ほんのり淡いピンク色の杖で、握り部分に藍色の螺旋が刻まれている。握りの終わりには魔法の種ケルンをはめるための穴が開いている。


「なんだかあったかい……凄い、凄いですスタープさん!」

「喜んでくれて何よりだ。試しに何か魔法使ってみな」


 言われなくてもそのつもりだ。穴に魔法の種ケルンをはめて、すっかり馴染んだ氷の魔法を使ってみる。いつもより少ない魔力で、あっという間に氷が出来た。


「早っ! それに楽な感じもする、これは凄い……凄さを表現しきれない、あたしの語彙力がもどかしい……」

「そうそう、杖にはその素材の特性が残っていて、オリジナルよりはだいぶ劣るが魔力を通すと再現できるんだ。軽いケガならそれで治せるぜ」


 それはいわゆる、道具として使うと魔法がでるタイプの武器ってことですね!? ゲーム中ではあまり使う機会が無かったけれど、これは凄く役に立ちそうだ。


「鱗二枚しか使ってないから『虚無』の方はどうなるか俺にも分からん。でも本人がそれだけ懐いてるんだ、きっとお嬢ちゃんにいいように働いてくれるぜ」

「スタープさん、それにハルヒもリールもありがとう! 大事にするね」


 関係者に感謝を伝えた。みんなの力がこもった杖は、使い勝手以上の頼もしさが感じられた。


「あれ、そういえばハルヒとリールの杖買うの忘れてた!?」

「むーちゃん、私達は買わなくていいんだよ」


 自分のことで興奮しすぎて二人のことまで頭が回っていなかった。だが、ハルヒは落ち着いた様子でこう答えた。


「リールちゃんはもとより、ちゃんと魔法を使うなら私もドラゴンの姿になった方がいいんだよね。その状態で杖を振れと言われても出来ないし」


 あたしをフィルゼイトまで運んでくれた時のハルヒを思い出して苦笑した。確かにドラゴンが杖を振るなんて違和感が凄い。


「ていうのは半分冗談なんだけど。概念の化身コンゼツォンが杖みたいなものを使うと、むしろロスになっちゃうんだよ」


 概念の化身コンゼツォンは魔力でできた存在だ。内にある魔力を直接変換して魔法に出来るのに、外に出して調節のための道具を挟むのは、非効率で時間もかかってしまうため使わないのだ。


「そうなのかー、こういう時だけは二人が違う存在なんだなって思うよ」

「ぼくとムウちがわないよ、おんなじだよ」

「そうだね、そんな事関係なしに二人とも大好きだよ」

「な、なんで急に、恥ずかしいよ!」


 あたしに頭をこすりつけてくるリールに、真っ赤になって慌てるハルヒ。二人のことが大好きな気持ちは、違う生き物だろうが関係ない。

 同じ種族のリズエラとも、早く仲良くできるといいんだけれど。


「いいねえ、仲良しなのは」


 スタープさんは懐かしむ様な顔であたし達を眺めていた。ちょっと恥ずかしかったが、それを隠して自慢するようにピースサインを向けた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 寮に戻ってからは、ずっと杖の使い心地を試していた。かなりの回数魔法を使ったのだが、今日は一向に体力切れにならない。元々鍛えていた分に加えて、杖の補助効果はかなり効いているようだ。

 夕日が部屋に差し込んできて、そろそろごはんにしようかと考えていたところ、部屋のドアをノックする音がした。


「失礼する。リズエラ・リーンはいるか?」

「いえ、いませんけれど……何かありましたか?」


 入ってきたのは寮の管理人だった。リズエラは朝から見ていないと伝えると難しい顔になった。


「外出届は受け取ったのだが、門限なのに帰宅した連絡がなく……忘れて部屋に戻ったのかと尋ねたが不在でな。よく一緒にいる君たちなら事情を知っているかと思ったのだ」


 リズエラはまじめな子だ。門限を簡単に破るようなことはしないだろう。あたしみたいに帰り道を忘れて迷子になっている可能性も低い。

 何かあったのだろうか?

 心配になったあたしはすぐに部屋を飛び出した。すぐ後ろにハルヒとリールも続く。


「あたし探してきます! 大きな公園って言ってたよね? ハルヒ道案内お願い!」

「道に自信ないのに先に飛び出さないで!」

「おさんぽ、ぼくもいく!」


 管理人はあっけにとられて硬直していたが、廊下を走るあたし達を注意しがてらこう怒鳴った。


「お前たちも門限だぞ! 戻りなさい!」

「あたしとハルヒは16歳なんで、午後10時までならセーフです! リールはあたしが保護者ってことで!」


 日本の条例が通じるとは思ってないので、ジョークがわりにそう言い放ち、玄関へ急いだ。


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