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第114話 それでも笑って

 突然墓場に呼び出されたパッチは、状況把握のためにくるりと辺りを見回した。


「ムクさん達に……あ、お兄ちゃん……とヘラビス様!?」


 見知った顔を見つけて安心し、兄の姿に気まずさを漂わせた後、すぐ近くに神様がいることに気が付いて弾かれた様に姿勢を正した。


「ん。久しぶり」

「おおおお久しぶりです! 御声を頂けず心配でしたが、お元気そうで何よりでしゅっ」


 いっそ気持ちいいくらいに慌てているパッチを見て、ヘラビスは微笑んだ。


「ごめんね。ちょっと立て込んでて、この人達に助けてもらった」

「おお……やっぱり特級って凄いんですね」


 パッチの言葉はヘラビスではなくあたしとマルティオに向けられていたはずだが、妙に他人行儀だ。

 ドジな自分と神様を助けた兄を比べて、自己嫌悪しているのだろう。


「パ、パッチ。久しぶりだね」

「う、うん。久しぶり……」


 直前のヘラビスと同じやり取りのはずなのに、兄妹の距離はずいぶんと遠い。


「が、学校はどうだ? 上手くやってるか?」


 マルティオが絞り出した話題は、久しぶりに会った家族で学生なら無難な選択肢だろう。

 でもその聞き方、パッチには地雷な気がする……。


「上手く……? う、うん、まあまあ、かな。お兄ちゃん程じゃないよ」


 消え入りそうなパッチの声が、無理やり作られた笑顔から零れ落ちる。

 それを聞いてマルティオも自分のミスに気が付いたのか、矢継ぎ早に質問を変えた。


「お、お前も凄いじゃないか。ヘラビス様に召喚されるなんて、きっと誰も経験したことないぞ」

「そうだ、ヘラビス様に聞きたいことがあるんだった! ヘラビス様、教えてください!」


 今度はパッチが落ち込むような事態にはならなかったが、パッチは兄をほとんど無視するような形でヘラビスの方へ駆けて行ってしまった。


 あ、流石の勇者様も妹にスルーされたら泣きそうになってる。


 ヘラビスの正面にひざまずいたパッチは、手を組み胸に当てて祈りながら問いかけた。


「どうして……、どうして、いつもじぶんをお呼びになるのですか。他の神官の方がじぶんより優秀なのに。兄の方がじぶんより凄いのに」


 いつかパッチが落ち込んでいた時も、こんなことを言っていた。

 あの時はリサに諭されていたが、やはりずっと気になっていたのだろう。


「じぶんはただの神官見習いです。しかも皆に迷惑をかけてばかりなのに……」

「そこ」

「……え?」


 ヘラビスの発した一言に、パッチは目を丸くした。

 ここにいる誰も、今の神様の言葉を理解出来ていなかった。


「驚くくらい失敗する。誰もしないようなミスをする。それでも笑って日々を一生懸命に生きている。そういうところ」

「え、えっと……? そんなことで、じぶんを?」

「実ると分かっている草木たちを見守っていても仕方ない。傷だらけでも育とうとする若葉を応援するのが、私の役目」


 ヘラビスはそう告げると、困惑したままのパッチの頭を優しく撫でた。

 神様に触れられて、パッチは驚き固まった。


「はわ!? ヘラビス様!?」

「よしよし。パッチは頑張っている。私は元気な子が好き」


 それでもずっと撫でられるうちに、だんだんパッチの肩の力が抜けてきた。


 リサがその光景を見て挙動不審になっていた。体はそわそわ、指がもにょもにょと動いている。

 神様にあんなに優しくしてもらえるのが羨ましいんだろう。


 パッチが落ち着いたのを見計らって、再びマルティオが口を開いた。


「やっぱりパッチは凄いな。失敗しても立ち上がれるのは強い証拠だ」

「……でも、お兄ちゃんの方が凄いに決まってる。なんでもできて、皆に好かれてる方がいいよ。じぶんなんて……」

「神様に認められてもそこまで言うなんて、うーん……。誰かがお前のことを嫌いだと言ったのか? もしかして、嫌がらせでも受けたのか?」


 マルティオはかたくなに自分を卑下するパッチを見て、そんなことを想像し慌て始めた。


「そんな奴は秋の大陸の謙虚の精神に反する。僕が斬ってこよう」

「ええ!? どうしてそうなるの、誰もそんなことしてないよ」


 懐から剣を抜いて暴走しかけたマルティオ。

 それを止めるために叫んだパッチの言葉が、答えだ。


「そう、誰もパッチのことを悪く思ってなんかいない。みんなパッチが好き」


 ヘラビスが念を押してそう説くと、パッチもようやく理解した。


「あ……。本当、なのでしょうか?」

「本当。もしパッチに悪意を持つ人がいれば、私が罰を下す」


 いや……うん、マルティオの発言はそうでも無かったけど、神様が言うとシャレにならんな。本気で罰しそうな雰囲気全開だし。やっぱりヘラビスのパッチに対する「好き」、方向性が怪しい。


「でも、周りにそんな人はいる?」


 ヘラビスに問われて、パッチはしばらく考え込んだ。


「……いえ。皆さん優しくて、いつも助けてもらっています」

「お前はそれに、笑顔で応えてるんだろう? それが出来ていれば大丈夫さ」


 未だにヘラビスの腕の中にいたパッチにマルティオが近寄り、肩を叩いた。


「いいのかな」

「勇者と神様のお墨付きでもダメか?」

「いいえ! 分かりました……じぶん、お二人の信頼に応えられるよう、頑張ります!」

「もう、パッチは十分頑張ってるのに」


 パッチの決断に困り顔になりながらも、ヘラビスは慈しみの笑顔を浮かべてパッチを抱きしめた。

 パッチの元気が戻ったことに、マルティオも満足げに頷いた。


「何やら決めた顔をしていますが。貴方がここまで泣きながら来たというのを、私は忘れていないのですよ」

「んん!? 何で今それを言うのかな!?」

「あまりにも私達を置いてけぼりに話を進めていたので、ちょっかいを出したくなったのです」


 リサ、マルティオをいじめる理由が雑になってきたな。

 でも今はリサに同意、ヘラビスとラピス兄妹だけで良い雰囲気作られちゃって困ってたんだよ!


 ヘラビスの腕の中で、パッチが不思議そうな顔をしていた。


「もしかしてお兄ちゃん、怖がりなの治ってなかったの?」

「パッチまで!? ええとだな、そんなことも……」

「むかし絵本を読み聞かせてくれた時、怖い挿絵のあるページを飛ばすから内容がちゃんと入ってこなかったの、覚えてるよ」


 ごまかすか悩んで目を泳がせていたマルティオに、パッチが止めの一撃。

 マルティオはしばらく硬直した後、大きなため息をついた。


「そんな昔の事、よく覚えてるな」

「それはもちろん、大事な家族のことだから」


 にっこり笑ったパッチの顔に、ぎこちなさはもう無かった。

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