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第107話 勇者様の本性

気が付けば連載四年目。生存報告みたいな更新頻度になってしまいましたが、まだ頑張っています。

 源泉を後にしてしばらく進むと、また辺りに緑が戻ってきた。

 その密度はあっという間に増していき、いつしか空が見えないほどの木々に覆い尽くされてしまった。


 薄暗くなった森の向こうから、度々魔物の襲撃があった。

 そのすべてがアンデッドモンスターであったため、マルティオがまた暴走してはかなわないと思い後ろに下がってもらった。


 今更だがこんなに積極的に魔物と戦って、四神様の理念に触れないのかとマルティオに尋ねてみた。

 いわく、アンデッドは魔力で動いてはいるものの既に死んでいる、生き物未満の存在であるためセーフらしい。

 むしろ倒して成仏させてあげる方が良い、とまで言われているようだった。


 そういう訳で、あたし達もためらい無く攻撃できるようになった。ここで一番活躍したのが、なんとリールだった。

 素材集めのことも考慮しなくて良い(ゾンビから剥ぎ取りとかやりたくない)ため藍玉を使いやすいというのもあるが、リールの察知能力がいつもより冴えていたのだ。


 木々に紛れて見えにくい場所にいた魔物も難なく発見し、即座に消し去る手際の良さにあたしの右手がリールを撫でる回数も右肩上がりだ。


「今日はずいぶん調子がいいね」

「なんかね、やらなきゃいけないって気がする!」


 夏の大陸でも霊感のようなものを発揮していたし、そういうものと相性が良いのだろうか。

 あたしの杖にもリールの力が宿っている。文化祭で氷像を消した時は物凄く消耗したけど、相性があるとしたら今回は使えるのかも?


 そう考えたあたしは、次に現れた幽霊霧ゲシュペンに対して杖に込めた魔力を放ってみた。

 もやもやした藍色の玉に触れた幽霊霧ゲシュペンは、霧で出来た顔を歪ませ消失する。


 気になるあたしの体力は……立ち眩みなんかは起きなかったけれど、やっぱり氷魔法を使う時より疲労感がある。

 まだまだ戦闘があるだろうし、無駄に消耗するのは止めておいた方がいいだろう。


 他にもリサが実家に生えている木の葉から精製した聖水を撒いて浄化させたりすることで、難なく攻略は進んだ。


「お見事。想像以上に一人一人の能力が高くて驚いているよ」

「当然なのです、何といってもハルヒ様が率いるパーティですから」


 惜しみない拍手を送るマルティオに対し、ちょっとずれた回答でドやるリサ。リーダーなんていつの間に決めたっけ?


 指名されたハルヒは「いや、私は後方支援担当だから」と首を横に振っていた。

 うーん、洞窟を破壊できる力があるのに後方支援っていうのもちぐはぐだよなあ。


「でも貴方だって、あんなに大量の魔物でも倒せる力があります。同時に、それを怖がっていることを隠したかった。ならどうして私たちと行動したのですか?」

「それは……理由は色々あってね」


 相変わらずリサは鋭く指摘を続けている。でも、これはあたしも気になっていた話題なので黙って続きを待った。

 マルティオは頭の中を整理するためか何度も頭を掻き、それからぽつぽつと語りだした。


「憶病なことを知られたくなくて今まで1人で活動してきて、確かに依頼をこなすこと自体への支障は無かった。でも、誰かと組んで冒険してみたい気持ちはずっとあったんだ。そこに特級の留学生がやってくる情報が舞い込んだ。更にその子たちが町の外に行こうとしていた。同じ等級なら僕が普段受けている依頼でもついて来られるだろうし、一緒に冒険できるチャンスを逃さない手はないと思ってね」


 なるほど、「特級と組めるなんてまたとない機会」って、ランチタイムにも言ってたもんね。


 でも、リサは納得いかない顔でマルティオのことを見つめている。これだけでは、「怖がりを隠したい」ことと釣り合わないからだ。

 探るような視線に耐えかねたのか、マルティオが目線を泳がせながら話を続けた。


「えーっと、それに留学生なら、もし醜態を晒してしまったとしても口止めがしやすいかなと……。すぐに他の大陸へ帰ってしまうから」


 ふーん、ばれることは考慮済みだったか。

 言いふらすつもりはなかったけれど、思惑を知ってしまうとちょっといたずらしたくなっちゃうな。


「『特級魔法の種ケルンに選ばれたことに恥じぬ行いを』……」

「き、気持ちは常に持っているから! でもそれ以上に怖いものは怖いよ!」


 リサが先程のマルティオの言葉を復唱すると、膝から崩れ落ちてしまった。

 ちくしょう、先を越されてしまった。


「それから……」

「死体蹴りはもう止めてあげて……マルティオのライフはもうゼロよ。それにしても、いつにも増して口撃が鋭いね」


 源泉でマルティオの背中を押したあたりから、だいぶ当たりが強かった。的確に傷を抉っている印象だ。


「……強がりたい気持ちは分かるのです、私もそうですから」


 リサは恥ずかしそうにしながらも、倒れているマルティオに近づいた。


「でも、ここまでヘタレなのは見ていられないのです! 失敗だらけでも笑顔を絶やさず真面目に頑張っている妹のことを、ちょっとは見習いやがれなのです!」


 ドジる度に、皆に嫌がられているかも知れないと思いながらも笑顔で頑張るパッチ。

 それに対して、仕事の成果は立派でも弱い部分を隠したくて人を避けてきたマルティオ。

 みんなから本当に褒められるべきはどちらなんだろうか。


 頭上から浴びせられたリサの本音が気付けになったのか、光を失いかけていたマルティオの目が見開かれた。


「パッチ……そうか、一緒のクラスだから妹のことは見てきたんだね。笑顔を絶やさない、か……変わってないなあ」


 昔を思い出すように天を仰ぎ、フルトの方角を見やるマルティオ。

 目線がこちらに戻ってきた時には、その顔に勇者様の威厳が戻ってきていた。


「うん、妹が頑張っているのに兄貴がこんなじゃあ良くないね。頑張らないと」

「では、次の魔物が見えてきたのでよろしくお願いしますね」


 心を決めたマルティオの台詞を清々しいくらいに一蹴するリサ。


 しばらく話に夢中になっていたせいか、新たな不死者オストーブがこちらに近づいてきていたのだ。

 状況を理解しきれていない様子のマルティオの肩を、あたしは応援の意味を込めてポンと優しく叩いた。


 言い出した手前引き下がれなくなったマルティオは、やる気に満ちていた顔をあっけなく崩したのであった。

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